十段戦 決勝観戦記/第31期十段戦決勝 2日目観戦記 勝又 健志
2014年11月13日
初日終了時点のポイントは
櫻井+29.4P
藤崎+5.3P
柴田▲5.4P
瀬戸熊▲12.1P
前原▲37.2P
トータル首位に立った櫻井は、「2日目以降もしっかりと攻め込んでいきたい。」と。
まだまだ守りにいくポイント差でもなければ、残り半荘数でもない。とはいえ、十段戦という大舞台ならばこのリードを失いたくないという思いは少なからずあるであろう。
そして、櫻井を追いかける3者は、何度も決勝戦を戦い抜いてきた経験がある。
その中で櫻井は、いかに自分の麻雀を打ち切れるかが焦点となるであろう。
5回戦
(起家から、櫻井、柴田、藤崎、瀬戸熊、抜け番:前原)
東1局は瀬戸熊が、












リーチ ドラ
このリーチを打つも、藤崎が待ち選択をしっかりと正解し2,000のアガリ。
東2局3巡目、瀬戸熊に難解な選択が訪れる。












ツモ
ドラ
打牌候補としては、七対子の1シャンテンを維持しつつ、メンツ手の可能性を残す
のツモ切りや、3組あるリャンメンターツを生かして、メンツ手に絞る
切りや
切りが考えられるであろう。
しかし、瀬戸熊の選択は七対子を本線とした
切りであった。
場に高いピンズを切らなかったということは、メンツ手の可能性も残すのだが、すぐに
や
が重なった場合の単騎待ちが
より
の方がいいという主張である。
そして、その選択が見事に決まる。
次巡
が重なると、河にトイツを並べることなく9巡目に
のツモアガリとなった。
この素晴らしいアガリに、瀬戸熊の時間帯到来を感じたのは私だけではないであろう。

東4局、親の瀬戸熊はストーレートに手牌を進め先行リーチにいく。












ドラ
ヤミテンから待ち替えを狙っていくのが本筋ではあるが、11巡目ということと親番ということがリーチを打たせたのであろう。また、点数状況的にもこの瀬戸熊の親リーチに3者が踏み込み辛いということもある。
このリーチに、ドラドラ七対子テンパイの藤崎が無筋を勝負していく。
そして、流局。藤崎の手牌は













藤崎は「
待ちを読み切っていたわけではないので、自信ある待ちに替えれたならば放銃していた」と話してくれたが、無筋を3種引いてのこの選択は見事であった。

一方、瀬戸熊。連荘の可能性とアガリがあった時の打点を考えるとリーチは有効ではあるが、瀬戸熊の勝ちパターンではないと感じた。瀬戸熊は、手役の型にはまったときや、役なしではあるが勝負所といったときには、100%と言えるほどリーチにいくが、変化の多い牌姿や体勢作りの段階ではヤミテンの選択がかなり多い。
私には若干勝ち急いでいるように見えた。
東4局1本場、連荘をはたした瀬戸熊に選択が訪れる。
2巡目












ツモ
ドラ
ここでは、チャンタ三色の可能性と、ドラドラを生かして手広く進行する可能性と両天秤にかけ打
。
次巡
を引くと、ここで一気に手役に絞って打
とした。
さらにツモ
から打
。かなり打点に比重を置いた手牌進行である。
そして6巡目、上家から
が切られると瀬戸熊はこれをチー。1シャンテンに構える。









チー


11巡目、櫻井にテンパイが入る。












ツモ
瀬戸熊の仕掛けに、この役なしテンパイではドラの
は打てない。
捨て牌から瀬戸熊の手役がチャンタというのは容易に想像できる。
さらに、瀬戸熊のチーして切った牌が
なので、役牌のトイツや789の三色が本線となり、
も
も外しにくい。しかし、櫻井は強く
切りとした。
もし、瀬戸熊がチーテンでペン
ならば、
と
が逆になっている可能性が高いということであろう。
この選択が功をそうする。櫻井は
が暗刻になるとドラの
単騎でリーチ。これを見事に引き寄せた。
バランスよい手組みと、鋭い読みから生まれた素晴らしいアガリであった。

一方の瀬戸熊は、苦しいポイント状況を打開しようという思いからか、どこか、らしさのない仕掛けとなってしまった。また結果論ではあるが、メンゼンならば6,000オールのアガリの可能性もあっただけに、悔いの残る1局となった。
南1局、前局満貫のアガリをものにした櫻井が












