鳳凰の部屋

~決戦の地~ 藤崎 智

2年連続2度目の鳳凰位決定戦進出。プロになって17年。
参考までに、ここまでのプロ連盟四大タイトルとグランプリの決勝の戦績を書いておく。

鳳凰戦1回、優勝0
十段戦5回、優勝1
王位戦3回、優勝0
マスターズ2回、優勝0
グランプリ3回、優勝1(グランプリMAXを含む)

トータル14戦2勝。ちなみに準優勝0回。我ながらよく負けたものである。
この実績にもかかわらず、昨年の鳳凰位決定戦の前には親しい人達には「絶対に勝つ」と豪語していた。どの口が言ってんだ!と突っ込まれそうである。

さて、今期の鳳凰位決定戦。対戦相手は瀬戸熊現鳳凰位、沢崎プロ、伊藤プロ。
今期のリーグ戦においては、沢崎プロ、伊藤プロには一度も勝っていない。

伊藤プロには十段戦でも競り負けている。
そして、絶対王者とし君臨する瀬戸熊プロに関しては、対戦すらさせてもらっていない。
とまあこんな感じ。

これではさすがに能天気な私でも勝つイメージがわかない。
しかし、ひとつだけ絶対の自信がある事があった。

「勢い」

異常な勝ちあがり方をしてきたために、この勢いという面だけは絶対の自信があった。
沢崎プロと伊藤プロもこの「勢い」というところには、かなり警戒していたようだった。
したがって、今回の決定戦の作戦は、本能の赴くままに体の自然な反応に任せて細かいことは気にしないことと決めていた。

というわけで、決定戦進出決定から決定戦開始まで1カ月以上空いたが、昨年とは違い細かいシミュレーションやイメージトレーニングはいっさいしなかった。

ただ、気持ちをちゃんと戦闘モードに持っていけるかどうかだけを考えていたのだが、そこは何も心配はいらなかったようだ。
鳳凰位決定戦の前に行われた女流桜花決定戦がかなり熱い戦いになったおかげで、自分も自然と戦闘モードに入れたような気がする。
あの吾妻プロのタンピンリャンペーコーから、数十時間後には自分の戦いが始まるのだから。

当日の朝。対局前は早目に起きるため少し時間を持て余す。
昨年はいろいろシミュレーションしていたので、作戦の最終確認をしていたように思う。
今年は細かい作戦がないので確認のしようがない。

したがって、持て余した時間で17年前の新人の時の十段戦の決勝戦を思い出す。
藤崎のプロとしての原点の戦いだった。

当時は東北本部に所属し、十段戦だけで何回仙台と東京を往復しただろう。
運よく決勝まで進んだが、その時の決勝の相手が、去年対戦した前原プロと今年の対戦相手の沢崎プロと伊藤プロであった。

道中、荒プロやともたけプロとも対戦している。
当時は、みんな若かったんですよ、みなさん。
そんな自分も最近、階段やちょっとした坂道がきつい・・・。

もしあの時の十段戦で決勝まできていなければ、沢崎プロに「東京本部に来い」と言ってもらうことはなかっただろうし、その時はまだ麻雀プロがほとんど食っていけない時代で、もし決勝も勝って優勝していたなら、もう麻雀の世界には満足してプロは辞めていたように思う。

余談ではあるが、今でも東京より地元仙台や東北の方が好きである。
いずれは、東北で競技麻雀の普及に役立ちたいと思っている。

そんな昔懐かしい話を思い出しながら決戦の地へ向かう。
生配信になって対局開始までの間、少し番組としての演出がある。
この時間が対局者として、大勢の麻雀ファンに対局を見てもらえる喜びをかみしめる時間となれば本物のプロなのかもしれないが、さすがにまだそこまでの余裕はない。

しかし頭の中は真っ白であるが、集中はできている。腹の中は真っ黒ですけどね。・・・。
さて開局。いきなり選択のある配牌がくる。ちょっと神様いじわる。

東1局、西家。

四万五万八索一筒二筒七筒八筒九筒西西発中中  ドラ五筒

打牌選択は難しくない。1枚目から鳴くか否かの選択である。
普段の開局であれば1枚目からは鳴かないであろう。
結果を恐れるなら1枚目は鳴かない方がいいだろう。
鳴いて誰かに大物手をツモられれば戦犯となるからである。

しかし、鳴かないでそのまま何も引けずで終わるのも開局からいやなムードが流れる。
とりあえず勝負手であることだけは間違いない。

そこで、上家が瀬戸熊プロであることにかけてみた。
前述の通り、沢崎プロと伊藤プロは藤崎の勢いを警戒しているのはわかっていたので、ホンイツ仕掛けには1枚も鳴かせてもらえないだろう。
もし瀬戸熊プロに絞られても、これから先の戦いへのデータとしては十分であろう。
4巡目、対面の沢崎プロの西を1枚目から仕掛ける。

二万八索一筒二筒七筒八筒九筒西西白発中中  ドラ五筒

ここから自分の手は動かず12巡目に沢崎プロよりリーチが入る。
自分の手が動かなかったのですぐにオリを選択。
沢崎プロの1人テンパイで流局。ちなみに沢崎プロの手は

三筒三筒四筒四筒六筒六筒七筒七筒八筒八筒発発中  ドラ五筒

鳴かなければ、本来の私のツモはピンズで溢れていたようだ。
しかし沢崎プロにもツモられたわけでもなければ、もしかしたら瀬戸熊プロか伊藤プロの大物手を潰した可能性もあるので、この局は可もなければ不可もなし。

次局も3巡目に1枚目の発から仕掛けたのだが、これもテンパイせずに終局。
どちらもひどいことには繋がっていないのだが、積極的に仕掛けてもテンパイもしなかったので少し鳴きは控えて様子をみることにする。