女流プロリーグ(女流桜花) 決勝観戦記

女流プロリーグ(女流桜花) 決勝観戦記/第9期女流桜花決定戦 初日観戦記 櫻井秀樹

【プロの価値】
奇しくも去年と同じ面子での決勝となり、話題を呼んだ第9期の女流桜花。
プロ連盟にはこの女流桜花とプロクイーンという女流プロのいわば2大タイトルがある。
そしてここ数年、この2つのタイトル戦にほぼこの4名の誰かが絡んでいる。
麻雀という競技の性質上、短期戦で常に同じ人間が勝つということはなかなか起こらない。
ましてやプロを名乗り、日々麻雀にあけくれる者たちの集団ならなおさらだ。
私は麻雀プロとしての価値の求め方は各々いろんな方向性があってよいと思う。
華やかに業界を盛り上げる事ももちろん重要だし、ファンの方々や視聴者に麻雀の楽しみ、醍醐味を伝える事も、麻雀の普及に全力を注ぐのもすばらしいことだろう。
そしてここにいる4名は「自身のプロとしての価値」をどこに見出そうとしているのだろう?
おそらく「勝つこと」が自分の存在価値と捉えているのではないだろうか?
近年の彼女たちの活躍を見ると、そう思わざるをえないし、そうであってほしいとも思う。
 
 
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【安田麻里菜】
昨年はノートップながらも安定した守備力でマイナスを最小限に抑え勝負を盛り上げた。
今期のプレーオフも一見有利な立場からのスタートに見えるが、実はかなり難しい条件をこなしての決勝進出。
最近はかなり攻撃力もついたという事で是非この1年での進化を見せてもらいたい。
ちなみに安田は、今期のC3リーグを危なげない成績で見事優勝している。
 
 
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【和久津晶】
ご存じ超攻撃型麻雀アマゾネス。放銃(う)っても放銃ってもその倍アガり返す麻雀はファンを魅了し、勝負を盛り上げる。
6,000オール3発でのプロクイーン奪還は記憶に新しい。プレーオフでも大爆発大マクリの決勝進出だが、彼女であれば別に奇跡でもなく日常の事のように思えてしまう。
今期のB2リーグでも楽勝のところから70ポイント沈むもギリギリ踏みとどまり昇級。来期はB1リーグだ。
 
 
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【魚谷侑未】
最速マーメイドという名をここ数年で何回聞いただろうか?
「麻雀しかない、負けたら自分の価値はない」と言い切る彼女は、結果を出すのが難しいといわれる短期戦での対局実績も凄まじく、勝ちにこだわるその麻雀スタイルに惹かれるファンも多い。
そのモチベーションから来る高い集中力は、桜花連覇の時より一層磨きがかかっている。
彼女も今期C1リーグで、最終戦に小四喜をツモりBリーグへの昇級を決めている。
 
 
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【吾妻さおり】
現女流桜花。昨年初決勝で見事初戴冠。手役を重視しどこまでも踏み込んでいくスタイルはまさに王道。最終局も桜花の名にふさわしい美しいアガリで逆転。
現桜花であるため、対局の配信はなかったが、特昇リーグでは優勝。1半荘で120P近いプラスをするなど、恐ろしい程の破壊力を見せつけた。
そのため、来期はBリーグへの特別昇級が決まっている。
麻雀プロにはタイトルを獲ってから急激に成長するものがいる。吾妻も今年1年はいろんな意味で環境の変化があったはずだ。
そして今年は狙われる立場となり、受けるプレッシャーは去年以上となるだろう。
「進化した吾妻をお見せしたいと思います」
それはきっと他の3名も同じ。みんなここで勝つための1年を過ごしてきたのだから。

