JPML WRCリーグ 決勝観戦記

JPML WRCリーグ 決勝観戦記/第2期JPML WRCリーグ 決勝観戦記 瀬戸熊 直樹

第2期WRC決勝も大詰めの場面。
皆さんには藤島健二郎の立場にたって考えてみて頂きたい。
最終戦、南入して下写真のスコア状況である。
ここまでのトータルを着順込みで計算してみると
藤島+49.7p 近藤+5.6p 中川▲11.5p 井出▲45.8p
(順位ウマ、トップ+10 2着+5 三着▲5 ラス▲10 30,000点持ち、30,000点返し)
藤島の目から見れば、そんなに悪くない、いやむしろやりやすい並びで南入となっていた。
追う近藤、中川、井出に残された親は1回ずつ。
まずは、中川の親番、最終戦とはいえ、この場面はまだ3人がアガりに向かってくる為、
時間的余裕もなく、本当に厳しい親番となっていた。
運よく早いリーチをかけて、相手を牽制することが出来た。
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藤島も蹴りに行きたいが、ドラの発をつかみノーテンということもありいったん廻る。
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そして、結果から見て、一番のターニングポイントとなる局面の六万をツモり今度はテンパイ。
皆さん、目をつむって藤島の立場となって考えて頂きたい。
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中川との差は40ポイント以上、近藤とは約35ポイント。
数字上は勝負を先延ばしにするのが普通に見える。(二索五索は5枚切れ)
実際、僕も解説で「アカギじゃないと切れない」と例えるくらいの場面。
この発を切れる人がいるのだろうか?
ちょっと条件を変えてみよう。もしも藤島が中川との着順勝負だったらどうだろうか?
以外にも条件を変えるだけで、切ると答える人がかなり増えたのではないだろうか?
実際、その条件でなら僕でも切ると思います。
数日たって藤島にこの時の心境を聞いてみた。
(藤島)「勝つ道があったのは確かだと思っているので、とても悔しいですし、まだうまく割り切れていない状態です。
最終戦、東場に局を潰すという手法をとっていたので、ドラの発打ちは未だにアリだったと感じています。
東場の立ち回りがそこまで悪い結果になっていなかったことで流れの変動にまるで気付いていませんでした。
今となっては、あの場面だけが最後に残されたチャンスであったので敗因の一つと捉えています。
もちろん東場の入りがそれに起因していると感じています。
早い巡目の作為性のないリーチだったのと、近藤さんに気配があったのでドラを持っているなら近藤さん。つまり発はリーチには多分通るとは思っていました。
ただ、二番手に浮上している近藤さんに、ポンされるのを嫌った部分も多少ありますが、通しやすい牌を押せなかったということは事実です」
冷静な分析だと思う。藤島も自覚しているように、東場は少しあせった鳴きで、バランスを崩していたように思う。
しかし、幸いだったのは、それでツイたのが近藤だったという事。
そして分析通り、ドラ発は近藤が2枚持ち。
5枚切れといっても二索五索マチは絶好のマチである。
そこまで読んでいる藤島の力量を考えると、決して怖い牌ではなかったという事になる。
ドラだから、万が一当たり牌なら数字上ひどい事になる。
こういう考えをしてない藤島の実力なら切れたのではと悔やまれる。
参考までにいえば、結果は発を切って近藤が鳴けば藤島のツモアガリ。
鳴かなければ中川の放銃だった。
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藤島は17期生である。
近藤も17期生であるが、他にも前田、柴田、勝又、猿川、山田など「花の17期生」と呼ばれている中の一人である。
藤島は同期の活躍をどんな気持ちで見ていたのだろうか。
17期生は、麻雀スキルが全員高いと思うし、藤島だって引けを取らないくらい、麻雀をよく理解している打ち手である。
特に体勢を考え、攻守のバランスをとる手法は、連盟イズムを正統継承していると思える数少ない打ち手である。
同期がAリーグ、団体戦、RTD、モンド、その他メディアで活躍するのを
「きっと、いつか俺だって」と思っているはずである。
だからこそ、このチャンスを逃せない、逃したくない気持ちは4人の中で一番強かったに違いない。
そんな藤島ならこの発は切れたのかもしれないと、僕も今は考えてしまう。
数字や確率じゃない、勝負として大事なものをつかむ為に。
しかし、藤島は無難な道を選ぶ。むしろそれは当然の事のように見えた。
中川1人テンパイ。得点差は、まだ藤島が圧倒的に有利だ。
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しかし、ここから勝負の恐ろしさを目にするとは、選手も視聴者も誰も思っていなかっただろう。
続く1本場、井出のリーチをかいくぐり、中川が1,300オールを引きアガる。
ついに、河は決壊したのである。
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2本場、手なりで4,000は4,200オール。
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まだ藤島が上だ。しかし、「流れ」は完全に中川。
同3本場、ピンフドラ2を5巡目リーチ。もう誰も追いつけない。
あっさり一万をツモり、ウラものって6,000は6,300オール。
