鳳凰の部屋

「~終わりなき旅~」 佐々木 寿人

最終日を迎え、各者のポイント状況はこのようになっていた。

佐々木+77.2P 古川▲1.8P 前田▲3.7P 黒沢▲73.7P

残すは4回戦。このぐらいの点差になると、どこかで山越しを狙われる場面も出てくることだろう。
だが、ごちゃごちゃとネガティブなことばかりを考えるのは無駄な作業だ。
どの道ここから逃げ回って勝ち切れるほど勝負事は甘いものではない。
更に突き放して盤石な体制を築き上げればいいのである。

とは言え13回戦の入りは、多少の不安も持ち合わせていた。
序盤で躓けば相手も息を吹き返す。
私はペースを掴むアガリを何よりも欲していた。
 
13回戦東1局、私は起家スタートとなった。
ある意味で恵まれたかなと思った。相手の出方を探る前に攻め込むことができるからだ。
 
13巡目、絶好のドラが重なった。

 

100

 

八索は1枚切れだが、七索が3枚顔を見せていていい待ちに見える。
普段は字牌待ちを好む私も、さすがにこの場面は白を打ち出した。

同巡、その八索を前田さんがツモ切った。9,600。

少し体が熱くなった。

そして最初の不安もなくなっていた。
同1本場、ツモが効いてわずか5巡でテンパイした。

六万六万七万七万一索二索三索七索三筒四筒五筒九筒九筒  ツモ八万  ドラ二筒

迷いなくリーチを打った。
ドラの振り替わりなど待つ気もなかった。

そこにあったのは、攻め続けてこの半荘で決めてやるという思いだけである。
これがすぐに黒沢さんからの出アガリ。

高目の八万で5,800は6,100。
同2本場は8巡目にチーテン。

三索四索五索五索六索七索八索八索五筒七筒  チー四筒 左向き三筒 上向き五筒 上向き  ドラ六索

六筒は山にはなかったが、手が進んだ古川さんから2,900は3,500の出アガリ。
図らずもこれで3者から1回ずつ直撃を取ったことになる。

3本場こそ前田さんに700・1,300で蹴られたが、まずは幸先のいいスタートを切ることができたと言えよう。
このリードを生かし、正確に局を回していくことがここからのテーマとなる。

東3局2本場は以下のアガリ。

六万七万三索四索五索二筒二筒  ポン西西西  ポン一万 上向き一万 上向き一万 上向き  ツモ五万  ドラ二筒

続く東4局も捌き手が決まる。

五筒六筒六筒六筒七筒発発  ポン中中中  チー九索 左向き七索 上向き八索 上向き  ロン発  ドラ二筒

再び親が回ってくると、7巡目にテンパイ。

四万五万六万七万八万四索四索五筒六筒七筒発発発  ドラ西

当然の即リーチは、既にピンフのテンパイが入っていた黒沢さんから3,900。

親が落ちた南2局は2フーロ。

七万七万五索六索二筒三筒四筒  ポン八筒 上向き八筒 上向き八筒 上向き  チー三索 左向き二索 上向き四索 上向き  ドラ七万

これも黒沢さんからの出アガリで3,900。
終わってみれば、この13回戦は7度のアガリをモノにして、完全に私のゲームとなった。
そして実質的にここでの1人浮きが、鳳凰位連覇への決め手となったのだった。

とにかく親番に拘って戦ってきた私にとって、まさに今決定戦のベストゲームと言えるだろう。
 
終了後のインタビューで、「この1か月間、本当にきつかった」と述べた。
素直な気持ちだった。

2日目を終えた時点で3者にかなりの差をつけたが、だからこそ戦う姿勢を忘れてはならないと自らに言い聞かせる毎日だった。
リードを奪うと、早く無難に終えたいという思いが強くなる。ただ、逃げよう、逃げようという気持ちが強くなりすぎると、どこかで必ず墓穴を掘る。

自分は無敗の王者なんかじゃないし、寧ろ敗戦数の方がよっぽど多い分だけ負けパターンもよくわかっているつもりだ。
全て勝ちたくても勝てない葛藤と一体何年向き合ってきただろう。
当然のことながら、現役である限りそれは一生続いていくものである。

タイトル戦を勝った喜びなど一日、二日で消えてしまうし、自らに求められるものも日に日に大きくなっていく。
ただ、それでいいのだと思う。

我々は年間でも数多くのタイトル戦に出場するわけで、何かに勝ったとしてもそれはすぐに過去のものとなっていく。
3か月も4か月もその喜びに浸っている時間はないのである。
 
「三麻やります?」

鳳凰戦を勝ってすぐ黒木真生さんに声を掛けた。

「ほんま寿人は凄いわ。尊敬する」

そんな言葉が欲しいわけではなかった。

連覇は達成したが、Mリーグの不調がある。
どうせ打ち上げもないのなら、やることは1つしかないではないか。

残念ながらこの日はスタジオのスタッフに全振りされたが、この姿勢だけは忘れずに生きていきたい。
どこまでいってもゴールに辿り着ける日はこないのだから。