第34期鳳凰位決定戦 初日観戦記 荒 正義
2018年01月26日
鳳凰決定戦は1月14日(日曜日)からのスタート。
現・鳳凰の前原に挑戦するのは予選トップ通過の柴田。2位通過の内川と瀬戸熊である。
内川は最終節+75,2Pをたたき出し、レジェンド藤崎を沈め、卓外の伊藤優孝をかわした。これが若さと生命力である。
しかし、鳳凰決定戦となれば話は別である。
この4人で半チャン16回戦も戦わねばならない。若い生命力だけで勝てるとは限らない。
内川が相手を研究しているのは当然だが、相手も内川の打ち筋を分析しているのだ。
敵は柴田のほかに瀬戸熊と前原がいる。経験値なら、圧倒的にこの2人が上である。
経験値とは、麻雀の勝ち方である。ビックタイトルではここ一番のとき、体に刻んだその「感性」が物を言うのだ。
前原と瀬戸熊2人で、「鳳凰位」を通算6期占めているのだ(ともに3期)。十段位も2人で8期はあるだろう。実績と強さから見たら彼らも麻雀史に名を残すレジェンドである。
瀬戸熊のクマ熊タイムも警戒しなければならないが、前原のゴジラパワーも強烈である。
しかし、あっちもこっちもマークしていては受け中心となり、自分の麻雀が打てなくなる。そこをどう対処するのか、ここが内川の試練の場であるといえる。
東1局。ドラ
起親は柴田で、順に前原、瀬戸熊、内川の並びだ。
内川の1巡目の手だ。
ツモ
ドラ
ここから内川はを切った。ここに内川の闘志が垣間見える。通常、三元牌が3牌浮いて、自分の手が安いときは、誰かが切るまで三元牌は切らないのが常識。誰かが切ったとき、合わせて切ればいいのだ。これが安全。それくらい内川だって承知のはずである。
この三元牌にポンの声がかかり、次も同じ打ち手がポンなら大三元の可能性がある。場が一瞬にして凍りつく。一通が見えるからは切らぬまでも、切るなら自風の
である。しかし、内川は続けて三元牌を切り出す。4巡目までの河がこう。
そして、この時の手牌がこうだ。
私はこの時、内川のエンジンがかかり過ぎに見えた。遠くに三色が見えるが、手はカンチャンと辺チャンが残って愚形である。積極さは買うが、危険に見えたのである。だが、テンパイ一番乗りは内川だった。
(内川の河)
リーチ
入り目はである。今日の彼は前に出て戦って勝つ気なのだ。
ドラが1枚噛んだから出て2,600、ツモで1,000・2,000の手だ。待ちは苦しいが、河を見る限りツモ山にありそうなである。この時の3者の河はこうだ。
(親・柴田)
(南家・前原)
(西家・瀬戸熊)
しかし、ここで来たのが前原だ。自風のをポンして無筋の打
である。
ポン
ドラのと
のシャンポン待ち。しかし、これは残念ながら空テン。いくら豪腕ゴジラでも、5枚目のドラの
を引くのは無理だ。
親の柴田も、ただ指をくわえて見ているわけではなかった。
柴田
ツモ
1シャンテンだ。安全策で行くなら筋の。しかし、これは内川のロン牌だ。
柴田はここで無筋の切り。これは前原にも危険牌。柴田は親だから、放銃覚悟で一番強く構えたのである。これが功を奏した。
次巡ツモでテンパイ、即リーチだ。相手のロン牌を重ね、カンチャン同士の対決。
は残り1枚で、
は残り3枚。態勢的には柴田が有利だ。案の定だ、すぐに
を掴んで内川の放銃。
3,900はリーチ棒込みで4,900のアガリ。これは大きい。このとき裏目を食った内川は、何を思ったであろうか。
東1局1本場。ドラ
いいアガリの後は、好い手が入る。柴田が5巡目でリーチだ。
