特別昇級リーグ 決勝観戦記

特別昇級リーグ 決勝観戦記/第20期特別昇級リーグ 決勝レポート 阿部 謙一

Dリーグスタートの新人でも最短1年でB2リーグへ
特別昇級リーグの概要に載っている一文である。
【出場条件・参加資格】
4大タイトル出場、40歳未満、プロリーグ・タイトル戦成績優秀者
【昇級条件】
リーグ戦で欠場・休場がなく、プラスの成績を収める事。
優勝…B2へ昇級
準優勝…C1へ昇級
3位…C2へ昇級
少し前にこんな会話をした。
連盟のAリーガーってやっぱ強いの??
『野球で例えると全員メジャーリーガーだよ、A1の選手はメジャーリーグのオールスター選手だね。』
我ながら分かりやすく答えられたと思う。
って事はこんな感じ??
A1…メジャーリーグオールスター
A2…メジャーリーグ
B1…WBC日本代表
B2…プロ野球選手
C1…六大学野球
C2…甲子園球児
C3…高校野球
D1…中学野球
D2…少年野球
D3…草野球
※例え話という事をご理解下さい。
ご覧の通り特別昇級リーグでの優勝はとても価値がある。
昇級だけで言えばマスターズや王位戦よりも上である。
話を特別昇級リーグに戻そう。
今期の参加者は19名、全8節 各節4回戦。
ポイントを持ち越し7節目に上位8名で準決勝を行い、上位4名が決勝へ。勝ち上がったのは以下の4名。
清原プロ +251.2P (▲85.3P)
福島プロ +150.5P (+83.1P)
蒼山プロ +148.3P (+122.3P)
樋口プロ +114.1P (+5.2P)
( )内はリーグ戦4節終了時のポイント
1位と2位には100ポイント以上の差があるが、2位以下は混戦。
直接対決の4回戦なので何があるか分からない…
清原プロは無理な勝負をせず、かつ攻める姿勢を崩さないで打てるか?
他の3人は清原プロを沈めての着順勝負としたいところ。それぞれの思いが交錯する中、静かに対局が開始された。
 
〈1回戦〉
東1局、親・蒼山
蒼山
七万八万九万一索一索一索一筒三筒白白  ポン東東東  ドラ発
樋口
四万四万四万五万六万七万九万九万中中  ポン一万 上向き一万 上向き一万 上向き
2人の仕掛けで始まった東1局、蒼山が中で放銃5,200。
東2局、親・福島
蒼山の仕掛けから急所を引き入れ親の福島がリーチ。
一万二万四万五万六万七万八万九万一索二索三索八索八索  リーチ  ツモ三万  ドラ八筒 3,900オール
この後は蒼山以外が安手でそれぞれの親を流していく。
南1局、親・蒼山 好調な福島が先制リーチ。
一万二万三万四万四万一索二索三索三索四索五索一筒三筒  リーチ  ドラ東
逆にここまで苦しい蒼山、ドラの東が暗刻で勝負に行くも二筒で放銃5,200。
南2局、親・福島
五万五万五万七万七万五索五索  ポン一索 上向き一索 上向き一索 上向き  ポン白白白  ドラ五索
ここまでアガリのなかった蒼山が、安めながらも七万ツモで2,000・4,000。
ズルズルと行ってしまうように思えたが点棒も20,000点台へ回復。
南3局、親・樋口
親の樋口が三色1シャンテンのこの形から
六万六万七万五索五索七索八索六筒七筒八筒北北北  ドラ六万
ドラを暗刻にしてリーチ。トータルトップ目の清原が真っ直ぐ行き九索で放銃12,000。
この時点で蒼山の点棒を下回り卓内ラス…微妙な空気に包まれる。
瞬間的ではあるが100ポイント以上あった福島との差が58.7Pまで縮まる。
南3局1本場、樋口・清原の2人テンパイ
南3局2本場、
清原リーチ
五万五万六万七万八万四索五索六索二筒三筒四筒五筒六筒  リーチ  ドラ二索
福島が一筒で放銃、2,000は2,600。
南4局、親・清原
親の清原リーチ
五万六万八万八万九万九万九万八索八索八索二筒三筒四筒  リーチ  ドラ八万
一発で四万ツモ4,000オール、3者の溜息が聞こえてきそうな1局だった
ワンチャンスをモノにし一気に30,000点を超える。
トータルトップ、そして第40期王位の実力を見せつける。
南4局1本場 ドラ二万
蒼山がドラ単騎の七対子リーチ。
3,000・6,000ツモると清原が4着へ転落、がここは福島が手堅く上がり1回戦を終える。
【1回戦終了時】
福島+16.7P 樋口+9.4P 清原+2.3P 蒼山▲28.4P
【トータル】
清原+253.5P 福島+167.2P 樋口+123.5P 蒼山+119.9P
樋口が3着へ浮上する。
 
