プロリーグ(鳳凰戦)レポート

第29期プロリーグ A2 第9節レポート

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プレッシャーは技術では乗り越えられない__そう記したのは、将棋の谷川浩司である。
このことは将棋に限ったことではなく、競技と名のつくものすべてが同じことである。

ボクシング、カーレースなど、常に死と隣り合わせの戦いは、
技術などは必要条件であり、充分条件とは足りえない。
麻雀も同じことで、目に見える領域の技術と呼ばれているものは、勝負力とはまた別物なのである。

前節まで、猿川真寿、古川孝次、黒沢咲の上位3人の戦いである、私はそう記した。
私の予想では、この3人のうち1人、もしくは2人、この勝負処である9節は沈むと考えていた。
しかし、現実には数字の大小はあれ3人とも沈んだ。

黒沢咲
「今節は、いつものように真っさらな気持ちでリーグ戦に臨めなかったことが、
大崩れの原因だったと思います。
ここにきて悪い癖がでてしまった…という感じです。とにかく我慢がききませんでした。
今回の敗戦で、自分が思っていたよりも多くの人が、私に期待して応援してくれていたことを知りました。
残り1節、結果はどうであれ、今まで勉強してきたことを出し切れればいいなと思います。
応援してくれる人がいるし、恥ずかしくない麻雀を打ちたいです。」

猿川真寿
「今節の成績は、2着、3着、3着、2着の▲12.0Pでした。
今回は全く手が入らずに、テンパイ回数も極端に少なかったと思う。
3回戦終了時(▲26P)には、今節は▲50Pを覚悟した。
ここまでのアガリ回数が、たったの4回だったので、今日はもうだめだなと思っていた。
これには理由があって、1回戦、自らチャンスを不意にしてしまったからである。
好調に見えた白鳥の親を、タンピンツモの700・1,300で落とした次局。
配牌でドラ暗刻のチャンス手が入る。
東3局、東家で5巡目の時点で自分の手牌は、

一万二万三万四万六万六筒七筒東西西西中中  ドラ西

こうで、6巡目、上家の白鳥から中が切られた。自分の選択はスルーだった。
自分の基本スタイル的に、まず鳴いたことがない。
デジタル派には理解できないと思うが、オカルト派の私には当然の選択になる。
無論、私も鳴くのが悪いとも全く思わないし、効率的にも優れているのもわかる。
私は極端に、麻雀を局単位で考えることに対して淡泊なのだろう。
勝負事の考え方の前提が、他の人と違うのだと思う。
話を元に戻すと、なら鳴かなくていいじゃないかと思われそうだが、
この局に対しては鳴くべきだったと後悔している。
話は前々局(東2局2本場)まで遡る。
親で積んでいた白鳥が、中村のリーチに対して、巡目も深くなり形テンをとった。
これも普通といえば普通なのだが、自分にはチャンスに思えた。
結果論と言えばそれまでだが、鳴いた瞬間、本来のツモ牌は白鳥のテンパイ牌だった。
(流局して私を含む3人テンパイ)
そして、次局が先程書いた、私のツモアガリ。迎えた親番が、ドラ暗刻のチャンス手。
ようするに、私はあくまで相手のミスでチャンスをもらっただけだったのだ。
私の態勢が良いわけではないのに、中をスルーしたことに嫌気がさした。
今節、かかっていなかったと言えば嘘になるし、冷静な判断は効かなかった。
これを読んで、たいした成績も残してないのに偉そうだなと思われる人も多数いると思うし、
ごもっともだと私も思っているが、自己満足だとしても思っていることを書きたかった。

話を大分戻して、4回戦はこの日好調の白鳥のリーチに対して、無理やり押し返したのが、
結果的にアガリに繋がってプラスで終わることができた。
実際、「多分負けるだろうなぁ」と思う勝負をするぐらい、精神的にフラフラだったと言える。
そういう点では、今期は運があったと言えるだろう。
もう、私にも何を書いているのか分からなくなってしまったので、来節に向けての抱負を書きたいと思う。

古川さんを追いかける黒沢と四柳がぶつかることは火を見るより明らかなので、
展開としては悪くなさそうに思う。
当然、1位昇級を目指したいと思っている。
戦い方は、守らずに普段通りのほうが崩れにくそうなので、あまりポイントを意識せずに戦いと思っている。」

黒沢はいつものようにまっさらな気持ちでリーグ戦に臨めなかった、と記し、
猿川は、自分自身のプレイに嫌気がさしたと記し、「多分負けるだろうなぁ」と思う勝負をするぐらい、
精神的にフラフラだったと言えると記している。

