中級

第102回『凡そ戦いは正を以って合し、奇を以って勝つ』 櫻井 秀樹

相手の情報を良く知り、人読みで手牌を推理し、相手の攻撃を受け潰せば、今度は自分の攻める番です。

攻めの手法や手組などは前任者の魚谷プロの講座にある通りです。
麻雀における攻撃は正攻法で挑み、勝てる状況、相手であるならば、問題はありません。

ただし毎回毎回そうはいかないでしょう。ギリギリの勝負に勝つ事を目指すために、ここでは攻め(自らの動き)における対人戦略を考えてみましょう。

①場の注目を集め、相手を窺う

自分の手が遅い時など、ブラフ半分の仕掛けなどをしてみます。
相手が受けているか、押してきたかで値段やスピードを窺います。
押してきている相手の進行には十分気をつけつつ牌を残し、終盤手になれば儲けもの、くらいの感覚の仕掛けです。
ただし、その場合安そうな仕掛けでは意味ありません。
ホンイツか、ドラを抱えていそうな仕掛けで相手をけん制してみましょう!
切りたい牌が切れずにアガリ逃しをし、精神的に揺さぶれればそれだけで価値ありです。

②自分の印象を相手に強く与え、利用する。
自分が相手にどう思われているか?前回の講座の逆になります。
自分がブンブンの攻め屋だと思われているのなら、相手にも攻めさせておいて(何でも打ってくると思わせておいて)空振りを誘ったり、不意のヤミテン等で相手の腰を折るアガリも効果的です。
また、自分が守備型の印象ならば、ちょっと場面に強い牌を打ち出してみたりして、リーチ者の現物などを打ちづらい牌へと変え、他家の打牌に制限をかけていきましょう。

③誤情報を出し、自らを掴ませない。
守っているようで攻め、攻めているようで守る。
序盤手牌をスリムに手役を絞って構え、終盤安全な牌を並べてこっそりテンパイしていたり、自分にしか分からない安全な牌を煮詰まった局面で打ち出し、相手を引かせたり、他家のテンパイに飛びこませたり。
この人は一体何をしているんだろう?どんな手恰好なのだろう?など、相手を混乱させます。

④セオリーを裏切り、相手にプレッシャーを与える。
これはリスクが高いのですが、オヤの先行リーチに回らず無スジをバンバンいったり、役無しのヤミテンで押し切ったり。
相手の思惑や希望通りにならない打牌をし、精神的ダメージをねらいます。
局面に合っているとしても、すぐにオりたり、何でもツッパったりでは相手に行動パターンを読まれてしまいます。
何をやってくるかわからない、というのは相手にプレッシャーをかけることになります。

これ以外にもいろいろとあるのでしょうが、ひとまず思い付くままに挙げてみました。

以下は見ているだけでは気づかない、対人戦略の例です。

プロリーグ(一発ウラドラ無し)でこのような場面がありました。

西家M氏が先制リーチ

(捨て牌)
一索 上向き一筒 上向き一索 上向き中発東四索 上向き南西七万 左向き

ドラが一万で、割とオーソドックスなピンフ系の河でしょうか。
このリーチに対して、オヤのF氏はノータイムで打八筒、次巡打七索

同巡、北家のS氏は

一万一万二万三万五万二索二索四索三筒四筒五筒七筒八筒  ツモ四万

この牌姿から現物の四索が打てず、西家のリーチへ放銃となります。

ちなみにF氏はタンヤオの2シャンテン。

これはF氏の対人戦略がハマった例で、S氏はF氏に対して
・守備型
・ヤミテンが多い
というイメージを持っており、F氏もその事を十分熟知してました。
その為、ノータイムで無スジを切る事によって、S氏にリーチの現物を打てなくしてしまったのです。

逆に、F氏が
・攻撃型
・リーチを多用
というイメージであればどうだったのでしょうか?
同じ打牌でもS氏の判断は違ったかも知れませんね。

※実際F氏の思考は若干違っていて、F氏は勝負手とみせかけて、脇を押さえこみ、リーチ者との1対1に持ち込みたかったようです。
これも自身の他家からのイメージを利用した対人戦略と言えます。

もう1つ、私の実践譜より。
一発裏ドラあり、2人勝ち抜けのトーナメントルールにて、私は西家で現在トータルトップ目でした。

3回勝負の3回戦目
南2局2本場 ドラ九万
東家   34,000点
南家   2,8,000点
西家(私)37,000点
北家   18,500点

勝ち上がりの条件としては、私はラスにならなければOK。南家は可能性がほぼなし。
そして、東家と北家は着順勝負。

5巡目 西家の私は

九万九万九万一筒一筒四筒四筒七筒八筒北北発中  ドラ九万

ここから、北をポンして七筒八筒切り。その後ツモ切りを続けてみました。

私の考えとしては、東家が早そうで、これ以上連荘してもらいたくない(何が起きるかわからないので)という、半分以上ブラフ仕掛けです。※一応、発中一筒は東家の現物。

1つ大きかったのは東家の情報として
・相手の手配読みに優れている。
・トーナメント巧者である
・麻雀の能力が非常に高く、リスクの取り方、避け方のバランスに優れている

という事がわかっていた事です。

大物手に放銃しなければ、まず通過という条件も当然お互いわかっているので、あえて東家に引いてもらい、自由に打たせないようにしたかった。
その為、ドラ暗刻をアピールしていったのです。

相手の情報や、特殊な条件下でなければ、チャンス手を棒に振るかもしれない焦った仕掛けともとれます。
が、実はリスクも最小限で効果が得られるという稀なケースだったのです。

冒頭でも述べたのですが、これらの対人戦略はあくまでギリギリの勝負どころで使って初めて効果が得られるものです。
いつもブラフや反セオリーな事をやっていれば、そのうち無視されリスクばかりが残ります!

戦いの基本はあくまで正攻法。しかっり受け、しっかり攻め続け、ここぞという時に勝敗を決するのが、奇襲攻撃の妙なのです。