ロン
ドラ
これをアガる。櫻井は、7巡目












ツモ
ここから、
を切ってテンパイを外し三色に仕上げた。
一気に決めにいくならば
、無難に進めるならツモ切りであるが、打点効率の良い好形変化を睨んだ一打はそのバランスの良さを見せつけた。
櫻井はワンチャンスをしっかりアガリ切り、5回戦トップ。さらにリードを広げた。

5回戦結果
櫻井+21.3P 藤崎+11.7P 瀬戸熊▲6.8P 柴田▲26.2P
5回戦終了時
櫻井+50.7P 藤崎+17.0P 瀬戸熊▲18.9P 柴田▲31.6P 前原▲37.2P
5回戦が終了して、ここで6~10回戦の抜け番選択となる。
まず、ここまでトータル首位の櫻井は10回戦を選択。
「10回戦を迎えた時点で4位争いをしているようでは優勝はない。荒れやすい10回戦を抜け番に」
という選択であった。
次に藤崎は8回戦を選択。瀬戸熊は6回戦。瀬戸熊は5回戦の出来でどこを抜けるか決めるということだったので、瀬戸熊自身もどこか不調を感じていたのであろう。
そして、柴田は7回戦。前原が9回戦の抜け番となった。
6回戦
(起家から、藤崎、柴田、前原、櫻井、抜け番:瀬戸熊)
前原が、自身のスタイル通り積極的に攻め込んでいくが、藤崎、柴田、櫻井はしっかりと手牌に素直に対応していく。
その中で藤崎は












ロン
ドラ
柴田は






ポン

ポン

ロン
ドラ
これをアガリリードを築く。
櫻井は、手が入らず苦しいのだが、失点を最小限に抑えている。
そして、オーラス1本場。ここまでの点数状況は以下
櫻井29,700
藤崎39,600
柴田38,700
前原12,000
藤崎、柴田、前原からすると自身の加点は最善だが、何とか櫻井を30,000点以下のままこの半荘を終わらせたい。そんな状況の中で、6巡目、櫻井からリーチが入る。












リーチ ドラ
このリーチを受け、藤崎、前原は撤退。柴田が













ここから
を引くと、
切り。アガリに向かって勝負をかける。
9巡目、柴田はロン牌の
を掴むとそのまま河に置き、9,600の放銃となった。
柴田は、この手牌をアガリ切ってトップとなれば、櫻井とのポイント差も一気に縮まること、そして自分の手牌が勝負に見合う打点が見込めることから放銃となったが、結果は厳しいものであった。
ただ、櫻井の捨て牌は3巡目に
切りの後、手出しで
ということを考えれば十分形の可能性は高く、さらに9巡目の段階で
が3枚切れとなったので、柴田の戦い方からすればオリる選択も有力だったかもしれない。
柴田も「自分がテンパイなら勝負の価値もあるが、1シャンテンならば
を切る選択もあった。」と。
6回戦はこのまま、藤崎、櫻井の同点トップとなった。
6回戦結果
藤崎+14.1P 櫻井+14.1P 柴田▲4.7P 前原▲24.5P
6回戦終了時
櫻井64.8P 藤崎+31.1P 瀬戸熊▲18.9P 柴田▲36.3P 前原▲61.7P
7回戦
(起家から、前原、藤崎、櫻井、瀬戸熊、抜け番:柴田)
東1局、13巡目、櫻井にチャンス手が入る。












ツモ
ドラ
直前に
が3枚見えになったこともあり、ヤミテンに構える。
15巡目、親の前原からリーチが入る。












リーチ
そして同巡、櫻井のツモはドラの
。前原の捨て牌にソウズは
だけ。
櫻井は、
を切って役なしテンパイを選んだ。
が3枚見えているとはいえ、ドラの
は打ちにくく残りの巡目を考えると順当な選択に見える。
しかし、それこそが前原の狙いであった。
結果は、前原
ツモ切りの後に、
をツモアガリ。
遂に前原の勝ちパターンともいえるアガリが生まれた。

この後の前原はこれまで以上に徹底的に攻めたてる。
しかし、東1局1本場は












ドラ
流局
2本場












リーチ ドラ
流局
3本場












リーチ ドラ
流局
打点の見込めるテンパイを入れるが、アガリには結び付かない。
前原の風向きは良くなりつつあるが、二の矢が放てず加点はできるもののビックイニングにはできない。
東3局1本場、藤崎の大物手が炸裂する。
5巡目にリーチにいくと、すぐに櫻井からの出アガリ。












