上級

上級/第98回『サバキの神髄⑤流れの認識―NO3』 荒 正義

東4局は沢崎の親番。
跳満を引きに行き、逆にリーチ棒込みで9,000点の打ち込みとなってしまった沢崎。
だがその闘志は少しも衰えない。けれどこの日、迎えた最初の親番は瀬戸熊に落とされた。
瀬戸熊から7巡目にリーチが入る。
一筒 上向き一万 上向き白発北四万 上向き
九万 左向き
この河では読みようがない。そしてテンパイ形がこれだ。
五万五万五万七万七万二索三索六索七索八索八索八索八索
どうということのない手に見えるが、ドラが七万なのである。入り目が4枚目の八索というのも瀬戸熊らしい引き。
2巡後、あっさりと一索ツモって2,000・3,900。
この半荘は満貫クラスの応酬、これが荒れ場である。
打点の高いアガリが1人に偏るのが「嵐」。それが打ち合いやツモリ合いになると「荒れ場」と呼ぶ。
この時点で4人の持ち点がこうだ。

望月 23,600
ともたけ 24,400
瀬戸熊 37,600
沢崎 34,400

いつの間にか瀬戸熊が沢崎を抜き、トップに立ってしまったのである。
(やっぱり今の瀬戸熊の安定感は、ピカイチだ―)
観戦者がこう思っても何ら不思議はない。解説の滝沢も感嘆の声を漏らした。
「強い!」と。
さっきはともたけの3面シャンの先制リーチにカン二索で追いかけ、親で7,700をともたけから打ち取る。
今度は両面でツモだ。一見、今の瀬戸熊は死角なしに見える。
しかし麻雀の「流れ」の判断は、見る角度によって変わる。私の見方はこうだ。
瀬戸熊が超一流の打ち手であることは私も認める。しかし「流れ」は別だ。
彼は第5節までオール浮きで、プラス250P。しかし、その後は70P沈んでいたのだ。
彼の「流れ」が本物なら、浮きは300Pを突破していたはずである。
ならば上昇運が止まり、下降運に入ったと見ることもできる。
これが、瀬戸熊の「流れ」に対する正直な私の見解である。
ようやく南場に突入。ここで沢崎が鋭い仕掛けを見せた。6巡目で沢崎の手はこうだ。
二索二索二索三索三索四索六索七索八索八筒白白発  ドラ五索
ここに親の望月から三索が切られる、と動いた。
通常ならこの手は面前で進め、動かないのが普通の構えだ。
しかしこの時、場には一索が3枚と二索四索が1枚切られていた。だから動いたようにも見える。
それにしても、よくポンの声が出るものだ。私は鳴けないし、動けない。
この鳴きですぐに四索を引きこんで沢崎はテンパイを果たす。これが沢崎の状況判断と手牌のサバキである。
二索二索二索四索四索六索七索八索白白  ポン三索 上向き三索 上向き三索 左向き
ここに瀬戸熊から、食い上ったドラの五索を重ねてリーチが入る。
一万二万三万四万五万六万五索五索二筒四筒五筒六筒七筒  リーチ
東一索 上向き九筒 上向き八筒 上向き九索 上向き一索 上向き
北北南二筒 左向き
またしても読みづらい河だ。
マチは分らなくても沢崎の染め手に勝負と出る以上、打点は相当あると判断できる。
瀬戸熊も前局のアガリとツモから手応えを感じていたはずだ。
もしも沢崎が動かなければ、手はこうなっていたことになる。
二索二索二索三索三索四索五索六索七索八索白白発
もちろん瀬戸熊のリーチも入らず、望月の手も進まなかった。
そして沢崎の手がもっと高くアガていた可能性があったのだ。鳴くべきか、鳴かざるべきか。この判断は難しい。
瀬戸熊のリーチに無筋の四万二万強打する沢崎。これで沢崎もテンパイが明白。
そこに望月が生牌の白を強打した。2人のテンパイをかわして沢崎の3,900、これは大きいアガリだ。
危険を承知で打った望月の手はこうだ。
一筒一筒一筒二筒三筒三筒四筒四筒五筒八筒九筒中中
入り目が三筒で、ヤミテンでも出アガリ9,600。
この白は今の望月の状況と立場、そして手牌が打たせたのである。
これを止めていては勝負にならない。
後の戦いは小場で流れた。そして第1戦の結末はこうだ。
(カッコ内は9節までの総合計)。

沢崎 +22,6P(+2.6P)=25.2P
瀬戸熊 +8,9P(+173.4P)=182.3P
ともたけ ▲11,4P(+92.5P)=81.1P
望月 ▲20,0P(▲81.6P)=▲101.6P

試合は半荘ごとに15分くらいの休憩に入る。
このとき打ち手は、出た結果と流れから、相手3人の心の動きを敏感に察知しておく必要がある。
相手はどう構え、どう来るかである。
相手の仕掛けや河から、相手のロン牌を推理することを「読み」というが、それは読みの部分に過ぎない。
「読み」とは、相手の心の動きを知ることだ。そこに打ち手の雀風を加え、次の行動を予測する。これが真の「読み」である。
私の「読み」はこうだ。
現状1位の瀬戸熊は、この荒れ場を浮きの2着で通過できたことで満足だろう。
3位通過のボーダーラインは通常+70Pである。余裕を持つなら90Pあれば十分。
だとしたなら、まだ90Pの余裕がある。
残り7戦、後は一歩ずつ半荘を刻んで詰めていくはずである。
打牌の強さは、いつも通りと予測できる。
一方、ともたけは不調である。牌の巡りが怪しい。それはともたけも感じているはず。
となれば今日は、守備を重視し失点を最小限に抑えようとするだろう。
したがって、打牌は極めて「静」と予測できる。
しかし、打牌が強い時は注意が肝心。そのときは打点があってマチも好形と見なければならない。
では、望月の場合はどうか。
このラスで柴田と並んだ。A1陥落は2人で、1人は猿川で確定。
だから争いは柴田との一騎打ちである。今日がダメでも次があるから、自分らしく打とうと考える。
となれば攻めと守りの打牌が、より鮮明になるはずだ。
問題は好調の沢崎だ。トップをマクリ返し、気分は上々。今のトップで残留は確定。
だから下は見ず、上だけを見て打ってくる。
打牌も強く伸ばして来るだろう。彼の技は多彩で中にはブラフもあるが、それを見極めるのは困難である。
しかし、調子に乗ると卓上の制空権を一気に支配して来る。そうなると厄介である。
だから、彼の親だけは早めに蹴るに限る。
たった15分の合間でも、この位の「読み」と「対応」は入れておくことが大事。
プロは、卓上だけが勝負の場ではないのだ。