第14期プロクイーン決定戦最終日観戦記 紺野 真太郎
2016年11月09日
8回戦終了時トータルポイント
宮内+81.7P 西嶋+40.8P 和久津+32.3P 童瞳▲13.1P 茅森▲141.7P
今まで誰も成し得なかった女流2冠に王手を掛けた宮内。ここまでの戦いぶりのまま打ち抜くことが出来れば、自ずと結果に繋がることであろう。しかし、相手もこのまますんなりと勝たせるわけにはいかない。最終日にはどんな戦い、ドラマが待っているのであろうか。

9回戦 起家から 茅森 童瞳 西嶋 和久津
10回戦が抜け番となる茅森。敗退を免れるには4位童瞳との差128.6Pを逆転しなければならない。トップラスで10万点弱の差。童瞳は10回戦も対局があるので、この9回戦で必ずしも逆転しなければいけないわけではないが、最低でも12、3万点のトップが欲しいところ。
開局は茅森のリーチで1人テンパイ。続く1本場、ここも先制リーチに成功する。












ドラ
トータルポイント上、この茅森のリーチには、かなり手が整っていない限り、戦いにくい。茅森に捕まる事は優勝争いからの脱落を意味するからである。茅森も十分承知の上であろう。足を止めさせ時間を得た。
茅森14巡目、
をツモ。リーチ、ツモ、ピンフ。このままでは1,300オールだが、裏ドラをめくるとそこには
が・・裏ドラ
で2枚乗り4,000オール。奇跡への第1歩を踏み出した。

2本場にも12巡目先制リーチ。












リーチ ドラ
ただ、ここは思惑通りとはいかなかった。同巡、西嶋が追いかけリーチ。












リーチ
トータル2番手につける西嶋にすれば、茅森の奇跡のストーリーに付き合うわけにはいかない。この9回戦は追うべき宮内が抜け番。茅森に得点を伸ばされれば、自分の得点が削られ、宮内から離されてしまう。
山に残る枚数は茅森3枚対西嶋5枚。ここは数字通りに西嶋がアガリ。裏は乗らず1,000・2,000だが、西嶋にとっては点数以上の価値があるか。
東2局、茅森テンパイ。1枚切れの
を切るが、ここはヤミテン。












ドラ
下家の童瞳が手出し
、
の後、

で鳴いており、マンズのホンイツでのダブ
ポンを警戒してのことか。
が動かれなかったのを確認し、次巡ツモ切りリーチ。これで4局連続リーチだ。ドラ2枚で押していた童瞳、当たり牌をギリギリまで打たずにいたが、テンパイが入り、
で放銃。裏ドラも
で2,600。これで茅森トップ。童瞳ラスの並びが出来る。ただ、素点はまだまだ足りない。
東3局、和久津のリーチ。それを受けた親西嶋。

さて、何を切る?
第1感では
かと思うが、止まってしまうと迷いが出る。
を切っても後が続かない。ワンチャンスで
か。和久津の捨て牌には
がある。それなら・・
「ロン」和久津の声だ。西嶋が切ったのは
。












リーチ ロン
ドラ
裏
第1感で私が
と思ったのはドラ
を切りたくないから。もし西嶋が
を引いた時に
を打つ覚悟があったのならば、この放銃は責めることは出来ないであろう。必死に戦った結果なのだから。
東4局、同1本場と和久津が先手は奪うがアガリには結びつかない。今シリーズ抜け出せない原因か。そして、2本場は童瞳にアガられ、供託と積み場を攫われてしまう。
南1局、後が無い茅森の親。ここも和久津の先手。










ポン

ドラ
和久津は北家。十分に打点も見える仕掛け。一方の茅森は













と厳しい。期待の
もこの和久津の仕掛けで出にくくなってしまった。それでも丁寧に進めて1シャンテンまで漕ぎつけたが、手牌の伸びもここまで。和久津1人テンパイで無念の親落ちとなった。
最後は意地を見せ、この半荘はトップとした茅森。10回戦の結果待ちとはいえ、事実上の敗退となった。
9回戦終了
茅森+31.4P 和久津+14.4P 童瞳▲5.0P 西嶋▲40.8P
トータルポイント
宮内+81.7P 和久津+46.7P 西嶋±0P 童瞳▲18.1P 茅森▲110.3P
10回戦 起家から 宮内 和久津 童瞳 西嶋
逃げる宮内VS追う和久津。東1局から火花を散らす。南家和久津は13巡目の手の内がソウズのみに。












