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プロリーグ(鳳凰戦) レポート

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第33期鳳凰位決定戦 三日目(9回戦~12回戦)観戦記 瀬戸熊 直樹

2017/02/09
執筆:瀬戸熊 直樹


観戦記者として、選手の所作をつぶさに眺めているうちに、ある事に気づいた。
ある選手が、一局終えるごとに会場に設営されているスコアのスクリーンを見ているのだ。

皆さんはとっくにお気付きですよね。そう勝又プロです。
他の三人は、小休止やオーラスにチェックすることがあっても、ほとんど見ていないと言っても過言ではない。

 

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以前、勝又と道中の点数計算の話になったことがある。

瀬戸:「勝又って一局ごとに相手との点数差考えてるの? リーグ戦とかじゃなくてトーナメントや長い決勝戦の道中とかは?」
勝又:「ええ。それによって作戦考えますから。って言うか、瀬戸熊さんは考えないんですか?」
瀬戸:「大体は把握しているつもりだけど、細部までは気にしないよ。もちろんラス前とか、オーラスはきちっと考えるけど」

これはスコアのスクリーンが設置される前の話だ。
スコア表示されることで、計算の苦手な僕でも一目瞭然で解かるようになった。
(たまに恐ろしい計算ミスを犯しますが、それは僕の能力の低さ以外の何ものでもありません)。
それでも、試合中に毎局見ることはなさそうだ。
終了後聞いてみた。

瀬戸:「今日トータルスコアを一局ごとにチェックしてたね。前に言ってたの本当だったんだな。ただ、毎局チェックしてるのは勝又だけだったよ」
勝又:「えっ皆さん見てないんですか?毎局点差によって作戦考えてました。本当に僕だけなんですか?」
瀬戸:「だって道中すぎるでしょう。それよりスクリーン見てたのは、計算しなくても済むから?」
勝又:「はい。余計な時間使わなくて済みますから。」

勝又と話していると本当に不思議な感覚になる。
対戦相手との距離によって、多少方法は違うかもしれないが、僕はもっと単純なところでそれらを計る。
相手の態勢は? どちらの時間帯なのか? ポイントよりもそちらの状況で、鳴いたり、面前で進めたりを選択する。
もちろん最終的には、ポイント差を考えた手作りやスピードのバランスを合わせなければならないのだが。

そしてこの日、もう1つ勝又について気付いたことがある。
これが解かった方は、相当の競技麻雀マニアか勝又のファン、もしくは前原ファンである。
勝又は決定戦三日目、一日中前原しか見ていなかった。
それがこの日の勝又作戦の全てである。
(あくまで僕の主観で、勝又の考えは違うかもしれないが)

同じような作戦を敷いた選手がもう1人いた。
前原である。この日初戦の9回戦は、近藤の事も視野に入れていたであろうが、後半は勝又しか見ていなかった。二人のタイマンのような麻雀。
この日近藤が、初戦(9回戦)トップの後、徐々に調子を落として行くのだが、結果トータルトップで終了できたことにも、「二人の背景」が大きく影響しているのも確かだ。
何度も言うが、これは僕の感じた事であり、選手個々の気持ちは違ったかもしれない。
ただこの日、僕の目には前原は勝又を、勝又は前原を、自身の載冠の為、最大の障害物と認識して動いているように映ったのである。
この日二人の意地の勝負を振り返ってみたいと思う。

と、その前に、会場入りしてから、その日の終わりまで、ほとんどの選手と口を利かない僕だが、開始前1つだけ近藤に聞いてみた。
瀬戸:「近藤さん、今日の麻雀で考えている作戦ありますか?」
近藤:「いやあ、色々考えたんですけど、やはり普段やってる事をやるだけですね」

恐らく、僕の観戦記も多少の影響を与えてしまったようで、少し申し訳ないと思うが、真面目な近藤は、対前原にどうすればよいか、この1週間あれこれ考えたのであろう。
シミュレーションしては消し、またやっては、しっくりこずを繰り返し、結論が「普段通り」になったのだと思う。
僕も何度か前原の追撃をかわした事はあったが、常に恐怖を抱いたものだ。近藤の気持ちは痛いほどよく解かる。
昔、僕にとって2度目の決定戦の時、やはり最大の難敵は前原であった。
どうシミュレーションしても分が悪い。毎日毎日本当に食事中も寝てても、対前原の秘策を考えていた。そこで基本に立ち返る事にした。
常に研究してきたはずだったが、過去前原に勝った歴代の鳳凰位の牌譜のチェックをするのを忘れていたのだ。
すぐに、古川と阿部(RMU)の勝った試合の牌譜を取り寄せ研究した。
どうすれば活路を見出せるのか。何度も見ているうちにタイプの違う両者が、ある事を徹底する事が解かり、それを自分の主要な作戦として臨んだ事が思い出された。
近藤は三日目、自身の普段通りが出せたのだろうか、追ってみたい。

