プロリーグ(鳳凰戦)決勝観戦記

第31期鳳凰位決定戦観戦記三日目 前原 雄大

鳳凰位決定戦観戦記三日目:前原雄大

―――――――――先を見る人
それにしても瀬戸熊の2日目までのデキが悪い。
特別なミス、エラーをしているわけではない。それでもスコアが纏まらない。

2日目が終わり、
「どうする?独りで帰っても良いんだよ」
瀬戸熊と帰る方向が同じなので誘って見た。
「ご一緒します」
私が違和感を持ったのは、やはり、初日 東1局であった。

東家・瀬戸熊手牌

五万五万六万四索五索七索八索九索六筒七筒東発発  ツモ五筒  打五筒  ドラ二筒

西家・藤崎捨牌
八筒 上向き一索 上向き五筒 上向き一筒 上向き四筒 上向き六索 上向き中三筒 上向き二万 左向き

私の知っている瀬戸熊直樹という打ち手はここで、受けに入らない打ち手だった。
千の矢が頭上を襲って来た時、逃げ場所を探すのではなく、矢が放たれている場所を探し求め相手を倒す。
何処に逃げても矢が当たる時は当たるし、それならば戦いに臨む打ち手のように思っていた。

「最近、軽い放銃が結果として致命傷になることが多いんですよね」
しばらくの沈黙の時が流れた。

それは、私にも良く解る気がした。
数年前の十段戦の稽古の折り、やはり、私もそうだった。
「前原さん、パワースポットに行きましょう」
調子の悪さ、デキの悪さを心配した佐々木寿人の誘いに私は附いて行ったことがある。

私は元来、無神論者、というより不神論者である。
それでも、そうしたのは、彼の私への好意を受けたためである。
その時は結局、4連覇を逃した。
その時から、バイオリズムを意識するようになった。
丁度、今回の瀬戸熊とダブるように感じる。

しばらくの沈黙の後、瀬戸熊が口を開いた。
「たとえば、前原さんやほかの先輩達と戦う時はキチンと立ち向かうと思いますが、これからは、後輩達と戦う時が増えてくるようになると思います、ボク自身の戦い方が研究されているので、長所を伸ばすだけでなく、短所の矯正に入っていることも事実です。」
私は瀬戸熊の言葉を聞いた時得心した。

瀬戸熊にとっても今回の鳳凰戦は定説な戦いである。
それと同時にこれからの戦いも大切なことなのである。
瀬戸熊は、今を見ながら先を視ていると私には感じられた。

 

100

 

9回戦 (起家から、勝又、前田、瀬戸熊、藤崎)

東1局
瀬戸熊、ヤミテンに構えるも勝又の仕掛けに合わせリーチを打ち、最後の七筒を手繰り寄せる。

一万二万三万六万七万八万五索六索七索七索七索六筒八筒  リーチ  ツモ七筒  ドラ七万

瀬戸熊にとっては初めてと言ってもいいほど先手を取れた開局である。
このアガリは瀬戸熊の時間帯に入る予感を感じさせた。

東3局1本場
勝又が鮮やかな手筋でメンホンを仕上げ、藤崎の一通リーチとぶつかるも、藤崎より8,000は8,300を出アガる。

東4局
100

ダブ東とはいえ、ここから仕掛ける藤崎も珍しい。
6巡目に前田よりリーチが入る。

一万二万三万九万九万二筒三筒四筒西西西北北  リーチ  ドラ二筒

このリーチは、結果は別として一筒四筒の振り替わりがある以上、また、手牌と捨牌のバランスを考えれば、いままでの前田らしくないリーチのように思えた。
勿論、この前田の方法論が間違えというわけではなく、前田らしくないというだけのことである。

結果は、前田からの藤崎への12,000点の放銃となった。
そして前田の持ち点が15,000点となっても、次局リーチで三万を引きアガる。

三万三万六万七万八万六索六索六索三筒四筒五筒西西  リーチ  ツモ三万  ドラ七万

この1,300・2,600は大きい。そして、前田の強さを物語っている。
これで持ち点を20,500点まで戻す。

東4局に関して前田はこう語っている。
「高目の一筒ツモなら勿論ヤミテンですが、安めの四筒引き…。ヤミでの3,200はあまりに弱すぎる。でも捨て牌があまりに派手になりすぎた!しかしまだ守る時ではない。ダブ東を藤崎プロが鳴いているが高い感じはしないし、あっても5,800であろう。結果は12,000の放銃であったが全く後悔は無い。」

前田にそれだけの覚悟があったということなのだろう。

東4局1本場
今局に関して前田はこう語っている。
西三万のシャンポンリーチをしたのだが、凄く迷った。3者から1シャンテン、もしくはヤミテン気配がとてつもなく出ていた。普段なら多分しないが、点棒状況も考え嫌々のリーチである。結果三万をツモる。これでかなり救われた気がしました。」