ドラ
勿論、ソウズは1枚も切っていない。対する親宮内。













ここから
をチー。打
としピンズのチンイツへ。これを和久津が仕掛け返し、
、
のテンパイ。









チー


しかし、
、
は和久津から6枚見え。山にも
が1枚しか残っていない。次巡に
をツモると、まだましかと、打
とし、
、
、
、
待ちに変化。
宮内。残り1巡で
ツモ。
切ればテンパイだが・・









チー

ツモ
当たれば最低8,000。もし当たるようであればトータルで逆転を許す。それでも・・
宮内は
を切った。結果は2人テンパイの流局であったが、戦う勇気と姿勢を見せつけた。

戦う姿勢であれば、和久津も負けていない。いや、負けるわけにはいかない。続く1本場、積極的に仕掛けて出る。

これは宮内から見た図。宮内含め、周りからすれば「またか」と思うと同時に、高いのか安いのかの判断がつきにくい。
和久津にはそれも計算の内であろう。変幻自在の攻め。今回は・・










ポン

ドラ
と本物。しかし、宮内も高打点が見える手牌だけにビビってはいられない。11巡目、当初の構想からすれば不満が残るテンパイであろうがリーチに出る。












リーチ
和久津もこの時テンパイ。






チー

ポン


全面戦争勃発か・・和久津も無スジを通していく。この勝負に決着をつけたのは西嶋。2人の攻めを躱すことに成功した。和久津はまたも実らず。
東2局、和久津の親。

このドラ
を切れる者が何人いるであろうか。単なる損得であれば切らないほうが得だと思う。しかし、和久津は切り飛ばした。この
を西嶋がポン。和久津には
が流れてきてテンパイを入れ、童瞳との2人テンパイ。この
切りからの一連の流れがないと、和久津はテンパイすることが出来ず親流れ。この後に続くことが出来なかった。
宮内と和久津のトータルポイントの差は35P。大差のように感じるが、トップラスであればその差は僅か5ポイント。そして、このテンパイ料でその条件を満たし和久津が0.3ポイント逆転した。

東2局2本場、またもや和久津、先手の仕掛け。









ポン

ドラ
先程の仕掛けを見せているだけに、周り、特に宮内はどうしても絞り気味になり、前に出にくい。和久津は野球で言えば、同じフォームで速球とチェンジアップを投げ分けているようなものである。
今までは仕掛けても手が伸びなかった和久津だが、この手は伸びた。ダブ
が暗刻になり、仮テンの
単騎をツモ。









ポン

ツモ
逆転した点差を広げにかかる。
東2局3本場、和久津は軽い手。早くも3巡目にドラの
を河に放った。












ツモ
打
ドラ
和久津らしいと言えば和久津らしい。最終的にドラ単騎に捕まったり、打ち切れなくなる前の処理。
これが子方であったり、スピードで捌いていく場面であればわからなくもないが、このリードを広げたい局面では損に思えてしまう。それでも6巡目に
を引き、ツモ切りする羽目にならなければ、まだ良かったのだが・・

7巡目、宮内から見た図。ここまでにドラを重ねた宮内。和久津の
チー、打
を見て安い手という事は感じたであろう。それは周りにとっても同じことで、真っ直ぐ手を進めてきた。和久津はあっという間の3フーロ。
アガリ切ってしまえば問題無い。そして、更に連荘を積み重ねることが出来る。アガリ切ってしまえば・・
「リーチ」宮内が来た。打点が見えない仕掛けだけに、親であろうが怖くはない。和久津も引かずに応戦。そして・・

残り4巡。和久津ならソウズを打って粘る様な気がした。そういうプレイも何度も見ている。しかし・・
和久津は
をツモ切りした。自分のアガリを目で追ってしまった。












リーチ ロン
ドラ
裏
リーチ、ドラ3で8,000。掴まえたはずの宮内の背中。後は仕留めるだけであったはずだが、その直前で腕から抜け出されてしまった。
トータルトップを奪い返された和久津だが、気落ちするまでもなく、次局には仕掛けて300・500でこの半荘のトップ目に戻り、再度追撃態勢を整え直す。
東4局1本場、ここも和久津の仕掛けから局が始まる。










