グランプリ レポート

第6期麻雀グランプリ MAXベスト16 C卓レポート 小車 祥

鳳凰位決定戦進出、十段戦ベスト8進出、麻雀マスターズベスト8進出と素晴らしい成績を残しているが、数多くのタイトルを何度も獲得している本人にとってはこれくらいは当然か……瀬戸熊直樹。
十段位決定戦準優勝、王位戦ベスト28などの好成績でポイントランキング2位。ベスト16シード出場の藤崎智。
B1リーグ優勝で来期から貴重な女流Aリーガーになる和久津晶。
最終戦オーラスに国士無双を成就させて十段位に輝いたのは記憶に新しい柴田吉和。
この卓もまたかなりの豪華メンバーとなった。

100

1回戦(起家から、柴田・藤崎・和久津・瀬戸熊)

東1局1本場、和久津が藤崎の切った第一打から仕掛けていく。

一万三万三万四万一索二索九索一筒南西西  ポン東東東  ドラ南

手牌を見てもらえばわかると思うが、ドラ表示牌で2枚目の東とはいえ、かなり積極的な仕掛け。
ドラの重なり、チャンタ、ホンイツなどの可能性は残っていて、西のトイツがあるのでいざとなったら迂回できるという目論見だろう。この手牌で仕掛けを入れる選手は少ないように思う。

三万四万西西  チー二万 左向き一万 上向き三万 上向き  ポン南南南  ポン東東東  ツモ二万

3,000・6,000は3,100・6,100。
この結果はうまく行き過ぎなのかもしれない。
十分な形の1シャンテンからドラを切った瀬戸熊。
ピンフテンパイで二万を切った藤崎。
それぞれが自然と切った牌を仕掛けアガリへと繋がった。
しかしこのアガリを生んだのは1巡目の東ポン。
アガリへの積極性が和久津の強さの原点なのである。

南1局、親の柴田が10巡目にリーチ。

二万三万四万七万八万九万五索六索七索一筒一筒三筒五筒  リーチ  ドラ一筒

ドラドラで役なしの手、リーチを打つのは当然なのかもしれないが、周囲をオロしたいという意図も強かったのかもしれない。
オリてもらって流局での連荘オッケー。ツモれたら万々歳と。
その柴田の計算を狂わせたのは和久津。

四万五万六万六万七万一索二索三索四索四索一筒二筒三筒

柴田のリーチの直後にテンパイした和久津は、無スジの五索を押してヤミテンを選択。
その後も六筒五筒九万と無スジを連打。そしてドラそばの三筒で手が止まる。結局はこの三筒も押すのだが、親の現物待ちでもないのにヤミテンにした理由はここにある。最後の最後まで全部押しますというわけではないと判断したのだ。
次の巡目、八万をツモ。
700・1,300のアガリ。

南3局、瀬戸熊にチャンス手が入る。

七万七万九万一索一索三索三索四索四索五索三筒三筒三筒  ドラ三筒

ここまでは我慢の展開で、失点を最小限に抑えているという印象だけに、この手を決めれば一気にゲームの中心となるかというところ。
親の和久津は仕掛けてすでにテンパイを入れていた。

四索四索七索八索九索四筒五筒五筒六筒七筒  ポン東東東

次にテンパイしたのは柴田。

三万三万三万五索六索七索三筒四筒六筒六筒六筒七筒八筒

32,800点持ちの2着目の柴田。トップの和久津とは5,200点差でリーチを打てば出アガリでもトップと並ぶというところだが、柴田はヤミテンを選択した。
全5回戦のトーナメント。攻めて高得点を狙いに来るのではなく、堅実にアガれる可能性を高めて失点を減らすスタンス。仕掛けている親の和久津の河にピンズが1枚も切られていないので、自分の待ちが苦しいと考えたのかもしれない。
リーチを打つか打たないかどちらがより良い選択かはわからないが、少なくともこの局面でヤミテンを選択できるというのは柴田の懐の深さが窺える。柴田の強さはこういうところにあるのではないか。
結果は瀬戸熊がテンパイに至る前に柴田のツモアガリ。
1,000・2,000で柴田が和久津を捲りトップ目に立つ。

オーラスはソウズのホンイツで3フーロした藤崎の1人テンパイ。
柴田がそのままトップを取る。

1回戦成績
柴田+13.8P 和久津+9.0P 藤崎▲7.6P 瀬戸熊▲15.2P

 

2回戦(起家から、柴田・瀬戸熊・藤崎・和久津)

東1局、柴田の親リーチ。

四万五万七万七万五索六索七索七索八索九索五筒六筒七筒  リーチ  ドラ七万

三色ドラ1のカン六万テンパイからうまくドラを重ねてピンフドラドラのリーチ。
三をツモ。4,000オール。

南1局、また柴田の親番。

一万三万四万四万六万六万七索七索七索九索九索八筒八筒西  ドラ七索

まだメンツ手も追いたくなる七対子の1シャンテン。
メンツ手も見るなら一万西を切りたいところか。
柴田はここで七対子に決めるドラ切りを選択。
次巡、一万を重ねて西単騎待ちで七対子テンパイ。ちなみに1シャンテンの時に西を切っていると藤崎のポンが入りそうだった。以下藤崎の手牌。

