鳳凰の部屋

「~決定戦初日の構え~」 佐々木 寿人

自身初となるG1タイトル獲得は、2017年の麻雀グランプリМAXだった。
対戦相手が皆近い年代ということもあったが、決勝戦を迎えるに当たってのテーマは、はっきりしていた。

“絶対に負けてはならない戦い”

言うなれば、最後まで粘り強く、勝負を急がないということである。
それを如実に表した1局がある。

 

100

 

7回戦南4局12巡目、西家の私は二索を仕掛けた。
高目の発でアガれば浮きの2着かつ、最終戦をトータルトップで迎えられるという状況だった。

そこに北家の柴田吉和さんからリーチが入る。
持ち点が26,400ということを加味すれば、ある程度の打点も予測できる場面だ。
その一発目、私が引いたのは六索だった。いつもなら切っておかしくない牌だが、頭の中には戦前に掲げたテーマがしっかりと刻まれていた。

これが放銃になったとして、果たして勝負所だったからと言えるのか。発でアガればとは言うが、1枚切れの発が簡単に出てくる局面なのか。序盤から中張牌をダダ切りしている内川幸太郎さんの手の内にあれば、この手牌も死に手同然である。
とは言え、もちろん発が刻子になる可能性もゼロではない。それで六索九索待ちとなれば、もう一度勝負の舞台に乗ることができる。打発ではなく、打東としたのは、まさにギリギリの抵抗だった。

そして次巡、持ってきたのはこれ以上ないというようなドラの七索だった。

 

100

 

再び打東として7,700が確定。五索八索は河に4枚見えではあるが、これなら十分勝機はある。
しかしその直後、トータルトップ目の親の白鳥翔さんから四筒切りのリーチが入る。

私は2巡続けて安全度の高い一筒をツモ切ってこの急場を凌いだが、残りツモ番2回というところで三索を引く。

二索三索四索六索六索七索七索八索発発  ポン二索 上向き二索 上向き二索 上向き  ツモ三索

一度は回らされたスジだが、白鳥さんの捨て牌には五索八索が、そして柴田さんの捨て牌には八索がそれぞれ切られている。
この三索を勝負して3者での捲り合いに懸けるか、あるかどうかわからない次局に勝負を持ち越すか、私は非常に重要な選択に迫られた。
だが、決断にはそう時間を要さなかった。私は打発として、勝負を先送りにする選択を取った。

結果は流局。

親の白鳥さんは四索七索待ち、そして先制リーチの柴田さんは三索が高目の三色の手だった。

四万五万六万五索六索三筒四筒五筒中中  暗カン牌の背八筒 上向き八筒 上向き牌の背

三万四万五万六万七万八万四索五索三筒四筒五筒北北

 

100

 

仮にあの局面で三索を打っていれば、私はこのゲーム4着となり、優勝の可能性も極めて厳しいものになっていただろう。

二万四万六万七万八万三索三索六索七索八索六筒七筒八筒  ツモ三万  ドラ二索

その次局にこの三万を引きアガった時、我慢することの大切さを再認識すると共に、何かしらのテーマを持って戦いに挑むことの重要性を痛感させられた。
 

今決定戦は、“絶対に勝たなければならない”戦いだった。今回負ければ、次の機会がいつ来るかもわからない。いや、もしかしたら二度と来ないかもしれない。それぐらいの覚悟を持たなければ、到底優勝することなどできないと自らを追い込んだ。ただ、その自信だけは揺らがなかった。

戦前のインタビューで、今は充実期にあると言い放ったのも、単なるパフォーマンスではなかった。
日テレプラス杯、三人麻雀GP、FOCUS M、そして日本シリーズ。これら全てを勝って、なおかつМリーグの出来も良いとくれば、今が最も打てている時期ということなのだろう。

後はプロリーグを勝ってきた時のように、決め手となり得る手牌はしっかりリーチで被せることだ。
いち早く主導権を握り、大逃げを図ることが、自身の勝ちパターンだと強く意識していたのである。

初アガリは、東1局1本場だった。

 

100

 

7巡目、南家の沢崎誠さんから六筒が切られる。これを仕掛ければ食いタンのテンパイ。だが、八万は既に1枚切られていて、アガリの見込みは薄い。
そもそも、のっけからこんな仕掛けを入れているようでは、先が思いやられるというものだ。
足を使う局面はここではない。

