静岡プロリーグ 決勝観戦記

第31回静岡リーグ(プロアマ混合)決勝観戦記

太田の息遣いが聞こえそうだった・・・

太田と藤島の間に位置した私は、両者の手牌は勿論の事、表情の変化をも見逃さぬ様に息を潜めていた。

最終6回戦南2局13巡目、藤島が河に放った五筒

「ロン2,600」
決壊寸前だった太田の心がギリギリ持ち堪えた1局であった。

二万三万四万五索六索六索七索七索八索二筒二筒四筒六筒  ロン五筒  ドラ四筒

藤島10巡目

二万二万七万七万八万八万一索一索二筒四筒四筒九筒九筒

七対子ドラ2をテンパイ。
もし彼が「リーチ」の発声をしていたら太田はどうしていただろうか。

太田は下家が藤島という並びと、ポイント状況もあり、1シャンテンで打七筒とドラ四筒が出ていかない形に受けるなど慎重且つ丁寧な打牌選択をしていた。
この時の藤島の選択はマジョリティーだと思うし、勿論ドラまたぎの二筒が決して場況的にも良いわけではないのだが、太田がリーチに対して2枚、七索六筒を河に放てる精神状態ではなかったようにも思える。

未だにリーチ云々の戦略的な事などは2人には聞いてはないが、太田は「かわされたらもう無理だったろうな」と帰り道に一言。

我慢し続けた太田へのご褒美が五筒だったのだろうか。

最終戦を迎えた時、ポイント状況は以下の通り。
太田+104.6 藤島+44.8  ポイント差は59.8P。
残り1回戦、公式ルールにおいてかなり太田が有利な状況なのは間違いない。
だが藤島には、何か起こしてくれそうな雰囲気が確かにあった。
最終6回戦東場終了、残り半周。
太田+85.2 藤島+82.4  ポイント差、実に2.8Pまで詰まっていた。

静岡リーグは全5節行い、上位5名が決勝戦に進出、さらに通過順に以下のアドバンテージが与えられる。
1位+40P 2位+30P 3位+20P 4位 +10P 5位なし

決勝戦は全6回戦で行われ、5回戦終了時にトータル最下位の者が途中敗退し、残った4名で最終6回戦を戦う。

第31回静岡リーグ決勝戦のメンバーは以下の通り。

①名前
②最高戦績
③決勝進出回数
④鳳凰戦所属リーグ

1位通過
①太田昌樹
②第9回・第26回優勝
③7回目
④C2リーグ

100

 

 

2位通過
①藤島健二郎
②初参加
③初出場
④B1リーグ(来期はA2リーグ)

100

 

 

3位通過
①深見翔
②17位
③初出場
④一般参加

100

 

 

4位通過
①平野敬悟
②3位
③5回目
④C3リーグ

100

 

 

5位通過
①望月雅継
②第1回・第6回優勝
③10回目
④所属なし

100

 

 

今期は私にとっても特別な期であった。
静岡の顔である望月支部長の鳳凰戦リーグの引退。
初めて望月の口から聞かされた時は、(明言したわけではなかったのだが)何も言えなかった。
此の事には支部員も少なからず動揺があり、静岡支部という組織の意義を改めて考えさせられた出来事であった。

また、私事ではあるが、私も今期始まる前鳳凰戦第1節3日前まで連盟退会を含めた今後の自分のプロ活動としての向き合い方を望月支部長に相談していた。
支部長と話し合いをして、今まで応援してくれた人の声を聞き、もう一度踏ん張る決意をした。
この場を借りて感謝したい。

そんなマイナスな出来事で悶々としていたある日、望月支部長から「藤島君がプロリーグ参加してくれるかもよ~妙ちゃんも~」との話を聞き、本当に嬉しかったことを覚えている。
私はどんな世界も停滞はマイナスでしかなく、新しい血が巡ることにより活性化に繋がると思っている。

