グランプリ 決勝観戦記

グランプリ 決勝観戦記/第5期グランプリMAX初日観戦記 前田 直哉

春が訪れようとするこの時期、日本プロ麻雀連盟の今年度、最後の戦いが開催された。
今期獲得したポイントの上位者に、シード選手を加えたトーナメント方式によって勝ち上がった4名による決勝戦である。
決勝に残ったのは、荒正義、藤崎智、瀬戸熊直樹、吾妻さおりの4名。
荒にとっては、人生で何度目の決勝であろうか?きっと本人ですら把握出来ていないだろう。
知っての通り、誰しもが認める強さと上手さを持ち合わせている。
藤崎は前鳳凰位であるため、リーグ戦を戦っていないにも関わらず、十段戦、鳳凰戦に続く今期3度目の決勝戦進出である。
本当に力があるからこそ、なせる業ではないだろうか。
そして、その藤崎と全く同じく、今期3度目の決勝に上がってきたのが瀬戸熊である。
リーグ戦中盤から、少し調子を落としているように見えたが、ここにきて復調の兆しをみせこの舞台までやってきた!
最後の椅子には、唯一女流の中で勝ち上がった吾妻。
女流桜花を見事連覇し、その持前の打点力と信念の強さでこの舞台まで辿り着いた。
その高打点が実れば、この強豪3人相手でもチャンスは十二分にあるだろう。
対局前それぞれの表情を見る。
荒はいつも通りで、あたかもリーグ戦を戦うかのような余裕すら感じる。
一方藤崎は、鳳凰戦の時のような緊張は見られず、終始和やかに談笑している。内心はどうであろう?
瀬戸熊は決勝となると1人の時間を作り、集中力を研ぎ澄まし対局に合わせていくという印象がある。
しかし、この日は談笑に加わり時折笑顔を見せる。すでに気持ちは作ってきているのであろうか?
吾妻も携帯を見ながら至って平静に見える。
この舞台でこの相手との決勝は、もちろん緊張はするであろうが、対局時と同様なかなかつかみどころが無い。
これは後日聞いたことであるが、対局者にそれぞれこの日の為に何か特別なことをしたのか聞いてみた。
荒「特に何もしてないよ。」そうでしょうね!
藤崎「別に何もしてないよ」仮にしてても隠しそうだ・・・小さい(笑)
瀬戸熊「調子が良くなっているから逆に何もしなかったよ」復調が遅くて良かったあ!私も小さい(笑)
吾妻「麻雀格闘倶楽部の競技ルールを決勝の回数と同じ5回やりました」意気込みを感じた。
そして藤原審判長の合図で2日間の戦いの火ぶたがまくをあけた!
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1回戦(起家から藤崎・荒・吾妻・瀬戸熊)
東1局
荒の配牌がいい。配牌で3メンツ出来ている。
しかし親の藤崎から九万のポンが入り打四万。藤崎の麻雀を知っているものには安く見えない。
ホンイツが入っているか、役牌暗刻の最低ドラドラくらいだと想像するだろう。
こうなると荒も受け気味にならざるを得ない。
しかし七筒をチーした後で、藤崎からドラ六索がツモ切りされそれを吾妻がポン。
これで藤崎の手はあっても役牌ドラ1くらいだと想像がつく。
吾妻もテンパイまでは行くが、テンパイ打牌の五索で藤崎が2,000点をアガる。
五万五万三索四索発発発  チー七筒 左向き五筒 上向き六筒 上向き  ポン九万 上向き九万 上向き九万 上向き  ドラ六索
開局は藤崎のアガリではじまった。
続く1本場も荒の配牌がいい。5巡目にはテンパイを入れるが形が悪い…
途中、ドラの三筒二筒がくっつきテンパイを外すも、すぐにドラが入りフリテンの二万五万八万になる。
イーペーコーまでつき、ツモれば跳満だが終盤にダブ東を鳴いている親の藤崎の危険牌を掴みオリを選択。
結果、藤崎の1人テンパイ。荒はこの半荘苦戦するだろうと感じた。
そして続く2本場は、吾妻がリーチツモピンフドラドラをアガる。
マチは一万四万でリーチした時点では山に1枚だけだったが最後の1枚を引きアガる。
東2局は、荒がダブ東ドラドラをテンパイするも瀬戸熊に3,900を放銃。
東3局も瀬戸熊のリーチに対し、ドラドラでテンパイした荒が高めで7,700の放銃。
東4局親の瀬戸熊から再びリーチ!そして最後のツモで4,000オールを引きアガる。クマクマタイム突入か?
二万三万四万四万五万五万六万六万二索二索三索四索五索  リーチ  ツモ一万  ドラ二万
続く1本場も瀬戸熊が2,000は2,100オールをアガリいよいよ来たかと思った。
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そして2本場、ここまで状態の悪い荒からリーチが入る。マチは一索四索
ここまでの大勢の差から瀬戸熊がオリるはずはない。14巡目にやっとテンパイを入れるも形は以下の通り。
二万三万四万二索三索四索六索七索八索一筒二筒二筒三筒  ドラ二筒
もちろんテンパイは取るが、瀬戸熊の選択はリーチ!!
私は観戦記者として同じ場所でメモを取っていたが、まさかのリーチにあまりにも驚いた。
ある程度、瀬戸熊の麻雀は見てきているつもりである。しかしここでのリーチの選択は予想だにしていなかった。
危うく吹き出しそうになる。牛乳を飲んでいる途中じゃなくて良かった。
確かに大勢の差は見ていてもわかるほどだったが、さすがにやりすぎな感じがした。
結果、一索を掴んで荒に2,600の放銃となったが、ヤミテンとして一索を持ってきた時、瀬戸熊ならどう受けたかを見てみたかった。
それでも瀬戸熊の優位は変わらず1回戦は瀬戸熊の1人浮きで終わる。
1回戦成績
瀬戸熊直樹+34.4P  藤崎智▲5.4P  吾妻さおり▲9.0P  荒正義▲20.0P
 
