プロ雀士インタビュー/第118回:和久津 晶 インタビュアー:藤島 健二郎
2015年01月30日
1月10日、B1リーグ最終節――
私は別卓3番手の吉田直に対し18.0P程リードして最終半荘を迎えていた。
”浮けば何とかなるかな”
そんな想いを胸に卓についていた。
オーラス29,500点持ち3着目













ドラ
トップ目32,200点
と
が2枚ずつ切られ
生牌、
1枚切れ。
B1リーグは他が全卓終了していたため、私の卓には選手を含めた観戦者がつどっていた。
必然的に私の結果に注目が集まった。
私はシャンポンのリーチを選択。
しかし一発目のツモが
…
そして2人テンパイで流局。
それでもテンパイ料で30,000点ジャストの浮きを確保。
恐る恐るうしろを振り返り、まわりの反応を伺う…
「
なら……」
結果を見守っていた、運営の瀬戸熊の一言で全てを察した。
別卓の吉田はしっかりと大トップをものにしていたのである。
私は今期もAリーグへの昇級を逃した。
ギャラリーを背負いながら明確な受け間違い…。恥ずかしさと悔しさが相混り、その場にはいられなかった。
交代時でごった返す選手の人ごみを掻き分け、階段の踊り場でやっとの思いでタバコに火をつけた。
下手な麻雀を打った――
この日1日を通してその認識はあったが、どうにもやり切れないものが込み上げてくる。
”この気持ちどうやって割りきろう?”
そこには今起きたことを受け入れられない自分がいた。
まさにそんな時、一本のメールが舞い込んだ。
『インタビュアーどうでしょうか?』
”こんな時になぜ……!
しかも対象者が今をときめく和久津晶である。
”荷が重い…というか今は引き受ける気になれない…
ああでも和久津はたぶん来期一緒か…”
そんな打ちひしがれていた私の脳裏に、ふとマスターズ決勝オーラスの和久津の牌姿が浮かんだ。














(
4枚
1枚とび、
生牌、
1枚とび)
”そう言えば彼女はここから
切って4,000オールにしてたっけ…
それでも次局まくり返されちゃうんだよな…”
唐突にこの牌姿を思い出したことで、自分の弱さを受け入れる気持ちが芽生え出していた。
そして徐々に気持ちの整理がついていった。
私はその日のうちに、編集部に快諾のメールをとばした。
麻雀道はいばらの道――
和久津は決勝の舞台でたくさんの負けを味わっている。初優勝のプロクイーン以降今回制するまでの間、5回もの決勝に乗っているが全て準優勝…。惜しくない敗北など1つもないのである。
それらの悔しさは今の自分の比ではない。
「負けを噛み締める者は強い」
彼女は前回のインタビューでこう言っていた。
やはり今の彼女は間違いなく強い。
今期は天空麻雀を勝ち、プロクイーンで見事リベンジを果たした。まさに悔しさをバネに結果を出した。
さらには、現在女流桜花にて女流二冠に挑んでいる。
結局はインタビュアーとしてではなく、一麻雀打ちとして話を聞いてみたいと素直に思った次第である。
仕事・対局・収録など超多忙な彼女に無理を言って、週末の深夜に何とか時間を割いてもらった。
――池袋某所にて

藤島 「まずは改めてプロクイーンおめでとう。」
和久津「ありがとうございます!」

藤島 「早速だけど勝負のポイントになった最終戦の東パツについてだけど。」
和久津「普段なら嬉しい配牌なんだけど状況が特殊だから、アガリは正直厳しいかなとは思ってた。」
藤島 「普通は七対子かトイトイになってる。」
和久津「ああゆう局面だからダブ
は出ないとか、他も鳴けないだとかの決めつけは良くないと思っていて、手牌に素直に打ったつもり。」
藤島 「
ポンはまあ有りとしても、カン
の最終形にはなかなかできない。」
和久津「分岐点のときに面子手も見て、3枚切れの
を残したから、そこに意味を持たせたの。」
実際にはどう受けても待ち枚数は厳しかったが、見事にラス牌を手繰り寄せた。
この話1つからも彼女はイメージに反してかなり繊細で、過程や打牌理由には相当なこだわりを持っていることが伺えた。
藤島 「残り2回で54.2P差、最終戦を残して40.9P差。2日目にだいぶ差を詰めたとはいえ茅森プロの内容からも逃げ切り濃厚のムードが漂っていた。」
和久津「いつものように1回諦めたから…」
藤島 「その感じは珍しいね。どんな負け試合でも諦めモードにはなるけど、一応最後まで諦めはしないもの。」
和久津「あの局もなんて不幸な配牌だって思ったくらい。」
藤島 「まあ局の展開は向いたね。」
和久津「優勝する人って色んな要素が噛み合うでしょ。実際、宮内さんに役満手が入らなければ、ドラも東も出てこない牌だしね。あの局はそうゆう優勝者特有の流れを感じたかな。」
藤島 「あの局で捉え方が一転したと。」
和久津「2日間通して”これなら行ける”と初めて思えた瞬間だった。」
この後再び6,100オールとアガリ、たった2局で逆転に成功する。
さらに南1局の親番でも、この半荘3度目の親ッパネを決め、逆に大きなリードを得るのだが、オーラスに茅森プロの逆襲に遭う。
藤島 「オーラスの一連の立ち回りについて聞かせて。」
和久津「あの半荘はリードした後もほぼオリなかった。オーラスも直撃を許したり自分の打牌でテンパイとられたりと賛否両論あると思うけど、攻め続けたのは良かったと思ってる。」
藤島 「観てる方としては肝を冷やしたけどね。あのオーラスがあったからこそ名勝負として麻雀史に刻まれる。」
和久津「きれいに落とせる手が来るまで待つのが普通なのだろうけど。ただ自分らしくありたかった。」

