十段戦 レポート

第33期十段戦 ベスト16D卓レポート 小車 祥

ダンプ大橋……昨年度決勝進出により、ベスト16シード。
木村東平……八九段戦からの出場。
藤本哲也……五段戦からの出場。
藤井すみれ……四段戦からの出場。

昨年度決勝メンバーはダンプ以外全員ベスト8への勝ち上がりを決めている。
ダンプは自分だけ16で敗退するわけにはいかないというプレッシャーも少しあるか。
木村は守備に定評がある打ち手だが、九段戦Sでは攻撃的な部分もかなり見せていたそうだ。
藤本はB1リーガー。安定した戦いを見せてくれそう。
紅一点藤井、かなり緊張している様子が対局開始前から見て取れた。
全体的に守備力が高いメンバーが揃ったことで、より深みのある対局が期待できる。
他人事ながら、私は始まる前からワクワクしていた。

 

100

 

1回戦(起家から、ダンプ・藤井・藤本・木村)

東2局、5巡目に親の藤井が先制リーチ。

五万五万五万六万一索二索三索一筒二筒三筒中中中  リーチ  ドラ一筒

入り目は二索で、気持ちよくリーチを打ったことだろう。
まずは最低でも7,700点のアガリで自分のリードから始めることができると、藤井も考えていたに違いない。
藤井の手にドラが1枚しかないことも大きい。ドラが分散すれば前に出る人数も増えやすい。
一人旅にならずに誰かとめくり合いになったとしても十分勝機がありそうな待ちだ。
そして一人旅になったとしても、1枚くらいは自分のツモ筋にいてくれても良さそうな待ちでもある。
つまりはどうなってもアガリになりそうな局面だったが、なんとここは流局となってしまう。

あまりにも早い親のリーチに誰も戦える手格好になっておらず、ましてや守備に定評があるメンバーならばなおさら前には出てこない。
ならばツモってしまえというところだが、リーチをかけた時点では十分な枚数が山に残っていた藤井の待ちも他家のツモ筋にしか置かれていなかった。
藤井、この手がアガれないとなると今日の対局の行く末にも、気分的には暗雲が立ち込める。

東4局、9巡目にダンプがテンパイ。

四万五万六万六万七万一索二索三索九索九索二筒三筒四筒  ドラ九索

ダンプはヤミテンを選択する。
誰からも特に仕掛けやリーチが入っているわけではなく、確かにダンプからは七万が3枚見えていてヤミテンの方がアガれそうな状況だった。
さらにはここまでの数局を見ただけで、リーチを打つとロンアガリ率がグッと下がってしまうメンバーだということは把握できる。
とはいえ、ここでヤミテンを選択できるのはかなりの強みだと思う。
まだ誰かが抜け出ている状況ではなく、満貫クラスのアガリでリードしたいと思うのは当然の思考。
そんな中ヤミテンを選択するダンプは非常にクールでスマートだ。
12巡目、藤本がテンパイ。

二万三万三万五万一索一索二索四索四索六索六索発発  ツモ二索

ここからダンプのアガリ牌である五万を切る。
ダンプ、3,900のアガリ。ダンプがリーチをしていれば藤本はおそらくこの七対子テンパイには至らなかっただろう。

南2局、藤本の反撃。

二万三万四万七万七万七万九索九索九索七筒八筒北北  リーチ  ドラ四万

リーチ後に七万を暗カン。九筒をツモって1,600・3,200のアガリ。

南3局、さらに親の藤本が先制リーチ。

七万八万九万一索二索三索二筒三筒四筒五筒六筒七筒八筒  リーチ  ドラ二索

このリーチに対して木村が受けながらもテンパイする。

一万三万三万三万四万五万七万七万二索三索四索発発  ツモ二万

三万を切ればテンパイだが、木村はじっくり河を見つめテンパイ外しの一万を切る。
次巡ツモ六万二万を切り再度テンパイ。今度はテンパイを取りヤミテン。
さらに次巡に発をツモり、1,300・2,600のアガリ。
三万は藤本に通る牌なので先にテンパイを取っていても結果は同じだが、リスク管理能力の高さからしっかりと立ち回り、最終的にアガリまで持っていく。
木村の打ち回しはさすがとしか言い様がなかった。

1回戦成績
木村+14.3P ダンプ+7.4P 藤本▲8.8P 藤井▲12.9P

 

2回戦(起家から、ダンプ・藤井・木村・藤本)

