プロ雀士インタビュー

第251回:プロ雀士インタビュー 魚谷 侑未  インタビュアー:古谷 知美

現女流桜花で現十段位、こんなにもカッコいい称号があるだろうか。
そして彼女は歴代王位であり、初代鸞和位でもある。連盟内の公式タイトルだけでもこの数で、他団体・TV対局も含めるとその数は計り知れない。
十段戦決勝最終日の翌日に自身のプロクイーン決勝を控えていた私は、ルールも違うし影響を受けすぎてもいけない気がして、当日は見ないか見ても少しに留めようと思っていた。しかし見始めると止まらなく、とうとう食い入るように最後まで見てしまった。それほどに引き込まれる戦いだった。
おめでとうの後にすぐに思ったことは《いくらなんでも勝ちすぎじゃないだろうか》
ゆーみんは強い。それはもう周知の事実だし、もちろんわたしもわかっている。
王位戦も鸞和戦もこの十段位戦も初決勝で優勝、毎年のように残っている女流桜花決定戦もそうだった。
《魚谷は勝ち方を知っている》よく言われている言葉だが、決勝での勝ち方とはどういう事なのか。

 

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古谷『ゆーみん改めて十段位おめでとう!!』

魚谷『ありがとうー!』

古谷『なんかさ・・ゆーみんが強いのはわかってるんだけど、決勝での勝率高すぎるよね?決勝にこんなにいくだけでもすごいのに』

魚谷『実はモンドとかのTV対局も入れると決勝の勝率は50%超えてるんだ』

強すぎる・・翌日のプロクイーンで敗退してしまったわたしは、益々ゆーみんの強さの秘訣について知りたくなっていた。

古谷『決勝は全3日間で2日目を終えて3位で、最終日はどんな心境で臨んだの?』

魚谷『3位だけど36.2P差で悪い位置じゃないと思ってた。わたし決勝は首位に離されない事をずっと意識して打ってるの。』

古谷『トップ目に立つことじゃないんだ?首位にいてできるだけ2位以下を離して最終日を迎えるのが理想だと思ってた。』

魚谷『そうだね。離してても狙われちゃうし、競技ルールなら最終日を40ポイント差以内で迎えるのが理想かな。40ポイントなら1半荘めがダメでもまだ狙えるだろうし。あんまり離されるとどうしても大ぶりになっちゃうからそうなると麻雀ってうまくいかないよね。』

古谷『すごく身に染みる・・決勝だと優勝しか意味がないから、優勝できるならこれは勝てるでしょう的な多少強引な押しをしちゃって、それはもう決勝の舞台でかかっちゃてるって事だよね。』

魚谷『気持ちはわかるよ!勝負所の押しは必要だけど、全部押したら勝てない。押さないところも必要で、その見極めが本当に大切。だからわたしは勝ちたい!て気持ちは対局中は捨ててる。冷静な判断の邪魔になるから。』

とても意外だった。対局中のゆーみんからは勝ちたい!という気持ちがいつも溢れているように見えるから。
本当に勝ちたいから、勝つための手段として勝ちたい気持ちを封印する。簡単に聞こえてとても難しく感じる。

最終戦 東1局 1本場 ドラ東 北家
一万一万一万七索七索一筒二筒三筒四筒五筒六筒北北  リーチ

古谷『ここは仕掛けている三浦さんが状況的にもおそらくドラを持っていて、ドラを持ってきた時の為にもヤミテンにするかと思ってた。』

魚谷『ライバル(ここでは荒プロ)の親を流す事はとても大切で大きめのリスクも負う覚悟で打ってる。この局もそう。ソウズの上が良かったし北もいい。最悪三浦くんになら打ってもいいと思った。よくはないんだけど、負けたら気持ちを切り替えてまたやり直しと思うようにしてる。』

東3局 1本場 ドラ五万 南家
五万五万五万六万六万中中  チー二筒 左向き一筒 上向き三筒 上向き  チー四索 左向き三索 上向き五索 上向き

魚谷『さっき勝ちたい気持ちが邪魔になるって言ったけどこの局がまさにそう。ドラ暗刻で中バックで仕掛けるのはいいんだけど、親リーチが入ってて15巡目。残りがもう3スジくらいしかなかったから引くべきだったんだけど押して5,800放銃。この瞬間に《だから私はダメなんだ、もう負けても仕方ない、けど最善を尽くそう》ってもうスンって気持ちを切り替えたんだよね。』

南3局 4本場 ドラ中 南家
六万七万五索六索七索三筒四筒五筒六筒六筒  ポン二筒 上向き二筒 上向き二筒 上向き  ツモ三筒

親の浜上からリーチを受けての一発め。

魚谷『逆にこの局は自分がテンパイだけどすぐにオリの判断になった。押せっていう意見もあったけど、親の浜上さんに向かっていくメリットがあまり無いし、ここ流せてもまた自分の親でも勝負しないとだしむしろ浜上さんがツモって荒さんの原点が遠くなるのはわたしにとっても良いしね。』

