女流プロリーグ(女流桜花) 決勝観戦記

第15期女流桜花決定戦 二日目観戦記 越野 智紀

”秒速5センチメートル”
新海誠監督の映画のタイトルで、桜の花の落ちるスピードを意味しているそうです。
実際の花びらの落下速度は秒速1メートル以上と聞きましたが、そんな無粋なことを言ってはいけません。
人は繊細で、その時の心境で感じる早さが変ってくるものです。

残り8戦は逃げる人には長く、追いかける人には短すぎる試合数と言えるかもしれません。

2日目開始前成績
仲田+33.6P 川原+15.4P 亜樹+3.2P 古谷▲52.2P

5回戦

東1局、7巡目に出た3枚目の六筒をスルーした仲田が9巡目の六筒をチー。
その苦しそうな仕掛けに対し、手出しで安全牌を連打する川原。

 

 

亜樹は川原と仲田の手があまり良くないと見るや、苦しい手から二万をポンしていきます。
ポイント上位の2人にプレッシャーをかけてテンパイ料での得を狙い、あわよくばドラを引いてのアガリも視野に入れた巧い鳴きです。
ドラを持っていない人にとって、2人目の仕掛けは脅威になります。

 

 

危険を冒すには見合わない手だった川原は完全に撤退。

 

 

仲田も受けに回り、亜樹の狙いが決まりかけましたが

 

 

仲田は亜樹に絞りながらテンパイに辿り着いて流局。
1人テンパイで3,000点を得ます。

 

 

南場の親で連荘した古谷がトップ目になり、仲田はラス目へ。
追う3人には悪くない並びになるも、続く仲田の親が終わりそうで終わりません。
南3局3本場、仲田の親を終わらせようと北を仕掛けた古谷。
字牌から切っていくのが手広い受けを残す選択でしたが、一万を切って少しだけ手を狭めます。

 

 

そして6巡目に親の仲田からリーチが入る緊急事態。
五筒 三万と川原からリーチの現物が切られますが、ペン三万のターツを拾い損ねた古谷は鳴けません。
八筒は仲田の現物で山に3枚残り。
三万が鳴けていたら有利な勝負になっていましたが

 

 

1巡目に少し受けを狭めた古谷の選択。
親番で粘っていた仲田はその僅かな隙を逃さずに6,300オールのツモアガリを捻じ込んできました。
次局も返す刀で2,600は3,000オールと、3人まとめて薙ぎ倒した仲田。

5回戦成績
仲田+32.7P 川原▲1.4P 古谷▲5.2P 亜樹▲26.1P

5回戦終了時
仲田+66.3P 川原+14.0P 亜樹▲22.9P 古谷▲57.4P

6回戦
残り7戦、古谷はトップ仲田と123.7P差。
全ての局で守備を顧みず攻めるには長すぎるけど、バランス良く打っていては届かない厳しい距離まで離れてしまいました。

 

 

6回戦も仲田はリードを広げていき、現状のままの持ち点で終わると2番手の川原でさえ100P近く離れてしまう独走状態になった南2局1本場。
古谷は予め決めていたかのようなスピードでツモリ三暗刻のテンパイを外し、四暗刻を狙います。

 

 

九筒を重ねた古谷は山に残っていなかった八筒を外してのツモリ四暗刻のテンパイ。

 

 

これにトップ目の仲田が飛び込んで8,300点。
終わった後に仲田から真っ先に出てきたのがこの局の放銃の話で、

「5回戦のトップでマークする対象がいなくなったことや、上家亜樹さん下家古谷さんっていう席順の難しさ。連荘が増えて長時間の対局になり、少し集中力の持続が難しくなっていた。怪しい捨て牌と思いながらもフワッと切ってしまった。」

古谷がリスクを取って攻めたタイミングで仲田のミスが重なる偶然。
ここから試合は大きく動きました。

 

 

南4局1本場、川原の勝負所。
トイツ系の配牌で役牌重なりの価値は高いが、捨て牌の強さを優先して南切りを選んだ川原。
七対子でテンパイした時に読まれづらくなることや、良い手に見せることで他家が真っ直ぐに手を進めづらくなる面白い選択です。

