女流プロリーグ(女流桜花) 決勝観戦記

女流プロリーグ(女流桜花) 決勝観戦記/第9期女流桜花決定戦 最終日観戦記 櫻井秀樹

2日目終了時成績
安田麻里菜 +79.8P
吾妻さおり +21.0P
和久津晶  ▲23.0P
魚谷侑未  ▲77.8P
5回戦から8回戦までを5連勝でトータルトップを独走する安田。
解説の藤崎鳳凰位も言っていたが、タイトル戦の決勝で5連勝は聞いた事がない。
これが新しい安田の麻雀なのか?
しかし、追う3人も簡単には逃がしてくれないだろう。最終局が近づくごとにプレッシャーが増して行くのか?
それとも最終局を待たずして勝負を決めてしまうのか?
4人にとって最終戦の初戦は大きな意味を持つ。

100

 
9回戦 (起家から、和久津・安田・魚谷・吾妻)
東1局 オヤの安田は2局連続でテンパイを入れるも、和久津がうまく立ち回りアガリを阻止。
3者からすれば安田の加点だけはなるべく阻止したい。
しかし最終日も安田のバランスは変わらず、受ける局はしっかり受け、先手を取れば間違わず加点する。
余程の事がなければここから点棒を引き出すのは困難か。
ところが3人の執念が通じたか、東4局に事件を起こす。
東4局 東家・吾妻
一万二万三万九万九万九万一索二索三索一筒二筒北北  ロン三筒  ドラ北
放銃は安田、三筒は絶テンとはいえ、すでに16巡目。
自分もシャンテンだが、下家の魚谷の仕掛けに受けてフリテン含みの愚形。
ここは七万を中抜きでもよかったか。
しかし状況はオーラスでさらに激変する。
オーラス1本場 東家・吾妻 10巡目
四万五万六万七万八万五索五索五索一筒一筒六筒七筒八筒  ドラ七筒
45,200持ちからこのリーチ。しかし三万はフリテン宣言牌は七索とかなり微妙。
2,000オールは悪くは無いが、九万は3枚切れという事も加味すると少し危険な気がするが。
結果は、安田のドラ単騎七対子リーチに放銃。原点復帰させてしまうという3者にとって最悪の結果に。
100
9回戦成績
魚谷侑未+19.1P 吾妻さおり+8.9P 安田麻里菜+2.8P 和久津晶▲30.8P
9回戦終了時
安田麻里奈+82.6P 吾妻さおり+29.9P 和久津晶▲53.8P 魚谷侑未▲58.7P
 
10回戦 (起家から、和久津・吾妻・魚谷・安田)
和久津、魚谷としてはもう3連勝が条件。1局たりとも落とせないし、特にオヤ番が重要となってくる。
逆に安田は、9回戦の道中で縮まった点差を思い出せば、やはり残り2回となった時点で80ポイントは差をつけておきたい。
ここでトップをとればほぼ当確か。
一番フラットな状況で打てるのは吾妻であろう。
だが、9回戦のオーラスがあまりに痛い。引きずっていなければよいが・・・
東場の安田は、先程のオーラスのアガリが相当気分良かったのか、もしくは勝利を確信できたのか序盤から積極的に加点、後のない和久津、魚谷も利用し、吾妻をラスを押しつけようとする。
しかし、平常心を取り戻していた吾妻は勝負手をオヤの魚谷から出アガる。
東3局 北家・吾妻
三索四索五索六索七索八索九索  ポン東東東  ポン中中中  ロン三索  ドラ一筒
魚谷もこれをツモアガればまだわからないという勝負リーチであった。
五万五万三索三索五索五索一筒一筒三筒三筒七筒七筒八筒  リーチ  ドラ一筒
仕掛けている吾妻に対して牽制の意味もあったかもしれないが、さすがに枚数的に分が悪すぎた。
本来ならダマテンの選択肢もある手牌だが、点数状況を考えるといたしかたないだろう。
これで吾妻は原点復帰で少しほっとでき、あとは安田の点棒をいかに削るか、であったが。
南1局1本場 北家・安田
一万二万三万七万七万八万八万九万九万一索二索七筒七筒  ロン三索  ドラ七筒
魚谷から5,200の出アガリ。これがわずか6巡目である。
痛いのは魚谷だけではなく追いかける吾妻もだろう。
10回戦は目論見通りか、再度安田がトップ。
吾妻も浮いてはいるものの、安田の押し引きの秀逸さ、安定感を見せつけられ、正直点差以上の差を感じた9、10回戦では無かっただろうか。
10回戦成績
安田麻里菜+24.2P 吾妻さおり+9.9P 魚谷侑未▲14.0P 和久津晶▲20.1P
10回戦終了時
安田麻里奈+106.8P 吾妻さおり+39.8P 魚谷侑未▲72.7P 和久津晶▲73.9P
 
11回戦 (起家から、魚谷・和久津・安田・吾妻)
2半荘を残してポイント的にはおおよそ安田、吾妻の一騎打ち。
しかし、別室で観ていた私は、吾妻には申し訳ないが優勝はほぼ安田で決まりだと思っていた。
まだまだ私自身が麻雀をわかっていない事の再認識でもあり、全く情けないのだが、それだけ安田の出来が良すぎたのだ。
2半荘で60ポイント差はありえない事ではない。が、今日安田が大きなラスを引く事は想像できなかった。
事実11回戦も何事もなく進んでいく。なんせ吾妻はテンパイを全てと言っていいくらいリーチしなければならない。
1回空振るごとに安田の優勝が近づいていく。
しかし、3人にも意地がある。
魚谷、和久津も満貫のツモアガリをみせ
東3局 西家・魚谷
100
一万二万三万三万四万五万三索四索五索八索八索七筒八筒  ツモ九筒  ドラ八索
南1局 和久津
100
二万二万二万三万四万五索六索七索八筒八筒  暗カン牌の背三筒 上向き三筒 上向き牌の背  リンシャンツモ二万  ドラ八筒
小さいながらもようやく安田にラスを押しつける事ができた。
しかし、ラスを引いたものの、安田に失着は無かったように見える。
このまま逃げ切るか?
長い最終戦が始まる。
11回戦成績
魚谷侑未+13.8P 吾妻さおり+6.6P 和久津晶▲7.7P 安田麻里菜▲12.7P
11回戦終了時
安田麻里奈+94.1P 吾妻さおり+46.4P 魚谷侑未▲58.9P 和久津晶▲81.6P
 