藤島をはじめ、今回新たに静岡に参加してくれたプロの方には感謝しかない。
そして望月、藤島その2人が決勝の舞台に立つことになった。
太田に関して言えばプライベートでもお世話になっているが、近年の彼の状況には歯がゆさもある。
元B1リーグの実績が示す通り、力は間違いないのだが、ズレた歯車は戻りきっていないようだ。
しかしながら予選は危なげなく首位通過。
太田もまた藤島参戦の刺激がプラスに作用しているようだ。
今回の決勝を機に復活し、更なる高みを一緒に目指したい。

平野は前回に続き連続出場。
直近7回の静岡リーグ中、5回決勝進出と静岡リーグの中でも随一の成績を残しているが、まだ優勝経験はない。
昨年度プロリーグも決勝に残るが敗退(私もだが笑)。
麻雀に関しては局面理解度に長け、プロテストの時から注目されてきた逸材だ。

今回唯一、一般参加での決勝進出となった深見さん。
連盟公式ルールでは、経験は浅いながらも、しっかりと打点を見据えた手作り、押し引きなど目を見張るものがある。
厳しいメンバーとの対決となったが、ダークホースと見ている。

個人的な見解としては、このメンバーだからこそ静岡リーグ特有のアドバンテージが多分に活きるのではと思っていた。
それを踏まえ、太田と藤島中心の展開マッチレースになることを予想していた。
だが、先の十段戦の戦いで見せた望月の戦い方、勝ちにこだわる姿勢に期待している私もいた。

今回私は敢えて決勝メンバーの戦前インタビューなるものを辞めた。
私自身、10年強過ごしたプロとしての経験を基に、5人の戦いを想像しながらフラットに観たかったからである。

 

1回戦~火花 (望月VS藤島)

予選首位の太田の抜け番ということで、まずは卓内最上位・注目の藤島の後ろに構えた。

東1局は望月の1人テンパイで流局。
東2局 藤島がタンヤオ七対子の二索単騎のリーチを打つも、望月の500(600)オール。
東2局1本場から3局と流局が続く。決勝戦ならではの独特な重い空気が漂う。

アマの深見さん、字牌の切り出しも含め丁寧な手牌進行をしていたが、若干手狭に受けているのは決勝戦の雰囲気のせいなのか?
相手は百戦錬磨だが、自分を信じて頑張って欲しいと思った。

東4局4本場 親平野
4巡目平野にしては珍しく長考に入った。

5巡目 四万五万六万七万三索四索五索六索三筒三筒五筒七筒七筒  ツモ三万  打六索

9巡目 三万四万五万六万七万三索四索五索三筒三筒  チー六筒 左向き五筒 上向き七筒 上向き  打七筒

平野の精神状態がここで分かった。
4巡目長考としたが、いつもの平野の子気味良いリズムとは違った。
私はメモに(平野イエローシグナル…)と記す。
「間」があったからなのだが、私は自然と平野の牌姿が見える位置へ。
本来平野に入る二万が下家の藤島に流れる。

南家藤島6巡目

一万二万七万八万九万一索二索三索八索九索七筒八筒九筒  ツモ二万

9巡目安目ながら二万を重ねての三色リーチ。
同巡平野が五万をツモり、500(600)オールとなるが、私は平野に不安を感じずにはいられなかった。

東4局5本場 親平野 ドラ三筒
望月の先制リーチ

七万八万二索三索三索三索四索七筒七筒七筒九筒九筒九筒  リーチ

藤島追いかけリーチ

二万三万四万七万八万三索四索五索三筒三筒四筒五筒六筒  リーチ

軍配は藤島に。九万ツモの2,000・4,000(2,500・4,500)

私はこれまでの長い間、ずっと望月を見てきた。
この先制リーチに多少の違和感を覚えたが、今回の望月の意図、闘い方の方針を垣間見た気がした。

南1局0本場 ドラ東 親藤島
再び望月と藤島の手がぶつかる。

藤島9巡目

五万五万七万六索六索八索八索九索九索三筒四筒東東  ツモ東  打六索

10巡目 八索ポン 打六索

この藤島の仕掛けにより望月の四索が埋まりリーチとでる。

五万五万六万六万七万三索四索五索二筒二筒四筒五筒六筒  リーチ

それにしても望月の牌さばきは本当に美しい。
このリーチをする際、指が軽やかに跳ねたように見えた。
14巡目藤島ツモ二筒テンパイ打七万で7,700の放銃となり今度は望月に軍配があがる。