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20分前は、藤島圧勝ムードだったのが、スコアは中川が逆に20,000点以上引き離した縦長の展開で、実質藤島は20,000点アガリ返さなければならない。
近藤が中川を再逆転すれば、10,000点のアガりが必要。
次局の中川に、決定打が飛び出す。
上家、藤島から切られた2枚の三索を見えていないかのようにスルーして、七筒をツモりテンパイ。同巡、近藤から三索が出て、12,000は13,500のアガり。
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そして、麻雀がいわゆる「仕上がる」状態になった次局の配牌。
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勝負ありとなってしまった。
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中川は、Eリーグスタートの3年目の選手。
昨年、新人王戦の決勝にのっているとはいえ、相手3人は完全に格上である。
その中川の、この親番での追い上げは、まるで20年目選手のように堂々としたものであった。中川をベスト16あたりから見ていたが、インタビューでいつも反省の局を認識し、
家に帰り、すぐVTRチェックしている姿が非常に印象的であった。
優勝して後日、印象に残った局を尋ねると、
「2回戦の三色逃して、追っかけリーチすら打てずアガり逃しをした局と、3回戦に中途半端な打牌で、藤島さんに9,600を打った局面です」と、敗者のようなコメントが返ってきた。
普段の稽古量はと尋ねると、「調整セット週1、2回で見るのが優先です」とのこと。
何とも謙虚な返答で、あの親番での輝きや強さの源が見えてこない。
コメントだけもらうつもりが、中川の秘密を知りたくなり、ラインのキャッチボールが続く。
熊:「真似している人や参考にしている人はいる?」
中:「いっぱいいますが、特に荒さんです」
打ち上げでもつかめなかったが、どうも要領を得ない。
しかし、成長する人間に一番必要だと思う「素直さ」と「研究熱心」この2つを、彼に強く感じたのは確かだ。
麻雀プロで一番質が悪いのは、「教えて下さい」と言いながら、頑固で直せない人だと思う。
中川は、そう言う人たちと一番対極にいると思う。
何でも鵜呑みにするのではなく、しっかり自分で考え、直すべき所を直すことができるのが最大の長所だと思う。
これからも見続けていきたいと思える、将来有望な選手の一人である。
もう2人の敗れた近藤と井出。
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まずは近藤、
「決勝戦なのに、リスクを負わずに勝とうと思った自分の甘さ、先行されてバランスを崩してしまった事。反省ばかりでした。自分の弱さが浮き彫りになった様で悔しいけど勉強になりました。
逆にアガリに向かって、純粋に真っすぐ突き進む中川さんの麻雀が素晴らしかったと思います。タイトルを奪取するには、今現在の私の麻雀では難しいと思いました。
今回の反省点をキッチリ修正して、次回のチャンスに向けて準備だけはして行きます」
と、コメントを残してくれた。近藤らしい、優しく実に冷静な分析である。
彼らしくない放銃が2つくらいあって、波に乗れず、置いて行かれた展開となってしまったとはいえ、押しも押されぬA1リーガーである。近い将来タイトルを手中に収めることは間違いないだろう。
ただ、中川の純粋な攻めは、近藤をはじめ、多くのベテラン雀士が忘れかけていた大切なことを、思い出させてくれたように思う。
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そして、過去王位を獲っている井出。
3回戦終了時は、中川、藤島と並びであり、この時点では獲得経験もある井出が一歩リードと思われていた。
そんな井出はこうコメントしてくれた。
「今回の決勝は、覚悟が最後まで持続できた人が勝ったのだと思います。
自分の覚悟は、展開の読みに消えて行きました。
また、心を磨く修行を一から始めます。中川くん、おめでとう」
王位を獲りリーグ戦を降級していった井出も数々の苦労をしてきたと思う。
そして、久々のチャンスに燃えていたであろう。
そして、G1タイトルを獲った井出だからこそ、タイトルを獲得する為に最も大事なものを知っているからの感想。
最後に中川の素晴らしい一打を皆さんに紹介したい。
南2局、大連荘が終わり、追われる立場となった中川が藤島のリーチを受けた場面。
中川はドラの二万を切った。
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藤島のマチはペン三万の一通リーチだった。
冒頭の場面の逆の立場で中川はドラを打ち抜いた。
この一打を、打つ打たない、打てる打てないは、理論ではない。
この日の中川は、誰よりも麻雀と向き合っていたのだと思う。
本当に素晴らしい戦いだったと思います。
初タイトルの時は、後から後から嬉しさが込み上げてくるものです。
VTRを観て、回りから祝福されて、色々なシードをもらって、そして観戦記を擦り切れるまで読んで・・・・僕も経験があるから解かります。
だからこの観戦記で、中川が微笑んでくれれば幸いです。
そして健二郎が、悔しさを胸に刻んでくれれば。
中川君優勝おめでとう。連盟タイトルにふさわしい素晴らしい麻雀でした。

日本プロ麻雀連盟  瀬戸熊直樹

 

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