鳳凰の部屋

第29期鳳凰戦の軌跡~体感~

第29期鳳凰位決定戦が終わり、僕の麻雀をよく知る人物に評されて、一番しっくりくる言葉があった。

「よく、あの人達と対等に戦えるようになったね」

『しっかり殴り合う』この事を常に考えていた。
『倒れるなら前に倒れよう』を合言葉にしていた。

7回戦で腰が引けて、自分を戒め、8回戦でまた自分を取り戻した。

迎えた9回戦。
この半荘は、完全に「行き腰」のある麻雀を打つ事だけを考えていた。

8回戦終了時成績
前原+41.7P 瀬戸熊+29.5P 荒▲27.7P 藤崎▲43.5P

東2局、背中を後押ししてくれるかのような自然なアガリをものにする。

一万二万三万六索七索八索四筒四筒九筒九筒  ポン中中中  ツモ四筒  ドラ四筒

荒さんのリーチ(四筒七筒マチ)を掻い潜り、幸先の良いスタート。
迎えた親番。ダブ東が早い段階で鳴け、一人旅となる。山との勝負。

三万三万三万五万六万七万七万七万八万九万  カン東東東東  ツモ四万 ドラ中

これもヒットする。

8回戦のスレスレの戦いがようやく実を結ぶ。俗に言われる「クマクマタイム」の入り口。
しかし、怪物たちがそのくらいの事を分らない訳がない。誰一人顔をあげない。
ほとんど加点のないまま親を落とされる。

南場の親番でもう一度ブレイクさせる為に、前に出る。
しかし、南1局、荒さんのスーパープレイが炸裂する。

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この東が止まる人が、この世に何人いるのだろう。
僕からのテンパイ気配は、当然、荒さんも感じている。そこへ親の藤崎さんの若干強めの牌。
それだけの些細な情報から、東を止める荒正義。28期決定戦で僕の当たり牌八索を止めた再現。
トータルトップの前原さんが9,600の放銃となり、ハコを割る。
他の3人のトップ走者包囲網が実を結んだ瞬間。

このスーパープレイは、僕からは分からない。
そこで僕は勘違いをしてしまう。展開まで仕上がって来ていると。
そこで迎えた南2局。エラーと呼べない程の小さな小さなミスが出る。
藤崎さんの連チャンの1本場。前原さんが7巡目に仕掛ける、ポンテン。

二万二万七万八万九万四索五索一筒二筒三筒  ポン発発発  ドラ四索

僕の手牌は、

五万六万七万八万四索四索四索三筒三筒六筒七筒北北 ツモ七索 打北

最終形
六万七万八万四索四索四索六索七索三筒三筒六筒七筒八筒

これを思い描く。
自分で本当に作り上げた体勢ならば、そうなったであろう。
しかし、状況はちょっと違っていたのである。

次巡の前原さんは、ツモ切りの五筒
この五筒、仕上がっているならば「ステイ」である。
しかし、本当はまだ仕上がっていない。

「チー」の声が出ない。いや出せない。
そして次巡、前原さんツモ六索で500・1,000のアガリ。
チーしていれば、

五万六万七万八万四索四索四索七索三筒三筒  チー五筒六筒七筒  ツモ六索

こうなり、五索八索のテンパイ。
前原さんのマチは、山に2枚。僕のマチは山に3枚となっていたはずであった。
このアガリ形を見て確信する。
「次の前原さんの親番は大変な事になる。」

南2局、持ち点1,000点の前原さんが、予想通りリーチ。
数巡後、ツモの発声。

八万八万八万一索二索三索三筒三筒三筒六筒六筒南南  ツモ南  ドラ二万

4,000オール。嵐の過ぎ去るのを待つしかない。
東場のクマクマタイムは幻と化そうとしていた。

次局、これまた全員が予想する中で、8巡目リーチ。100%本手だ。
捨て牌
九万 上向き七筒 上向き西東南
四索 上向き九万 上向き二索 左向き  ドラ北

僕は下を向いて耐えるしかない。
西家・荒さんが、珍しくツモ番で少考に入る。打一索
荒さんの手牌は、

二万三万四万五万五万六万一索二索三索三索四索三筒四筒  ツモ六索

オリを選択。僕ならどうしただろうか。
北家・藤崎さんも少考に入る。打二万。藤崎さんの無筋打ち。200%テンパイである。

手牌は、
二万三万三万四万四万六万六万七索七索八索八索中中  ツモ五索

前原さんのツモはドラの北。少しだけ時間が止まる。
同巡、藤崎さん「ツモ」の発声。しのいだ。いや僕は座って、助けてもらっただけだ。

前原さんのリーチは、

六万七万八万一索二索三索四索五索七索八索九索北北

こうだった。ヤミテンなら、シャンポンなら、これまたミスとは言えない場面である。
「隙」とは言えない隙を潰し合う。

「ああ、鳳凰位決定戦なんだなあ」と思う。

間違いなくそこに、日本で最高のレベルの麻雀が存在していると体感するのであった。
その中の1人に僕がいる。勝つ事よりも、いかにこのレベルに乗り遅れないように打つか、新たに考えさせられた。

オーラス、東場の貯金のまま、持ち点48,800とある状況で、ラス目の前原さんからリーチが入る。
捨て牌
中七索 上向き八索 上向き一索 上向き四万 上向き四筒 上向き
六万 上向き七索 上向き白

どう見ても変則手であり、点棒状況から考えて、満貫から跳満クラスのリーチである。

15巡目、僕の手牌は以下のものとなる。

三索一筒一筒二筒三筒三筒四筒四筒五筒六筒八筒八筒九筒  ツモ八筒  ドラ三索

親の荒さんはオリている。安全牌を抜けば、この半荘は無事に終わる。ツモはあと2回。
リーチの前原さんのツモを考えると、3回のチャンス。一般的には「オリ」が正解なのだろう。
僕は、ファンの声、応援してくれている人に問おうと思った。
胸を張って切ったドラの三索を。

十中八九予想していた「ロン」の声。
開けられた手牌

五万五万七万七万九万九万三索一筒一筒南南発発  ロン三索  ドラ三索

腹をくくっていたつもりだが、気持ちが揺れた。荒さんと藤崎さんの視線が刺さるのを感じた。

小休止の間、自問自答して出した答えは、
「10回戦、トップを獲れば正解としよう」と自分に言い聞かせた。

この怪物たちと殴り合うのは、本当に精神力の戦いである。
殴っても殴っても、僕のパンチが効いているのか分らない。
中間地点を前に、再びトータルトップに立ったのは事実だし、戦い方にも満足していた。
後は、結果を気にしないでどこまでリングに立っていられるかだろう。
苦しいけど、確かな幸せがそこにはあった。

第29期鳳凰戦の軌跡~反応~へ続く