十段戦 レポート

第31期十段戦ベスト16C卓レポート 山井 弘

今年度から、連盟チャンネルで十段戦ベスト16が配信されることになった。
プロリーグなど、普段の対局はもちろん面白いが、この十段戦はメンバーが高段者が多いこと。
そして、上位2名しか勝ち上がることができないトーナメントということ。

そのため、対局者同士の駆け引きや押し引きなど、卓上で交わされるその戦いは見ている者を引き付ける。
そんな戦いが、この十段戦ベスト16では繰り広げられる。

3卓目になるC卓のメンバーは、
「ミスター麻雀」小島武夫、「サーフィン打法」の古川孝次、「現A1リーガー」柴田弘幸、みんな大好きダンプ大橋。
以上の4名での戦いとなる。

ちなみにここまでの勝ち上がりは、
ベスト8A卓=一井慎也vs櫻井秀樹vsC卓1位vsD卓2位
ベスト8B卓=沢崎誠vs中尾多門vsC卓2位vsD卓1位
このようになっている。

100

1回戦
トーナメントの戦いで、1回戦はかなり重要なポイントだと思う。
どんな勝負でもそうだが、いかに先手を取れるか。先行できれば、その後の戦いに選択肢が増える。
特にこのトーナメントは、タイトル戦の決勝とは違って、2人勝ち上がりの分、圧倒的に先行しているほうが有利と言えよう。

その開局、北家・古川は得意の仕掛けを使って先手を取る。

一万三万七万七索九索七筒八筒東西西北北白  ドラ七索

ここから北をポン。古川らしい。
古川はよく仕掛けているイメージがあるが、実は何でもしかけるわけではない。
以前インタビューで、「高くなる要素のない仕掛けはしない」そのようなことを話していた。
仕掛けて行きながら、打点を作りに行く。

100

これを受けて小島は

五万五万七万八万二索三索四索四索七索七索四筒五筒五筒  ツモ三索

親番で早くも勝負手が入っていた。
手牌は難しくなったが、七万が場に2枚切れとあって、七対子も見て打七万
すぐに古川から二索が出るが、小島は微動だにしない。
さらに五万を入れて

五万五万五万二索三索三索四索四索七索七索四筒五筒五筒

こうなっても、次の古川の五索も動かない。
正に古川とは真逆の打ち手と言ってもいいだろう。

この時、私は解説をさせてもらっていたのだが、対戦前の展開予想として、小島と古川が2人一緒に勝ち上がることはないだろうと予想したのはこのことからだ。どちらが勝つにせよ、それは勝つほうの場の流れになっているだろうと、もし古川が勝てば仕掛けが多い場、小島が勝てばメンゼンで手役がぶつかる場だと思ったからだ。

結果、古川が

一万三万七索八索九索六筒七筒八筒西西  ポン北北北  ロン二万
このアガリで開局を制した。
ちなみに小島は、五索を鳴けば古川に入る六筒でツモアガリの道もあった。
しかしそれは小島のスタイルではなく、古川の場に引き込まれているようでもある。
なので、私はこの局はこれで、小島にとっては良かったのではないかと思った。

100

東3局2本場
ここで柴田に手が入る。

三索五索六索七索四筒五筒五筒北北発発中中  ドラ八索

北をポンして打五筒三索を残してホンイツへ渡ろうということだ。
狙い通り四索を引いてホンイツへ移行。

三索四索五索六索七索白発発中中  加カン北北北北

この仕掛けに対してぶつけたのは古川。

四万五万六万八万二索二索四索五索六索五筒六筒中  ツモ七万

何と、ここで字牌の中を残してドラの八索から切って行く。
そして次に安全牌を引き、中をリリース。
自分に不要なドラが当たり牌になる前に処理する、紙一重の芸術とも言える手順だ。

この中をポンしてテンパイは柴田。
柴田もまた、しっかりとホンイツまで見据えて手を作っている。
このような駆け引きが、実に見応えある。
しかし無情にも、またもドラの八索が古川の手にやってき、これは止まらず放銃となってしまった。

南1局、小島。

八万七索八索九索五筒六筒七筒発発中  暗カン牌の背三万 上向き三万 上向き牌の背  ドラ八万

ここで発が出ても動かない小島。六万を引いてリーチとなる。
私は何時も思うが、親の連荘率はこの発を鳴くより、メンゼンでリーチのほうが高まるのではないか。
発をポンしてしまうと、打点はわからない、テンパイかどうかも分からないと、他家からすると、分からないだらけのところに対しては、自分の手を中心に進めるしか方法はない。

しかし、親からリーチであれば、確実にテンパイしているということを示すことができる。
そう考えると、やはりこの発をポンするより、メンゼンのほうが連荘率は高まると思うのだが。

そしてここで困ったのが柴田。
ダンプがチーしてテンパイを取ったので、ハイテイが南家の柴田に回ってきた。
柴田の手牌は

一筒一筒二筒二筒三筒四筒四筒四筒五筒六筒六筒九筒七万  ツモ八万

こうで、ちなみにピンズは何も通っていない状況。
マンズは五万が切れているので八万が筋とはいえドラ。
七万は無筋。さあ柴田は何を切るのか!?

