プロ雀士インタビュー

第247回:第16回モンド名人戦優勝インタビュー 瀬戸熊 直樹  インタビュアー:中 寿文

第16回モンド名人戦決勝戦南4局。
1回戦トップの瀬戸熊は追い詰められていた。

南4局2本場
河野・瀬戸熊はアガれば優勝。
新津は瀬戸熊から8,000直撃・倍満ツモ条件(リーチ棒が出ると跳満ツモOK)

瀬戸熊は役牌の南をポン、だがこの時はまだターツも足りない4シャンテン。

 

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そんな中、絶好の配牌をもらった新津。
なんと4巡目に高め345のタンピン三色の三索六索待ちという、条件を満たしたテンパイが入る。
三索を切ったらジ・エンドだ。

 

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そして手が思う様に進まぬ中、今度は河野が仕掛け返す。
瀬戸熊2フーロ、河野2フーロ。
2人ともに、まだノーテン。

瀬戸熊「この時、内心負けたと思ってるよね」

‐‐「え?そうなんですか?」

瀬戸熊「勝つ時って、これで決めるみたいな時は大体決まらないんだよね。そういう後に肩の力が綺麗に抜けると勝てるというか」

瀬戸熊「その状態になるのが、難しいんだけど。コントロールしきれるものでも無いしね」

その後、親の藤崎からリーチが入る。
ならば、新津はリーチか?と思った瞬間に新津は高めをツモってしまう。
なんという運命のいたずら。

この局はそのまま、藤崎が2,600オールをツモアガリ、次局へ持ち越し。

続いて3本場。
藤崎以外の各者の条件は以下の通り。
瀬戸熊 新津からはアガれない。(新津37,500・河野36,600で新津の着順を下げるとダメ。)
河野 アガればOK。
新津 6,400出アガリ。(藤崎の着順は下げられないので、藤崎からはアガれない)
3,200瀬戸熊直撃
1,000・2,000以上

この局も新津がファーストテンパイ。
カン五索の役無しドラ1。

三索を引いてリーチを打つ。(リーチピンフドラ1)

 

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1シャンテンまで来ていた瀬戸熊。
リーチ棒が出た事により、一時的に新津の着順が河野を下回ってしまう。
これにより、瀬戸熊はほとんどのツモアガリができなくなってしまったため、オリを選択。

その後、藤崎が追っかけリーチを打つ。
このリーチ棒により、今度はなんと新津は2,000・4,000だと、藤崎の着順が瀬戸熊の下になってしまうため、2,000・4,000だと瀬戸熊が優勝になってしまう。
(3,000・6,000は素点で瀬戸熊をかわすためOK)

リーチを打った新津。

ツモ裏無し→新津優勝
ツモ裏1→瀬戸熊優勝
ツモ裏裏→新津優勝

なんとも難しい状況になってしまった。

この時も、瀬戸熊は負けを覚悟していたという。
ただ祈りながら丁寧にオリるしかないのだ。

そして流局・・・。

4本場。
混沌としたオーラスがまるで嘘だったかの様に、軽やかに700・1,300をツモり、初のモンドタイトルを獲得した。

 

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--「モンド名人戦優勝おめでとうございます!」

瀬戸熊「ありがとう」

--「モンドは初タイトルでしたね」

瀬戸熊「(モンドは決勝3回目だったんだけど)1回目にやられた時はタッキー(滝沢)に、初戦トップ獲ったのに、まくられて、2回目の時は藤崎さんとやったんだけど、初戦ラスで苦しくなって何もできなかった」

「結局2戦の短期勝負だから、初戦が大事と思っていたね」

この後、自らの経験に基づいた勝負論を語ってくれた。

瀬戸熊「初手から勝負手が入る事はよくある。勝負を先送りしないこと。先送りするとやられちゃうよね」

実際、瀬戸熊は1回戦南3局0本場で新津のリーチに、1シャンテンから押し返し、5,800を新津から打ち取る。

続く1本場では三色を見据えた手順で、しっかりとタンピン三色のテンパイに仕上げ、(約38,000点持ちであることを踏まえると)ヤミテンでも十分な加点に見えたが、迷いなくリーチ。

6,000オールをツモりあげ、優勝に向けて大きく前進した。
タイトルを取りまくっていた頃によく見た光景だった。

 

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瀬戸熊に憧れている連盟員は非常に多い。
かくいう私もその1人だ。

私が競技麻雀に触れ、その楽しさに魅了されだした頃、瀬戸熊は鳳凰位連覇、十段位3連覇と、まさに絶対王者として君臨していた。
憧れないというほうが無理かもしれない。

プロになろうと決めた時、初心を忘れないように、瀬戸熊さんと静岡支部前支部長望月さんからサインを頂いた。
それは今でも大切に部屋に飾ってある。

強い瀬戸熊を見るというのは、他に言いようのない嬉しさがある。
そういう意味では僕も、応援しているファンの人となんら変わらないだろう。

-‐「勝った時の気持ちを聞かせてもらって良いですか?」

瀬戸熊「とにかく結果が欲しい時だったから、その結果が出たことは嬉しかった」

--「結果が欲しい時期だったとの事ですが、その理由とかありますか?」

瀬戸熊「最強戦で勝ち方を思い出したような感じだった。そういう時に、続けて勝たないとね。また忘れちゃうから」

「それと、タイトルを取ってる人って、相手が勝手に圧を感じてくれるというか、連続で取ることによって、瀬戸熊復調してきたな、とか考えてくれるものなんだよね」

そう思わせることが重要なんだよ、と教えてくれた。

これは自分のように何も結果を残していない選手にとっては、目からウロコの様な話であった。
麻雀の技術的な話だけではなく、トッププロの心理的な駆け引きのようなものを垣間見た気がした。