2巡目の初牌の切りから、この時点で柴田の気配は出ていたはずである。親の手は早くて相当の手…と。
しかし、この河では待ちも色も絞れない。これに飛び込んだのが瀬戸熊。この時、彼の手はこうだ。
ツモ
ここでオリるならの安全パイがある。しかし、真直ぐに
を打ち抜いた。開かれた柴田の手はこうだった。
リーチ ロン
瀬戸熊も2巡目の切りと
のトイツ落としを見て、柴田の手は相当の手と読んだはずである。しかし、それでも打ち抜く。これが瀬戸熊流である。
この時、瀬戸熊は痛いと感じたか、安めで助かったと思ったか。私は後者と見る。5,800は6,100である。今期の瀬戸熊は打てている、と私は感じたがどうだろう。
東1局2本場。ドラ
もうこれ以上、親にアガリをさせてはならない。麻雀のアガリはアガリを呼び連動するのだ。それも回を重ねるごとに、打点が高くなるのが麻雀。もうこれ以上加点させると、柴田の日で終わってしまう可能性がある。
そこで7巡目のポンで、親落としに向かう前原。ここは打点より、親落としが優先である。形は好いが、まだ1シャンテンだ。
やっぱり、柴田の手がどんどん膨らむ。10巡目でこうだ。
ドラ
面前なら四暗刻まで狙える手だ。鳴いてもトイトイと三暗刻で6,000オールがある。この時は生きていた。
しかしここで前原がもう一手進め、テンパイが入っていた。
チー
ポン
は前原のロン牌で、これで柴田のトイトイと四暗刻は未然に防がれた。
しかし、麻雀は生き物だ。どう変化するかわからない。
前原の手がピンズの両面に変化したとき、打たれるもある。いや、そうでなくても柴田のこの手のリーチも強烈である。
この形でツモなら三暗刻で6,000オールだ。
ここに13巡目、瀬戸熊のリーチが飛んで来た
リーチ
もう、何が何だか分らない。
勝ったのは前原で、で打ち上げたのは柴田だった。
これで無傷の前原が、リー棒込みで2,600の浮きに回る。ゴジラは見かけも怖いが、不気味である。
東2局。
この前原の不気味な親番を、2,000点で瀬戸熊が蹴る。打ったのは内川だ。
東3局。
親の瀬戸熊がツモリ三暗刻のリーチを打ったが、流局。
柴田の1人ノーテンで、3,000点の出費。これは少し痛いか。
東3局1本場。
ここは内川が、前原から1,300点のアガリ。リー棒込みで2,600の収入。
これで4人にアガリが出たことになる。内川は、初日が出てホッとしたことだろう。
東4局。
柴田がピンフ・ツモのアガリ。安手でもアガリして親を引くのは、好調の流れだ。
南1局。ドラ
6巡目に、柴田の親のリーチが入る。
リーチ ドラ
ドラのと
を引いてのリーチだ。
好調の流れだから、私はツモで3,900オールを予想。が、引いたのは
で2,000オールだった。
後は小場で流れて1回戦が終了。
柴田+25.3P 前原+6.1P 内川▲8.4P 瀬戸熊▲23.0P
2回戦。起親が前原で順に柴田・瀬戸熊・内川の並び。
東1局は流局。
東1局1本場は瀬戸熊のアガリ。
リーチ ツモ
ドラ
これが6巡目のリーチだ。残りツモが少なくなっていただけに、うれしいアガリだった。リーチ棒込みで5,300点の収入。瀬戸熊のこの半荘はトップで、1回戦の挽回が目安。しかし、柴田が沈みなら浮きの2着でもいい。
大事なことは柴田の連勝を防ぐことなのである。それならば点差はわずかだ。これは前原も内川も同じ考えのはずだ。
東2局。ドラ
10巡目に内川の先制リーチが入る。
リーチ ドラ
はリーチの直前に切られているから格好のねらい目である。打点も十分だ。その