八万

放銃となったら致命傷となってしまう牌。しかし、現状、手の中にある牌の中で、一番通りそうな牌。
それでも、この八万を打つことはかなり勇気がいる。
ピンズは当てずっぽうになるし、七はワンチャンスとはいえ、無筋でドラの側。
だったら、致命傷になりかねないが、通る確率の高い牌となったのだろう。
柴田、渾身の一打で交わす。

100

一方小島は、この連荘からアガリが続く。
まずは2,600オール。そして、

二万三万四万八万八万二索三索四索二筒三筒五筒六筒七筒  リーチ  ツモ四筒

この三色のアガリを決めてダントツになった。
柴田はオーラス、

二万二万五万六万七万三索四索四筒五筒六筒六筒七筒八筒  リーチ  ツモ五索

このアガリで原点を超えて2着をキープする。

小島+36.4P  柴田+7.0P  ダンプ▲15.2P  古川▲28.2P

2回戦は、古川、ダンプの反撃。
最後は柴田が浮きに回るアガリで、小島は1人沈みのラスとなってしまった。

3回戦はオーラスまで接戦となり、
ダンプ+32,200
古川+31,700
小島29,100
柴田2,7000
点数状況はこのようになっていた。

現状、トップ目のダンプはトータルで▲9.2Pとなっており、ここはどうしてもトップで終わらせたいところ。

三万四万五万六万三索三索三索四索六索六索三筒五筒六筒七筒  ドラ中

ここから打三筒
広いのは四索切りだが、ダンプはリーチ棒を出したくないので、タンヤオをなるべく確定させたかったのであろう。すぐに三万を引きテンパイ。

100

しかし、その時小島はすでにテンパイを入れており、

五万五万七万七万八万八万九万九万三索五索七筒八筒九筒

このヤミテン。アガれば浮きに回る。ここに五索を引き入れると、今度は一転リーチと行った。
そして、テンパイしていたダンプが持ってきたのは五索。もしカン四索に受けていればアガリの牌。

しかし、あの時点でよっぽど感性が働かない限りカンチャンには受けられない。
トップを取れば少し楽になる。現状のポイントを考えれば仕方のない放銃かもしれない。
でも、まだ3回戦、ここは形上アガリ逃しになってしまった牌である五索を持ってきたので、勇気を振り絞って止める手はあったかもしれない。

3回戦終了時
小島+18.6P  柴田▲1.8P  古川▲3.2P  ダンプ▲13.6P

4回戦、こうなると小島が乗ってくる。

二索二索二筒二筒八筒八筒九筒九筒西西白中中  リーチ  ツモ白  ドラ七索

東1局の親でこの七対子をツモアガリ。
続けて、ドラ暗刻のリーチを打った古川から、

二万三万四万三索三索四索五索六索五筒五筒六筒六筒七筒  リーチ  ロン四筒

このアガリを決める。

五万六万七万三索四索五索五索七索一筒一筒一筒白白  ドラ六万

乗っている親なら、ここ最近はリーチが主流であろう。
しかし、小島は自分の麻雀を曲げない。
ここに三索を引きイーペーコーをつけてからリーチしてツモアガリとなった。

4回戦は小島が大きなトップを取り当確。
最後の椅子は3人での争いとなった。

小島+69.6P  柴田▲18.0P  ダンプ▲25.0P  古川▲26.6P

最終5回戦

東4局、柴田が自風の北をポン。
そこにダンプが追いつきリーチ。

一万二万五万六万七万三索三索四索四索四索三筒四筒五筒  リーチ  ドラ九万

手は勝負というほどでもないが、局面は勝負の局面を迎えていた。
連荘中の古川も仕掛けており、柴田も攻めてきている。
自身の手がどうこうというよりも、相手の手を潰すことに価値がある局面。
しかし、これを制したのは柴田。

八万八万三索四索六索七索八索  チー七万 左向き八万 上向き九万 上向き  ポン北北北  ロン五索

柴田にとってもここは勝負局となった。
さらに南2局、

三万四万一索二索二索三索三索四筒六筒八筒八筒南南  ツモ五筒  ドラ白

柴田はここから打四万。すぐに六筒,八筒を引き入れトータルトップなのでヤミテンを選択。
これは、すぐにオリられるようにしておくためでもある。

ダンプは、最後の親で果敢にしかけてテンパイを取りに行き、ドラの白を切ると、これを古川がポン。
古川は、

二万三万三索四索五索六索七索三筒五筒六筒七筒白白  ツモ三筒

前巡、ここから三筒をツモ切ったので、雀頭のなくなった形になったが、そんなことはお構いなしに仕掛ける。

これを受けて、真っ直ぐ行くしかないダンプ。

しかし、柴田の押し引きは難しい。このような局面になったときのためのヤミテンだ。
古川の河に無筋の六万を引いて柴田は長考に沈む。また、その古川の河には自身のアガリ牌である一索が置いてあるのも行きたくなる理由の1つだ。柴田にとって、最後の正念場となった。

六万をツモ切り。そして次の四筒はノータイムでツモ切った。腹を括ったようだ。

一索二索二索三索三索四筒五筒六筒六筒七筒八筒南南  ロン一索

粘った甲斐があった。

柴田は今回、かなり苦しい戦いを強いられていたと思う。
その中、持ち味であるその守備力を発揮し、見事ベスト8へと駒を進めることができた。

古川は、その自在の攻めで相手を翻弄しながら攻めるタイプだが、今回はその仕掛けが上手く噛み合わず、反対に小島先生にしっかりとメンゼンで押し切られてしまった。
動の古川に対して、静の小島に今回は軍配があがった。

対戦を終えた翌日、「ダンプは完全に体力負けでしたね」とコメントをくれたのは現十段位の瀬戸熊。
長丁場となる5回戦のトーナメントで、78歳になる小島先生に体力負けするとは、ダンプの鍛え方が足りないということであろう。

勝ち上がり 小島武夫 柴田弘幸

このレポートがアップされるころには、ベスト8A卓の結果が出ていることだろう。
十段戦決勝の舞台へと進むの誰だ!?