プロリーグ(鳳凰戦)決勝観戦記

第30期鳳凰位決定戦観戦記 「何を云うか鳳凰戦・最終回」

3日目の第9戦が始まった。
ここまで点差が開いたなら、追う側3人は腹を括るしかない。

藤崎+98.4P 沢崎▲12.6P 瀬戸熊▲20.6P 伊藤▲65.2P

まず自分の失点を埋め、話はそれからである。
藤崎が早めに満貫を打ち、失点したら浮上のチャンスを与えない。
これは3人の暗黙の協定である。
これを破るものは他の2人から白い目で見られるし、解説も何を云うか気がかりだ。

追う側は苦しい。だが一番苦しいのは追う側より、逃げる藤崎の方である。
なぜならここまで来たら勝って当然だし、負けたら何を云われるか分らないからである。

2日目が済んで3日目に入るまでの6日間は長い。
その間にじんわりとかかるプレッシャーは相当なものだったろう。

ただ逃げるだけではいつか捉まる、そのことは藤崎も承知している。
逃げも大事だがサバキもかけねばならないのだ。
そして隙があれば加点しなければならない。
その目安は今日一日でプラス30P。これなら9割以上、勝負は決するからである。

東1局、最初にテンパイしたのは藤崎だった。

 

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4人の河から八索は好いマチに見えるが藤崎はヤミテン。あえて危険は冒さない。
10巡目六索を引き、タンヤオに切り変わり受けも広くなるが、やっぱりヤミテン。これも好感覚だ。
南家の沢崎の河はピンズの染め手だし、ドラの行方も分からないからである。
そしてこの局の結末はこうだ。

 

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瀬戸熊はピンズの3面チャン。沢崎もメンホンの勝負手だったのである。
これは藤崎の軽いサバキながら、効果はてきめん。

続く東2局も藤崎の軽いサバキが見られた。
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藤崎のテンパイは7巡目の打四万だが、ここでもヤミを選択。
リーチなら三索の壁の一索を沢崎から打ちとっていたが、そんなことは意に介さない。
ここに藤崎の用心深さが見える。

相手に攻めの火の手が上がり、危険を感じたらすみやかに退散する腹である。
その構えはヤミテンで、ちゃんと逃走経路は確保してあるのだ。これが忍者・藤崎なのである。

沢崎は発打ちでテンパイ。
ダブル風の東を暗刻にした7,700の勝負手のテンパイだったが、途端に藤崎のツモである。
勝負手を2度も蹴られると、沢崎の膝がカックンと折れたはずである。

藤崎は出だしから順風満帆。が、そこに待ったをかけたのがやはり瀬戸熊だった。
東3局は親番が瀬戸熊。そこから14巡目にリーチが入る。同巡、藤崎もテンパイ。
藤崎は国士崩れだが、変化しホンロウ七対子を張る。

 

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さあここで、マチの選択である。並みの打ち手なら現物の九万を切るに違いない。
九万は2枚切れだしリーチの現物、一方九筒はリーチのソバテンで大いに危険だからである。
だが、藤崎は九筒を勝負した。彼の読みの精度は天下一品である。

しかしこれが、瀬戸熊にズドンと命中。ドラが八万でそのシャンポンの片割れが九筒だったのである。
7,700のアガリだが、これを視聴者はどう見たかである。

これが藤崎の読みの精度が高い証と私には見えたが、どうであろう。
なお、沢崎の九万二筒は手出しである。
後日、私の問いに藤崎が答える。

藤崎「あそこで手出しの九万切りなら、普通は2丁切りと見ますよね。ですから後悔はしていません」

七万は場に4丁枯れている。
二筒九万も親の現物だから、九万はたまたま連続で切られなかっただけの話、と藤崎は読んでいたのだ。

「次は九万、ならばここで勝負だ―」これがプロの発想である。

 