南3局
前田の親を、300・500は400・600で落とした瀬戸熊の親番。

100

今局は瀬戸熊にとっては良い感じで迎えた親番であるだけに、ブレークポイントだと私は見ていた。
ただ、今局は難しい局で、瀬戸熊はチャンタに的を絞ったが、メンホンのツモアガリもあったように思う。

一筒二筒二筒三筒三筒六筒七筒八筒九筒九筒北北北  ツモ四筒  ドラ七万

結果はチャンタの発タンキとなったが、アガリ逃しとなったため、残り1枚を争う、瀬戸熊、藤崎の争いは、藤崎のツモアガリで終わった。
瀬戸熊にとっては大きな逸機であったように思える。
ただ、今局のポイントは5巡目に八筒を手の内に残せるかどうかであるから、難しいと言わざるを得ない。

今局、瀬戸熊がメンホンをアガっていれば、この後、親番で、何本積み上げたか分からないほどの逸機だったように思えてならない。

南4局
瀬戸熊のチャンスを潰した以上、勢いを掴むのは藤崎である。
7巡目の早いテンパイからリーチを入れ、手詰まりの勝又より、11,600点を出アガる。

藤崎手牌
四万五万六万六万七万八万一索二索三索五索五索七筒八筒  リーチ  ロン九筒  ドラ六万

南4局1本場
勝又のドラタンキのリーチをしのぎ切り、前田が1,000点は1,300点をアガリ、ラス抜けを果たす。
前田のしぶとさが光るオーラスであった。

これで16.2ポイント差となった。

9回戦成績
藤崎+35.2P 瀬戸熊▲5.0P 前田▲11.8P 勝又▲18.4P

9回戦終了時
前田+66.9P 藤崎+50.7P 勝又▲53.1P 瀬戸熊▲64.5P

 

10回戦 (起家から、勝又、瀬戸熊、藤崎、前田)

東1局
親で勝又が親満を取るか親跳を取るかで選択があり、当然の如く高目を取るも流局。
勝又にとってはアガリたい1局だっただろう。

三筒四筒五筒五筒五筒六筒七筒八筒発発  ポン中中中  ドラ発

東1局1本場
100

瀬戸熊がメンチンの倍満に仕上げる。
待ち取りも間違えず、アガリ切るところは流石としか言いようがない。
徐々にではあるが、瀬戸熊の調子が上がってきたようである。

100

 

今局に関して前田はこう語っている。
東白をトイツで1枚目の東をスルー。その後白が暗刻になり四万をポン。結果テンパイするものの、瀬戸熊プロに4,000・8,000をツモられる。この局、牌譜解説でも、取り上げられていたが、私としては別に間違いだと思っていないし、後悔も無いです。」

東2局
迎えた親番で、瀬戸熊が一色手に走るも、勝又がリーチをし2000・3900をツモアガる。

四万五万五万六万六万七万九万九万六索七索九筒九筒九筒  リーチ  ツモ八索  ドラ九万

今局に関して前田はこう語っている。
「次の局、勝又プロにドラドラのテンパイが入る。私にも勝負手が入るが、先にリーチを打たれ目一杯にしてしまった為五索が出る形。しかし八筒が鳴け五索が出ない形になるがツモられる。この時感じたこと…振り込みにならない形になり悪くはない。しかし2局続けて鳴いて連続ツモられ。この半荘だけは鳴きは超要注意!!ってことである。」

東4局
100

藤崎が大三元をツモアガる。

100

 

四万四万一索二索発発発  ポン白白白  ポン中中中  ツモ三索

16巡目に一索をツモっているが、僅かな逡巡の後、打一索としているが受け間違えないところが流石である。
この瞬間、首位が前田から藤崎となる。

この局に関して勝又・前田はこう語っている。

勝又
「東1局1本場に、手組の悪さから倍満の親かぶりとなりましたが、東3局に藤崎さんのリーチに競り勝ってのピンフのアガリに手応えを感じここで勝負と思っていました。しかし、中を仕掛けられた以上、まっすぐに進むのではなく、対応すべきだったと思います。自身のポイントを伸ばしにいくべきなのに、2フーロされたときに一番苦しいのは親の前田さんと思ってしまったことは大きな反省材料と思います。」

前田
「そして事件が起きる。藤崎プロの大三元。しかも親かぶり、持ち点は10,000点を割る。必ずこういう局面は来ると思っていたがちょっと想定外である。もうこの半荘はとにかく我慢!そしてこの半荘を捨てない!」