東1局2本場、ダンプはテンパイ2回で繋いだ親番にチャンス手が入る。

二索二索二索四索五索六索六索北北発中中中  ドラ西

この1シャンテンが5巡目。すぐに藤井から切られた北をポンして7,700のテンパイを取るかと思ったが、ここはスルーして大きく構える。
8巡目、藤本が動く。

二万二万四万三索三索三索七索八筒八筒九筒九筒発発

七対子の1シャンテンだったが、ここから発を仕掛けてトイトイに向かう。
二万もすぐに鳴けて、八筒九筒のシャンポン待ちでテンパイする。
ダンプ、手牌は変わらないまま4枚目の中をツモって暗カン。リンシャン牌は藤本への放銃となる八筒だった。
結果的には、ダンプがポンして7,700のテンパイを取らなかったことが裏目となってしまった。
藤本はトイトイに切り替えた選択が好判断となり、5,200は5,800のアガリ。

東2局、ダンプのアガリ。

四万五万九万九万四索五索六索四筒五筒六筒七筒八筒九筒  リーチ  ツモ六万  ドラ三索

2,000・4,000

東4局、ダンプのアガリ。

二万三万四万六万七万八万三索三索五索六索七索七索八索  リーチ  ツモ六索  ドラ二万

2,000・4,000ダンプは手応えのあるアガリをバンバン決めていく。
南場を迎えて40,000点オーバーのトップ目に立つ。

南2局、10巡目に木村が仕掛けてテンパイ。

四万五万六万二索二索四索五索七筒八筒九筒  ポン南南南  ドラ二索

すぐにダンプから六索が出て7,700のアガリ。
藤井は2回戦の親番がなくなり、1人沈みのラス目とかなり苦しい展開が続く。

南3局1本場、親の木村が早い巡目からアグレッシブに仕掛ける。

二万八万八万七索八索一筒二筒  ポン南南南  ポン東東東  ドラ二筒

これに対し藤本も仕掛け返していく。

三万四万六万七万七万三索三索  ポン七筒 上向き七筒 上向き七筒 上向き  ポン発発発

かなりリスキーな仕掛けには見えるが、かわすことに価値が高いと見たか。
次に藤井の手牌。

三万四万四万五万五索五索五索六索二筒三筒四筒五筒北  ツモ三筒

北は1枚も河に切られていない。下家で親の木村の河はソウズとピンズしか切られておらず四万はかなり危ない。
しかし自身も勝負したい手。何を切るか非常に悩ましいところ。
藤井の選択は北。鳴かれそうな四万を残し、マンズツモに対応する。
次に藤井は五万をツモ。

三万四万四万五万五索五索五索六索二筒三筒三筒四筒五筒  ツモ五万

六索を切って目一杯に構えるが、この六索を木村がチー。

八万八万一筒二筒  チー六索 左向き七索 上向き八索 上向き  ポン南南南  ポン東東東

二万をギリギリまで切らずにホンイツに見せた木村の技が活きる。

藤井は二万三万四万五万六万一筒三筒四筒六筒をツモってテンパイすれば、木村のロン牌である三筒が出ていくことはなかった。
しかし無情にも藤井のツモは五筒。当然三筒を切ってリーチを打ち、木村へ放銃。5,800は6,100。
どこまでも展開が藤井を苦しめていた。

2回戦成績
木村+22.5P ダンプ+5.1P 藤本▲7.5P 藤井▲20.1P

2回戦終了時
木村+36.8P ダンプ+12.5P 藤本▲16.3P 藤井▲33.0P

 

3回戦(起家から、藤井・ダンプ・木村・藤本)

東2局、藤井が先制リーチ。

四万五万七万八万九万五索五索七索八索九索七筒八筒九筒  リーチ  ドラ東

この手をアガって浮上のきっかけを作りたい藤井。
木村も仕掛けてテンパイをしている。

一筒二筒三筒五筒五筒七筒八筒九筒発発  ポン南南南

木村はリーチに対して危険牌を押していく。
軍配は木村に上がる。藤井が五筒を掴んで放銃。3,900。

南1局、藤井3回戦目の最後の親番。
ダンプが仕掛けてテンパイを入れる。

九索九索九索五筒六筒七筒九筒九筒発発  ポン九万 上向き九万 上向き九万 上向き  ドラ九筒

捨て牌は下段に入ったところ、藤井はなんとかポンして形式テンパイを取る。

四万五万六万二索三索五索五索七筒八筒九筒  ポン北北北

できることは全力でやっていく姿勢。しかしここも展開は藤井に味方してくれない。
ダンプが発をツモ。1,600・3,200のアガリ。

南4局、トップ目のダンプが仕掛けてテンパイ。

三索四索七索八索九索東東東南南  ポン四索 上向き四索 上向き四索 上向き  ドラ九索

木村も仕掛け返してテンパイ。

一筒二筒三筒四筒四筒四筒五筒六筒七筒八筒  ポン中中中

そして親の藤本もテンパイしてリーチを打つ。

五万六万七万一索二索三索三筒三筒四筒五筒六筒七筒八筒  リーチ

ここも競り勝ったのは木村。八筒をツモって1,300・2,600のアガリ。
これで木村は3回戦もトップで3連勝となる。

3回戦成績
木村+17.6P ダンプ+11.2P 藤井▲12.3P 藤本▲16.5P

3回戦終了時
木村+54.4P ダンプ+23.7P 藤本▲32.8P 藤井▲45.3P

 

