鳳凰の部屋

「~勝つためのバランス~」 佐々木 寿人

5歳の息子と公園に行き、シーソーに乗る。
当たり前だがこちらが腰を浮かせなければ、息子はずっと宙に浮いたままだ。
こんな何気ない遊びの中にも駆け引きがあり、自身が子供の頃には全く意識しなかったことである。

最近では、何かにつけて勝負に勝つためのヒントを見出そうとしている自分がいる。
我々の世界にはゴールというものがない。何かタイトルを獲ったからそれで終わりということはなく、また次の試合に向けてしっかりとしたパフォーマンスが求められていく。
現役である限り、これがどこまでも続いていくのだ。

私も45歳となり、おそらくこれ以上大きな成長は望めないだろう。もう決して若くはないし、色々な面で衰えもやってくる。
ただ、歳を重ねたことで見えてきた部分というものも少なからずあるわけで、今が打ち盛りという実感もある。
25歳の自分より、45歳の自分の方が強いと言えるのも不思議な気がするが、20年先も一線で活躍するためにどうあるべきかということは最近よく考える。

同い年で、競輪界のスター選手である佐藤慎太郎さんの存在も大きい。
レースの内容もそうだが、佐藤さんのドキュメンタリー動画で徹底的に自身を追い込む姿を見た時に、私は感動すら覚えた。
日々ここまでやりこんでいるからこそ、我々の心を動かすようなレースができるのだ。

「限界?気のせいだよ!」

佐藤さんのこの言葉に、中年世代の自分がエネルギーをもらっているのは間違いない。

ちなみに古川孝次さんは、その更に上を行く73歳。衰えなど微塵も感じさせないあの機動力を見せつけられれば、自身が老け込むにはまだ早いというものだ。
また、荒正義さんが十段位獲得により、プロ連盟初のグランドスラムを達成されたことも大きな刺激となった。

そして思う。
自分などまだまだだなと。
 

今期最初のアガリは、前田直哉さんだった。

五万七万四索四索七索八索九索南南南発発発 ロン六万  ドラ四索

放銃したのは古川さんで、6,400。
これが9巡目の出来事だったのだが、7巡目に私の手牌はこうなっていた。

二万三万四万六万七万五索六索二筒二筒六筒七筒八筒東  ツモ六万

入り方としてはやや弱気かななどと思いながら、私はこの六万をツモ切った。
前田さんのテンパイがその同巡だったため、結果的には間に合った形である。

自身にアガリがなく、放銃の可能性がある牌を先処理できたのだから、プラスに捉えるべきなのだろう。
当然ながらプラスの精神状態が長ければ長いほど、内容のいい戦いが出来ているということにもつながる。
今はまだそのきっかけを探っている段階とも言える。

しかしながら、1回戦はなかなかアガリが遠かった。
古川さんの1,300オール、黒沢咲さんの3,000・6,000、前田さんの9,600など、3者がアガリを重ねていく中で、東場は遂にノー和了。
もどかしさは付きまとうが、ここは我慢の時だ。

南1局2本場、ようやくチャンスらしい手牌がやってきた。

一万五万九万一索四索六索七索二筒三筒四筒七筒八筒中  ツモ七筒  ドラ七筒

第一ツモがドラの七筒とくれば、後はアガリ役をどこに求めるかだが、タンヤオが本線になりそうだ。
ましてや供託が3本付きとあれば、この時点から食い仕掛けも意識しなければならない。

9巡目、私のツモ切った白を古川さんがポン。その捨て牌相から、ソーズの一色手が濃厚である。
そして11巡目、私のもとに絶好のドラがやってくる。

 

100

 

ヤミテンでも満貫の手牌だが、ソーズ待ちは古川さんの色と被っている可能性が高い。

「たった1,000点ケチってどうする!積もれば跳満でぃ!」

ということでリーチ。供託も4本となり、初戦の勝負所となった。

結果は古川さんのテンパイ打牌で満貫の出アガリ。
これでようやく原点復帰となったが、問題はこの一発で終わらないことである。
特に次局は、戦前からカギになると言い続けてきた親番だ。