彼らの言葉の全てがプレッシャーという、
目に見えない曖昧模糊(あいまいもこ)としたものをしめしているのである。

麻雀という戦いは、一見目の前の相手と戦っているように思われるがそうではない。
自分自身との闘いなのである。
色紙にサインを求められた時に、

「麻雀は自分の弱さと向き合うゲーム」

私は時折、そう記す。
勝ちたいと思う心、負けたくないと思う心、脅える心、すべては欲であり、
その欲がプレッシャーを生じさせる。

今節の採譜卓は、遠藤啓太、勝又健志、山井弘、黒沢咲。
東1局、西家の山井からリーチが入る。

二万二万一索二索三索五索七索四筒四筒五筒五筒六筒六筒  リーチ  ドラ五索

それに立ち向かったのが勝又。絶好の”>四万を引き込み追いかけリーチ。

二万三万四万三索四索五索六索七索二筒三筒四筒五筒五筒  リーチ

決着は山井の放銃で決まる。
勝負処は南3局。親番の山井のテンパイ。

一万一万三万三万四万五万五万七索八索九索七筒七筒七筒  ドラ南

南家の黒沢は1シャンテン。

一索二索三索七索八索八索東東東南南白白

西家の遠藤はテンパイ。

四万四万二筒二筒五筒五筒五筒西西西  暗カン牌の背六索六索牌の背

北家の勝又はテンパイ。

六万七万八万九万九万七索八索九索二筒三筒三筒四筒四筒

勝又、次巡の白をツモ切るとポンの声は黒沢。
本来、山井のツモるはずだった四万は、遠藤の手元に手繰り寄せられる。

「ツモ、8,000・16,000」
そう発する遠藤の声は、僅かに震えを帯びていた。

山井は、はい、と言って何事もなかったかのように、点棒を支払っていたが、
山井の瞳に哀しみは映っていなかったが、
どのような気持ちで本来ツモるはずだった四万を見つめていたのだろう。

初戦が終わった時点で山井は暫定15位。
昇級争いもプレッシャーがあるのだが、降級争いも全く別のカタチのプレッシャーが存在する。
何事もなかったかのように柔らかな所作で、山井が場所決めをしているのを見ながら私は席を離れた。
__山井は無理だな・・・正直、私はそう思った。
近しい間柄にある分だけ、客観的な判断は叶わないが、そう思った。
私の予想を裏切るかのように、山井は今節トータルポイントをプラスに纏め上げた。

山井弘
「今節は何とか浮くことができ、最終節に望みを繋げることができました。
※情けない話ですが、残留にということです。

何年か前の、最終節が始まる前、藤原さんに尋ねたことがありました。

僕「タッキー大丈夫ですかね?」
藤原「ここで降級するようなら、それまでだってことだよ」

滝沢和典君がA2リーグで降級争いをしていた時のことです。
藤原さんの言う通り、ここで降級するようならそこまでの実力。
そして滝沢君は、その年、自らの力で残留を勝ち取りました。

プロリーグに参加しているプロ全員に言えることだと思うのですが、
僕たちはみな、A1で戦うために、または鳳凰位決定戦で戦うために、今ここで戦っているのです。
だから、その舞台で戦うためには、A2リーグだろうと、CリーグだろうとDリーグだろうと、
しっかりと実力を身につけて行かないと、上に行ったとしても、
実力が備わっていなければちゃんと戦えないのではないかと思うのです。

自分に今期、もし降級という結果が待ち受けているのであれば、
それはもう一度下に行き、実力をつける必要があるということだと受け止めようと考えています。

滝沢君は現在B1リーグで戦っています。
今節、ようやくそこで首位となりました。
一度はその辛酸を味わい、この1年は辛い思いもしたことだろうと思いますが、
その1年が彼をさらに成長させたのではないかとも思っています。
そして、来期は必ずやA2に戻ってくることでしょう。

そんな彼と、またA2リーグで戦うためにも、いや、何年か先の鳳凰位決定戦で戦うために、
残された最終4半荘は、悔いのないよう戦います。
そして、自らの手で勝利を勝ち取りたいと思います。(残留ですが・・・)
それで、もしダメだったとしたら、また実力をつけて、
今度はちゃんと戦える力をつけて昇りつめたいと思います。」

山井が今節プレッシャーを跳ね返せたのはコメントを読めば解る通り、
今期、もしくは1年単位でプロリーグを戦っていないのである。
人生という長いスパンでプロリーグを捉えているように思える。

遠藤啓太
「リーグ戦も今節を入れて後2節、昇級・降級各自ポイントの取り方も考えて戦って来るので、
1つ間違えると大きなマイナスもありうる状況だと思い、私は出来るだけ丁寧に打ち、
チャンス手では攻める姿勢を考えて対局に望みました。