が瀬戸熊の手に浮いている。そこに前原の追いかけリーチだ。
リーチ
この時、瀬戸熊の手はこうだ。
前原の欲しいは瀬戸熊の手に暗刻。これは無理だ。
は前原の現物。打たれてもおかしくない
だった。しかし、瀬戸熊はオリを選択し、より安全な1枚切れの
を選んだ。一瞬、流れるかと思われたが、前原が最後のツモで
を引き当て、2,000・3,900。リーチ棒込みで、これは大きい収入。親のかぶりは柴田だ。
このとき、瀬戸熊の顔に少しの微笑みが見えた。それはこうであろう。
(相変わらず、強い引きですね…)
もちろん、瀬戸熊以外の3人はがラス牌だったことなど知る由もない。
この後は小場で進んで、南3局。ドラ
内川はダブを鳴いてマンズの染め手。そこにこっそりテンパイを入れた前原。
ドラ
目が内川に向いているから、当然のヤミテンである。
これに飛び込んだのが内川だった。ここで、ラスでは前途多難である。
南4局は、内川のラス親。ドラ
今期負けると、何を言われるかわからない。
(まだ若いから…)(力不足さ…)
それは冗談じゃないと、8巡目にリーチをかける内川。
リーチ ドラ
2巡後、すぐに引いて2,600オールだ。
(どうだ!)である。しかしまだ、沈みの3着だ。
南4局1本場。ドラ
内川から10巡目にリーチ入る。今度はこれだ。
リーチ ドラ
待ちはイマイチだが、打点はある。
しかし流局間際、柴田にかわされて幕。これまでの成績はこうだ。
2回戦終了時
前原+25.3P 柴田+11.4P 瀬戸熊▲19.0P 内川▲17.7 P
3回戦。
親は前原で順に柴田、瀬戸熊、内川。
今度のマークは前原である。あのパワーで連勝させてはならない。南家の柴田は親落としにかけ、親が仕掛けたら北家の内川は牌を絞る。これが3人の暗黙の了解事項だ。しかし、麻雀は状況に応じて変化する。
東1局。ドラ
内川の手が軽く6巡目でリーチが入った。
(内川の河)
(内川の手)
リーチ ドラ
これで入り目が絶好のである。入り目に強さがあるし、受けは両面で待ち良し。そして打点がある。この三拍子がそろえば、ほぼアガリだ。粘った親の前原から、14巡目に追いかけリーチがかかったが、内川が引いて2,000・4,000。
東2局は流局。テンパイは親の柴田と内川だ。
1本場も流局。内川の1人ノーテンで、これはちょっと痛かった。
2本場。ドラ
親の柴田から、10巡目にリーがかかった。
ドラそばのが早いから、高そうに見える。やっぱりそうだ。
リーチ ドラ
これで入り目がである。受けは弱いが、入り目がいいし打点もある。アガリの予感がする。同巡、内川にもテンパイが入った。
暗刻で無筋のを切り、ヤミテン。内川も頑張ったが、柴田が
を引き当て3,900は4,100オールだ。これは大きいアガリだった。
3本場。ドラ
ここも柴田の早いリーチが飛んで来た。
2枚目のはツモ切りだ。そして手牌がこれだ。
ドラ
流れは今、自分にあると見て強気の押しだ。瀬戸熊と内川も押したが、をすぐに引いて2,600は2,900オールだ。これで柴田は、持ち点を5,1500伸ばして断トツ。
4本場。ドラ
今度は瀬戸熊が牙をむいた。7巡目のリーチだ。
(瀬戸熊の河)
待ちも高さも不明のリーチだ。
これに柴田が追いかける。
(柴田の河)
(柴田の手)
リーチ ドラ
打点は低いが、流れは好いし受けもいい。勝算はあったはずだ。
ここに内川も追いついた。
打牌は強いが、ヤミテンを選択。