南2局0本場 親望月
望月としては前局のアガリを踏まえ、この親で勝負をかけたい所。
だが、深見さんから2巡目にメンピンドラ1のリーチ。
望月にもうワンパンチ出れば、時間帯になるかと予想していたが展開は味方せず。
藤島の放銃であっさり望月の親は落ちた。

南3局0本場 親深見さん
北家となった望月、7巡目絶好のペン三万を引き込み高め7,700のリーチを打つ。

一万二万三万二索三索一筒二筒三筒五筒五筒七筒八筒九筒  ドラ発

この巡目に既に高め一索は2枚河に飛んでいる。
私は心の中で(望月の日ではないかな?でもこれを一索で引きアガれば…)思っていた。
結果はまさかの藤島に12,000放銃となる。

藤島の配牌

一万五万七万四索九索四筒八筒東南南西白発

ここから八筒発一万と重ねていく。
4巡目八筒ポン、5巡目南ポンと鳴け7巡目発を引き打四索テンパイ。

一万一万五万七万発発発  ポン南南南  ポン八筒 上向き八筒 上向き八筒 上向き

ここからツモ一万五万更に次巡ツモ一筒七万とノータイムで打ち出す。

一万一万一万一筒発発発  ポン南南南  ポン八筒 上向き八筒 上向き八筒 上向き  ロン一筒

1回戦とはいえ、望月は非常に暗雲立ち込めるスタートとなった。
それに対し藤島は1人浮きのトップスタートで、抜け番太田のポイントを早くもかわした。

1回戦成績
藤島+20.9P 深見▲1.6P 望月▲5.4P 平野▲13.9P

1回戦終了時トータル成績
藤島+50.9P 太田+40.0P 深見+18.4P 平野▲3.9P 望月▲5.4P

 

 

2回戦~太田劇場

抜け番深見さん。
これはいいタイミングでの抜け番だと思った。
順番選択に関しては各々の考え、又は相手を照らし合わせた戦略的なものまであるだろうが、初の静岡リーグ決勝戦、しかもこの顔ぶれである。
緊張もあり、脳の疲れは感じたことのないものだろう。
一息いれた後、彼本来の麻雀をこの舞台で魅せて欲しいと思った。

2回戦は乱打戦となる。
東1局、これまで我慢していた?(見せ場のなかった)平野が2,000・3,900をツモ。
このアガリが導火線となり、点数移動はあるものの誰も抜け出せずにいた。

南1局1本場 親藤島 ドラ九索
この局が今決勝の1つのターニングポイントとなる。

3者がぶつかるのだが、配牌は

東家 藤島
二万三万五万七万二索五索六索七索九索四筒五筒東北中

南家 太田
一万三万八万九万二索五索九索六筒八筒東西白白

西家 平野
八万九万三索三索四索五索五索二筒七筒南西北発

3者3様見事に牌を捕まえて、10巡目平野先制リーチ。

一索一索三索三索四索四索五索五索六索六索発発中  リーチ

親の藤島が切っている中単騎のメンホン七対子。

リーチを受け11巡目

東家 藤島
一万二万三万二索四索五索六索七索九索四筒五筒五筒六筒

南家 太田
一万三万八万八万九万八索九索七筒八筒九筒南白白

の牌姿

11巡目太田ツモ二万南 この南は場に強い牌である。
12巡目太田ツモ七万八万でテンパイ。

藤島13巡目ツモ九索でテンパイ取らずの打二索

一万二万三万四索五索六索七索九索九索四筒五筒五筒六筒

ドラ2とはいえ、カン三索で心中はできないか。
そして14巡目、目論見通りツモ七筒のテンパイとなる。

ここでしばし藤島少考。
私はリーチ判断の逡巡なのかな?とみていたが、藤島は平野のリーチが無ければ、打四索のリーチとするつもりだったようだ。
しかし平野のリーチに一索四索待ちの否定材料が無い、だから打七索としたと。
勿論太田の打南もアンテナには引っかかっている。
意を決した藤島のリーチ宣言牌七索を太田が捕らえ8,000。