ドラ
櫻井は、ここまで高打点はケアしながらバランスの良い攻めを見せていたが、ここは三色を見て手残りした
が高打点に捕まった。
トータル首位の櫻井がラス目になると、ここがチャンスとばかりに、タイトルホルダー3者が高打点のアガリを積み重ねる。
瀬戸熊は












リーチ ツモ
ドラ
前原は












ロン
ドラ
藤崎は









ポン

ロン
ドラ
これをそれぞれアガリ、櫻井に大きなラスを押し付けた。
しかし、櫻井のラスは無理な攻めをした結果ではなく、自分のやるべきことをやった上でのラスであり、12半荘の戦いであれば想定の範囲内、そんな想いが伝わってくる内容であった。

7回戦結果
前原+16.6P 藤崎+11.1P 瀬戸熊+5.7P 櫻井▲33.4P
7回戦終了時
藤崎+42.2P 櫻井+31.4P 瀬戸熊▲13.2P 柴田▲36.3P 前原▲45.1P
8回戦
(起家から、櫻井、前原、瀬戸熊、柴田、抜け番:藤崎)
東1局、親の櫻井がリーチにいくが、前原が向かっていき2,000点のアガリ。
東3局は、櫻井が前原からメンホンのアガリ。












ロン
ドラ
そして東4局5巡目、櫻井が
をポンして1シャンテンに構える。









ポン

ドラ
メンゼンでも打点が見込めなさそうな手牌ということもあり、局を回しにいく。
すぐに
、
と引いてテンパイ。
9巡目、前原も
を仕掛けてテンパイを入れる。









ポン


この仕掛けで11巡目、柴田は絶好のドラが重なってリーチにいく。
が3枚切れであり、基本的な柴田の戦い方ならばヤミテンであろうが、ここは両者の仕掛けに打点がないことを読み切り、2人を止めようという考えもあってのリーチだ。












ツモ
次巡、前原は
を引く。自分の手牌は1,000点だが、これが通ればアガリも十分に見込める。
さらに、ポイント状況からも11回戦以降に進むためにも柴田のリーチには簡単に引きたくない。
そして、何より仕掛けたならば最後まで押し切るのが前原のスタイルである。
この
を切りだし、柴田の頭ハネ。大きな11,600のアガリとなった。

前原は、これまでこの戦い方で何度も優勝してきているのだが、ここはオリる選択もあったか。
前原の良さは、好調時には徹底的に攻め、不調時にはとことん守るところにある。
残り回数、トータルポイントが打たせた信条に反する一打だったかもしれない。
この後の前原は、相手にプレッシャーをかける攻めではなく、状況から攻めざるをえないというものになってしまった。
南1局、親番を迎えた櫻井は、自身の手牌に打点はないものの鋭い踏み込みでアガリももぎ取っていく。









ポン

ツモ
ドラ












ツモ
ドラ









ポン

ロン
ドラ
この3回のアガリでこの半荘のトップ目に立つ。
そして、オーラス。点数状況は以下
柴田46,600
櫻井48,800
前原▲800
瀬戸熊24,400
この半荘、ここまで我慢の連続であった瀬戸熊にチャンスが訪れる。
11巡目












ツモ
ドラ
このテンパイが入るとヤミテンに受ける。
「ここでリーチにいくと、柴田がオリてノーテンにするかもしれない。
を引いてもツモ切りでヤミテン続行。」と瀬戸熊。
解説の荒も最終日を迎えるにあたって、50~60ポイント差にいなければ現実的には厳しいと。
瀬戸熊は何としてもこの半荘プラスで終わりたい。その願いが届いたかのように、15巡目
を引き寄せた。
8回戦結果
櫻井+24.7P 柴田+15.5P 瀬戸熊+4.7P 前原▲44.9P
8回戦終了時
櫻井+56.1P 藤崎+42.2P 瀬戸熊▲8.5P 柴田▲20.8P 前原▲90.0P
2日目は、7回戦で櫻井が捕まえられたかに見えたが、そこからの櫻井の麻雀が素晴らしかった。
状況を的確に判断し、自身の麻雀を貫いていた。
その櫻井は
「最終日もポイント差をあまり気にせずに、最後まで自分の麻雀を打ち切りたいと思います。」
と、戴冠まで後半荘4回。
しかし、追いかける4人も歴戦の猛者ばかりである。
最終日の戦いも激戦必至であろう。
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