2回戦(起家から吾妻・荒・瀬戸熊・藤崎)
東1局、初戦ラススタートの荒が、ホンイツトイトイ三暗刻中の3,000・6,000でスタートする。
親っかぶりをした吾妻が、荒から1,000点。次局、瀬戸熊から5,200をアガリ原点まで得点を戻す。
東4局、荒が6巡目でメンホンイーペーコー西をアガリ、早くも持ち点を49,000点まで伸ばし1戦目の負債を返す。
南1局、親の吾妻からツモればタンヤオ三暗刻のリーチが入るも流局。
続く1本場、親の吾妻の手が落ちない!配牌からドラが暗刻。
一万三万五万六万六万二筒三筒三筒三筒六筒六筒八筒九筒中  ドラ三筒
そして9巡目に、吾妻がタンヤオドラ3のテンパイをいれ、そのテンパイ打牌の八筒を荒が仕掛ける。
三万四万二索三索四索東東発発中中  チー八筒 左向き六筒 上向き七筒 上向き
ここから打東とする。ちなみにすでに発は2枚切れておりいわゆる中バックだ。
オリる牌には事足りないが、ここからなかなか仕掛けられるものではない。
この後、五万もチーしてテンパイ。
吾妻もカンチャンマチから一旦シャンポンになるが、10巡目に四索を入れ、待ちは三索六索となる。
結果は、ドラ1の1シャンテンまで来ていた瀬戸熊から中が出て1,000点のアガリ。
点数こそ少ないが見事な状況判断である。こうなるとなかなか荒の点棒は減らないであろう。
結局、オーラスも藤崎から2,000点をアガッてこの半荘を制する。
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2回戦成績
荒正義+26.6P 吾妻+5.1P 瀬戸熊▲10.2P 藤崎▲21.5P
2回戦終了時
瀬戸熊直樹+24.2P 荒正義+6.6P 吾妻さおり▲3.9P 藤崎智▲26.9P
 