 

 

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9回戦東1局親近藤。 いきなり近藤が見せる。

 

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ドラ中トイツのイーシャンテン。何とか先制のパンチを決めたいところ。
巡目が進み、近藤が手牌を伸ばしてホンイツへ。この辺りが近藤の最大の持ち味だ。

 

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最大のネックは、もちろんドラの中
ここへ、やはり最大の敵が立ちはだかる。

 

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前巡、ネックのドラ中を重ねて、自風の西をポンした前原。
この時の二人の手牌だけだと、アガリにはやや前原に分があるように思える。
しかし、近藤の手牌は、僕の想像以上の伸びを見せた。

 

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前原の欲しいマンズ上を完全ブロックしてテンパイ。
これに前原が飛び込んでしまう。

 

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放送をご覧になられた方々も、開局で近藤がいきなり逆転するとは思っていなかっただろうが、一週間彼が想像したどんな場面よりも、最高のスタートとなった。
しかし、近藤にとってのこのアガり。本当に良かったのであろうか?この後、近藤は少しずつ防戦一方となっていくのである。
点数の壁がもたらした防戦だったのか、それとも勝又、前原の気迫が、徐々に近藤の心にガードを意識させてしまったのだろうか。
近藤は、結局首位で終えたのだが、勝った気すらしていないだろう。(数ポイントのマイナス)
僕個人の感想としては、近藤がこの後、劣勢になった10・11回戦の数局で、前原 vs 勝又、勝又面前 vs 前原・古川の仕掛け、の時に割って入って欲しかったように思う。
特に前原リーチの時に、タンヤオドラ3のイーシャンテンの場面。近藤ファンは叫んだはずだ。
「近藤さん、アタリ牌は持ってないよ。真っすぐ行って、チャンスだよ!」と。
守備が持ち味、オリジナル手順が持ち味の近藤なのは、百も承知である。しかしここは、鳳凰位決定戦。是非、腹をくくって欲しい。近藤ファンは、近藤の「優勝争い」が見たいのではなくて、「優勝」が見たいのだ。
三日目やり合った二人も、最終日には必ず近藤もマークして、潰しに来るはずだ。
受けて立って欲しい。
 
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さて、話は戻って、勝又と前原の殴り合いベストセレクションはこちら。

勝又:「決定戦なんだなあと、強く感じました。」
近藤の18,000のあと、前原が一気にハコ寸前に。
東ラスで勝又がさばき、南1局下図のアガリ。実は字牌の発白の切り順が秀逸の1局。
勝又しか出来ない難しい手牌の1,300・2,600を引きアガって迎えた親番。

 

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俗に言う、ホップ、ステップで迎えた渾身の親リーチ。

 

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同巡、南家前原のツモは一万
前原は一万を本当にノータイムで切り飛ばした。

 

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この辺りのタフさが、前原の真骨頂である。
勝又も「えっ!ここ来るの?!」と思ったはずだ。
2巡後、追いつきぶつける。

 

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まさに、これぞ決定戦の理屈じゃない戦いの1シーン。
結果はすぐに出た。

 

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勝又リーチからの、一連の前原の模打に淀みがない、素晴らしい一局。

近藤に18,000を放銃してから、徐々に回復してこのリーチだ。
展開を考慮すると勝又のリーチだけには向かえないと思われたが、打ち勝ってしまった。
やはり強い。今日もこの男を中心に一日が進んでいくのであろうかと思わされた場面だった。
 
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しかし、今日の前原が万全ではない部分が現れる。

南3局 親前原
 
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ラス抜けまであと一歩のところまで来て、古川の早いリーチを受けて、丁寧に廻り上図の場面となった。

 

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二筒五筒がフリテンの為、ピンズを払うのか、ここまで来たら三色を狙いソーズを外すのか、一番通りそうなマンズを外すのか。理で考えるならマンズ一択しかない場面。
四万四筒の比較で、圧倒的にマンズは通りそう)
でも、前原が本当にベストの状態なら、マンズだけには手をかけない場面。
結果は、古川への放銃。
状況下から、普通に見える放銃だが、前原なら回避して、浮きまで行ってしまうのではないかと思って僕は見ていた。

