鳳凰の部屋

『天王山』

鳳凰決定戦は1日5回戦い、翌日また5回戦います。
さらに1週間後、2日間同じ戦いをして雌雄を決します。
都合20回戦で長さは十分、これで負けたらその日の運ではなく打ち手の能力となります。

28期のこの年からニコ生放送が入り、撮影のため1回戦の消費時間が長くなりました。
通常なら、半荘1回は50分程度、5回戦なら4時間あれば十分です。

ところが、この日は半荘の合間にも視聴者サービスの撮影が入るため、5回戦は9時間ほどかかってしまうのです。
最初、打ち手は半荘の度に少し間があって違和感をおぼえますが、条件は5分ですから文句は云えません。

ただ大事なことは、生放送で何万人に及ぶ視聴者の目があるということです。
ここではプロという名がつく以上、それらしい麻雀を打たなければいけません。
ファインプレイも失投も、記録映像に残るからです。

これは麻雀が陽の目を見るチャンスであると同時に、つまらぬ麻雀を打てばそっぽを向かれるという危険がはらんでいます。
もちろん打ち手は皆、そのことを承知しています。

昨日は疲れてはいるものの、久しぶりの麻雀で気が高ぶりあまり寝つきがよくありませんでした。
もちろん予約してある映像は、早送りでポイントの場面はすべて検証してあります。
ただしそれが今日、役に立つかどうかは別問題。取れた睡眠は5時間程度です。

検証したことが本当に頭に入ったかどうかも定かではありません。
とにかく、全力投球で魅せる麻雀を打つだけです。

2日目の1回戦は起親のスタートですから、正攻法に構えます。
1日目は好スタートを切ったにもかかわらず脚が止まっています。でも、それは気にしない。
仮に相手が吹いて、ツキの差に大きな開きが出たとしても、家に帰り一晩寝れば、ツキは初めの元のサヤに納まるというのがボクの持論です。

自分の失投や予期せぬ出来事で、自分が被害を受けても勝負の途中はすぐに忘れる。
勝負師は、このプラス思考が大事です。不安や後悔を考えるのはマイナス思考で、この後の勝負に悪影響を与えます。
これが引きずり…多くの打ち手はこれで麻雀の芯がブレ、視野を狭くする。
結果、相手ではなく自分に負けていくのです。

ですから、日ごろの鍛錬で麻雀は技や芸の幅を広げることも大事ですが、同時に精神・心も強く鍛えていかなくてはなりません。

親番のボクは12巡目にリーチを掛けます。入り目は五万。ソーズが入れば絶好でしたが、贅沢は言えません。

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この手は誰が打っても、こうなるところ。受けは引っかけのドラ待ち、もちろん出ることなど考えてもいません。
ただ、リーチで相手に圧力をかけ、相手の思い通りに打たせないことが大事です。
この時ボクは流局で御の字、ツモったら望外の利の考えです。やっぱり結果は流局、しかしこのテンパイ形を見せることは大事です。

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この時、相手はボクをどう思うか。おそらくこうだ。
(カンチャンの引っかけのドラ待ち…ヤツのマチは何でもあるぞ!)
…と、考える。
ドラも危険、引っかけも危ない。そして無筋はもっと危険。
つまり、こちらに対するロン牌の数が増え、相手のオリが一手も二手も早くなるのです。
麻雀の勝負は、相手をいち早く降ろした方が相手の反撃の芽を摘むため、後の戦いが有利となります。

投手は、剛速球で三振を奪うばかりが能ではありません。同じ攻めでは相手の目が慣れ、次第にバットに当たり始めます。
変化球で右や左に振って相手の思惑を裏切ることが大事で、そこで初めて勝負球のストレートが生きるのです。
麻雀の攻めだって同じです。

東2局はボクのミス。つまらぬ仕掛けで当面のライバルである瀬戸熊に、満貫を献上します。
瀬戸熊の手は二筒が枯れています。だからヤミテン。そしてこうなる。

五万六万七万一索二索三索七索七索二筒三筒三筒四筒四筒 ツモ四筒 ドラ四筒

丁寧にヤミテンに構え、次にドラの四筒を引き込み、待ち替えでリーチを掛けます。
一筒は親の右田がポンしていますが、全体の河から七索は生きている公算が高い。
これを狙ったのです。その七索をボクが一発で掴んで打ち上げました。

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まずい流れです。ボクが一番マークしている相手への打ち込み。おまけにこの段階で、彼がトップでボクの1人沈みのラス。
これはボクの甘い仕掛けをとがめた、瀬戸熊の好手の1局です。
しかし南2局に、今度は逆の展開となったのです。

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2軒リーチですが、まさか瀬戸熊から待望の一索が出るとは思いもしませんでした。
瀬戸熊は手詰まりからの打ち込みで、なおかつテンパイ維持ですからこれは責められない放銃でしょう。

何たる幸運。これで一気に点差が詰まり、4者接戦となります。
しかし、次が瀬戸熊のしぶとい所。

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ボクは苦労してリャンペーコーをアガったのに、向こうは軽々と満貫のツモである。
(なんだよ!)
これがボクの、正直な気持ちです。

しかし次のオーラスは、ボクに麻雀の女神が微笑みました。

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右田の五万は迷いポンの気配が有りだったので、無視して直線的に攻めます。
四筒七筒は4枚切れで、1枚は手の内。でも、そんなこと…知るかって感じです。
すると、ラス牌の四筒を一発で引くことができました。

乱打戦のこの第6戦は、ある意味で天王山の一戦だったといえるでしょう。
瀬戸熊のトップを捲れたのは本当に幸運でした。このアガリで、今日の手応えを感じました。瀬戸熊マークは次から外します。
マークはされるより、する方が神経は疲れます。

そして第6戦までの総合結果はこう。

荒  +34.6P
右田 +25.8P
瀬戸熊 ▲3.7P
望月 ▲54.7P
(供託2.0)

ボクが気にしているのは、まだ瀬戸熊との差でありその距離間だけです。
まだ2日目の第1戦ですが、今日の「天運」はボクにあると感じました。

マークするのは…「今度は瀬戸ちゃん、君の番だ!」