4回戦(起家から、藤井・ダンプ・藤本・木村)

東場はダンプがリードし、南場を迎える。
藤本と藤井は親番が残っている。親番は全て連荘するつもりで戦わなければならないような点数状況。
南1局の藤井の親番はなんとか粘り、3本場まできていた。そこへ藤本が仕掛ける。

二筒二筒東東西中中  ポン一筒 上向き一筒 上向き一筒 上向き  チー七筒 上向き八筒 上向き九筒 上向き  ドラ八万

ダンプも続いて仕掛けを入れ、プレッシャーをかけていく。

三万四万五万八万九万四筒四筒発発中  ポン北北北

そして木村までもがチー。

四万五万六万九万九万六索七索九索七筒八筒  チー八万 左向き六万 上向き七万 上向き

そしてその瞬間の藤井の手牌がこちら。

六万八万一索二索三索四索四索四索二筒三筒四筒六筒七筒  ツモ発

発は場に1枚も切れていない生牌。実際はまだ誰もテンパイしていないのだが、そう簡単に切れる牌ではなかった。
藤井は発を抱え、打一索とする。七万をツモったら勝負するという構え。
次巡のツモが六万でテンパイ逃しの形にはなったが、発を切っているとダンプが仕掛けてテンパイを取る可能性があるので、この六万はツモっていない可能性もある。この六万はツモ切りとする。
次の藤井のツモがこれまた生牌の東。じっくり考え、ツモ切りを選択。
「もうやめてしまおうか」「いや、親番は落とせない」そんな二つの気持ちに少し揺れているようにも見えた。
藤井の切った東を藤本が仕掛けてテンパイ。

二筒二筒中中  ポン東東東  ポン一筒 上向き一筒 上向き一筒 上向き  チー七筒 上向き八筒 上向き九筒 上向き

木村から二筒が切られ、2,600は3,500のアガリとなった。
ここで少し個人的見解を書くことをご了承頂きたい。
藤井が1シャンテンで発を持ってきた場面、普段の藤井の麻雀が垣間見えた気がする。
丁寧な打ち回しに定評がある藤井は、こんな暴牌を切ったことがないのだ。それはそうだ。こんなもの普通は切らない。
自分の置かれた点数状況や試合終了までの局数に応じて、誰しも自分のベースとなる戦い方から現状に応じた戦い方へとシフトしていく。
しかしだからこそ、誰しも自分の戦い方と180度真逆になるような戦い方はできない。
あくまで自分の型から幾分かずらして戦う程度だ。藤井がここで発を切るべきだったどうかはわからない。だが次に持ってきた東をツモ切るのならば、その前に発を切って目一杯の1シャンテンに構えた方が「やれることを最大限にやり遂げた」ように思えた。

あくまで私の個人的見解なので、間違っているのかもしれない。
だがこのレポートを読んで頂いた方に何かを伝えたくて、リスクを承知であえて書いてみた。
ご理解頂けると幸いである。

4回戦はダンプが勝負所でチャンス手を決め、5万点弱のトップを取る。
ターゲットが遠のいてしまい、藤井と藤本は本当に厳しい最終戦となってしまう。

4回戦成績
ダンプ+31.1P 藤井▲2.4P 木村▲10.1P 藤本▲19.6P

4回戦終了時
ダンプ+54.8P 木村+44.3P 藤井▲47.7P 藤本▲52.4P

 

5回戦(起家から、ダンプ・藤井・木村・藤本)

藤井の南場の親番は連荘できず。
南4局、藤本の最後の親番もテンパイできず流局となった。

5回戦成績
木村+11.1P ダンプ+5.1P 藤井▲4.5P 藤本▲11.7P

5回戦終了時
ダンプ+59.9P 木村+55.4P 藤井▲52.2P 藤本▲64.1P

 

ベスト8勝ち上がり
ダンプ大橋 木村東平

 

ダンプと木村がベスト8進出。
数字だけ見ると勝者と敗者がはっきり分かれてしまったように見えるが、内容ではかなり肉薄していたように思う。
これで昨年度の決勝メンバーは全員ベスト8への勝ち上がりを決めたということになり、ダンプ自身もほっとした表情を見せた。
ベテランの木村、決勝まで駒を進めるかどうかにも注目が集まるところだ。

これでベスト8のメンバーが決定。

ベスト8A卓:藤崎智vs櫻井秀樹vs野方祐介vs木村東平
ベスト8B卓:瀬戸熊直樹vs伊藤優孝vs上田直樹vsダンプ大橋

誰が決勝で待つ現十段位柴田のもとへ駒を進めるのか。
ベスト8も目が離せない戦いとなるだろう。