 

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もう一つ、僕が感じた前原レベルの打ち手だからこその疑問手を紹介。
前原以外の人がやると、「しょうがない」で終える事が出来るのだが、前原だと失敗に見えてしまう。
それは12回戦東1局 親前原 9巡目何切る?
卓上に切られた牌が、この日の運命を決めたと思う程の一打となった。
12回戦が始まった時のスコアは、
前原+43.8p  近藤+20.1p  勝又▲9.0p  古川▲76.9p

 

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この日3回プラスの勝又も、まだまだ前原の背中がかろうじて見えるくらいのポイント。
ドラは四万でイーシャンテン。皆さんなら何を切りますか?
三筒が場に2枚とびの為、二筒が第一候補になりますか?
でも前原を研究しつくした僕は、四索四万が前原流と見ている。
六万九万入っての、厚かましいカン三筒リーチか、ドラ廻り引いてのピンズ払いが前原流。
しかし、前原は二筒を切った。「上手い一打」前原にこの言葉は全く似合わない。
繊細な一面があるのは知っている。でも前原は常に言っていたじゃないか。
「打ちたい麻雀と、打っている麻雀は全く別物」と。
この瞬間に、僕のメモ欄には?が躍り、「嫌な予感」と書かれていた。
巡目は進み、勝又がリーチ。

 

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前原もテンパイ。

 

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勝又安めながらも、前原のチャンスを潰す。
当たり前の進行に見えるが、ここで9巡目の打四索と出来ていたならば(普通は難しいけど、それをやってこその鳳凰位決定戦)、逆に大チャンスとなっていた場面。
 
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上手い対決をしていては、勝又には勝てない。この日の勝又は、とにかくスコアを気にして、前原だけを追っていた。
9・10回戦とオーラスに渾身のアガリで浮きをキープすると、11回戦に4,000オールを決め逃げ切り、12回戦もしっかり戦って浮きをキープし、プラス50ポイントほど。トータルポイントもプラスにしてきた。
勝又の上手いシーンは、挙げたらここから30枚くらい写真が必要なので、割愛させて頂くが、とにかく一打一打に意味があり、計算し尽くされている。
この日は、上手い一打が90あったら、上手すぎてミスショットになったのが10くらいの割合であった。
 
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三日目振り返り

9回戦、近藤が東1局にメンホンイーペーコードラドラを決めてトップに。
近藤+19.1p  勝又+11.4p  古川▲10.3p  前原▲20.2p

10回戦、前原がすぐ失点をカバーし、トップ。
勝又2半荘連続、意地の浮きへ。
前原+12.8p  古川+6・3p  勝又+2.0p  近藤▲21.1p

11回戦、勝又初めて、楽な逃げ切りトップ。
勝又+25.4p  前原+5.4p  近藤▲4.4p  古川▲26.4p

12回戦、古川が望みを繋げるトップ。
勝又オール浮きとなり、首位に肉迫。
古川+22.9p  勝又+10.3p  近藤+2.3p  前原▲35.5p

トータル
近藤+22.4p  前原+8.3p  勝又+1・3p  古川▲54.0p  供託22.0p

 

〈最終日の展望〉
それぞれの選手に可能性が残った。
特に、近藤、前原、勝又は、誰が勝ってもおかしくないポイントに。
最後の予想は、一麻雀マニアとしての希望を書かせて頂く。

・古川
今回はまだビッグウェーブを見せてもらえておりません。最終日、皆の度肝を抜くような、力強くそして自然なサーフィンを見せつけて下さい。
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・勝又
心配なのは体調のみ。時に勝負熱が先に出過ぎてしまう「勝又PC」。ゆっくり時間をかけてフルチャージし、常に進化し、誰も真似できない麻雀IQ220の戦を見せつけてくれ。

 

・前原
やはり現役最強雀士と呼ばれることが相応しい男。同じ戦場に立てていない自分が悔しくてなりません。「無敵のゴジラ」となって、麻雀界に本物の強さと怖さを見せつけてやって下さい。

 

・近藤
今期A1リーグに新風を起こし、初めての決勝がこの決定戦と言う、何とも不思議な運を持ち、紳士的でいつも周りにさり気ない気遣いをしてくれる男。きっとファンの皆も温かく見守ってくれているはず。そして嬉し涙を待っているはずです。
オリジナルの「近藤スペシャル」で戦い抜いて下さい。

 

この世に一人しかいない「第33期鳳凰位」の誕生まであと少しです。
皆さんも是非、最後まで一緒に戦いましょう。
 

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