太田はこのアガリに手応えを感じていただろう。
自身で分かる4枚目の七万を入れてのメンゼンテンパイ。
上家藤島が五索六索、9巡目に七万を3枚切っている。
3枚目の七万を鳴いてもドラそばで手役が透ける3,900のペン七索待ちでは勝負にならない…と、頭では分かっていても、巡目や枚数などで自分に折り合いをつけ、つい鳴いてしまいそうな局面であったが、太田は自分の麻雀を貫いた。

もし仮に太田が3枚目の七万をチーしていた場合、太田が直前でツモ切る西が重なり平野は一索中でリーチを打つことになる。
するとドラそばペン七索の3,900で太田がどこまで押せるのか?・・・勝機は薄かったように思える。
親の藤島はドラ2だから押しどころだろう。
ともなれば違う未来があった様に思える。

この我慢こそが太田のハートの強さであり私が見習わなければならないところだと感じた場面であった。
我慢して4枚目の七万をいれて当面のライバルからの直撃である。

(最高で~す!)お立ち台に立ったら太田は言う事だろう。
お立ち台の近づいた1局の攻防であった。

ツモ七筒テンパイ藤島

一万二万三万四索五索六索九索九索四筒五筒五筒六筒七筒  打七索

太田
一万二万三万七万八万九万八索九索七筒八筒九筒白白  ロン七索

南2局0本場 親太田 ドラ五筒
太田は8巡目

五万五万六万六万七万八万九索九索九索五筒五筒白白  ツモ九索 暗カン

平野にとっては前局の勝負手が実らず、現状トップ目の太田の親。是が非でもこの親はやらせてはいけないとの思いだっただろう。
8巡目ツモ三万ときて

二万三万三万四万五万七万七万六索七索八索一筒二筒三筒

五筒のテンパイをとる。

このドラ打ちに反応した太田「ポン」の声。
正直、鳴くとは思いもしなかった。私も仕掛けを多用するタイプだが、声が出るかは分からない。

五万五万六万七万八万白白  ポン五筒 上向き五筒 上向き五筒 上向き  暗カン牌の背九索 上向き九索 上向き牌の背

六万として白バックのテンパイとした。

ここで言えることは太田の平野に対する打牌の信頼度である。
速度を合わせにいったのか?ただこの形になった以上、モノにしたいし失敗は許されない。

12巡目太田の手元に引き寄せられたのは白だった。
「4,000オール!」感性がそうさせたのか、普段腰の重い打ち手であるがゆえに結果を出したのはお見事であった。

2回戦成績
太田+23.6P 平野+7.1P 藤島▲7.9P 望月▲22.8P

2回戦終了時トータル成績
太田+63.6P 藤島+43.0P 深見さん+18.4P 平野+3.2P 望月▲22.8P

 

 

3回戦~届かぬ1枚
抜け番 藤島

東1局1本場
深見さん太田からリーチ七対子ドラ2の8,000(8,300)をアガる。

八万九万九万五索五索四筒四筒九筒九筒発発中中  ロン八万

このアガリは追う立場の4者にとって並びが出来たという大きな意味を持つ。
太田包囲網となるか?

東3局 親平野 ドラ中
望月が仕掛ける

三万四万西西中中中  ポン北北北  ポン一筒 上向き一筒 上向き一筒 上向き

ドラ3をテンパイするも終局間際深見さんにかわされる。

東4局 親望月 ドラ四筒
この日の望月、幾度も高打点となる見事な手組を見せるが最後の1枚が遠い。

四索四索四索五索六索七索七索七索八索九索九索東東

このテンパイを10巡目にいれる。

西家深見さん

二筒二筒二筒東東白白  チー五万 左向き六万 上向き七万 上向き  ポン四筒 上向き四筒 上向き四筒 上向き

深見さん2巡目で東白トイツドラ1の形も1枚目の白をスルー。
このスルーにより6巡目ドラ四筒を重ね、望月のテンパイ打牌の四筒をポン、次巡五万が鳴けてテンパイ。
望月の八索は山に2枚深見さんの東白は1枚。
14巡目手元に白を引き寄せたのは、深見さん。

