上級

第137回『勝負の感性⑦~ツモを知る~』 荒 正義

麻雀は配牌も大事だが、ツモはもっと大事である。なぜなら、どんな手でも2回の急所のツモで、手牌は一気に締まる。さらに5巡、6巡とツモは続くのだ。
となれば、ツモの強弱で1局の結末を透視(推理)できたなら勝率は一段と高くなる。
アガリ番のツモのときは、どんどん前に出る。水も漏らさぬアガリで、相手の運を削ぐ。その分、こちらの運量が増す。
弱いツモのときは、引いて構える。いわゆる受けだ。どうせアガリがないなら、前に出る必要はない。6巡目過ぎたら、危険牌はもとより無筋も打たない。
これで放銃率は、格段に低くなる。ツモの失点はあっても、散家なら四分の一で済む。満貫を引かれても、たったの2,000点である。ツモの勢いで、1局の結末を透視する。この感性が大事なのだ。

 

①伸びるツモ

 

二万三万四万三索五索七索八索四筒六筒八筒東西中  ドラ五索

これは第1戦、東1局西家の配牌である。配牌は普通の3シャンテン。勝負は始まったばかりで、相手の運もこちらの運も手探りの状況である。こんな時はツモで判断だ。3巡目までに四索五索六索の急所が1枚でも引けたらGOである。

二万三万四万三索四索五索七索八索四筒六筒八筒東中  ツモ四索

ドラの指示牌の四索ツモだ。これならメンタンピンで、満貫が見えてくる。ツモが六索でもいい。

二万三万四万三索五索六索七索八索四筒六筒八筒東中  ツモ六索

四索のカンチャンは残るが、ソーズは連続形で変化の余地十分だ。二索六索ツモなら両面になる。ドラの重なりでもOKである。

二万三万四万三索五索五索七索八索四筒六筒八筒東中  ツモ五索

これで打点はできたし、後はツモ次第だ。4丁のドラのうち2枚を手中に収めたら、相手の手にドラはあっても1枚限りだ。仮にアガられても打点は低いと見る。だからこの手もGOである。

では3巡目までに、ピンズのカンチャンを先に引いた場合はどうか。

二万三万四万三索五索七索八索四筒五筒六筒八筒東中  ツモ五筒

二万三万四万三索五索七索八索四筒六筒七筒八筒東中  ツモ七筒

ツモの勢いは普通で、この後ソーズの要の3牌(四索五索六索)のどこを引けるかが、勝負の鍵となる。満貫が見えるので、7巡目までは直線的に前に出る。

しかし、問題はこの後だ。西家は6巡目までに引いたのは九索四筒で、手牌がこう。

二万三万四万三索五索七索八索九索四筒四筒六筒七筒八筒

受けはドラの指示牌のカンチャン待ち、これでは押せない。この後、二索を引いてもこう。

二万三万四万三索五索七索八索九索四筒四筒六筒七筒八筒  ツモ二索

ツモが端に寄り、肝心のドラが出る流れだ。場面が中盤なら、このドラが通るかどうかも怪しいものだ。ドラは通る、と確信できたら切ってもいい。しかし構えは、ヤミテンが相場である。この弱いツモの流れで、リーチで押してもろくな結果にならない。また、ドラの重なりでもそうである。

二万三万四万三索五索七索八索九索四筒四筒六筒七筒八筒  ツモ五索

打点はできたが、受けがイマイチ。

二万三万四万五索五索七索八索九索四筒四筒六筒七筒八筒

ここはしっかりヤミテンに構え、次のツモを待つのが正しい応手だ。

ツモ六索でタンヤオになるし、三筒五筒ツモならこうである。

A図
二万三万四万五索五索七索八索九索三筒四筒六筒七筒八筒

B図
二万三万四万五索五索七索八索九索四筒五筒六筒七筒八筒

これなら最終形、リーチでも十分にアガリの予感がある。この時点で私が感じるアガリ率は、A図なら40%。B図なら60%である。

 

 

②入り目次第


二万三万七万八万一索二索三索一筒二筒三筒北北北  ツモ四万  ドラ五筒

上図の手は、第1戦の東3局9巡目の南家の手だ。どう打つ?
なお場は、点棒の動きが少なく無風状態である。
回答。北切りのヤミテン。

南家の手は、チャンタ三色が狙えた絶好手。しかし、ツモが四万ですべてが水の泡。このツモは、4ハン下がりで駄目なツモ。ここは、ピンフの1,000点でよしとする。その間に相手から攻めの火の手が上がり、無筋を掴めば受け(オリ)である。
ここで、一発と裏ドラに賭けてのリーチは打ち手の「欲」である。成功率は10%に満たない。勝ち組になるためには、この「欲」を捨てることが肝心。ドラがなく、親に反撃されたら寒気が走る。まだ勝負は始まったばかりだ。ツモの利かないこの場面で、火中の栗に手を出す必要は無い。ここで親満を打ったら、今日は苦戦を強いられるだろう。

ただし、この後一万の引き戻しがあった場合は話が別だ。

一万二万三万七万八万一索二索三索一筒二筒三筒北北

ツモが生き返ったのだから、リーチで勝負の価値がある。ヤミテンかリーチかは状況次第だが、リーチが得(高目で出て跳満。安めで出て満貫がある)。これなら50%の確率でアガリできるだろう。
このように麻雀は、入り目でツモの強弱を見る。そして打ち手は、応手に緩急つけることが大事なのだ。

 

 