チー

ドラ
この後、
も鳴けて1シャンテン。アガリに近づく。しかし、思い通りにはさせぬと待ったをかけたのが、宮内。












リーチ
この
–
–
待ちでリーチ。和久津が一発で掴むが、ここは4枚目の
。次のツモは
。もう止めてもいい牌か。

それでもこの
を押す和久津。
が当たると確信に近いものがあるのだろう。必死に食らいつく。
止められた形の宮内であったが、この待ちでは負けられない。
をツモって2,000・4,000。和久津に立て直す隙を与えない。
南1局、宮内の親。折られそうな心を鼓舞するかのように、ここでも和久津は仕掛ける。対する宮内、13巡目にこの手牌。

殆ど止まることがない宮内でもさすがに手が止まった。阿久津の
ポンは
を先切りしてあってのもの。更に
、
のターツ、
のトイツ落としとドラの
が打ちにくい理由がありすぎる。しかも2巡目に
を切っている為フリテンでもある。
普段より少しだけ振りかぶった。打牌音が少しだけ強かった。声が少しだけ震えていた。宮内は
を横に向けて河に置いていた。
をツモるのにさして時間は掛からなかった。4,000オール。更に突き放した。
南1局2本場、配牌。

和久津にマンズが9枚、西嶋はドラ暗刻。どちらも十分な勝負手。和久津は当然のように染め手へ。西嶋もドラ色のピンズへ寄せていく。
配牌では一番苦しかった童瞳。ピンズを押さえながらマンズを処理しリーチ。












リーチ ドラ
ここから一気に動いた。まずは和久津がリーチ宣言牌の
をポンしてチンイツの
–
待ち(
は自分でポンしている為、無い)西嶋は

でチーし、
–
、
待ち。そして、宮内が
–
待ちに変化してのリーチ。4者が真正面からぶつかった。

宮内のリーチは見方によっては必要無いものかもしれないが、このリーチを打たないのであれば、先ほどの
も打たないであろう。押す時は大胆に、引くときは繊細に、それが宮内の中の一貫性なのであろう。
結果はまた別物である。宮内の勢いを止めたのはやはり和久津であった。
で8,000。供託や積み場も得て、見えなくなりかけた背中を再び視野に入れた。
南2局5巡目、童瞳の先制リーチ。それを受けた西嶋。

現物は何も無い。ならば
をツモ切るのが普通。しかし、西嶋はここから長考に入る。
を打たないと決めたのであれば、この手は実質的にここまで。オリる牌を探すとすれば、ワンチャンスの
辺りか。
に手を掛けそうになるが、西嶋にはある場面がよぎり打てない。最後に辿りついたのは
であった。
この時童瞳の手は












ドラ
どころか
でも放銃である。裏ドラが
であった為、
でも
でも満貫の放銃。それを見事に回避した。
西嶋には童瞳の捨て牌にある
が引っ掛っていた。西嶋の言葉を借りれば、「あまりにも気持ち良く」切られた
であったそうだ。感覚からの言葉であるが、迷いが無く切られた分、強い形が想像出来たということと理解すればよいであろうか。
を打たなかった事に関しては、和久津に
で放銃した12,000のイメージが強く、ワンチャンスだからこそ打ちづらかったとの事。
実戦から磨いたであろう感覚。しばしば見られるこのようなプレイを単発ではなく、繋いでいくことが出来るようになることが、今後の西嶋が目指すべき方向であるような気がするのは私だけであろうか。

親番の和久津は簡単には引けない。
をポンしてテンパイ。









ポン


ここから
をツモ切りし8,000の放銃。ここも
が現物になっていた為、アガリに目が行ってしまったか。ここは
、
が通っていたので、回る手もあったか。和久津にとって痛い放銃となった。
南3局、和久津リーチ。