ここで、僕は一つの疑問をぶつけてみた。

--「失礼になるかもしれませんが、瀬戸熊さんは自身で、ここ数年不調だと思っていたのでしょうか?」

なぜこの質問をぶつけたか・・・。

考えてもみてほしい。

確かにこの数年、瀬戸熊はタイトルを取っていなかった。
だが、その期間にも第34期・38期と十段戦の決勝進出、第28期發王戦も決勝に残っている。
鳳凰位決定戦だって失冠してからも何度となく残っている。

A1リーグから落ちたのも17年戦って来て初めてのことなのだ。

麻雀というゲームの性質上、継続的に勝ち続けるというのは不可能に近い。

麻雀関係の友人などと話していると、瀬戸熊調子悪いね、と話になることがあるのだが、その都度、僕は十分成績は残しているじゃないか、と思っていた。

瀬戸熊「そんなこと言われたの初めてかも(笑)」
「この何年も勝ち切れてなかったことは事実だし、何よりA1リーグから降級してしまったじゃない?、一度そのステージに登ってしまった以上は周りの期待も上るしね」

この時、やはりトップをひた走る選手は考え方が違うものだなと思った。
話はさらに続く。

瀬戸熊「鳳凰位を失冠するまでは決勝戦って5割は勝てると思ってた。それくらいの自信はあったね。というか、優勝争いをしていないことなんて無いと思ってたよ。決勝の戦い方みたいなのがあるからね。これで勝てるみたいなのがあった。だけど、放送対局になって周りの研究も進んで勝てなくなってきたかな」

--「振り返って、勝てなくなった原因とかあったりしますか?」

瀬戸熊「結局この数年、何がダメだったかと言うと・・・。A1リーグにしがみつく戦いだったというか、A1リーグは、鳳凰位になるって目標はあるんだけど、それよりも先に落ちない様にっていうのが共通認識になっていると思う。でもそれは、勝負の本質からは離れてしまっていたんだよね」

--「なるほど。そして遂に初めての降級を味わってしまったわけですね。」

瀬戸熊「そう。ただ、降級しそうな時に落ちたら楽になるからって身近な人に言われてさ、そうしたらもう一度戦う気持ちを取り戻せるからって。実際落ちたら、肩の力が抜けたというかA2での戦いも本当に楽しめているね」

実際ここまでA2リーグは5節消化して、全節プラス、首位を快走中だ。(掲載時は6節消化)

この話や冒頭に書いた部分然り、今回のインタビューで瀬戸熊が考えている事を色々聞くことができた。

その中でも一つの発見は、トップ選手の持っている自信。
そんなに自信って持てるものなんだ、と思ってしまった。

もちろん、結果や努力に基づいたものなんだろうけど、自信の持てない自分にとっては、改めて考えると凄いことだなと思った。

--「今後の大きな目標みたいなものってありますか?」

瀬戸熊「全然目標ではないけど、10年前の自分にそこで努力をしていたら、ここまで苦労することないのになって言ってやりたいよ(笑)」

「あの時はこれで勝てるって思っていたところがあったんだよね」

それを聞いて、今の瀬戸熊は、気持ちの上で最高の状態にあるんじゃないかと思った。

勝てない時期を経て、ダメだった原因の把握は終わり、勝負する気持ちと勝ち方を取り戻した。
そして、飽くなき向上心をもって、過去の自分を戒めてもいる。
元々持っていた自信は、わずかに残っていた驕りもなくし、強固なものとなったに違いない。

瀬戸熊直樹の全盛期はここから始まるんじゃないかとすら思った。

最後に。

私は今期、静岡支部の支部長代行を務めるにあたり、瀬戸熊と話す機会が増え、遠い憧れだった人と仕事をすることも多くなった。
問題が起きる度、こんなことは大したことじゃないと、右往左往する私の背中を押してくれた。
ここまで、何とかその責務を果たしてこられたのは、そのおかげと言っても大袈裟ではないだろう。

不思議なもので、そういう時には何かの縁が生まれるのだろうか。
第39期の十段戦で、私はキャリアハイのベスト16まで進出し、瀬戸熊と同卓。
プロ8年目にして初めて、憧れ続けた相手との真剣勝負の場に立つことができたわけだ。
その時の気持ちの高揚は言葉では現しきれない。

瀬戸熊は言った。

「支部長なんだから戦っている姿を見せて引っ張っていかないと」と。

振り返ると、その快進撃も、もらった言葉に背中を押されたかのようだった。

だが、僕はまだ何も成し遂げてはいない。

いつか一人前と認めてもらえるその日まで、憧れの大きな背中を追いかけていきたいと思う。

 

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