打点は後からでいい。
私はとにかく親番を長く持続させることに意識を傾けていた。

八万八万八万二索六索七索八索八索九索二筒三筒東発発  ドラ八筒

好配牌である。ただ、アガリにいくならやはり発は一鳴きだろう。
先手、先手で前に出る。そして誰も届かないところまで突っ走る。
昨年とテーマは変わらない。

七万八万八万八万七索八索九索一筒二筒三筒  ポン発発発  ロン九万  
 
続く1本場もその姿勢だ。

一万四万一索六索八索八索九索一筒四筒五筒六筒九筒九筒西  ドラ東

決していいとは言えない手牌でも、最短でのアガリを目指していく。

六索六索七索八索八索四筒四筒五筒六筒七筒  チー三万 左向き二万 上向き四万 上向き  ロン七索

2局合わせてもわずか3,300点の収入と思われるかもしれない。
しかし、大爆発のためにはこういった繋ぎが非常に重要なのである。
相手の親番をいかに早く流し、自分の親番をいかに長く続けるか。
これが私の勝負論の根幹にあるものと言っても過言ではない。

この日一番のアガリも、やはり親番に訪れた。
その局面とは、3回戦の南3局だ。

私は前局に、古川さんからダブ南チャンタドラ2の満貫をアガリ、600点ほど浮きに回って親番を迎えた。

一万五万四索六索六索九索九索三筒九筒南南西白中  ドラ七筒

とてもいい配牌とは言えないが、1つ決めていたことがあるとするなら、南は1枚目から仕掛けるということだ。
その先にソーズのホンイツやトイトイなど、高打点の可能性も十分に秘めた手牌である。

南が鳴けない間に五万三筒が横に伸びたり、ドラを引いたりしたなら、その時は安くアガる選択も捨てない。
親番に拘るというのは、そういうことだ。

高打点にもメンゼンにも縛られず、素直な進行を目指すのである。
6巡目、その南が暗刻になった。打西

五万四索六索六索九索九索一筒三筒六筒南南南中

アガリにはまだ遠い形だが、これで大分仕掛けやすくなったと言える。

10巡目、前田さんの切った九索をポン。打一筒として1シャンテン。

二索四索四索六索六索五筒六筒南南南  ポン九索 上向き九索 上向き九索 上向き

これで3,900も見えてきた。そして13巡目、六索も鳴けてテンパイ。

四索四索五筒六筒南南南  ポン六索 上向き六索 上向き六索 上向き  ポン九索 上向き九索 上向き九索 上向き

もうオリの選択肢はない。

15巡目、南家の黒沢さんがリーチ。考えることといえば、南が出たら大明カンだなぐらいのものである。
ここは斬るか斬られるかの勝負だ。

17巡目、ツモ六筒。河を見ても、これはかなり危険なスジに映る。かと言って五筒も通っているわけではない。
加えて前田さんのフーロメンツに四索があり、トイトイに受け変えればアガリの可能性は極めて低いものとなるだろう。
本音は六筒をツモ切りたかった。ただ黒沢さんの捨て牌に八筒がある分、打五筒と構えただけである。
勝算の薄い捲り合いになった。それが素直な感情だった。

しかしながら、これがアガリにまで結びついた。
この同巡、古川さんに七対子ドラドラのテンパイが入ったのだ。

 

100

 

確かに私は六索ポンの打五索だし、最終手出しが五筒である。先に述べた通り、前田さんのフーロメンツに四索が含まれてもいる。
二索五索に関しては、場に全見えだ。四索南かの選択なら、やはり打四索となりそうである。

正直言って望外のアガリではあったが、この日最もテンションが上がった瞬間でもある。
後で映像を見返したときに、黒沢さんのリーチが六筒九筒待ちだったということも、2日目に向けて好材料となった。

これから何度となく訪れる勝負所を、どれだけ制すことができるか。
タイトル戦を勝つためには絶対に欠かせない要素だ。

だが、初日を終えてここにもう1つの思いが加わった。
それはまた次回に触れていこうと思う。