リーチ
少しでも差を詰め、逆転の足掛かりを狙う。ところが・・












リーチ ロン
ドラ
裏
西嶋の追いかけリーチに一発で
を掴む和久津。オーラスに西嶋から8,000をアガリ返したが、3着となるのがやっとであった。
10回戦終了
宮内+30.7P 童瞳+2.1P 和久津▲10.4P 西嶋▲22.4P
トータルポイント
宮内+112.4P 和久津+36.3P 童瞳▲16.0P 西嶋▲22.4P 茅森▲110.3P
ここで茅森が敗退。残るは2回。抜け出した宮内を追い詰めることは出来るのか。
11回戦 起家より 西嶋 和久津 宮内 童瞳
一時的とはいえ逆転した和久津。しかし、この11回戦を迎えて、宮内とのポイント差は76.1P。まだ絶望的な点差では無いとはいえ、大差であることに変わりはない。アガリを重ねて追撃を・・と考えても、手許に来るのは当たり牌ばかり。
東1局、親の西嶋がリーチ。












リーチ ドラ

宮内はこのリーチ前からテンパイを入れていた。













西嶋のリーチ一発目に
を引かされると、あっさり打
としテンパイを崩す。直後、西嶋のツモは
で、リーチを打つことによって放銃を回避した格好。そして、和久津が西嶋の捨て牌の中スジ
をツモ切ると、これが童瞳のヤミテンに捕まる。













ロン
東2局の親番、僅か4巡で1シャンテン。












ドラ
次巡、
をツモ切り。それがもう間に合わない。












ロン
ドラ
これが宮内の手牌。宮内はこの11回戦、明らかに戦い方を変えてきた。残り2回を確実に逃げ切る為のギアにチェンジした。
不調に陥った和久津を尻目に童瞳、西嶋は高打点の手をツモアガリ、宮内に必死に食い下がる。だが、和久津の点棒も同じように削れてしまい、宮内の着順を落とすことが出来ない。
南3局、決定打と思えるアガリが出た。

オーラス、西嶋が3,000・6,000でトップこそ奪うものの、宮内の牙城を揺るがすまでには至らない。
11回戦終了
西嶋+34.4P 宮内+18.6P 童瞳▲17.0P 和久津▲36.0P
トータルポイント
宮内+131.0P 西嶋+12.0P 和久津+0.3P 童瞳▲33.0P
12回戦 起家から 西嶋 和久津 童瞳 宮内
茅森早香がこの12回戦の舞台にいないなんて誰が想像したであろうか。序盤から苦戦の連続。最後は2連勝で実力の片鱗は見せたが、こんなものでは無い筈だ。来年もこの舞台に戻って来る事を期待したい。
和久津晶はこの舞台でも自分を貫き通した。2冠となった宮内の前に最後まで立ち続けた。勉強量、研究量は他を凌駕する。次に姿を見せる時には進化しているのか、変化しているのかどちらであろうか。
童瞳はこの1年、プロクイーンというタイトルの重さと戦い続けた。多くの対局やチャンスを得て、必死で戦っていた。そんな中で、生命線とも言える押し引きのバランスを少し崩していたように思える。バランスを取り戻した時にまた戻ってくるであろう。
西嶋ゆかりの随所に見せたプレイは素晴らしかった。ただ、まだ安定感に乏しいのも事実である。今回得た経験を元にリーグ戦や女流桜花などで結果を出し、一回りも二回りも成長する事を願う。
宮内こずえは女流桜花のタイトルを獲ってから更に、本当に強くなった。攻めにも守りにも甘さが消え、鋭さと深さが増した。堂々の2冠である。ただ喜んでばかりもいられない。女流桜花の防衛戦がすぐそこに迫っている。次は桜花連覇を目標に決勝の舞台に帰って来る。

12回戦終了
童瞳+29.4P 宮内+1.6P 西嶋▲8.5P 和久津▲22.5P
最終成績
宮内+132.6P 西嶋+3.5P 童瞳▲3.6P 和久津▲22.2P 茅森▲110.3P
宮内がデビューしたばかりの頃「目標は?」と聞いたことがある。その時は真っ直ぐな瞳で「鳳凰位です」と答えた。冗談かと思い笑ってしまったのを覚えている。今、同じ質問をし、同じ答えが返ってきたとしても、今度は誰も笑わないであろう。

カテゴリ:プロクイーン決定戦 決勝観戦記








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