〈2回戦〉
東1局、親・蒼山、巻き返しを狙う蒼山の先制リーチ
一万一万五万六万七万七索八索一筒二筒三筒七筒八筒九筒  リーチ  ドラ二索
安全牌に窮した福島が暗刻の九索で放銃2,900。
東1局1本場、連チャンで弾みをつけたい蒼山、ダブ東暗刻の勝負手。樋口の先制リーチを受けるも急所のドラを鳴きめくり合いへ。
二万三万七万七万九万九万九万東東東  チー七索 左向き八索 上向き九索 上向き  ドラ七索
樋口が一万を暗カン、それでも真っ直ぐ行った蒼山がリーチドラ1に放銃4,500は4,800。
東2局1,300、東3局2,000と蒼山の連続放銃、苦しい展開が続く。
東3局1本場、親・清原
清原がこの日始めて仕掛ける。遠そうに見えたがこの形へ。
一筒二筒三筒七筒八筒九筒東東白白  ポン五筒 上向き五筒 上向き五筒 上向き  ドラ二索
二万三万四万二索二索二索四筒五筒六筒六筒七筒八筒九筒  リーチ
六筒を引き入れ好形変化した樋口がリーチ。打点十分の2人、枚数は圧倒的に樋口が有利だが清原も押す。
1回戦の再来かと思ったが、樋口がラス牌の東を掴み放銃11,600は11,900。
仕掛けた時の精度、押しの強さが垣間見えた1局だった。
東3局2本場、東4局と蒼山が連続ツモ、この後は小場で進む。
南3局、親・清原
点棒的に苦しい樋口がリーチ。
二索二索四索五索六索七索八索九索四筒五筒六筒中中  リーチ  ドラ四筒
高めの中をツモり2,000・3,900、清原は親被りしたが1人浮きへ。
南4局 ラス目の福島が樋口から2,000点アガリラスを押し付ける。
【2回戦終了時】
清原+24.1P 蒼山▲2.3P 福島▲6.9P 樋口▲14.9P
【トータル】
清原+277.6 福島+160.3 蒼山+117.6 樋口+108.6
清原がリードを広げ3者には苦しい展開へ、蒼山と樋口の順位が入れ替わる。
 
〈3回戦〉
ヤミテンの応酬、決定打が出ないまま局だけが進んで行く。
東4局、親・清原
福島にドラ暗刻のテンパイが入る。
三万五万六万六万六万四索五索六索六筒六筒六筒八筒八筒  ドラ六万
清原が浮いていた四万で放銃8,000。
南1局2本場、親・樋口
苦しい手牌をこの形に仕上げ樋口がリーチ 。
二万三万四万六万七万八万六索七索八索五筒五筒六筒七筒  リーチ  ドラ四万
福島がワンチャンスで八筒放銃12,000。難しい選択を正解に導いた樋口の感性が光った1局だった。
南2局、親・福島 親リーチでツモ1,000オール。
1本場 蒼山リーチ 樋口の1人ノーテンで流局。
2本場 福島リーチ 清原とのリーチ合戦を制し2,600オール。
南3局、親・蒼山 樋口リーチ 1人テンパイで流局
東場とは変わり南場はリーチの応酬。最終戦を見据え少しでもポイントを積み重ねたい心境が伺える。
南4局1本場、  親・清原
持点20,300点の1人沈みで迎えた親番。手牌にはドラが暗刻で4巡目にポンテンを取る。
五万六万七万一索二索四筒四筒中中中  ポン九万 上向き九万 上向き九万 上向き  ドラ中
序盤という事もあり3者は普通に手を進める。
蒼山も三色の崩れる二索でテンパイが入る。
三万三万六万八万二索三索四索五索六索七索六筒七筒八筒
清原に分がありそうに思えたが蒼山が七万ツモで500,1000は600,1100
追い掛ける三者には僅かながらに望みを繋ぐ価値ある上がりだった。
【3回戦終了時】
福島+13.9P 蒼山+7.1P 樋口+1.8P 清原▲22.8P
【トータル】
清原+254.8P 福島+174.2P 蒼山+124.7P 樋口+110.4P
 