最終12回戦 (起家から、吾妻・魚谷・和久津・安田)
魚谷、和久津は積極的に局を潰しに来ないと考えると、キーはもちろん吾妻の2回のオヤ番。
これをどう安田が流すかというところが最終戦のポイントであろう。
規定により起家は吾妻。
早いテンパイが続けて入り、打点は無いものの流局とツモアガリで加点。
当然3者は後手を踏むと前に出てこない。
2本場、安田が仕掛けてアガりきり、桜花へ向けまずは山をひとつ越える。
二万三万七万七万六索七索八索五筒六筒七筒  ポン中中中  ロン一万  ドラ一索
そして最後の山、南1局吾妻のオヤ。ここを越えれば安田は初の女流桜花戴冠のカウントダウンだ。
吾妻36,000点持ちトップ目  安田26,300点の3着
現段階でのトータル 吾妻60.4P  安田86.4P
並びには6,000オールか12,000の直撃。
南1局 東家・吾妻
四万五万六万四索五索三筒三筒三筒五筒五筒  暗カン牌の背西西牌の背  リンシャンツモ六索  ドラ五索
3,900オール
南1局1本場
六万六万二索三索四索七索八索九索六筒六筒  チー二筒 左向き三筒 上向き四筒 上向き
1人テンパイ
南1局2本場
二万三万四万五万七万三索三索一筒一筒二筒二筒三筒三筒  ツモ六万  ドラ一筒
3,900は4,100オール
100
これが現女流桜花の力か。
あまりにも高い最後の山を、ついに安田は登りきることができなかった。
結局5本場まで続いた吾妻のオヤ、積み上げた点棒は7万点オーバー。
まさにストロングスタイル(王道)のゲーム展開。最終半荘だけで勝負を決めてしまった。
12回戦成績
吾妻さおり+40.9P 和久津晶+22.2P 安田麻里菜▲21.5P 魚谷侑未▲41.6P
最終成績
吾妻さおり+87.3P 安田麻里奈+72.6P 和久津晶▲59.4P 魚谷侑未▲100.5P
 
【対局を終えて】
魚谷は最終日の前に、すでに優勝の可能性は厳しいものだった。
しかし応援してくれるファンがいる以上、諦める事は許されなかった。
苦しかっただろうし、長い1日だっただろう。
しかし本当に最後まで諦めず、かつ試合を壊さないように打っている姿には本物のプロとしての力を感じた。
来年こそは優勝争いの中でその力をみせてほしい。
今期の和久津はプロクイーンの激戦後という事もあり、少し前へ出る気迫というものが薄れていないか心配であった。
最終戦になってやっと和久津らしい麻雀をみせてもらい、ファンの方も少しは安心したところもあったのではないだろうか?
来年、まずはプロクイーンの連覇、そしてまた桜花にも挑んでほしい。
今回、私は最終日のみ何度も動画や牌譜を見返した。
どうしても安田の敗因が見つけられなかったからだ。
本人にもいろいろ聞いてみたが、しっくりとした答えは出ていない。
麻雀だから、と言ってしまえばそれまでなのだが、こんな悔しい負け方はなかなか無いだろう。
最終戦の役無しテンパイのヤミテンも、いつも通りの安田で、あれをヤミテンにしてきたからこそこの位置にいる。
が、それでももしかしたら、あれをリーチに行き、オーラスをヤミテンにするのが決勝戦なのかもしれない。
結果論のみ議論するのは愚かである。ただ、結果しか意味の無い世界であり、結果のみを欲するのがこの決勝戦であることもまた事実。
安田にはこの難問をクリアして、また挑戦してほしい。
最終戦の吾妻はまさに圧巻であった。
挑戦者の攻撃を受けるだけ受けて、最後に逆転勝ち。
これが王道、と思わせるスタイルで、まさに桜花の名にふさわしい美しく力強い麻雀であった。
道中かなり心揺れるような放銃もあったが、吾妻の表情は変わる事はなかった。
最後まで自身の勝利を疑わず、牌に真摯であったからであろう。
2連覇は本当に素晴らしい。来年も一層女流のトップとして活躍してもらいたい。
最後に。
初日観戦記の冒頭で、各選手の鳳凰戦リーグの成績を記しておいた。
彼女達に「もっとも欲しいタイトルは?」と尋ねると間違いなく「鳳凰位」と返ってくるだろう。
昨今女性の麻雀プロのレベルは格段にあがっている。人数比の関係もあるが、もはや必ずしも男性優位な競技ではない。
彼女達の中からいつか鳳凰位にチャレンジする選手が必ず現れるだろうと確信している。
また、今回2年連続同じ面子での決勝であったが、近年はこの4人の誰かが決勝に顔を並べているといった状況だ。
他の女流プロはこの現実をもっと真摯に受け止めてほしい。
プロとしての価値観は人それぞれと書いた。
そう思っていてもやはりプロにはプロであってもらいたいというのが本音だ。
来期は女流桜花Aリーグも全卓配信が決まっている。
誰が吾妻に挑戦するのか?
熱い戦いを期待したい。

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