南3局
瀬戸熊が見事な手筋で2,000・4,000をツモアガる。

7巡目
七万九万一索二索三索五索六索七索八索八索四筒五筒六筒  ドラ四筒

12巡目
九万九万一索二索三索六索七索七索八索八索四筒五筒六筒  リーチ  ツモ六索

南4局
13巡目、瀬戸熊よりリーチが入る。

二万三万五万六万七万五索五索四筒五筒六筒六筒七筒八筒  リーチ  ドラ三万

前田は最終ツモの四万で、テンパイを入れる。

三万五万六万六万七万七万八万八万九万東南南南  ツモ四万  ドラ三万

この最後のツモ四万が線となり、前田の連荘の始まりとなった。

南4局1本場

二万三万四万六万七万四索五索六索七索七索八索五筒五筒  ツモ九索  ドラ六索

今局など、前田はツモ九索でテンパイながらもツモの弱さを感じ、最後までヤミテンで通すあたりが当然のことではあるが、前田流である。

強いツモとは ツモ五万八万五筒七索三索六索などである。
一番弱いツモである九索であるからこそ、前田はヤミテンに構えたのである。

南4局2本場

六万六万七万七万八万八万五索六索八索八索八索五筒五筒  リーチ  ドラ七筒

この時点で前田の待ち牌である四索七索は残り7枚である。
ツモアガリも確約されたとみていたが、結果はそうならなかった。

前田のリーチを受けて、次巡ツモ二索

三万三万五万六万一索三索四索五索六索四筒五筒七筒七筒  ツモ二索  ドラ七筒

藤崎がこの手牌から現物である二索をツモ切ったのである。
私ならばおそらく打三万と1シャンテンに構えたように思う。
このあたりに藤崎の麻雀に対する丁寧さが伺える。
2巡後、前田よりツモ切られた七筒の仕掛けも藤崎らしい。
そして藤崎はその後、前田のロン牌である四索七索を3枚食い上げ流局に持ち込んだのである。
これも藤崎ならではの麻雀である。

100

 

南4局3本場
前田は前田の目から見て3枚目である五万をツモアガった。

四万六万四索五索六索二筒三筒四筒五筒六筒七筒七筒七筒  ツモ五万  ドラ六万

「ツモ2,000オール」

前田は「ツモ」の発声をするのに時間を要している。
このことからも解るように、今局はフリテンリーチもあったように思える。
ツモ五万にツモの力を感じ、待ちの良さを考えるならば、打二筒のフリテンリーチの敢行である。
4,000オールから6,000オールまでの可能性を秘めていたこと、トータルトップが入れ替わったことを考えれば、1つのチャンスのようにも私には思える。
もちろん10人いれば10人の価値観、100人いれば100人の麻雀観があるのだから、前田の取った方法論を否定するつもりはない。
ただフリテンリーチを打った場合、一観戦者としてその先を見てみたかったのは事実である。

南4局4本場
前田は残りツモ2回でテンパイが入った。

九万九万五索五索六索六索六索一筒西西  ポン八万 上向き八万 上向き八万 上向き  ツモ西  ドラ西

ハイテイで8,000オールのツモアガリまで期待させたが、流局で終わった。
ただ、この八万をポンしなければ前田にテンパイが入ることは無かった。

これも打ち手の対局観である。
この時点で前田は7,000点しかなかった持ち点を25,400点まで持ち起こしたのである。

100

 

前田
「半荘を捨てない、その気持ちが届いてかオーラスの親で25,000点まで戻すことが出来たのは、気持ちの上でも大きかったです。」

確かに、前田の言う通り、オーラスを迎えた親番の時点でわずか、7,000点持ちから、5本場まで積み上げ、持ち点を24,200点で終えたのは、前田の麻雀力以外の何物でもない。

 

100

 

10回戦成績
藤崎+22.9P 瀬戸熊+8.8P 前田▲9.8P 勝又▲21.9P

10回戦終了時
藤崎+73.6P 前田+57.1P 瀬戸熊▲55.7P 勝又▲75.0P

 

11回戦 (起家から、瀬戸熊、藤崎、前田、勝又)

遂に首位が入れ替わった。

東2局
前田の一色に染める感覚が今シリーズ素晴らしいものがある。
藤崎の親番と言うこともあり、この2,000・4,000のアガリは追う側に立った前田にとって感触の良いアガリである。

三索四索五索六索六索七索八索  チー二索 左向き三索 上向き四索 上向き  ポン九索 上向き九索 上向き九索 上向き  ツモ三索  ドラ五筒

今局に関して前田はこう語っている。
「1回戦、2回戦とかなりの我慢が続いた。どうしても浮きの欲しい半荘。 配牌はソーズが目立つ。ここは一気に染めにいこうと決める。藤崎プロの五索八索は仕掛けずに九索から仕掛けに行く。藤崎プロも珍しく被せにくる。五索八索を鳴かなかった為、手の進行が遅いと睨んだのか?それともここが勝負と思ったのか?途中藤崎プロが西をポン!高く見えない。勿論全部勝負である。結果2,000・4,000のツモアガリ。これでかなり気持ち的に楽になり、その後も落ち着いて打てたように思います。」