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九筒を切れば藤崎の攻めが見えるが、それでも沢崎の九万は止まらない。
先に九筒が当たったのは、ただの偶然であることも確かなのである。
藤崎の読みは見事だ。沢崎の九万切りはトイツ落としで、読みはピタリと当たっていたのだ。

ここで藤崎を沈めトップに立った瀬戸熊は、勢いに乗る。
次は、リーチ合戦で5,800を伊藤から召し取る。

 

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南場ではこのツモだ。

四万四万二索三索四索六索七索八索四筒四筒六筒七筒八筒  ツモ四筒  ドラ四筒

まず8,000。

六万六万六万八万八万二筒三筒四筒五筒六筒七筒中中  ツモ中

次が親で、リーチをかけ2,600オール。
この後、親で4本積んで持ち点を68,700点とする。
この間に藤崎も満貫を決め、浮きに回る。

そして、この半荘の結末はこうだ。

 

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瀬戸熊は大きなトップだが、しかし藤崎もしぶとく浮いているためそう大きくは点差が詰まらない。
現状でその差がまだ86.6Pの差があるのだ。

ただ警戒すべきは、瀬戸熊タイムの発動である。
これが出ると点差が一気に詰まる。後日、藤崎もこう語っている。

「瀬戸熊の親だけは、ぶつけていくつもりでした…」

瀬戸熊の嵐は何度も見ているから、藤崎も用心し対策は考えていたのだ。

第10戦は不調だった伊藤が盛り返す。
瀬戸熊から親のダブルリーチがかかるが、伊藤が3巡目に追いつきリーチだ。
瀬戸熊はシャンポン待ちだが、引けば3,900オールの高打点。
しかし引き勝ったのは、両面で牌数の多い伊藤だった。

 

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前回好調だった瀬戸熊のエンジンのかかりがなぜか悪い。これは藤崎には好都合だ。
そして、南場で瀬戸熊は2軒リーチに勝負に出るが、これもつかまる。

 

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そして結果はこうだ。

 

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伊藤のトップは藤崎の理想形なのである。
しかも自分も浮きだから、沢崎と瀬戸熊の点差は開く一方である。
これはもう藤崎の流れなのである。

11回戦も藤崎ペースだ。
トップは沢崎だが藤崎は浮きの2着で、怖い瀬戸熊が再びラスに沈んだのも藤崎には有利である。

 

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これで藤崎は浮きの2着が3回目である。点差は詰まらない。いや、むしろ開いている。
瀬戸熊はこの2ラスで9回戦の大トップを吐き出してしまった。

12回戦、今度は瀬戸熊が頑張った。しかし目標の藤崎は沈まない。沈む気配すら感じない。
おまけにオーラスは、行きがけの駄賃とこの手をアガる。

 

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これで藤崎は大きな浮きの2着が4回だ。これも珍しい。
そして点差はさらに開いた。

藤崎+147.6P 瀬戸熊▲1.3P 沢崎▲29.2P 伊藤▲117.1P

これで藤崎の優勝は99%確定である。
昨年の鳳凰決定戦と同じく、4日目を待たずに決定したのだ。
ここで(まだ分らない)というのは机上の空論である。
ここから逆転など、鳳凰戦30年の歴史では例がないし、まして相手が受けの達人・藤崎では論外である。

もちろんこのことは藤崎も承知している。
3日目が終わった時、私が云った。
「だがな、1%だけ不安があるぞ―」
すると藤崎は意外な顔をして、私をじっと見つめた。

「それはな…6日後の直前に交通事故に遇うことだ」
もちろん、これは私の冗談である。
「大丈夫です。脚を折っても、這ってでも出てきます!」

案の定、4日目は晴れた海で風も吹かなかった。

念願の「鳳凰」…藤崎の描いた設計図が今日、17年目にして完成されたのだ。
最後の横線一本は部屋に帰り、喜びをかみしめながらゆっくりと引けばいいのだ。
おめでとう、藤崎さん!