プロリーグ(鳳凰戦)レポート

第29期プロリーグ A2 第2節レポート

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息音を立てるのもはばかれるような、冷たく研ぎ澄まされた空気を、熱い視線を送るギャラリーは誰もが感じていた。
今回から競技部の計らいで、A2リーグにも採譜が半荘1回ながらも入ることが決定した。

対局者が採譜されるからそのような空気、絶対空間になったことは全てではないにしても、
少なからず、良い意味での影響があったのは間違いのない事実だと思う。
どの卓に採譜を依頼しようか少し迷った。

「C卓はいかがでしょうか?」

瀬戸熊直樹十段の声である。

「何を考えているのか、どうしてわかるの?」

「前原さんは、前原さんだから・・・・」

禅問答のような答えだが、さすがである。
こういう部分は、一見、麻雀には何の役にも立たないように思う人がいたらそれは大きな過ちである。
麻雀は人の心理、背景の先の先を読むゲームである以上、麻雀プロの大切な資質である。

ちなみに、採譜することを競技部に提案してくれたのも瀬戸君である。
絶対空間をつくってくれたことをこの場を借りて改めてお礼申し上げる。

さて、C卓は、猿川真寿、仁平宣明、遠藤啓太、山井弘{荘家より}の各選手である。
起家である、猿川の6巡目の手牌。

四万五万六万三索三索七索四筒五筒五筒七筒七筒八筒八筒 ドラ三索

ここまでのツモは全て有効牌である。
4巡ツモ切りが続き、少しツモに焦れたのか戦略的なものか、若しくは打ち手にしか解らない対局感がそうさせたのか、
11巡目、上家の山井の手出し六筒をカンチャンで仕掛ける。

「盲点を突く仕掛け」と、私のメモに記してある。
猿川のこの仕掛けで最初にテンパイが入ったのが山井。

三万三万三万四万六万四索五索六索八索八索六筒七筒八筒

15巡目には、仁平にもテンパイが入る。

七万八万九万二索三索四索五索五索五索七索七筒八筒九筒

この牌姿になってもヤミテンに構えるのは仁平らしい。
テンパイ時の打牌二索を、遠藤が仕掛けてテンパイを入れる。

一万二万三万四万五万六万八万九万七索七索 チー二索三索四索

ただし、遠藤の場合、微妙な手順ミスがあり、本来この二索はアガリ牌だった。

一万二万三万四万五万六万一索三索七索七索一筒二筒三筒

一万二万三万四万五万六万三索四索七索七索二筒三筒四筒

手役に拘れば、上図のテンパイを組めただろうし、フラットに打てば下図だろう。
仁平の打二索と、遠藤の仕掛けに敏感に反応したのが、1番速くテンパイを組んでいた山井。
ツモ四万に珍しく少考に入る。

山井の真剣な表情を見ていた私は、まるで別のことを考えていた。
__人が真剣な眼差しを持って何かに対峙する表情は、何て美しいものなんだろう。
麻雀は、打つよりも観る方が楽しく感じられるのは私だけなのだろうか?
そんな不埒なことを考えていた。

山井の選択は、全員に唯一安全な打六筒。オリを選択するならば、この一打しかない。
ただ、次巡、危なげな牌を持って来たら、完全な手詰まりである。
それでも唯一の安全牌の六筒を打つのか、それだからこそ唯一の安全牌を切るべきなのか・・・・。

この打六筒は、前期の結果が打たせたものかも知れないし、前節の結果が打たせたものかも知れない。
さらに述べるならば、この打牌が正着打なのかも私にはわからない。
ただ、はっきり言えることは、山井がこの局面に対し悩み苦しみ勇気を持って決断し、選び抜いた打牌だということである。
勝負に対して誠実なのか、麻雀に対して誠実なのかさえ私には解らない。

でも、それで良いのだと思う。そんなことは解らなくても良いと考える。
少なくとも、山井は麻雀を絵合わせのゲームにはしていない。
そこさえ解れば良いと思うし、そこの部分だけはこの文を読む人に伝えたい。

山井の打六筒を、猿川が待っていました、とばかり仕掛ける。

四万五万六万三索三索四筒五筒 チー六筒七筒八筒 チー六筒五筒七筒

そして同巡、遠藤から三筒で5,800点を出アガる。

このアガリを、仁平は目を丸くして見ていた。
仁平は無表情な男かと思っていたが、さすがに、三筒六筒の3度受けには驚いたのかもしれない。
今局はやはり、猿川の対局感というよりも感性に近い1局なのだろう。

親番は流れて仁平に移り流れ2本場。
遠藤より4巡目にリーチが入る。捨て牌は以下の通り。

西白八筒 上向き四万 左向き ドラ一索

この遠藤のリーチを受けて、ノータイムでまるで安全牌を切るかの如く立ち向かって行ったのが猿川と山井。
ただし、山井と猿川に多少差異があるとすれば、山井は誰の河も見ていなかったが、猿川は山井の河と表情は目の隅に入れていた。