藤島 「強引な3フーロからのカン
で決着がついた。」
和久津「最後のアガリは私らしい泥臭さが出てて気に入ってます。」
和久津に一番良かった局を聞くと、真っ先にこの最後の局を挙げた。
牌譜レベルで見た場合には決して誉めることはできないアガリではあるが、この瞬間、全国の観戦者が画面の前で心動かされたことだけは間違いない。
藤島 「11回戦では見逃しから直撃を決めた局面があったね。」
和久津「他家の立ち回りが上手く作用したのは事実。でも楽はさせたくなかった。」

藤島 「どうしてもアタマを獲りたいという想いが、そうさせたのだろうけど見事に嵌まったね。」
和久津「11回戦の東場あたりからは、もうさやか(茅森プロ)との直対だと強く意識しだしていたので、自分でなんとかするしかないかなって。」
11回戦オーラスの5,200は脇からの出アガリで約65P差、直撃で約40P差となる状況。
親の倍満ほどの意味がある立ち回りだったが、最終戦に向けて精神面でも追い風となる数字以上の価値のあるアガリとなった。
藤島 「5回連続の準優勝。相当悔しかった?」
和久津「去年のプロクイーン以外は全部泣いてます。」
藤島 「去年はどんな…」
和久津「前回のは準備不足の意識が少しあったのと、瑠美さんが強すぎたからね。負けて納得だった。」
藤島 「敗戦を糧に戦ってるとは思うけど、今回特に意識したことは?」
和久津「前のインタビューとかでも触れたけど、点棒的に有利な状況でも攻めの意識は忘れないようにはしたよ。」
藤島 「攻撃型のイメージが強いけど、要所ではヤミテンも使い、戦略的な鳴きもけっこうあった。行くばかりではなくかなり引き出しが多いと感じた。」
和久津「引き出しの数は涙の数(笑)。でも基本的にはクレバーな戦い方はできない。というか敢えてしない感じかな。」
藤島 「それはなぜ?」
和久津「私には麻雀しかないなんてことはない。もし麻雀ダメでも助けてくれる人はたくさんいる。でも…だからこそ背負ってるものがたくさんある。守るべき人、期待してくれる人がたくさんいる。それらの人達に対して和久津らしく闘う義務があるから。」
藤島 「”和久津らしく”か…。そのルーツを少し聞かせて。麻雀覚えたのは?」
和久津「一番最初は10歳より前に完先ルールを。当時はトランプやボードゲームの延長だったと思う。学校の勉強はやらなかったけど、頭使うのは好きだったから。18くらいでアリアリルールを覚えてからはおもしろくて仕方なかった。ほら、麻雀て上手くいかないから。」
藤島 「あ、俺と過程や動機が似てる。でもプロ入りは意外と遅いよね。」
和久津「ホントは歌手になりたかったの。もともとが情感的なタイプではあるんだけど、多感な若い頃は自分が音楽や映画などの影響をかなり受けた。だから自分も人に何かを与えられる存在に憧れるようにはなった。」
藤島 「麻雀プロでも人の心を動かせる…!」
和久津「何の土台もないこんな私でも…泥臭く一生懸命やっていれば何とかなるという事をわかってもらえたら。」
和久津と会話をすることはよくあったが、いつも大事な部分をはぐらかして、面白おかしくされてしまうのが常である。
故に、彼女が真面目な話を真剣な眼差しで話す姿は、それだけで引き込まれるものがあった。
藤島 「最後に聞いておきたいこと。どうやったらあんなに危険牌を踏み込んで行けるのかな?」
和久津「親リーに無スジ切るときはみんなが背中を押すの。あれはみんなが通してくれてるって思う。いつかそれを共感できればいいな。」
今回、彼女を取材させてもらったことで、自分が昇級を逃したことなどあまりにもちっぽけなことに思えた。
普段は明るく楽しく振る舞う彼女ではあるが、麻雀プロとしての意識が相当高いことも充分に認識できた。
今後も唯一無二のキャラクターとして、より一層活躍していくはずである。
蛇足ではあるが。冒頭の和久津の牌姿の局。
実は、マスターズでは敗因にあげられた1局でもある。
やはり麻雀道は長く険しい。

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