 

 

仲田は親の川原に注意を払い、受けに比重を置いた進行。
その後、川原はツモリ三暗刻でリーチをして1人テンパイで流局。
連荘に成功しました。

 

 

南4局2本場、今度は高打点も狙えるチャンス手。
前局とは一転して目立たない捨て牌でアガリを目指します。

 

 

仲田も真っ直ぐな進行。
六万九万が薄く、雀頭の一万が親の現物ということもあり三筒も残して目一杯の構えです。

 

 

静かな捨て牌のままリーチが打てた川原。

 

 

同巡テンパイを入れた仲田から余った三筒で11,600は12,200点の直撃。
放銃した仲田は

「わたしのスタイルだと、こういう放銃は1回は出る。取り返すチャンスがある早い段階で出て良かった」

と、前向きな考え。
意志を貫いての放銃には一切の後悔を見せません。
会心のアガリを決めた川原は次局に4,300オールも追加して、100P先を走っていた仲田に一気に追いつきました。

6回戦成績
川原+24.0P 古谷+8.0P 亜樹▲7.1P 仲田▲24.9P

6回戦終了時
仲田+41.4P 川原+38.0P 亜樹▲30.0P 古谷▲49.4P

7回戦

 

 

6回戦で追いついた川原に風が吹き続けます。
東3局、自風の北をポンした川原はドラがトイツです。

 

 

この仕掛けに反応した仲田はドラの受けを嫌います。
川原はフーロ率が12.4%と仲田の半分以下しか鳴かない打点重視の打ち手。
早い巡目の仕掛けには安手が少なく、染め手以外ならドラトイツ以上が濃厚と仲田には読めていそうです。

 

 

仲田はタンヤオで仕掛けて1,000点のアガリ。
川原の手を潰します。

 

 

続く東4局でまたも川原にドラがトイツのテンパイが入ります。

 

 

先にテンパイを入れていたがロン牌の六索を掴んだ仲田。
川原の手をドラトイツ以上のテンパイと読むと、六索は上下両方の筋に絡んだ超本線。
躊躇いなくテンパイを崩して流局に持ち込み、川原に食い下がります。

 

 

何度も受け流された川原でしたが、プレーオフB卓に組み込まれたところから川原自身も感じていた追い風は止むことなく吹き続けます。
南場の親でも2,000オールをツモアガって川原は連勝。

「経験が一番少ないから変に作戦とか考えて自分から崩れないようにと気をつけていました。初日に浮けたことで2日目も普段通りに打てたことが良かったです。」

女流桜花Aリーグ初挑戦での決定戦になった川原は、ここまで緊張に潰されることなく普段通りの打ち方を見せてトータルトップに立ちました。

7回戦成績
川原+16.1P 亜樹+4.4P 仲田▲4.8P 古谷▲15.7P

7回戦終了時
川原+54.1P 仲田+36.6P 亜樹▲25.6P 古谷▲65.1P

8回戦

 

 

東2局、トップを走る川原のリーチを受けた古谷はメンホン七対子の1シャンテン。
追いかけるポイント状況で強引に攻めたくなるところでしたが、浮いている牌の厳しさを見て古谷は次のチャンスを待ちました。
初日の3回戦で1人沈みを避けるために見逃しをしていた人と同一人物とは思えない落ち着きです。

 

 

東3局1本場。
諦めない古谷に次のチャンスがすぐにやってきました。
5巡目リーチで6巡目ツモ、電光石火の6,100オールです。

 

 

古谷は更に4,300オールなどをアガリ続けてあっという間の70,000点オーバー。
ここまでの我慢はこの爆発を待っていたのかもしれません。

追いつめられてから冷静さを取り戻した現女流桜花に突然入った大物手の連発。
特大の1人浮きトップで、これまでのマイナスをほぼ返済です。
初日に勢いよく落ちていった桜の花が、少し緩やかに感じられるところまで古谷は帰ってきました。

8回戦成績
古谷+58.1P 川原▲7.6P 仲田▲22.2P 亜樹▲28.3P

8回戦終了時
川原+46.5P 仲田+14.4P 古谷▲7.0P 亜樹▲53.9P

(文:越野智紀)