13巡目、ピンズの一色模様の勝又健志さんがカン三筒を仕掛けた。まぁほぼテンパイが入ったと見ていいだろう。翻牌では発だけが顔を見せていないが、チンイツの可能性だって否定はできない。

同巡、ツモ六筒

 

100

 

捨て牌には八万三索が1枚ずつ切られているが、七万は生牌。カン七万でのリーチもあったが、ここは打六万のヤミテンに構える。
先手ならまだしも、やはり親の仕掛けはケアせねばならぬ。
危険なピンズや、字牌を持ってきたときには、七対子へ受け変えられるのが最大の利点である。

14巡目、五索を引く。河を見渡してもソーズは安く、これは自分がアガリに行く上でもいい待ちに映る。打八索
そして次巡、その五索を引きアガる。

 

100

 

受け手順だったとは言え、このアガリにはかなりの好感触を得た。
16戦という決して長期とは言えない戦いでは、要所でいかに効果的なアガリを奪っていくかが非常に重要なのだ。
そういった意味で大きなポイントとなったのが、東4局1本場だった。

二万二万三万一索二索七索九索九索三筒四筒七筒七筒南  ドラ七筒

私の配牌は、ドラがトイツでまずまずの手格好。

4巡目、親の藤崎智さんが西をポン。
切り出しからしても、ピンズのホンイツは間違いないが、何せオタ風の一鳴きである。
藤崎さんの上家にいてパッと思い描いたのが、以下のような手牌だった。

二筒三筒七筒九筒北北白中中中  ポン西西西

藤崎さんの遠い仕掛けは極めて稀で、ダブ東が既に暗刻のケースだって十分に想定できる場面である。実際、西を仕掛けたときの藤崎さんの手牌はこうだった。

 

100

 

いずれにせよ、上家に座する私は、ギリギリまでピンズを絞る選択を迫られることになった。
6巡目、ソーズのペンターを払いながら1シャンテンへと漕ぎ着けた。

二万三万四万七索九索九索一筒二筒三筒四筒四筒七筒七筒

しかし形は重く、ピンズのシャンポン部分がどうしたってネックとなる。
その後、藤崎さんも1枚切れの東発、更に生牌の白北と手出ししてきて、場がかなり煮詰まっている。

9巡目、ツモ六索、打九索
10巡目、ツモ二筒、打九索として、私もいよいよ勝負形となってきた。

二万三万四万六索七索一筒二筒二筒三筒四筒四筒七筒七筒

そして次巡、絶好の三筒を持ってくる。打一筒は当然として、問題はリーチの是非だ。
藤崎さんの捨て牌には八索が切られてあり、私が無スジの一筒を押したぐらいなら、まだ八索が打たれることもあるだろう。
だが、私に迷いはなかった。

先に述べた通り、この手は決め手となり得る手牌だ。藤崎さんとの捲り合いになったとしても、やはりリーチの一手であると考える。
3巡後、八索を引きアガったとき、これは自分のペースになると確信した。
私にとって今決定戦を占う上でも、非常に大きなアガリだった。

 

100

 
 
初戦をトップで終え、迎えた2戦目は、派手なアガリこそ出なかったが、相手の攻撃を凌ぎ切っての連勝となった。
起家スタートとなった3回戦でも、1人テンパイから入って、3,900は4,200の出アガリで連荘。
最終的には28,500の3着で終わったが、上手く凌ぎ切ることができたとの印象が強く、手応えも十分だった。

そして区切りの4回戦。
南2局の親番で、この日最高のアガリが生まれた。

四万六万六万九万四索五索九索六筒六筒七筒七筒九筒東発  ドラ六万

この配牌が、6巡でここまで伸びた。

四万四万四万六万六万六万四索五索五筒六筒六筒七筒七筒

同巡、南家の藤崎さんに仕掛けが入り、四筒を引いた。無論、迷いはなかった。
まだ初日とは言え、これが引きアガれるようなら、夢にまで見たあの称号に一歩近づける。そんな決意のリーチだった。

 

100

 

オーラスも、親の勝又さんのリーチをかいくぐっての700・1,300で、この日3勝目。
ポイントも60ポイントを超え、1つの目安となる100ポイントも射程圏内へと入ってきた。

初日を終えて芽生えた、早く決めてしまいたいという気持ちと、そんな甘いもんじゃないという気持ち。
そんな中、苦悩の2日目が幕を開けようとしていた。