100

 
1回戦 (起家から、安田・吾妻・和久津・魚谷)
東1局、2局と魚谷が連続でアガリをとる。
打点こそないものの魚谷らしいロスの無い手順で安田、和久津の勝負手を潰す。
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東3局、魚谷、和久津の本命コンビに微妙な選択。
南家・魚谷が9巡目にこのリーチ。
二万三万九万九万九万三索四索五索五筒五筒五筒北北  リーチ  ドラ二万
一見して普通のリーチだが、一万は場に4枚(ドラ表示含め)
それでもツモで1,300、2,600ならば魚谷にとっては当たり前のリーチか。
しかし、オヤの和久津が大チャンス。
二万三万四万七万七万三索四索二筒三筒四筒七筒八筒東
18,000が見えるこの手牌、超攻撃型の和久津でなくても全て押す一手。
当然のように無筋をいくが、終盤安田からもリーチが入り、六筒をしぶしぶチー。
2を魚谷から打ちとり、勝負局を制した価値あるアガリのようにみえた。
が、和久津は7巡目に、
二万三万四万七万七万八万三索四索二筒三筒四筒七筒八筒  ツモ南
この形から八万を切っている。直後に六万をツモり、魚谷のリーチ後八筒ツモ、チーした後に下家の魚谷から二索でロン。
南を残さずとも、六万ツモ切りでアタマを決める手もあるだけに結果論のように見えるが、6,000オールになっていた人も多い事は間違いない。
いや、いつものアマゾネスなら捉えていたように思う。
どこかずれていたのか?
この局の結果がそのまま初日のポイント結果となったようにも見えた。
終了後のインタビューで、和久津本人も悔いていた局であった。
続く東3局1本場、魚谷が痛恨の放銃。
11巡目 西家 安田のリーチ
二万三万三万四万五万三筒三筒四筒五筒六筒  暗カン牌の背九万 上向き九万 上向き牌の背  リーチ  ドラ三万
同巡、南家・魚谷
一万一万二万三万四万五万七万七万三索四索四索五索六索  ツモ四万
ここからタンピンを見、打一万として放銃。
七万が安田のリーチ宣言牌だけに、ここは打七万とするのが魚谷の麻雀ではないだろうか?
ただ、本人もこの瞬間は後悔はなかったのだろう、この後もブレることなくいつもの自分の麻雀を打ち続けるが、アガリを取る事はできず、1人沈みのラススタートとなってしまう。
1回戦成績
吾妻さおり+21.4P 和久津晶+10.6P 安田麻里菜+3.0P 魚谷侑未▲35.0P

100

 
2回戦 (起家から、和久津・吾妻・安田・魚谷)
1回戦トップの吾妻が冴えている。
東2局1本場、オヤの吾妻。5巡目にこのテンパイ
一万二万三万一索二索三索七索八索九索一筒三筒六筒六筒  ドラ五万
44,700点持ちからここはなんとヤミテンを選択。
五索 上向き三万 上向き七万 上向き三筒 上向き七万 上向き
捨て牌はこうで変則的ではあるが、4巡目の三筒をノータイムでツモ切りしており、手役は絞り込めない。
解説陣も満場一致でリーチを打つと。
ところがこれがズバリとハマり、すぐに安田から二筒を打ち取る。
なんと二筒は和久津が暗刻で、すでに山には残っていなかった。
リーチならば安田もまず打たないので、ドラドラで好形1シャンテンの魚谷(すぐにテンパイが入る)の反撃に遭うところであったのだ。
昨年の吾妻はメンゼンで手役を仕上げると常に前に出て打ち合っていた印象だった。
これが進化の形なのだろうか?この後も意外な仕掛けなども使用し、去年とは違う形を見せてきた。
一方、守備から一転して重い一撃も打てるようになった安田、南1局には素晴らしい攻撃を見せてくれた。
オヤの和久津のリーチと、タンヤオ仕掛けの吾妻に対して、
三万三万五万六万六万六索六索七索七索八索発発発  ツモ三万  ドラ五万
ここからドラの五万を勝負!その後ツモ六万でツモり四暗刻のリーチを打つ。
結果は和久津のツモアガリ。
この半荘ラスとなるも、新しい安田が垣間見れた見応えのある1局であった。
2回戦成績
吾妻さおり+17.5P 和久津晶+5.4P 魚谷侑未▲8.9P 安田麻里菜▲14.0P
2回戦終了時
吾妻さおり+38.9P 和久津晶+16.0P 安田麻里菜▲11.0P 魚谷侑未▲43.9P
 
