女流プロリーグ(女流桜花) 決勝観戦記

女流プロリーグ(女流桜花) 決勝観戦記/第10期女流桜花決定戦 最終日観戦記 魚谷 侑未

宮内こずえ
100
テレビ対局での優勝は多数あるが、タイトル戦の優勝経験はまだない。
常に明るく分け隔てのない性格で、先輩プロからは可愛がられ後輩プロからは慕われている。
多少おっちょこちょいな面もあるが、それも含めファンからも愛されている。
麻雀は、本人の性格がそのまま雀風に表れていて、素直で真っ直ぐだ。
彼女のプロ連盟での初タイトルを望む声も多いのではないだろうか。
そしてまた、女流桜花というタイトルは、彼女も喉から手が出るほど欲しいタイトルではないのだろうか。
〔女流桜花のタイトルへ。宮内一歩リード!〕
100
9回戦
東1局、吾妻から先制リーチを受けると、同巡に宮内も吾妻の現物でテンパイをする。
100
吾妻の現物と中筋が待ちになったが、宮内ならリーチに行くか?と思ったが、ここはヤミテンに構える。
高めの六万は7,700であるが、出アガリし易い現物の安めの三万では3,900だ。追っかけリーチを打ってもおかしくない。
しかし、宮内は冷静だった。
トータルポイントが苦しい位置にいる吾妻のリーチが愚形の安手なわけがないのだ。それなりの形かそれなりの打点のどちらか、もしくは両方である可能性が高い。
他家もそう考えるはずなので、吾妻のリーチには他家はオリたりする可能性が高いのだ。
そして、この宮内のヤミテンにすぐに飛び込んだのは和泉。高めで7,700の放銃となった。
恐らく、宮内の事は無警戒であっただろう。
和泉にとっては手痛い放銃、そして宮内にとってはトータル2着目からの一番嬉しいアガリとなった。
〔選択と裏目の繰り返し〕
東2局、和泉にダブリーのテンパイが入る。
一万二万三万七万八万九万一索二索三索四索四索九索九索五筒
しかし、和泉はこのダブリーは打たずにテンパイ取らずの打四索とした。
難しい選択ではあるが、この手牌にはたくさんの夢がある。マンズ引きの一通の形や、最高形ではジュンチャン三色まで見える。ダブリー取らずの選択はとても合理的だ。
100
そして、6巡目にカン五万待ちの一気通貫のテンパイを組みなおし、和泉はリーチをした。とても良い手順だった。
しかし、宮内が追いつき追い越し、2,600オールをツモりアガる。
100
和泉は良い手順を踏みリーチを打ったが、結果は一番アガられたくないトータルトップ宮内のツモアガリ。
和泉はダブリーを打っていると宮内のアガリより先に九索をツモアガっていた。
麻雀は難しい。
例え正着打を打っていようとも、例え素晴らしい手順を踏んでテンパイを入れようとも、それが結果に結びつくとは限らないのだ。
でも、それでも、私たちが出来る事は少しでも良い判断の選択をし続ける事である。
例え結果がついてこなくても、自分の信じた選択をし続けるしかないのだ。
9回戦の成績
宮内こずえ+19.9P 二階堂亜樹+4.0P 吾妻さおり▲6.3P 和泉由希子▲17.6P
9回戦終了時
宮内こずえ+56.3P 二階堂亜樹+6.0P 和泉由希子▲4.3P 吾妻さおり▲58.9P
〔逆風を恐れぬ宮内の力強い歩み〕
10回戦
宮内が他の3人を大きく突き放してリードを広げた。
2位につける亜樹とは50ポイント差。現実的にはまだまだ交わせる点差ではあるが、これ以上ポイントを離されると宮内を交わすのが厳しくなってくる。
全員が優勝条件を残すためにも、宮内の沈みは絶対に必要となるのだ。
となると、宮内の戦い方に制限がかかる。宮内にとっては厳しい逆風・・・となるのだが、宮内は逆風を恐れる事はなかった。ただ一点の〔優勝〕という栄光に向かって強く歩み続けたのだ。
東4局、宮内の親番
四万五万八万八万三索四索五索六索七索八索五筒六筒七筒  ドラ白
吾妻のマンズ仕掛けを受けたが、宮内はリーチを打った。
ドラの白は1枚も場には見えていない。白の所在は不明だ。
マンズの情報も少なく、怖くてヤミテンにしてしまう人も多いのではないだろうか。
それでも、宮内は優勝するためにはまだここで手を緩めてはいけないことを分かっていた。
吾妻から5,800のアガリ。
一歩ずつ優勝に向けて、自分の力で前に進んでいく。
南2局
四万五万五万六万七万二索三索四索七索八索九索六筒六筒  ドラ七索
宮内が7巡目の先制リーチを打った。
31,200点持ちの南2局である。ここを浮きで終わらせればかなり有利にその後の展開を進められるはずだ。
しかし、ここでヤミテンの2,000点をアガったところで、この半荘を浮きで終えられる保証はどこにもないのだ。
勝つために宮内はリーチを打った。他力本願な想いは一切ない。宮内は自分の力で女流桜花の優勝を掴みに行っていた。
そして宮内は、1,300・2,600のツモアガリ。また一歩、優勝に近づいていった。
10回戦の成績
和泉由希子+23.3P 宮内こずえ+7.5P 二階堂亜樹▲5.9P 吾妻さおり▲24.9P 
10回戦終了時
宮内こずえ+63.8P 和泉由希子+19.0P 二階堂亜樹+0.1P 吾妻さおり▲58.9P
〔このポイントではまだ勝負は決しない〕
11回戦
