鳳凰の部屋

~決定戦進出~

鳳凰の部屋はプロ連盟の最上階だけあって夜景がとてもきれいである。
今日も夜景を見ながら、ひとりワイングラスをかたむける。

「ルネッサンス!」

ちょっと古い・・・。

さて本題。プロリーグも大詰め第8節の3回戦。
現在約▲92ポイントは、暫定最下位の12位。
対戦相手は、鳳凰位決定戦進出ボーダーの柴田プロ。
少しマイナスで、決定戦進出に勝負所の荒プロ。
それに、暫定11位で私と共に降級争い真只中の近藤プロ。

今日の後残り2回戦は、3人にとってとても重要な戦いとなっていた。
残り2回のまず最初の半荘、勝負所で高目ツモ6,000オールの手が入ったのは親の荒プロ。
その荒プロとのリーチ合戦に競り勝ち、メンホンの跳満をアガリきり、やや大きめのトップをとる。これでマイナスも60ポイント台に減り暫定9位まで浮上。

しかし、暫定8位の荒プロとはまだ40ポイント以上の差があるため、次回、最終節に待ち受けている、降級争いとなるであろうC卓から逃れるのは難しい。
従って、今日の最終戦をどんな結果で終えたとしても、次節は下位4名の直接対決なのであまり大きな意味は成さない。

というわけで、今日は一仕事終わらせた感いっぱいで気楽な気持ちで向かえた最終戦。
夏目坂スタジオ初の役満をアガる。「メンゼン大三元」。しかも親かぶりは荒プロ。

あれ?もしかしてこれは?そう、それです。・・・何のこっちゃ「祝・降級候補脱出」というわけです。めでたしめでたし。と、今期のプロリーグは実質、最終節を待たずしてここで幕を閉じるはずであった。

ちなみに、この後は周りの反響がすごかった。
会う人会う人「メンゼン大三元すごかったですね」と言ってくれる。
もちろん悪い気はしない。いやいやこの際だからもっと正直に言おう。めちゃめちゃ嬉しかった。
言われるたびに、にやけ顔を抑えるのに必死だった。
今思うとアホな話だが、このときはちょっと王様気分だった。

しかし1週間後、沢崎プロが国士十三面をアガる。
それ以来、話題は国士十三面へ。「メンゼン大三元」のメの字も聞かなくなった。
沢崎プロには、デビュー当時からかわいがってもらっており、いまでもあこがれのプロの1人ではあるが、このときばかりはちょっと嫌いになった。・・・そんなわけないか。

この卓が大荒れだった。
暫定1位の沢崎プロと、暫定2位の伊藤プロが大きくポイントを増やし、最終節を待たずして決定戦進出に当確ランプを灯した。

このあおりをくった形となったのが、柴田プロが沈んだことにより、暫定3位となっていた望月プロと、十分決定戦を狙える位置につけていたダンププロ。
これにより、最後の椅子をかけた争いが大混戦となった。

こうなると、5位まで順位をあげていた私にもチャンスがでてきたということである。
どうやら私の今期のプロリーグには、まだ続きがあったようだ。

A1リーグの最終節は、順位順でA卓からC卓に分かれてC卓から対局が行われる。
わたしはB卓。3位の柴田プロと、4位のともたけプロより1週早い対局のため、私の最終節の目標は、まずB卓の卓内トップとなること。その目標をクリアした場合のみ、私より約50ポイント上にいる柴田プロより、1トップ分程のポイントを上積みできるように攻めること。
約65ポイントのプラス。この2つである。

それでも柴田プロとともたけプロは、その結果をふまえての戦いができるため、私にとってはかなり厳しい条件である。しかし、ついこの間まで厳しい残留条件を突き付けられていたと思えば、楽ではないが気軽な条件である。

最終節は、降級ボーダーを意識せざる得ない対局者達を利用し、展開を味方につけてうまく立ち回る事ができた。特殊な状況での対局ではあったが、今期初めて納得の内容だった。

目標には10Pほど届かなかったが、56Pの上積みに成功した。
現在暫定3位・柴田プロとは約9P。ともたけプロとは約21Pの差である。

1週間後の、プロリーグ最終節最終卓の結果待ちとなったが、この時の正直な気持ちをここに書いておく。

もしかしたらプロとしては失格なのかもしれないが、おそらく決定戦には柴田プロかともたけプロがいくのだろう。しかしそれでいいと思った。
決定戦は、今期いい麻雀を打ち切った3人が進出すべきである。今期の自分に、その資格があると思うか?と問われれば、私の答えは「NO」である。

ツイていただけの人間が立っていい舞台ではない。
最終卓の生配信を、柴田プロとともたけプロの直接対決のみではなく、少し盛り上げる役割を果たすことができただけで今期は十分である。

昨年は、胸を張って決定戦に進出したということが影響していたのだろう。
とにかく、今期鳳凰位決定戦を戦う心構えは、全くといっていいほどなかった。

さて最終卓。私は生配信を見ていた。けして、自分の決定戦進出を望んでいたわけではない。
しかし、最後まで見届ける責任があるような気がした。
最終戦のオーラス、柴田プロのピンフ・ドラドラのリーチ。おそらく私には打てないリーチである。そして、リーチをしなければおそらく沢崎プロがアガって終わっていただろう。
そのリーチを受けた最後の親番で、いくしかない状況のともたけプロの打ちまわしは見事だったと思う。

しかし、最終的に決定戦の最後の椅子に座ったのは私。「なぜ?」と思う。
もちろん答えなど永久に見つからないのはわかっている。
ただ、私が目に見えない力に選ばれたのは事実である。

「鳳凰位決定戦」。2年前から生配信になって、ただのタイトル戦の決勝戦ではなくなった。
実際に戦う4人にとっては「夢の舞台」でもない。

プロ連盟最高峰の戦いであるがゆえに、様々な人達の想いを全て4人で背負うまさに大舞台であり、逃げることは許されない現実である。

「責任感」という重圧が私を襲う。
もし本番がこの1週間後であったなら、気持ちの整理がつかないまま戦って、散々な結果となっていただろう。

私にとって幸いだったのは、ここから本番まで1ヶ月以上空いていたことだった。