3回戦 (起家から、安田・魚谷・和久津・吾妻)
吾妻の2連勝。昨年の初日爆発を彷彿とさせるスタート。
一方、今年も苦しいスタートは魚谷。まだ12分の2が終わったに過ぎないとはいえ、これ以上離されれば2日目以降が苦しくなるのは明白。
その魚谷がようやくらしいアガリを見せる。
東2局、5巡目の北家・安田の先行リーチ。
二万三万四万五筒五筒六筒七筒八筒南南南白白  リーチ  ドラ八筒
これを受けてオヤの魚谷は宣言牌の四万をチー
五万六万八索九索二筒三筒四筒五筒七筒八筒八筒  チー四万 左向き二万 上向き三万 上向き
現物の八索切り。
河には九索を2枚並べているが、ドラドラだけにタンヤオへの移行も見たバランスの良い手組。
そして、テンパイから時間はかかったものの、終盤に2,000オールのツモアガリ。
五万六万二筒三筒三筒四筒四筒五筒八筒八筒  チー四万 左向き二万 上向き三万 上向き  ツモ七万  ドラ八筒
また、南場のオヤ番でも持ち前の鋭い切れ味を発揮。
南2局 東家・魚谷、リーチを受けながらもしっかり攻め返し流局。
一万二万三万七万八万九万三筒四筒五筒七筒九筒西西西  打西→流局  ドラ八筒
1本場はここから南をポン。
五万六万七索八索三筒七筒八筒九筒南南白白白  ドラ七筒
七万チーで七索単騎。
七索七筒八筒九筒白白白  チー七万 左向き五万 上向き六万 上向き  ポン南南南
さらに、南家・和久津のリーチをうけ、リャンメンに受け変えアガリをもぎ取る。
七索八索七筒八筒九筒白白  チー七万 左向き五万 上向き六万 上向き  ポン南南南  ロン九索
賛否両論ある仕掛けだが、決まるかどうかわからない4,000オールより、受け入れを増やし7,700を狙える手組。
さらにはリーチを受けたのなら、打点を下げてでもアガリ率を優先。
抜群のバランス感覚を持つ、魚谷ならではの見事なアガリである。
2本場
六万七万八万四索五索五筒五筒中中中  ポン七索 上向き七索 上向き七索 上向き  ロン三索  ドラ七索
3本場、ついに面前で最速の大物手を決める。
二万二万六万七万三索四索五索五索六索七索五筒六筒七筒  ツモ五万  ドラ六索
魚谷麻雀の真骨頂とも言える連荘で、3回戦は魚谷が1人浮きのトップ。
マイナスを一気に取り戻す。
3回戦成績
魚谷侑未+37.3P 吾妻さおり▲3.7P 和久津晶▲12.4P 安田麻里菜▲21.2P
3回戦終了時
吾妻さおり+35.2P 和久津晶+3.6P 魚谷侑未▲6.6P 安田麻里菜▲32.2P
 
4回戦 (起家から、魚谷・和久津・吾妻・安田)
この半荘が初日の最終戦。
昨年のノートップから未だトップの無い安田。
今年は一歩踏み込みを深くしているように見えたが、ようやくその姿勢が形になる。
東4局2本場、オヤ吾妻のリーチ、和久津の仕掛けに対して、苦しい形ながら押し切りハイテイで跳満のツモアガリ。
二万二万二万三万四万六万六万六筒六筒七筒七筒八筒八筒  ハイテイツモ六万  ドラ七筒
迎えたオヤ番では、絶妙なヤミテンと強引なリーチを使い分け、持ち点を59,700点まで伸ばす。
トータルをプラスに戻し、吾妻にせまる。
ところがここから好きにさせてくれないのがこの面子。
もともと攻撃的な3人は、荒れ場は大歓迎とばかりに、
吾妻 4,000・8,000
二万二万六万六万八万八万九万九万南西西発発  リーチ  ツモ南  ドラ南
魚谷 6,000オール
二万三万四万五万六万二索三索四索二筒三筒四筒七筒七筒  リーチ  ツモ七万  ドラ五索
和久津 2,000・3,900
四万四万五万六万七万四索五索三筒四筒五筒中中中  リーチ  ツモ三索  ドラ三索
点棒を削られ続け、終わってみれば安田は4万点台の普通のトップ。
それでも1人浮き、なにより決定戦でようやくのトップで、少しホッとできたのではないだろうか。
4回戦成績
安田麻里菜+24.7P 吾妻さおり▲1.3P 魚谷侑未▲6.5P 和久津晶▲16.9P
初日終了時
吾妻さおり+33.9P 安田麻里菜▲7.5P 魚谷侑未▲13.1P 和久津晶▲13.3P
 
なんと今年も昨年同様、初日は吾妻の1人浮きで終えた。
参考に去年の初日成績を下記しておく。
第8期女流桜花決定戦 初日終了時成績
吾妻さおり +92.5P
和久津晶  ▲10.3P
安田麻里菜 ▲37.4P
魚谷侑未  ▲44.8P
今年も初日は吾妻のできが良かった。だが、昨年よりポイントが伸びていないのは懸念点なのだろうか?
いや、本人はそうは思っていないはず。これはむしろ成長の証である、と。
こちらから見てもただがむしゃらに向かっていった1年前とは違い、しっかり押し引きのバランスが取れていたように見える。
安田、魚谷も同様。
吾妻の猛攻撃になすすべがなかった昨年とは違い、それぞれが個性、進化をアピールしてきた。
1人和久津がおとなしい。
だが、彼女の後半の追い上げパターンを考えれば、このくらいのマイナスはむしろ丁度いいのかもしれない。
上から下まで一撃で並ぶ点差。
2日目の初戦、4人はどういう戦略を打ってくるのか?
はたして誰が突き抜けるのか?
激戦必至の熱い戦いを見逃すな!