届かぬ1枚・・・この日は望月の日では無かったようだ。

南3局 親平野 ドラ一索
ここまで出番が無かったものの、まだまだポイント的には食らいついている感のある平野。
親番で手を入れる。

配牌
三万五万九万一索二索三索七索八索九索七筒七筒九筒発中

9巡目 テンパイ

九万九万一索二索三索七索八索九索一筒二筒七筒八筒九筒

ヤミテンの12,000

しかしこの3回戦好調の深見さん。
同じく9巡目

五万六万七万四索五索六索六索七索七索八索八索六筒六筒

これもヤミテン。
12巡目、高めの三索を引き寄せ、1300・2600。
持ち点を5万点オーバーの1人浮きとし太田の独走に待ったをかける。

3回戦成績
深見さん+34.4P 太田▲2.1P 平野▲10.1P 望月▲22.2P

3回戦終了時成績
太田+61.5P 深見さん+52.8P 藤島+43.0P 平野▲6.9P 望月▲45.0P

3回戦を終え二極化の様相を呈してきた。

 

 

4回戦~藤島の生命力
抜け番平野

3人の争いとなった決勝4回戦目、この半荘を制する意味は大きい。

東2局 ドラ西
北家藤島 10巡目

四万四万四万五万六万七万八万八万四筒五筒六筒七筒八筒

リーチと出る。
親番の深見さん、ダブ東を7巡目ポンした時点で、

五万六万三索三索五筒八筒九筒西西西  ポン東東東

こちらの1シャンテン。

リーチをかけた藤島が13巡目に持ってきた牌は七筒
さらに14巡目、藤島が掴んだ牌は七万だった。
あまりにも痛い12,000の放銃。

東3局 ドラ一索
東家太田配牌

四万七万一索一索二索三索五索七索八索九索東南西中

配牌ドラ2のチャンスであるが、メンツ候補を含めた太田の選択に注目が集まる。
ここで選んだ第一打は四万
確かに色を見たら字牌重なりは嬉しいし、チャンタ系も見える。
しかしドラ2だけに手なり進行を選択するプレイヤーが多数ではないだろうか?
この局面においてのマジョリティーは何だろうか?

4巡目ドラの一索を引き、7巡目ツモ五万で打五索とする太田。
7巡目以下の牌姿となる。

七万一索一索一索二索三索五索七索八索九索四筒六筒東  ツモ五万  打五索

8巡目待望の東が重なり打四筒。12巡目五索引き戻し打六筒とし、

一索一索一索二索三索五索七索八索九索五万七万東東

この1シャンテンにとる。
15巡目東ポンの打五索のカン六万テンパイ。
すでに3枚、六万は飛んでいるが巡目的に仕方ないところかと見ていたら、藤島4枚目の六万を掴み12,000放銃となる。

この局に関しては、太田は気持ちがかなり揺れた様に見てとれた。
第一打四万で、手役狙いでスタートしたが、ドラの一索が暗刻になったことで効率通りの打牌と変わった。
意志を通す太田にしては違和感もある選択。

だが結果はライバル藤島からの直撃。
これで決まったか?の感は正直あった。

東3局1本場 親太田 ドラ六万

三万三万三万五万六万七万三筒五筒五筒六筒七筒西西

太田8巡目ツモ五筒で、ノータイムでリーチ。
ここでその手法を出してきましたね?太田さん、とメモする私。
このリーチに向かえる子方はいるのかしら?と考えていた。
しかし同巡、私は「ごめんなさい。」と、なる。

藤島が追いかけリーチを放つ。

四万五万六万六万七万一索二索三索五索六索七索四筒四筒  リーチ

メンピンドラ2のリーチ。
きっちり太田を捕らえ7,700(8,000)のアガリ。

これが藤島の強さか。
この半荘、放銃もついてしまうが、必ずといってよいほどアガリ返す生命力の強さを存分に見せつける。
これは戦っている方としては堪らない気持ちだろう。
ボディブローの様に効いてくるはずだ。

そして南場。
望月は5回戦抜け番のため、残り半周しかない。

しかしここで盛り返してきたのは藤島。
一時は16,900点まで削られた点数を原点付近まで戻し、太田もまた48,500点まで点数を上乗せして望月に付け入る隙を与えない。