山井は6巡目にテンパイを入れていた。

一索一索九索九索南南北北発発中中白 ドラ一索

猿川も7巡目にテンパイを組んでいた。

二万三万二索二索二筒三筒四筒四筒五筒五筒六筒六筒七筒

私は観戦時移動しない主義であり、今回はコメントを誰にも求めないことに決めていた。
それでも我慢できず、その日の夜、猿川に電話を入れた。

「お前よくあれだけ不要牌をノータイムで打てるね?」

「遠藤さんのあの時の状態で、いきなり大物手は入らないでしょ?」

「うむ・・」

「それより、オリて山井さんに{勢いを}持っていかれる方が怖いでしょ?」

「確かに・・・じゃあ、おやすみ」

「おやすみなさい」

短い電話だったが、山井の手牌に関しては教えなかった。
今局の結果は、山井の遠藤への放銃で収束を見た。

四万五万六万七万八万七索八索九索一筒一筒三筒四筒五筒 リーチ ロン三万

私には、この遠藤のリーチの意味が良くわからない。
仁平の目がまた丸くなっていたことと、仁平の手牌に遠藤の現物であり山井のロン牌の白は手に残っていた。

南場を迎えた猿川の親番。7巡目にテンパイが入る。

四万四万五万六万七万一筒二筒三筒四筒五筒五筒五筒七筒九筒 ドラ中

猿川はこのテンパイを拒否して打五筒!次巡も、安全牌を持って打五筒と構えた。
この打五筒には正直驚かされた。

これは、猿川の大局観が打たせた一打に間違いないのだが、猿川のイメージからは想像したことがなかった。
東1局の三筒六筒の3度受けするのも猿川の一部分だろうし、今局の打五筒も猿川の一部分だということなんだろう。
麻雀プロがプロとして認められるのは、手順は知っていて当たり前、求められるのは手筋であり、個性である。

“男子三日会わざれば刮目して見よ”という言葉が頭を過ぎった。
この半荘は追い上げる山井とわずか100点差のトップで終わるとともに、
猿川自身、リーグ戦参加以来2度目の4連勝を鮮やかなまでの勝ち方で収束させた。

山井、猿川の「貴方にとってプロリーグとは?」のアンケートを記して今局のレポートの纏めとする。

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ある言葉を聞くまでは、自分の中で鳳凰位はすべてでした。
人生の中の目標でもあり、鳳凰位を取るために生きているといっても過言ではなかったでしょう。
ただ、それを達成してしまった時に、自分に何が残るのだろうと考えたことはありました。
そんな時、「私はその日の勝ち負けのためにやっているのはなく、一生をかけてそれを極めるためにやっているのだ」という言葉を耳にしました。
それは、ある勝負の世界に生きる人の言葉です。
それから私は、その日の勝ち負けにこだわるよりも、一生をかけて麻雀を極めることを目標にしようと思うようになりました。
なので、あなたにとってプロリーグ、鳳凰位とは?と問われれば、それはあくまで目指すべき目標の1つで、通過点に過ぎませんと答えます。
いつの日か麻雀を極めるその日まで・・・
山井弘

29_a2_02

プロリーグは鳳凰位を取るためのタイトル戦であるので、A2リーグはその過程と思っています。
ただ、連盟Aリーガーとしての麻雀を含め、責任は多少感じています。
鳳凰位はほとんどの人がそうだと思いますが、一番取りたいタイトルだと思います。
下のリーグの者は、タイトル戦という実感がわかずに少ないかも知れませんが。
自分は他のどのタイトル戦よりも、麻雀の調子や体調管理の調整をしています。
なぜなら、1年間の40半荘で来期の鳳凰位になれる権利が発生するかも知れないからです。
降級したら、その後は最短でも1年半かかりますが、降級のことは考えていません。
しないとか、負けないとか言うことではなく、降級するぐらいなら鳳凰位を現状取れないということの確認にしかならないからです。
最後に、自分はプロリーグを一番真剣に戦い、一番楽しんでいます。
1日(4半荘)の結果で、1年の結果が決まるケースも沢山ありますから。
こんな楽しい麻雀は他にないと思います。
猿川真寿

第3節組み合わせ

A卓 老月 貴紀 vs 山田 浩之 vs 吉田 直 vs 遠藤 啓太
B卓 中村 毅 vs 山井 弘 vs 板川 和俊 vs 四柳 弘樹
C卓 猿川 真寿 vs 黒沢 咲 vs 勝又 健志 vs 二階堂 亜樹
D卓 金子 貴行 vs 白鳥 翔 vs 仁平 宣明 vs 古川 孝次