一万三万七索八索九索二筒三筒四筒西西白白中

実は柴田はあそこでドラを切らないとこのテンパイには至らなかったのである。
さらに次巡、今切られた中をツモって待ち変え。西を切ると藤崎がポン。
藤崎から出てくる牌は……そう、中である。

一万一万四万四万六万六万七索七索九索九索八筒八筒中  ロン中

9,600。柴田の判断と局面がうまく噛み合う。
2回戦も続けてトップの柴田が2連勝。
和久津もしぶとく浮きの2着で終わり、早くも並びができる。

2回戦成績
柴田+35.6P 和久津+8.4P 瀬戸熊▲10.7P 藤崎▲33.3P

2回戦終了時
柴田+49.4P 和久津+17.4P 瀬戸熊▲25.9P 藤崎▲40.9P

 

3回戦(起家から、柴田・瀬戸熊・和久津・藤崎)

追う立場の瀬戸熊・藤崎からすれば、ターゲットとなったのは和久津。
ここで和久津に得点されるとかなり厳しい戦いを強いられることとなるのだが……。
東1局、和久津がテンパイ。

三万四万五万七万七万三索四索五索二筒三筒四筒七筒七筒  ドラ七筒

ここからさらに五筒二筒を入れ替え三色に変化。
ほどなくして七筒をツモ。
3,000・6,000。
追う2人に厳しい条件を突き付ける。

東2局、親の瀬戸熊が5巡目にテンパイ。

三万五万六万七万八万二索二索三索四索四索七索八索九索  ツモ一索  ドラ八万

ヤミテンに構えてマンズの変化を待つか、三万を切ってテンパイ取らずとしてソウズの変化も見るか。
そのどちらでもなく、瀬戸熊は二索切りリーチという選択。

柴田が1巡目に2枚立て続けに切られた発をポンしていて、その柴田に好きに打たせないためという意図もあるか。
実際にその距離感は正しく、この時の柴田の手は全く戦える形ではなかったし、和久津も藤崎も同様だった。
瀬戸熊はリーチ後に自身がすぐにツモ切った六万三索を見てどう思っていたのか。
明確な意志やビジョンを持ってした選択でも、結果がついてくるとは限らないのが麻雀なのか。

数巡も過ぎた頃には、和久津がチーしてテンパイを入れていた。

五万六万七万四索五索六索六索六索三筒四筒  チー七筒 左向き六筒 上向き八筒 上向き

瀬戸熊が五筒を掴んでリーチをかわされてしまう。

東4局1本場、瀬戸熊がリーチ。

六万七万八万四索四索六索七索八索二筒三筒四筒中中  リーチ  ドラ八万

三索を切ってシャンポン待ちを選んでのリーチ。
この待ち選択が和久津の中トイツ落としをきっちり捕らえる。
5,200。このアガリが浮上のきっかけになるか。

続いて南1局、さらに瀬戸熊がアガる。

三万四万五万七万七万二筒二筒三筒三筒四筒四筒七筒八筒  リーチ  ツモ九筒  ドラ一索

1,300・2,600。
そして迎えた南2局、瀬戸熊の親番。
ここは瀬戸熊ファンならば期待せざるを得ない局。

二万二万三万四万四万三索四索四索五索七筒七筒南南  ドラ七筒

期待に応えるようにドラドラのチャンス手を入れる瀬戸熊。
役牌の南が出ればポンしてテンパイが取れるが、メンツ手も七対子も見れる難しい手牌。
六万はツモ切り。二索をツモって選択の局面だが五索と入れ替える。二万をツモって四万を切る。
南も出ないまま、結局はテンパイできないまま流局してしまう。

南3局1本場、親の和久津が早い巡目から仕掛けていく。

二索二索三索四索五索西西  チー九索 左向き七索 上向き八索 上向き  ポン東東東  ドラ三万

和久津はピンズのリャンメンターツを手出ししていて、ソウズの一色手であろうことは明確だったが、上家の瀬戸熊は絞るか被せるかで、強く出る方を選んだ。
この和久津のテンパイに、役なしテンパイしていた柴田が西をツモ切って放銃する。
5,800は6,100。

このアガリで3回戦トップ目になった和久津。
対して柴田はこの放銃で13,300点持ちのラス目。
ターゲットが柴田に変わったかという局面。

続く南3局2本場も和久津がアガリ、一気に突き放していく。

二万三万四万五万六万七万二索三索四筒五筒六筒八筒八筒  リーチ  ツモ一索  ドラ三索

2,600は2,800オール。
オーラス親の藤崎、粘りを見せるも原点復帰までは届かず。
瀬戸熊も一時はトップ目だったもののなんとか原点を守るという結果に。

3回戦成績
和久津+29.4P 瀬戸熊+4.4P 藤崎▲10.4P 柴田▲23.4P

3回戦終了時
和久津+46.8P 柴田+26.0P 瀬戸熊▲21.5P 藤崎▲51.3P

 