東1局、宮内はまだ攻撃の手を緩めなかった。
三万四万五万三索四索五索六索七索四筒五筒六筒八筒八筒  ドラ八筒
この形で6巡目に先制リーチを打った。
形的には確かにリーチは打ちやすい。しかし、ヤミテンでも出アガリ満貫のテンパイだ。ポイント状況を考えれば、ヤミテンで十分とも思える。
しかし宮内は、優勝を確実にするためにはまだまだ加点が必要と考えていたのだ。
11巡目には吾妻も追いつき、メンホンでリーチを打つが、軍配は宮内に上がった。
100
この時の吾妻はトップの宮内とのポイント差は120P。あと2回で優勝するには、相当大きなトップを取らなければいけない。
ならば、吾妻がメンホンテンパイで満足せずに南をトイツ落としして、更に高い手を狙っていたら、なんとこの放銃した八索で九蓮宝燈テンパイだったのだ。
その先に吾妻の当たり牌がいたかどうかはわからないが、吾妻がこの手をアガっていたら何かが変わっていたかもしれない。
一方、宮内は東1局の8,000をアガると、その後はヤミテンを多用し、場を進めていく。
そこに何とか食らいつこうと原点スレスレで追いすがる和泉がいた。
〔優勝するためには、勝負所で腹を括らなければいけない〕
南4局3本場
100
11回戦オーラス。トップを走る宮内に、何とか必死に食らいつく和泉。
和泉はこの半荘で出来れば宮内を交わしてのトップが欲しかった。最悪でも浮きで終える事は絶対条件だ。つまり、30,600点持ちのオーラス。絶対にオリる事はないのだ。
宮内も当然分かっていた。和泉はこの局は絶対にオリる事はない。自分がリーチを打っても和泉はオリる事はない。むしろチャンスだと思って立ち向かってくる。
それでも、ここで和泉を沈めて半荘を終える事が出来たら、かなり高い確率で女流桜花のタイトルを手にすることが出来る。
「1枚切れのカン八索で待ちは良くない。打点もさほど高いわけではない。でも、ここが勝負所・・・ここでアガれば他3人の条件はかなり苦しくなる。自分の優勝は自分の手で決める・・・!」
強い意志の込められたリーチだった。
こんな状況の中、こんな手のリーチを打つのは怖い。打たなくていいならば打ちたくないと誰だって思う。
3日間の戦いの中で、宮内は何度も何度も戦ってきた。それを積み重ねてここまで来た。
優勝が近くなればなるほど、怖さも増してくる。プレッシャーも大きくなる。しかし、優勝を掴むために宮内は勇気を振り絞ってリーチを打った。
その2巡後には和泉から追っかけリーチが入る。
100
この2件リーチを制したのは宮内だった。とてつもなく大きい、和泉を沈める事の出来る直撃の4,800のアガリ。
この時に宮内は初めて優勝を意識した。
11回戦の成績
宮内こずえ+24.5P 吾妻さおり▲2.6P 二階堂亜樹▲6.8P 和泉由希子▲15.1P 
11回戦終了時
宮内こずえ+88.3P 和泉由希子+3.9P 二階堂亜樹▲6.7P 吾妻さおり▲61.5P
〔あとは駆け抜けるだけ。勝利に向けて。〕
12回戦
トップの宮内と2着の和泉のポイント差は84.4ポイント。これは、よほどの事件が起きない限り交わすのは難しい。
100
東1局、親のリーチを受けたが、宮内は最後まで戦い続ける事を心に決め、勇気を持って無筋の五筒を押した。
対局が始まる直前の亜樹と和泉のさりげない会話が頭に浮かぶ。
「80ポイントなんて18,000点2回直撃で大体並ぶから」
(え!?そんなもんでこの点差って並ばれちゃうの・・・?)
宮内は、これだけのポイント差があれば優勝は出来るという自信と、優勝出来なかったらどうしようという不安の間で戦っていた。
それでも、きちんと目の前の1局1局をきちんと自分の手で進めていこうと考えていた。
和泉の親リーチが高かった時のリスクは大きい。しかし、自分で局を流さなければ優勝は掴めないのだ。
100
そして、宮内がアガリきった。
戦い抜いた宮内にはとても大きい5,200のアガリとなったのだ。
宮内はその後も10年間の女流桜花への想いを噛みしめながら一歩一歩、優勝へ向けて歩んで行く。
南場の和泉の親は自力で流し、亜樹の親は長く続いたが最終的には亜樹のノーテンで流局。
オーラスの自分の親番を終え、宮内は見事な勝利で女流桜花を戴冠した。
100
優勝カップの授与では、宮内は涙ながらに
「本当に欲しいタイトルだったので嬉しいです、ありがとうございました」
と、言葉は短いながらも嬉しさを表した。
100
テレビ対局の女王が、新たにプロ連盟のタイトル女流桜花で優勝した。10年間の想いがやっと通じた瞬間であった。
宮内は〔手なりの女王〕と言われる事もあるが、麻雀において手なりで手牌を進めていくことは、皆が思うような容易なものではない。
手牌に素直に、手牌が伸びたいように伸ばしてあげること、それは麻雀において最も大切な事なのではないか。
宮内はこの決定戦で特別な手順や、変わった押し引きをした事は一度もなかった。
しかし、それはどれも精度が高く、ミスのない繊細な打ち回しであった。
念願の女流桜花戴冠おめでとうございます。
これからも、プロ連盟の代表女流プロとして、天真爛漫な麻雀と人柄で麻雀界を明るく元気に盛り上げて行って下さい!
100
100