しかしこの局、勝ったのは瀬戸熊だった。ツモったをコツンと置いた。
リーチ ツモ
これがドラで3,000・6,000。リーチ棒込みで14,200の収入。
(なめるンじゃないよ!)と思ったかどうか。
この時点で、3回戦の持ち点はこうだ。
前原11,600
柴田44,100
瀬戸熊37,200
内川27,100
東1局で、満貫をアガった内川も沈んだ。アガリのその多くがツモである。
たまらないのはアガリのない前原だ。しかし、ほかの3人から見たら理想の展開と言える。この回の柴田の浮きは仕方ないとしても、前回トップの前原がラス目なのだ。それで、よしとするところだろう。
この後は小場で流れてトップが柴田、2着が瀬戸熊で順位の変化はなかった。
3回戦までの総合得点はこうだ。
3回戦終了時
柴田+33.4P 前原+0.9P 瀬戸熊▲5.5P 内川▲28.8P
4回戦。
親は瀬戸熊で順に前原、柴田、内川である。
内川が、4回戦とも北家が気になるところ。しかも順位は、沈みのオール3着である。ここは踏ん張って、何とか失点を減らしてもらいたい。
瀬戸熊と前原は、柴田の山を削りたい。一方、柴田は(今日のできなら…+50Pは欲しい…)と思っているはずだ。
東1局。ドラ
好調の柴田から6巡目にリーチが入った。
早すぎて、待ちは皆目わからない。その手の内がこうだった。
リーチ ドラ
入り目は三色高めのである。受けの
は絞りカンチャンで、待ちの死角に入っている。ちょっと弱気になれば、オリ打ちがある。何千人といる視聴者の前で、こんなの打たされてはかなわない。
これはを鳴いていた前原が、300・500ツモってかわした。
東2局。ドラ
前原の親番。その前原が9巡目にリーチだ。
アガって引いた親だから、気をつけねばならない。3巡後、内川にもテンパイが入る。
ツモ
ドラ
はフリテンだから、これを切るのが普通。しかし、無筋でドラそば。ちょっと怖いので、中筋の
切り。すると2巡後、前原が
をツモ切る。内川のアガリ逃がしに見える。そして次に来た
を切ると、前原からロンの声。
リーチ ロン
安くてくそ待ち。これが悪名高いガラリーである。
しかし、ヤミテンなら内川はを切り、前原が
で打ち上げていたのだから効果てきめんである。前原が怖いのはこの後だ。
東2局1本場。
お互いにマークし合って仲良く全員ノーテン。
東3局2本場。
ここは手堅く前原がヤミテンで、柴田から2,000点のアガリ(積み場600)。
両面の好形でリーチもあったが、好調の柴田の親を意識したに違いない。
東4局。ドラ
12巡目、瀬戸熊がドラ切りリーチ。
リーチ ドラ
親の内川がそのドラをポンして、1シャンテンで突っ張る。
そしてテンパイを入れて引きアガる。
ポン
ツモ
リーチ棒付きで3,900オールだ。これは大きいアガリだ。
東4局1本場。ドラ
こんども早い瀬戸熊のリーチだ。
(瀬戸熊の河)
リーチ ツモ
ドラ
これは引いて1,300・2,600。
後は小場で回って、トップが前原。2着が内川で3着が瀬戸熊。ラスが柴田だった。この第4戦は大きく動かなかったため、態勢にそれほど開きはない。
総合成績はこれだ。
4回戦終了時
柴田+22.2P 前原+11.6P 瀬戸熊▲10.4P 内川▲23.4P
内容は濃かったが、点差は半荘1回分の動きでしかない。チャンスはみんなにある。
ここで一番若い内川が、どう立て直して来るのか。打ち方を変えて来るのか、打たれてもさらに前に出るのか。見ものである―。
カテゴリ:プロリーグ(鳳凰戦)決勝観戦記