上級

第136回『勝負の感性⑥~パターンを知る~』 荒 正義

1.人読み


対局が始まる前に、場所決めがある。そして、席順が決まる。この時から、勝負はすでに始まっている。問題は、誰が上家で下家だ。
滝沢和典・藤崎智は、流れに乗って面前主体で来る。下家が染め手で仕掛けたとき、生牌の字牌はおろかその色の牌はおいそれと出してはこない。出たときは好形の1シャンテンかテンパイだ。それも打点のある手。だから、打ち筋は「静」である。

一方、佐々木寿人と古川孝次は鳴きを多用して前に出る。ヒサトはアガリに向かって直線的。古川の鳴きは、仕掛けで相手を翻弄するのが主体。相手を受けに回し、手を曲げさせ翻弄するのだ。これがサーフィン打法。
しかし古川の手は、本手も混じっているから始末に負えない。なめてかかると「12,000点」と言われて、ひどい目に合うのだ。
しかし、鳴きに違いはあっても手を狭めて前に出るという点では同じである。だから、打ち筋は「動」である。

最悪な席順は、上家が「静」で下家が「動」のときである。鳴けば上家には牌を絞られ、下家にはポン、ポンでツモが飛ばされる。そして、下家の仕掛けに牌を絞るのも厄介である。
この並びでは2、3着で上等、と思うことが大事。プロリーグなら浮けばOKである。期待を大きく持たない分、マイナスしても心の揺れが少なくて済むからだ。動揺は、勝負に禁物である。もちろん「運」の高低があるから、席で着順が決まるわけではない。ただ、そうなるパターンが多いという話である。
上家が「静」なら、遠い仕掛けはしてはならないのだ。

一万三万五万八万八万三索四索六索七索八索三筒五筒七筒  ドラ八万

上図の手は、一発裏なしのプロリーグ戦。東2局6巡目の西家の手である。ここに、上家から五索が切られた場面だ。
ドラが八万なら、鳴いて三色で決めたら7,700点。大きい打点があるから手拍子で鳴きたくなるが、じっと我慢だ。これを鳴いたら、次が鳴けないのだ。藤崎、滝沢はこう考える。
(まだ、点棒の動きの少ない場面で両面のチー…ドラがトイツか暗刻だな…)
と、すぐに看破される。
三色まで見ているかどうかわからぬが、その近辺の牌は出てこない。鳴けば1シャンテンで一手進むが、次が鳴けないなら2シャンテンと大差がない。ここは、スルーが確かな足取り。実戦はこの後のツモが二万六筒でリーチが入る。

一万二万三万八万八万三索四索六索七索八索五筒六筒七筒  リーチ

西家の河
北一索 上向き中九索 上向き九万 上向き八索 上向き
五万 上向き東三筒 左向き

この河なら、打点もマチも判らない。鳴いた満貫のテンパイより、断然こちらの方がいい。これなら相手は、待ちも打点も読みづらいからである。
仕掛けて、そのあと仮に運よく四万が鳴けたとしてもこうだ。

牌の背牌の背牌の背牌の背牌の背牌の背牌の背  チー四万 左向き三万 上向き五万 上向き  チー五索 左向き三索 上向き四索 上向き

伏せられた7牌の手の内はこうだ。

八万八万六索七索八索三筒五筒

最終打牌の七筒がキズとなり、受けはピンズで特に筋の四筒は三色の本命となる。もちろんピンズの二筒三筒五筒六筒八筒も、一応は危険牌の範疇にある。

一万三万五万八万八万三索四索六索七索八索三筒五筒七筒  ドラ八万

上家が「静」なら、この牌姿で鳴くのは四万だけである。一歩譲っても四筒までだ。二索五索の両面は、自力で引く覚悟が大事。

一番いい並びは上家が「動」で、その上家が「静」の並びだ。ヒサト・古川の仕掛けは「静」に封じられ、できるのはポンだけ。すると相手のツモ番を飛ばし、こちらのツモが多くなる。これなら、アガリの期待値が大である。

*相手の打ち筋と席順で、微妙に打ち方を変える。これが人読みである。

東1局0本場。ドラ六万
7巡目、親の「動」のヒサトから先制リーチがかかる。ゲームは始まったばかりで、運も流れも手探りの状況である。

南一筒 上向き発八万 上向き九万 上向き三索 上向き
六筒 左向き

このとき、西家の私の手はこうだ。

六万六万七万三索四索五索六索七索三筒三筒四筒発発  ツモ五筒

戦えそうだ。まず筋の三筒を通して発が鳴けたら、打七万が勝負牌。こちらもドラ2だから、勝負の価値はある。これが、私の戦いの構想である。
ところがこのとき、南家の「静」の(藤崎・滝沢)から手出しの二筒切りがあったのだ。
ここで、ピンと来ない打ち手は感性が「鈍」である。二筒はロンの声がかかってもおかしくはない牌だ。しかも、相手は親だ。ロンはないという否定材料があるのか。いや、あるはずがない。私の手に三筒三筒四筒とある以上、ないのだ。となれば、南家は相手が親でも向かう手ということになる。打点が高く好形。いや、今テンパイした可能性もある。ヤミテンで来る以上、現物待ちも考えられる。