1回戦東1局、勝又プロのと山井プロの戦いで、私は一歩遅れる形だった為、
前に出る事を避けて、ゆっくり打ちますことを考えて構えていました。
この勝負に勝又プロが勝ち、次局以降もしっかり打っている感じがしたので、
1回戦は勝又プロがある程度主導を取った流れで行くと思っていました。

予想通り勝又プロは攻守バランスの取れた打ち回をし、場が進んでいたので、私は対局前に掲げていた
丁寧に打つ事、じっくり打つ事に比重を置いてチャンスを伺っていました。

東場が終わり、調子が良さそうなのは勝又プロで変わらないのですが、
黒沢プロの良いアガリが何回か有り、南場で大きなアガリがあるかもしれないとマークしていました。

南3局(山井プロの親番)
東1局に打ち込みましたが、以降、山井プロも大きな崩れも無く、終始前向きな姿勢が感じられ、
この山井プロも要注意と感じていました。
勝又プロが優位なのは変わりませんが、まだ全員がトップを狙える状況。
親番の無くなっている私は、若干不利な状況の為、この局で満貫以上の役を目指す事を考えていました。

今局も前局もそうだったのですが、どうもツモが縦に寄っていたので、
七対子の方向に進めて打つ事を考えていました。
早々西が暗刻になり、アガリ選択の幅が増え勝負になると思っていました。
本線七対子と思い進めていましたが、六索ツモの感触が良かったので四暗刻を意識しました。

結果、四万ツモで四暗刻をアガリトップを取ることが出来ましたが、
本当にワンチャンスだけ活かした結果ですので、運に助けられたのかもしれません。
次節は、内容の良い麻雀を心がけ、私の出来る事を全てぶつけて対局に望みます。」

遠藤に対して厳しい見方かも知れないが、役満、四暗刻をツモアガった以上、
もっとポイントをプラスできたように思う。
私見ではあるが、国士無双などと違い、四暗刻はエネルギーの塊の役なのだから、
それを活かせたように思えてならない。

勝又健志
「1回戦での東1局、東3局の2つのアガリには、相当手応えを感じていました。
それにも関わらず、南3局に中途半端な選択をしてしまったことが本当に悔やまれます。
遠藤さんに四暗刻が入っていて、さらに二筒五筒がそこに固まっているだろうということは、
ある程度読めていました。
その中でも、勝負をかけポイントを伸ばしにいくならば、リーチを打つべきですし、
待ちの悪さや相手の手牌との兼ね合いから、自分の局ではないと判断し、
受けるならば三筒を打たなくてはなりませんでした。ここで、自ら勢いを失ってしまったと思います。
残り1節、厳しいポイント差ではありますが、精一杯自分の麻雀を打ち切りたいと思います。
また、少しでも昇級の可能性が高まるよう全力で勉強していきます。」

私の目から勝又は、好く打てていたように映ったが、目指すべきところが高いのだろう。
次節に期待できそうである。

板川和俊
「今節を迎えるにあたって、原点に立ち返り対局に臨みました。
相手やトータルポイントを気にするあまり、自分らしさが出し切れていないと感じていたので、
周りを気にすることなく、自分の麻雀を打ち切ることだけに専念しました。
最終節も自分らしい麻雀を打てるよう準備します。結果は後からついてくるものですから。」

板川、勝又、四柳がポイントを伸ばしたのは本人たちの力もあるが、降級争いもほとんど関係なく、
下を見ず、上だけを見ることのできる、プレッシャーを感じなくて良いポジションにいることが大きい。

古川孝次
「不思議なものである。前の二階堂亜樹との対戦も、彼女に分があって私のマイナス。
今回の対戦も、不安な予想が当たってしまった。
7,700、5,200、7,700と3回も大物手にブチ当たってしまった。
猿川が抜けて2着のシートを争うことになるが、次回の対戦、黒沢とのマッチレースになるだろう。
現在、私のトータル2位から6、7位ぐらいまで混戦模様。
次節(最終節)はトータルトップを狙うつもりで対戦しなくては、黒沢も私を抜かないと2位通過は無理。
前から言っているように、今年がA1に上がれる最後の最後だと思って勝負に望む所存である。」

古川の場合はプレッシャーよりも、覚悟が上回ったということだろう。
残り1節、結果に関しては昇級争いも降級争いも熾烈を極めて予測がつかない。
誰にも落ちて欲しくはないし、誰もが昇級してほしい・・・などとありえないことを思う。

どの卓も見る側にとっては面白く、戦う本人達にとっては身を削るような戦いが繰り広げられる。
連盟の下位リーグに在籍しているプロは、強くなりたいならば、観るべき対局だと思う。
そこには間違いなく魂の一打があるはずだから___。