〈4回戦〉
座順は規定に基づき東家からトータル2着,3着,4着,1着となる。
東1局、親・福島
優勝に向け親の福島が先制リーチ。
二万三万四万五万六万七万五索六索七索六筒六筒西西  リーチ  ドラ六筒
手順ミスがあり流局かと思われたが最後のツモが六筒で4,000オール。
最終戦開始時の清原とのポイント差は80.6ポイント。福島の1人浮きでのトップラスだと44.6ポイント差と逆転優勝が現実味を帯びてくる。
続く1本場、清原が七対子のみの1,600は1,900を福島から出アガる。
清原は最初の山場を超える。
東2局1本場、樋口のリーチに福島が勝負し1,000・2,000は1,100・2,100。
東3局、リーチに行くかと思ったがヤミテンでツモ700,1,300。
東4局、親・清原
連続アガリで勢いのついた福島が終盤でテンパイが入る。
七万八万九万一索一索六筒六筒七筒七筒八筒八筒白白  ドラ八筒
自身で1枚捨てている清原の手牌に白が浮いていたが打たない。
そして樋口が1を掴み放銃5,200。
【東場終了時持点→順位点込みトータルポイント】
清原 24,600→+246.4P
福島 51,800→+208.0P
蒼山 24,700→+118.4P
樋口 18,900→+91.3P
清原と福島のポイント差は38.4Pまで縮まり勝負の行方は混沌としていく。
南1局、親・福島 樋口のリーチに清原が放銃2,600。
最後の親が流れた福島だがポイントは縮まる。
南2局 親の蒼山が意地を見せる。
福島→蒼山 タンヤオドラ2の5,800。続く1本場 樋口→蒼山 東ドラ2の5,800をアガる。
流局を挟み蒼山の親は5本場まで続くが福島が1,000点で流す。
南3局、親・樋口
場は終盤、樋口はこの1シャンテン。
一万二万四万五万六万四索四索五索四筒四筒四筒五筒七筒
このまま流局かと思った瞬間上家から三万が切られる。鳴いてテンパイを取ると思ったが樋口は違った。その直後六筒を引き入れリーチ、チーテンをとった清原が放銃2,000。
南3局1本場、蒼山が樋口に放銃2,900は3,200。
南3局2本場、樋口は最後の親番にも関わらずとても落ち着いているように見えた。
四暗刻が見えそうな形だったが五筒を引き入れ樋口がリーチ。
二万二万六索六索六索九索九索九索三筒四筒五筒白白  リーチ  ドラ白
高めの白を一発でツモり8,000オール、前々局チーテン取らずがここで実を結ぶ。
このアガリで樋口は蒼山を抜きトータル3着へ浮上。
南3局3本場、全員のマークが樋口になる。
しかしリーチに行ったのは蒼山。
二万三万四万九万九万二索四索七索八索九索二筒三筒四筒  リーチ  ドラ二筒
同巡、清原にも好形テンパイが入る。
五万六万三索五索五索五索六索六索七索八索四筒五筒六筒  ツモ七万
清原がテンパイ打牌の三索で放銃8,000は8,900。
三索は樋口の現物で残していた牌であり、蒼山の捨牌の筋でもあった。
【南3局終了時持点→順位点込みトータルポイント】
清原  1,400→+214.2P
福島 39,800→+187.0P
樋口 43,600→+132.0P
蒼山 35,200→+130.9P
福島は倍満ツモもしくは清原から跳満直撃が条件。樋口と蒼山は1,100点差なので配牌勝負。
南4局、親・清原
清原は配牌からオリ、福島は条件を満たすには厳しい手牌。
蒼山はピンフの好形、樋口は南がトイツ以外は苦しいが蒼山の下家なので5分。
蒼山が条件を満たす為にリーチ。
一万一万二索三索四索七索八索九索六筒七筒七筒八筒九筒  リーチ
他者の動向から南が鳴けないと判断した樋口は南トイツ落としからテンパイを目指す。
そして形式テンパイから役ありへ
六万七万八万四索四索六索七索八索六筒八筒  チー三筒 左向き二筒 上向き四筒 上向き
樋口もテンパイからは真っ直ぐ、2人の気迫が卓外まで伝わる。
壮絶なめくり合いが続く中…勝負を制したのは蒼山、五筒ツモで700、1,300
第20期特別昇級リーグは清原の優勝で幕を閉じた。
2位に福島、3位に蒼山、最後に見せ場を作ったが惜しくも4位の樋口。
8月のリーグ戦次第だが、上位3人にはそれぞれ特別昇級の権利が与えられる。
敗れた者達の為にも悔いのない戦いをし、見事昇級を果たして欲しい。
__忘れられない言葉がある。
『プロなんだからとりあえずの一打は止めよう。その判断が、そのリーチが運命を変えるかもしれないんだよ。』
これはプロテスト3次試験の時に望月プロが言っていた言葉だ。__
今の僕があるのもこの言葉のお陰と言っても過言ではない。そして今回の決勝にふさわしい言葉のように思う。
ここまでの8節は決して平坦な道ではなかったはずだ。仕事の調整をして参加した者、新幹線や飛行機で会場まで来た者…優勝以外意味のない者、途中敗退していった者…
それぞれの想いと覚悟が詰まった中で、運命を賭けた一打だったように感じた。
麻雀プロとして今後の人生を大きく左右するかもしれない舞台で、素晴らしい対局を見せてくれた4人のこれからの活躍に期待したい。
最後までお付き合い頂きありがとうございました。