六万六万七万三索四索五索六索七索三筒三筒四筒発発  ツモ五筒

私はここで発を切って、受けに回った。そのあと、南家のツモ切りリーチが入った。
1巡前、南家の手の内はこうだった。

三万四万五万六万七万八万三索四索五索八索八索二筒四筒  ツモ五筒

ここで五筒を引いての二筒切りだった。結果は、親が六筒で放銃。私は危うく難を逃れた。相手の打ち筋を頭に叩き込めば、見えないものが見えてくる。
状況で判断。これも「人読み」である。

 

 

2.配牌に戻る


これは、開始早々の西家の配牌。

二万一索二索四索六索八索一筒三筒五筒北北発中  ドラ九万

カンチャンだらけで、悪形の配牌である。見えるのはソーズの染め手か。この時点で、西家がアガリできる確率は10%である。
しかし、第一ツモが三万で123の三色が見えて来た。丁寧に字牌を合わせ打つ。麻雀は配牌も大事だが、ツモも大事。うまくツモが利いて西家の手が7巡目にこうなった。

二万三万一索二索三索六索七索八索一筒三筒五筒北北

もう一息だ。10%のアガリ率が30%まで上がっている。しかし、実践は複雑怪奇だ。ここで、8巡目に親のリーチが飛んで来た。

(親の河)
西九筒 上向き北一筒 上向き四筒 上向き五万 上向き
二万 上向き一万 左向き

そして、西家の次のツモが二筒だったのである。

二万三万一索二索三索六索七索八索一筒三筒五筒北北  ツモ二筒

さて、問題はここである。前に出るか、引くかの決断のときだ。どうする?
私の感性は、あの配牌を思い出し「引き」である。

二万一索二索四索六索八索北北発中一筒三筒五筒  ドラ九万

アガリ率10%だった手がここまで育っただけで、よしとする。配牌は悪かった。
ツモは利いたが、残念ながら一歩及ばないのだ。この手が本当にアガリできるなら、親のリーチの指示牌一万でアガリできたはずだ、と考える。一発で振り込んだら、親満はあるだろう。ここでの放銃は、点棒を失うと同時に態勢も崩すのだ。ここで危険を冒す必要はない。配牌を思い出せば、簡単にオリられるはずだ。二筒ツモは、罠に感じる。これが、私の勝負の感性である。

逆に配牌がよくても、ツモが噛み合わないパターンもある。

三万五万七万六索六索七索七索八索八索四筒六筒発中  ドラ三万

上図の手は、東1局南家の配牌。
配牌でソーズのイーペーコーがあり、手牌はタンピン形。「もう、いただき」と思ったら意外に長引いた。

三万五万七万六索六索七索七索八索八索二筒二筒四筒六筒

これが5巡目の手。引いたのは2枚の二筒だけ。ここからもツモは伸びなかった。これが10巡目の手。

三万五万七万六索六索七索七索八索八索二筒二筒六筒七筒

引いたのは七筒だけである。配牌からあったマンズのカンチャンが、どうしても埋まらないのだ。ここに親からリーチの声。

親の河
西北一筒 上向き二筒 上向き中八万 上向き
八索 上向き一索 上向き西九索 上向き五万 左向き

そして、同巡に来たのが八筒である。

三万五万七万六索六索七索七索八索八索二筒二筒六筒七筒  ツモ八筒

三万がドラなら打牌は七万となるが、なぜか不安を感じる。
勝負するならマンズが埋まったこの形である。

三万五万七万六索六索七索七索八索八索二筒二筒六筒七筒  ツモ四万

でなければこうだ。

三万五万七万六索六索七索七索八索八索二筒二筒六筒七筒  ツモ六万

この形なら、ドラの三万でも勝負の価値がある。
なのに、こうだ。

三万五万七万六索六索七索七索八索八索二筒二筒六筒七筒  ツモ八筒

南家の不安は3つある。
① 配牌がよかった割にツモが伸びず、親に先手を取られた。
② 受けがカンチャンで、マチはイマイチ。
③ 親のリーチに、一発で危険牌を打たなければならない。
以上の理由で、私は二筒を切って様子見となる。

麻雀は、戦うだけが勇気ではない。パターン(流れ)が悪いと感じたら、引くのも勇気なのである。