若獅子戦 レポート

第5期若獅子戦決勝レポート

【第5期若獅子戦~貝原香が勝負を委ねた中単騎~】

1回戦、2回戦と貝原は連勝した。
迎えた3回戦南1局、トータル2番手の高橋大輔の親番をただ流しにいくだけでなく、しっかりとリーチを打って満貫のツモアガリ。
この半荘は高橋にまくられることにはなったが、2着をキープできれば十分。
大きなリードで最終戦を迎えた。

 

 

 

 

3回戦終了時
貝原+86.P5、高橋+4.0P、田中▲42.3P、山本▲49.2P

 

最終戦、高橋が猛追する。
東1局、先行リーチの山本祐輔から高目の四万でアガリ、18,000。
(リーチ、ピンフ、三色同順、ドラ、裏)

 

 

東2局は、 親番の田中祐から出アガリ。チンイツ、ドラ1の12,000。

 

 

貝原とのトップ3着やトップラスは作りづらくはなったが、既に素点で3万点も縮めた。
貝原もかなり神経を使っている。
この東2局、 高橋のテンパイ直後に掴んだ八筒を、今のうちに、と放銃してもおかしくなかったが、しっかりと手仕舞。
目立たないがファインプレーだった。

 

 

貝原はベスト16 のときに、「同期の早川(健太)が第3期の若獅子を獲ったので、今度は自分が取りたい」とインタビューで語った。
その早川は、大逆転での優勝。
貝原が知らないわけがないだろう。
また山本は、今期のベスト16で100ポイント差を最終戦だけで逆転してきている。
そう簡単な話ではないが、 勝負事は決着するまで何が起こるかわからないのだ。

東3局、山本の親番。
1つ書き忘れていたが、ある程度の差があると、 自分以外の子2人が局を潰しにいかないのも貝原にとっては苦しい点である。
平場は山本がリーチして、1,300オールのツモアガリ。
1本場、貝原は仕掛けて捌きにいくが、先制リーチは田中。
田中はおそらく、貝原以外からの出アガリをしないつもりだったのではなかろうか。
貝原をオリさせる意図の強いリーチだろう。

 

 

貝原も押し切ろうと頑張るが、田中の狙い通り、終盤に撤退。
そして、親の山本は五筒を仕掛けてテンパイし、2人テンパイで流局。
東3局もなかなか終わらない。

 

 

しかし、この局、貝原には1つ選択があった。
最終盤、三索をチーして打二筒とすれば再度テンパイが取れる。

 

 

 

テンパイを取っていると、なんとこの五万でアガリがあった。(山本に流れるが、ツモ切られる)
解説の山田は「田中に対して、五筒が通っていて、序盤に四筒を切っているので通しやすい」と説明していたが、打点が必要な田中が123の三色同順を狙いで固定した可能性が否定できない。(実際に狙っていたし)
テンパイ料のために押す局面ではないだろう。
しかし結果は、早く局を潰したい貝原にとっては、痛い逸機。
もちろん スコア上はまだ余裕はあるのだが、元々のリードを鑑みるとだいぶ差は縮まってきている。

山本と田中は、今日は巡り合わせが良くなかった。
前半戦に話は戻るのだが、1回戦南3局、田中は高目の三色同順が一筒の方と絶好のリーチを打つも、

 

 

一気通貫が完成していて、真っ直ぐに攻めた山本から四筒での2,000点。

2回戦も、これまた攻める手の山本に安目を打たれる。

 

 

 

山本は放銃になるし、アガった田中も嬉しくはない。
むしろ、貝原や高橋の方が嬉しい結果だろう。
もちろん、こうしていればよかった、と思ったところはあっただろうが、難しい日だったことには変わりがない。
それでも最善を尽くして、最後まで貝原を苦しめたことで、淡白に終わりそうだった最終戦を盛り上げた。

最終戦に戻ろう。
貝原は、五万でのアガリが見えてしまったことに、メンタルは揺さぶられたと思う。
『田中のリーチには逡巡があったんだよな…二筒を押す手はあったよな…』
こういった思考もよぎったかもしれない。

続く東3局の2本場、もらった手牌はかなり捌きに向いている手、そして、どう仕掛けて組み立てるか、考えることが豊富な手だった。

 

 

 

第一ツモの取り忘れによる痛恨のチョンボ。
規定により、トータルから30ポイントが差し引かれる。
貝原「少牌、申し訳ございませんでした。1、2戦でリードを持ったことで、見えない敵と戦っているような、すでに狙われているかのプレッシャーを感じていて、そのプレッシャーが積もって、取り忘れになってしまったんだと思います。」
戦後のインタビューでこう語った通り、追われる者のプレッシャーは計り知れない。
裏を返せば、高橋、山本、田中が、大差になっても集中を切らさず、追い詰めたということだ。

 

 

とうとう貝原と高橋の差は10ポイント。
山本、田中にとっても、一縷の望みができた。
やり直しの東3局2本場、終盤のリーチは親の山本。
そして高橋も追いかける。

 

 

 

 

ここは山本に軍配。
リーチ、タンヤオ、ピンフ、ホウテイ、ドラ、裏の18,000。

高橋にとっては痛い放銃だが、山本がこの半荘の2着目に浮上したことで、8ポイント(リーチ棒と供託を入れると正確には9.6ポイント)離れただけ。
まだまだ戦える。

東3局3本場、田中がリーチ、ツモ、ピンフ、ドラの1,300・2,600。
東4局は、山本の1人テンパイ。

南1局1本場、両者にとって勝負所の高橋の親番だ。
まずは、山本から2,900をアガる。これで貝原との差は15ポイント。

南1局2本場、この局が優勝を決めた1局になった。
今でも見返してみて、自分だったら出来ていないなぁと感心しかない

貝原「田中さんと点数が近く、ラスになると条件が簡単になるので、あの巡目(6巡目)で中で勝負しようと思いました。」
貝原に七対子のテンパイが入る。

多くの人はヤミテンにして、高橋の親を終わらせると思っただろう。
解説の勝又は「なるほどー!」と驚きの声をあげていた。

 

 

チョンボによる小さくない動揺があったにも関わらず、点数状況からリーチの判断に至れたのは、――まだ機会も少ないはずなのに――、普段から対局を観て、考え、練習しているからだと思う。
窮地の貝原を救ったのは、日頃の努力に他ならない。
見事なリーチ判断だった。

 

 

そして、ツモった1,600・3,200は、素点だけでなく、順位も変わりづらくなる非常に大きな加点だった。
このアガリで勝負は決した。

勝又「手が悪くても仕掛けて捌きにいった積極性と、仕掛けても、痛い放銃をしなかった守備力が見事だった。」
山田「安定感がよかったし、よく攻めましたね。」

勝又も言っていたが、ヒューマンエラーで麻雀プロとしての実力の評価が変わることはない。
大きな戦いを乗り越え、また1人、将来がとても楽しみな若獅子が誕生した。

 

 

 

(文:福光聖雄)