こうなると、逃げる太田を藤島が残り2回戦でどこまで迫れるかが焦点となった。

4回戦成績
太田+26.5P 望月+6.0P 藤島▲8.4P 深見さん▲24.1P

4回戦終了時トータル成績
太田+88.0P 藤島+34.6P 深見さん+10.3P 平野▲6.9P 望月▲39.0P

 

 

5回戦~壁
抜け番望月

東1局2局と重苦しい雰囲気が対局場を包む中、4者の手が開く事無く流局。

多くの観戦者も静かに戦いに見入っている。

東3局 ドラ東
深見さんがまだまだ食らいつく。

七万八万九万三索三索五筒六筒東東東  ポン白白白

この7巡目テンパイを入れる。
戦っている彼がいた。が、ここを制したのはまたも藤島。

二万二万一索一索二筒二筒九筒九筒西西発中中

この七対子でかわす。
何度弾き返されただろうか?深見さんには、この経験を今後の麻雀人生に活かしてほしい。いや、彼ならきっと大丈夫だろう。

南1局ドラ九索
藤島が三索暗カンから絶好の四万
を引き込みリーチと出る

三万四万五万五万六万七索八索九索三筒三筒  暗カン牌の背三索 上向き三索 上向き牌の背  リーチ

1,300・2,600のアガリとなる。

親平野

四万四万四索五索六筒七筒八筒  チー三筒 左向き四筒 上向き五筒 上向き  ポン南南南

平野のアガリ牌三索を暗カンしてのリーチにもう勢いの差を感じるしかなかった。

南4局 2本場
深見さんが必死の粘りを見せるが、平野のタンヤオのみで終局。
ここで望月の敗退が決まった。

5回戦成績
太田+16.6P 藤島+10.2P 深見さん▲9.5P 平野▲17.3P

5回戦終了時トータル成績
太田+104.6P 藤島+44.8P 深見さん+19.2P 平野▲24.2P 望月▲44.4P
(望月は5回戦終了敗退)

 

 

6回戦~泥臭さの先に(最終戦)

太田と藤島のポイント差は59.8P。
追う立場の藤島から見て、1人浮きのトップラスを決めても、素点でほぼ4万点の差。
これは連盟公式ルールにおいて、かなり厳しい数字であるのは間違いない。

静岡リーグ決勝戦も最終戦は連盟タイトル決勝システムに習い、東家から2・3・4・1のトータル順位での座順となる。

東家・藤島+44.8P
南家・深見さん+19.2P
西家・平野▲24.2P
北家・太田+104.6P

東1局親藤島 ドラ六万
藤島6巡目リーチ。

一万一万二万二万二索三索三索四索二筒三筒四筒五筒五筒

ここからツモ二万 打三索の即リーチ。
三色、イーペーコーが消えて振り替わりのタンヤオも捨てたリーチ。
これが最終戦に藤島が決めた手法であろう。
ポイント差があるとはいえ、親の先制リーチには太田としても向かい辛いだろうし、まして深見さん平野の立場はなおさらであろう。

しかし放銃は太田。
五筒を打ち抜き放銃となるが、逃げずに勝負したこの一打を見て、5回戦で揺れていた?と感じた私は改めて太田のハートの強さを認めた。

東1局1本場 ドラ中
藤島5巡目

六索七索八索九索一筒一筒一筒四筒五筒六筒東東東  リーチ

ダブ東暗刻のリーチと出て、これを見事に引きアガリ4,000(4,100)オール。

これで完全に並びが出来た。
太田の心中やいかに?