③牌のあとさき

 

三万四万五万六万六索七索八索二筒二筒六筒七筒八筒中  ツモ中  ドラ二筒

この手は、東3局7巡目の西家の手だ。ドラが二筒ならリーチが普通の応手だ。
しかし、直前に親が中切り。

(親の河)
二索 上向き西八索 上向き二万 上向き四万 上向き八筒 上向き
中

それでもリーチか。いやいや、親は捨て牌から見てテンパイが速そうである。テンパイかも知れない。なのに、西家のテンパイは一手遅れの感がある。役牌が切られた後にその牌が重なる、これは悪いパターンの牌のあとさき。残りの中が、山に奥深く眠っていたら万事休すだ。アガリ率は10%である。しかし、失敗率はもっとある。

親に追いかけリーチを食らったら、ツモる度に不安がよぎる。他からドラの出なんか当てにはできない。親とのめくり勝負なら、負けは40%になるだろう。
したがって、ここは「手牌を折る」のが場合の応手だ。悪いテンパイを嫌うのだ。それが中切り。理想のツモがこれ。

三万四万五万六万六索七索八索二筒二筒六筒七筒八筒中  ツモ七万

三万四万五万六万六索七索八索二筒二筒六筒七筒八筒  ツモ二万

3面チャンなら即リーチがいい。これならアガリ率は50%を超える。
いや、いいテンパイ形は他にもある。ツモ四万でこう。

三万四万四万五万六万六索七索八索二筒二筒六筒七筒八筒

ツモが五万ならこうだ。

三万四万五万五万六万六索七索八索二筒二筒六筒七筒八筒

この2つは、状況次第でヤミテンも可能。それならアガリ率は50%。リーチなら33%か。三度に一度である。

ツモが八万ならこうだ。

三万四万五万六万八万六索七索八索二筒二筒六筒七筒八筒

しかし、リーチはない。二万四万五万のツモがあるから、あくまでヤミテンが正しい構えだ。

1枚目の打中の後、ピンズかソーズを1枚引けばこう。

三万四万五万六万六索七索八索二筒二筒四筒六筒七筒八筒

三万四万五万六万五索六索七索八索二筒二筒六筒七筒八筒

1シャンテンだが、受けが倍に広がり打点もOKである。牌のあとさきで不安を感じたら、手牌を折るのが有効である。

 

 

④流れるツモ

 

ツモは、常に一定ではない。ポンチーカンの鳴きによって流れ、飛んで変化する。
7巡目、北家が西家の打牌で小考した。そしてチーの声。北家は鳴いても鳴かなくても、よかった手に違いない。それがこの間で、これが迷いチーだ。この時、親の私の手はこうだった。

二万二万六万七万八万六索八索八索二筒三筒四筒六筒七筒  ドラ二筒

私は字牌のツモ切り。南家も七索のツモ切り。
次も不要牌で、私はツモ切る。すると南家も八筒をツモ切った。
『何するンだ、この野郎!』
いや、失礼!
声にこそ出さないが、誰だってそう思う気持ちは同じ。北家の鳴きがなければ、私の手は、リーチの一発ツモでこうだった。

二万二万六万七万八万六索七索八索二筒三筒四筒六筒七筒  ツモ八筒  ドラ二筒

私は北家の鳴きで、8,000点オールを逃したのである。
しかし、麻雀ではよくある出来事。私は次に出た八索にポンテンをかけ、2900点でアガって、この局を洗った。打ち手によっては夢をもう一度と、七索八筒のツモに期待する人もいるだろう。しかし、それでは夢を追う負け組だ。絶好のチャンス手を逃したら、次はないのだ。麻雀は、そんなに甘くはない。
ここは安くても、一度アガって親権確保だ。仕切り直して、次の手に期待する。
甘い考えは許さない。これが悪い流れの対応である。

逆に、相手の鳴きでいいツモに出会うときがある。

一万二万三万四万五万六万八万九万五索六索二筒二筒二筒  ドラ九万

上図の手は第3戦、東3局の9巡目の親の私の手だ。北家は、西家が切った七万を考えている。私は、このとき願った。
(どうか、チーでありますように…)

そしたら「ポン」だって。驚きました!
これまでの私の着順は③③だ。かろうじてラスは逃れていたが、ツキがイマイチで展開も悪かった。この手は、もうドラの九万を重ねない限りアガリ目無しだ。この時点でこの手のアガリ率は7%に満たない。心は折れかかっていた。
しかし、ツモ山に手を伸ばすと…それがなんと七万

一万二万三万四万五万六万七万八万九万二筒二筒五索六索  ドラ九万

ヤミテンで親満だが、私は自信を持ってリーチをかけた。北家にスルーされたら引けなかった七万なのである。しかも、純カラ。この一瞬のチャンスを逃してはいけない。このツモは、私のアガリ番なのだ。アガリ番なら、アガリはてっぺんまで高く狙うのが勝負の鉄則。私はこのツモで、80%の確率でアガリを確信した。
案の定だ、一発で七索を引いた。そして、これが裏ドラに乗った。

一万二万三万四万五万六万七万八万九万二筒二筒五索六索  ツモ七索  ドラ九万  裏七索

この8,000点オールから3連勝し、私はようやく面目を保てた。

ツモは生きている。鳴きで、あちこちに流れることもある。ポンポン合戦で、飛び跳ねるツモもある。しかし、大事なのはそのツモの強弱で、1局の未来を正確に「透視」することである。

以下次号。