こんなに目まぐるしく状況が変わる最終戦の間に、何回も気持ちを切り替えて勝つための最善を常に考える。この気持ちの強さがそのままゆーみんの強さに繋がっているのだ。

南4局 ドラ三索
一索二索三索三索四索五索一筒二筒三筒八筒九筒東東  リーチ

古谷『ここは2枚切れの七筒待ち。巡目も早いから組み直すのかな?どうするのかなってみてた。』

魚谷『七筒を捨ててたのが三浦くんと浜上さんで2人が七筒を持ってるなら続けて切ってそう。ここから崩して時間かけるより荒さんが引いてくれる可能性もあるし、万が一アガれたら決定打になるしね。』

結果は荒からの直撃で次局倍満ツモ条件を付きつけた。

魚谷『ここで始めて優勝できるかなって思った。最終戦首位で始めたけどその時は優勝できるとか全然思ってなかった。』

古谷『最後荒さんが倍満条件満たしてリーチした時は嘘でしょって思ったでしょう?リーチの瞬間ゆーみん下向いてたよね。』

魚谷『もう時効だから言っちゃうけど、実況解説がすごく沸いてるのが微かにわかって。もちろんなんて言ってるかは聞こえないんだけど、沸いてるって事は条件満たしてるし待ちもあるんじゃん!て。もう見れなくて下向いちゃって顔あげたら荒さんが捨ててたから。あ、ツモじゃなかったんだって。』

古谷『顔あげたら捨ててたって笑』

競技ルールの決勝で倍満条件なんてほぼ満たせない。それをこの舞台で作り上げて待ち選択も残っている方でリーチをかけるのだから荒さんも本当にすごかった。強い人達で作り上げた決勝だったからとても面白かったし心打たれるものがあった。

【弱点】

古谷『ファンの方達にゆーみんへ質問したい事を募集してきたんだ。強さについてはたくさん聞けたから逆に弱点ってなに?』

魚谷『弱点かぁ。体調管理がとても苦手。麻雀も日々試行錯誤してるけど、本当に寝るのが苦手。全然寝れない。麻雀打ちながら今日ダメだなってわかる時があるんだけど体調悪い時が多いんだよね。良い時は卓上の情報だけじゃなくて、相手の間合いとか雰囲気とかで何を考えてるのかだったり立体的に見えるんだけど、ダメな日は卓上の情報しか読み取れなくて平面的にしか見れない。』

古谷『ダメだなって日が大事な対局の日の時はどうしてるの?』

魚谷『もう怪我しないように打つしかないよね。平面的にしか見れないから、一歩引いて客観的に打つようにしてる。克服できるように筋トレ・サウナ・酸素カプセルとか色々やってるし、特に対局前日は意識して過ごすようにしてるよ。』

【これからの目標】

魚谷『ともちんの話もしようよー!今後の目標は??』

古谷『え?!(何も考えてこなかった)うーん・・男女混合のタイトル戦で決勝に残ってみたい!特昇優勝できたのは嬉しかったけどタイトル戦で残ってみたいなぁ。』

魚谷『決勝で戦うのって本当楽しいよね!』

古谷『ゆーみんの目標はMリーグ?鳳凰位?』

魚谷『Mリーグは優勝したい!鳳凰位も最強位も勿論なりたいけど、ちょっと今は遠いから・・それと連盟の競技部に関わってみたいなぁって気持ちがあります』

古谷『競技部に関わる??』

魚谷『こうすればもっと良くなるんじゃないかなってとこを変えていきたい。』

古谷『ふむふむ。具体的には?』

魚谷『プロ連盟がWRCルールを推してるのは分かるんだけど、もう少し改善の余地があるかなーと思うの。私は客観的に物事を見るのが得意なので、競技やプロ連盟が良くなるようにもう少し意見を言っていけたらいいなぁと思ってます!これは全然上の人に話してない事だからどうなるか分からないんだけど。』

古谷『連盟、麻雀界の未来を考えてって事ね。わたし自分の事しか言ってなくて恥ずかしいわ・・』

魚谷『いやいや!わたしもやっと引っ張れる立場になってきたからだよ。選手としては今若い子達が強くなってきてるから自分ももっと勉強しないとと思うよ。』

思い返せばゆーみんのインタビューをするのは今回で2回目、前回は9年前で女流桜花を連覇した時だった。それから9年の間にもたくさんタイトルを獲って、ずっと麻雀界の第一線を走り続けている。これから9年後はさらにたくさんのタイトルを獲得しているのでしょう。
常に上を見続けて、これからの麻雀界・連盟の事も深く考えている彼女はとても頼もしい。
十段位本当におめでとう!ゆーみんが引っ張ってくれる麻雀界なら未来はきっと明るいと思います。

 

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