東3局
親番を迎えて前田はリーチを打ち、一発で引きアガり2,600オール。

七万七万八万八万九万一筒二筒三筒五筒六筒七筒九筒九筒  リーチ  ツモ六万  ドラ二筒

この前田の親番をキッチリと藤崎が落とす。

東4局
藤崎が柔らかいうちスジで、700・1,300をツモアがる。

南1局
瀬戸熊が難解な局をまとめ切り、ドラ暗刻のリーチを一発でツモアガる。

南1局2本場
100

 

藤崎が鋭い反応で瀬戸熊の六筒を仕掛け、同巡前田のツモアガるべき五索を喰い流し、跳満のツモアガリを阻止する。

六万七万一索六索七索八索三筒三筒四筒五筒五筒七筒八筒  チー六筒  打一索  ドラ六索

この藤崎の仕掛けには驚かされた。
瀬戸熊も5本場まで積み上げるも、前田にドラ暗刻をツモられてしまう。

三万四万一索一索一索四索五索六索二筒二筒二筒九筒九筒  リーチ  ツモ二万  ドラ一索

南3局2本場
勝又がリーチ高目イーペーコーを一発でツモアガる。
本当に一発ツモの回数が多い半荘である。(注・連盟Aルールは一発、裏ドラなし)
それだけ打ち手のエネルギーが集約されているのだろう。
痛いのは親かぶりさせられた前田ではなく、ラスを押し付けられた藤崎の方だろう。

四万五万五万六万六万二索三索四索五索六索七索六筒六筒  リーチ  ツモ四万  ドラ八筒

オーラスは勝又の1人テンパイでトップは前田、1人沈みの藤崎。
これで前田の再逆転で11回戦が終了。

100

 

11回戦成績
前田+25.2P 勝又+5.4P 瀬戸熊▲4.6P 藤崎▲26.0P

11回戦終了時
前田+82.3P 藤崎+47.6P 瀬戸熊▲60.3P 勝又▲69.6P

 

12回戦 (起家から、勝又、瀬戸熊、藤崎、前田)

本日の最終戦である。

東1局

前田手牌
四万五万六万四索五索二筒二筒三筒四筒四筒五筒五筒六筒  ロン三索  ドラ五筒

瀬戸熊からの出アガリ。
前田にとっては幸先の良いスタートであった。

東2局
勝又の11巡目の打四万は好手であった。

100

 

三万三万三万四万四万七万八万八万七索七索七索五筒五筒  ツモ七万  打四万

次巡、当然の如く四万を並び打つことも大事である。

三万三万三万七万七万八万八万七索七索七索  ポン五筒 上向き五筒 上向き五筒 上向き  ロン八万  ドラ五筒

四暗刻にこそならなかったが、勝又会心のアガリである。
今局に関して瀬戸熊はかなりを後悔していた。

瀬戸熊
「藤崎さんドラ五筒リリース、勝又ポンのところで引くことが出来ない自分が情けなかったです。我慢する戦いを選んだのだから、まだまだ我慢すべきでした。」

南3局
これぞ勝利者とも思わせる前田のアガリである。
ラス牌の三索を7巡目、テンパイするや次巡跳満をツモアガった。
これは点数も大きいが、価値のあるアガリである。

一索一索二索二索三索四索五索六索七索八索九索発発  ツモ三索  ドラ九筒

南4局

100

 

勝又
八筒を切らずに九筒を切った以上、メンゼンで進めるべきでした。前田さんからリーチが入ったことにより直撃でトップとなれるという目先のことしか見えていない浅い仕掛けでした。」

9巡目
二万二万五万六万五索六索五筒六筒七筒七筒八筒八筒九筒  ツモ二万  打九筒  ドラ二万

勝又はこうコメントしているが、好調者の前田の親リーチが入った以上、終局させる一局として私は悪くない応手に思ったのだが、見る側と対局者の心理は別のところにあるということだ。

12回戦成績
前田+28.9P 勝又+13.5P 藤崎▲9.3P 瀬戸熊▲33.1P

12回戦終了時
前田+111.2P 藤崎+38.3P 勝又▲56.1P 瀬戸熊▲93.4P

全対局終了後
「瀬戸熊さんの優勝の可能性は5,000分の1、そしてぼくの可能性は3,000分の1」
勝又がそう語っていたが、何が起こるのか、分からないのが麻雀である。
最終日が楽しみである。