鳳凰の部屋

鳳凰の部屋/『宿命』(最終回)

これが最終戦。1年をかけた各々の戦いはこの半荘ですべてが決します。
プロリーグ予選が40回戦で、鳳凰決定戦が20回戦。
『鳳凰』戦は、プロ連盟の最高峰のタイトルです。これを獲得できたなら、連盟史にその名を刻むことはもちろんのこと、賞金や他のタイトルのシード権を得ることができます。当然、メディアの露出も多くなる。
ですから、これ1つで名のあるタイトルの3個分の価値があります。
ではここで、打ち手4人の状況と立場を認識しておきましょう。
ボクは現状首位ですが、2位の右田とは8.1P差しかありません。2人沈みの場合、お互いが浮いたなら順位点が4Pと8Pとなります。
したがって、彼がトップでもボクが浮いてさえいれば4千点までの余裕があります。
しかし、右田もその点棒に照準を合わせて打ってくるはず。有利さは、さほどのことではありません。
どちらが獲るにせよ、鳳凰を取る確率は2人で合わせて90パーセントでしょう。
瀬戸熊は3番手、彼が優勝を狙うためには素点で3万点以上のアガリが必要です。
役満を引けば問題なし。しかし、役満はそう簡単に出るものではありません。
後は連チャンに期待ですが、2人を上手にかわすのは困難と思います。
ですが、瀬戸熊ミラクルもあるので優勝の可能性は残りの10パーセントと予想します。
残念ながら望月は圏外。ただ彼は、圏外であっても麻雀に対する姿勢は正直なので、最高の手役を狙い正々堂々とトップを取りに来るかもしれません。ここに飛びこまないことが、肝心です。
東1局は、親番の右田からリーチが入ります。そして流局間際にこれです。
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一発で、すでに逆転です。今度はボクが追う立場です。
ボクの条件は8,000点アガって浮くことです。しかし、右田は次にかぶせて止めのリーチと来ます。
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これが瀬戸熊マークをしすぎた反動なのでしょうか。
これまでの流れとして、右田を自由に泳がせていた感があります。
ボクのマークで一番迷惑を被ったのは瀬戸熊です。しかし、それは前にも述べたようにボクは自分が勝つための、最善の勝負の組み立てをしたのです。なのに、これでは共倒れとなります。
この時、ボクはこのまま負けたら本当に瀬戸熊に申し訳ないし、負けるわけにはいかないと思い打っていました。
ボクも粘り12巡目に追いかけます。
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しかし、結果は流局。
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右田の開かれた手を見て、少し驚きました。
右田からすれば勢いを信じて打ったかも知れない。しかし、ボクなら右田のこの手はヤミテンに構えます。
もっと有効な待ち牌を選びます。その間、出れば9,600。それで十分だった気がします。
この二索は追う立場上、ボクは要らなければ切るとしても、脇の2人は立場が違います。
前局、右田が4,000オールを引いた以上、勝負の流れはボクと彼の一騎打ちとなりました。
となれば、自分の打牌で勝負を決めたくないと思うのが一流のプロの実戦心理です。
だから、危険牌は断じて振らない。五索切りリーチに手詰まりでもない限り、二索は出てくるはずがないのです。
後日、滝沢和典は同期の右田の敗因はここにあったのでは、と指摘しています。
この後、ボクの攻めはことごとく空を切ります。やっと決まったのがこの局です。
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この後もボクは攻め、テンパイノーテンでやっと逆転。
そして最終局の始まりの時、右田のコンタクト・レンズが外れるというハプニングで一時中断。
右田は席を外し、調整に入ります。そして席を外したことを侘び、点差の確認に入りました。
ボクにはないが、右田には一番大事な場面で勝負に水を差すという、少なからずの動揺があったものと思われます。これも勝負の微妙なアヤかも知れません。
そして結果はこうです。
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打ち終えた感想は、とにかく「疲れた!」の一言です。
内容的には、魅せる麻雀を打てたし名勝負であったことに満足しています。
これから刻まれるプロ連盟の歴史から見れば、この勝負はほんの一場面でしかありません。
しかし、麻雀の発展はこの積み重ねにあるのだと思います。
プロならば、ファンに感動を与える麻雀を打つことが大事です。
来期は、瀬戸熊のリベンジを受けることでしょう。
そこには、勝ちもあれば負けもある。苦しみもあれば、悲しみもある。
勝ちの喜びは一瞬ですが、修業の辛さは一生です。
しかし、それを背負って生きるのがプロの「宿命」なのです。
長い間のご愛読、ありがとうございました。
2012年12月31日 記。