東2局 親深見さん ドラ五万
またしても藤島6巡目先制リーチ。

五万五万二索三索四索六索七索八索一筒一筒一筒西西  リーチ

平野も追いかけリーチを打つが藤島が五万を引き寄せ2,000・4,000。
この時点でポイント差は11.3と親満(12,000点)圏内に。
藤島が太田の背中をはっきりと捕らえた。

東3局 太田1人ノーテンとなり、差がまた詰まる。

東4局 親太田ドラ西
流石に太田の表情もこの半荘開始時とは違って見えた。
この局も最初にテンパイを入れたのは藤島。

なんて男だろう・・・
観戦記者でいながら、藤島と同卓した時の自分を想像していた私がいた。

一索二索三索四索四索四索四筒五筒西西  ポン中中中

この3,900テンパイ。

(この手を開けられたら決まるな)と記す私。
もうアガリはそこにある、と思っていた。

ここから私の予想しなかった太田を見ることになる。

太田配牌
一万二万四万五万六万一索七索七索八索九索九筒東北白

9巡目七万ツモで1シャンテン。

一万二万三万四万五万六万六万七万七索八索九索八筒九筒

14巡目太田、藤島の当たり牌の三筒を引かされる。
六万で2シャンテン戻し。

藤島の捨て牌は

南東八万 上向き二筒 上向き発五万 上向き
九筒 上向き九万 上向き白一索 上向き五索 上向き

11巡目中ポン最終手出し五索九筒九万以外は全て手出し。

確かに三筒は藤島に厳しいのは分かる。五万八万も河に3枚飛んでいる。
が、大事な親番でシャンテン数を落とすのには勇気もいる。
太田はテンパイまでの細い道を探りながら、藤島の仕掛けに対するリスペクトもあっただろう。

そして15巡目、上家の打七筒に素早く反応し打七万。フリテン三筒単騎の形式テンパイをとる。

一万二万三万四万五万六万七索八索九索三筒  チー七筒 左向き八筒 上向き九筒 上向き

太田の執念が実り3人テンパイで親権を繋ぐ。
この親番が勝負所と踏んでのことであろう。素晴らしい打ちまわしだった。

それでも1本場は藤島が太田の親を終わらせる。

南1局親藤島 ドラ九筒

五万六万七万二索三索八索八索八索六筒六筒六筒東東  リーチ

この先制リーチを打つ。太田は戦える手牌ではない。
藤島の1人旅かと見ていたら深見さんが少考、意を決したように生牌の東を切ってリーチ。藤島の雀頭である。

藤島と太田の間に位置していた自分は、そっと深見さんの手牌が気になり移動した。
苦しさもピークに達したところなのに、なぜか清々しさを感じた一瞬であったから。

ツモり四暗刻のリーチ。

一万一万七万七万七万九万九万九万一索一索九筒九筒九筒  リーチ

ポイント的には苦しくとも、終わったわけではないのだ。
彼にはまた色々教えてもらった。

流局。

太田+83.7P 藤島+82.9P (0.8ポイント)差となる。
ついに並んだ。

南1局流局の後の1本場。
平野が意地を見せ、リーチメンホン七対子の12,000を深見さんからアガリ、ラス抜けした太田がリードを広げる形となった。

そして南2局
冒頭の2,600へと進む。

優勝へ向けて最後のヤマを乗り越えたか?

南4局(オーラス)
藤島の逆転条件は1,600・3,200のツモ、12,000他家からのアガリ、太田から5,200の直撃。

南4局1本場
太田は早いテンパイが安全に組めるようならアガリに向かう方針で進める。
思惑通り、ピンフドラ1を深見さんからアガリ、藤島に厳しい条件をつきつける。

2本場 藤島1人テンパイ。

終局。

優勝は太田昌樹

6回戦成績
藤島+36.5P 平野+8.7P 太田▲12.1P 深見さん▲33.1P

最終トータル成績
太田+92.5P 藤島+81.3P 深見さん▲13.9P 平野▲15.5P 望月▲44.4P

人は弱い生き物だから、日々の目の前のことに奪われる。
そしていつしか夢を諦め、手放している自分がいる。

麻雀というものに出会わなかったら、どういう人生を送っていたのだろうか?とふと思うこともある。

だけど麻雀に出会い、そこから生まれた色々な経験と人生。その繋がり全てが財産です!と胸張って言える自分でありたい。

決勝進出者の皆様、素晴らしい舞台をありがとうございました。
静岡リーグを応援していただいている関係者各位の皆様、いつもありがとうございます。

これからもまだまだ歴史は続きます。

編集後記
この静岡リーグ決勝の後、藤島は自身初タイトルとなる第4期JPMLWRCリーグを見事優勝した。
仲間の活躍は本当に嬉しいものだ。
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