3回戦(起家から瀬戸熊・荒・吾妻・藤崎)
瀬戸熊が3,900、2人テンパイで迎えた東1局2本場、10巡目にはこの形になる。
一万三万三万三万一索一索一索六索六索六索九筒九筒東  ドラ一万
ツモってくる瀬戸熊の力の入りようが半端ない!
これを察知して、荒がすぐさま仕掛けを入れタンヤオだけで局を流す。
局面を見ることに関して荒は超一流である。
東2局、吾妻がホンイツトイトイ三暗刻東發の倍満をテンパイするも流局。
吾妻にはこういう弩級の手を入れる力と、作り上げていく力を私は以前から感じている。
続く東3局では、吾妻がメンタンピンツモの2,600は2,700オールをツモリ、2本場では500は700オールをツモリ一歩抜け出す。
しばらく小場が続き迎えた南1局1本場、ここまでずっとおとなしかった藤崎がこの形から仕掛ける。
四万六万七索七索七索三筒七筒七筒白中中  ポン一筒 上向き一筒 上向き一筒 上向き  ドラ北
2枚目の一筒とはいえ、ここから仕掛ける藤崎は珍しい。
よほど自分の大勢が悪いと感じているのだろう。
ドラが自分の風牌ということもあり牽制の意味もあったのであろう。
しかし、6巡目に親の瀬戸熊の手が十分形になりドラの北を打ち出してくる。
その後藤崎も白を重ねてようやく形にはなってきた。
だが、明らかに字牌の絡んだ仕掛けに見え、藤崎のアガリはかなり厳しいであろうと思っていた。
しかし8巡目、1メンツもない荒から白が打ち出される。
藤崎の仕掛けに対し、ドラまで打ち出してきた瀬戸熊を警戒しての打牌である!
ここで瀬戸熊に走られたらマズイ!そう感じてだろうが、わかっていてもなかなか打てるものではない。
通る保障はどこにも無いし、瀬戸熊に鳴かせてしまう恐れもある。
しかし今までの経験と感覚で白を切ったほうがいいと判断しあのであろう。
これによりテンパイが入った藤崎のマチは山に3枚。
しかし、ついに親の瀬戸熊も追いつきリーチ!形は十分である。
五万六万七万二索三索四索四索五索六索五筒六筒六筒六筒
マチは山に5枚。ここまでの状態からも、瀬戸熊のアガリか?と思われたが、結果は、藤崎が瀬戸熊から8,000は8,300をアガる。
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ここまでは荒の想定通りだろう。
結局、吾妻が点棒を減らすことなく進み、この打ち込みにより瀬戸熊がラスで3回戦が終了する。
3回戦成績
吾妻+28.2P 荒▲4.5P 藤崎▲8.0P 瀬戸熊▲15.7P
3回戦終了時
吾妻さおり+24.3P 瀬戸熊直樹+8.5P 荒正義+2.1P 藤崎智▲34.9P
 
4回戦(起家から吾妻・藤崎・荒・瀬戸熊)
東2局親の藤崎が2,600は2,700オールをアガッて久しぶりにリードする。
その次局、荒が序盤から仕掛けてチンイツに向かう。
吾妻も4巡目にタンヤオドラ3でテンパイをする。
二万四万六万七万八万三索三索三索五筒五筒六筒六筒六筒  ドラ六筒
そして8巡目に荒も追いつく。
九筒をポンしてトイトイにする。後に荒は、トイトイにした方がアガれそうな気がしたと言っていた。
しかし結果は、荒が三万を掴み吾妻に8,000は8,600の放銃となる。
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南1局はドラの発単騎でリーチをかけた荒に対して、瀬戸熊がドラを重ねてリーチ。
これをツモって2,000・3,900。
続く南2局、7巡目で荒の手牌がこうなる。
一万二万二万八万八万三索三索二筒二筒二筒九筒九筒西北  ドラ一万
ドラが一万なこともありここで暗刻の二筒を選択する。
別に普通の選択だと私も思っていたが、その後のツモが二万九筒で四暗刻テンパイであった。
そして12巡目には三索をツモっていた。
切る牌が違うので、結果はどうかわからないが荒はどう思ったであろう?
結果は、七対子1シャンテンから五万をトイツ落としして、メンホン七対子に向かった瀬戸熊の妙手で荒の切った西で見事な8,000のアガリ。
四索四索五索五索七索七索九索九索南南西白白  ロン西
オーラスは、荒の選択が見事に決まり、手詰まりだった藤崎から7,700をものにして、結局、瀬戸熊の1人浮きで終了する。
4回戦成績
瀬戸熊+26.7P 藤崎▲1.3P 吾妻▲6.8P 荒▲18.6P
4回戦終了時
瀬戸熊直樹+35.2P 吾妻さおり+17.5P 荒正義▲16.5P 藤崎智▲36.2P
 
これで初日が終わった。
瀬戸熊が首位で折り返しとなり、対局後のインタビューも終始笑顔であった。
やはりこの人にはこの位置がよく似合う。
吾妻も無駄な失点を避け、時折繰り出す高打点で見事プラスで半分を終える。
吾妻は何か持っている女性である。明日も一発決めれば優勝も見えてくる。
荒は終始、今なにをどうすべきかを考えているように見えた。
最後の最後で1番上にいればいい。そういう戦い方に感じる。
そして1番気になったのが、藤崎の元気の無さである。
手が入っていないのだから仕方ないと言えばそうだが、毎回後手にまわらされ受けざるをえないといった感じだ。
しかし後4回ある。上から下まで71.4P差などあって無いようなものだ。
明日の戦いも目が離せない!