4回戦(起家から、藤崎・瀬戸熊・和久津・柴田)

無情にも、和久津と柴田がアガリを重ねるという展開。
点差が広がっていく。

南1局、大きくマイナスしている藤崎にとっては絶対に簡単には落とせない親番。
藤崎の第一打の発を和久津がポン。3巡目には西をポンしてあっという間にテンパイ。

七万八万九万一索一索六索七索  ポン西西西  ポン発発発  ドラ四筒

ここに柴田も参戦。2つ仕掛けてテンパイを取る。

二万三万四万四筒四筒八筒八筒  チー四筒 左向き五筒 上向き六筒 上向き  ポン二索 上向き二索 上向き二索 上向き

この時の藤崎の手牌は以下の通り。

二万二万二万八万八万九万四索五索五索二筒三筒南南

かなり厳しい状況。しかしなんとかテンパイまで辿り着く。

二万二万二万八万八万九万九万五索五索二筒三筒南南  ツモ二筒  打二万 上向き

数巡後、藤崎は和久津の当たり牌である五索を掴む。七対子テンパイで自身ですでに2枚使っている牌。ここで放銃かと思った矢先のことだった。
藤崎、ここでテンパイを崩して三筒切り。五索を使い切ってトイトイでの復活にシフトチェンジしていく。
しかしさらに数巡後、今度は八索を掴まされた藤崎。
これではもう五索を止めた意味がない。八索単騎での七対子でリーチ宣言をし、五索を切って和久津へ放銃。

確かに五索は和久津にも柴田にもかなり切りづらい牌。
しかしこの局面において、絶対に落としたくない親番で一度止めてテンパイを崩したということがとてつもない選択なのだ。
『藤崎智が藤崎智たる所以』
私はそんな言葉を発していた。劣勢の試合の中で見せた、藤崎の計り知れない強さ。それを垣間見た瞬間だった。
この後藤崎は7,700を柴田からアガリ、4回戦をトップで終える。
しかし追いかける2人も持ち点原点を割らず、点差はあまり埋まらないという結果。

4回戦成績
藤崎+21.1P 和久津+9.6P 柴田+1.0P 瀬戸熊▲31.7P

4回戦終了時
和久津+56.4P 柴田+27.0P 藤崎▲30.2P 瀬戸熊▲53.2P

 

5回戦(起家から、柴田・藤崎・和久津・瀬戸熊)

大きな点棒の動きもないまま、藤崎の親番は落ちてしまった。
南3局、オーラスに親番が残っている瀬戸熊が意地を見せる。

一筒二筒四筒四筒四筒五筒五筒六筒六筒七筒七筒八筒九筒  リーチ  ツモ三筒  ドラ三索

4,000・8,000。
南4局、瀬戸熊の親番。
倍満からの大逆転劇に期待するファンも少なくはなかったと思うが、あっさり柴田がツモって決着となった。

一索二索三索五索六索七索八索八索八索五筒六筒白白  ツモ七筒  ドラ白

1,000・2,000。

5回戦成績
瀬戸熊+24.6P 柴田+4.3P 藤崎▲8.6P 和久津▲20.3P

5回戦終了時
和久津+36.1P 柴田+31.3P 瀬戸熊▲28.6P 藤崎▲38.8P

見事ベスト8へ勝ち上がりを決めたのは和久津柴田
そして惜しくも敗退となってしまったのはA1リーガーの瀬戸熊と藤崎。

対局を終えた後は、惜しくも敗退となってしまった2名を実況席に呼んでお話を聞いた後、続けて勝ち上がりの選手2名にお話を聞くという流れになっている。
毎対局後、やはりその2つの空気感は全然違うものになる。
しかし、この日の瀬戸熊と藤崎の雰囲気はとても明るく、非常に驚かされた。

どんな質問にも気さくに答え、笑いを交えながらのインタビューとなった。
麻雀プロは長時間全神経を研ぎ澄まし、プライドをかけて戦っている。
負ければ当然ものすごく悔しい。例外はない。
「負けた試合でも応援してくれた人がいる」
そんな人たちに向けて暗い顔は見せられないのだと瀬戸熊は言う。藤崎も同様だろう。

ここに私における最大限の尊敬の念をぶつける。
麻雀プロとはなんなのか。改めて考えさせられる瞬間であった。

そしてA1リーガー2名を見事打ち倒しベスト8へと駒を進めた和久津と柴田。
和久津、初のG1タイトル獲得となるか。柴田、十段位と二冠達成なるか。
乞うご期待!