プロ雀士インタビュー

第257回:プロ雀士インタビュー HIRO柴田  インタビュアー:仲田 浩二

HIRO柴田さんと仲良くなったのは、コロナ渦と呼ばれる自粛が始まった頃でした。
その前から面識程度はあり、「近くの雀荘にゲストとしてくる麻雀プロ」と「雀荘のプチ常連さん」くらいにお互いを認識していたのですが、意外なことになかなかその距離は近づかなかったのです。

それが、コロナの自粛でお互いに仕事の時間が減ったことで、色々と話をするようになり、意気投合します。
今回インタビュアーを任された私(仲田浩二)が連盟プロとなったこともあり、公私ともに親交を深めることとなりました。

柴田さんの強さを俯瞰でみる指標として日本プロ麻雀連盟所属の平野良栄プロ(@retroeater)のツイッターがあります。
「鳳凰戦」「ランキング」から通算ポイントを確認すると…+1808.5ポイントのランキング1位になっています。
17期入会の柴田さんが39期後期までの23年で平均どれだけ勝っているか計算すると、なんと毎年+78.6ポイントを積み上げているのです。
運の要素が強い麻雀という競技で、しかもポイントを稼ぎにくい連盟公式ルールで、これはとてつもないことです!!

 

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(2023年3月1日現在までで、17期~39期後期までの連盟の対局データをまとめてくださっている平野プロ。データアプリはプロでなくとも利用可能です)

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(歴戦の強者たちの中でも頭一つ抜けた柴田のポイント。リーグ戦の強さはまさに圧倒的)

仲田「改めまして、インタビュアーをさせて頂く仲田です。強いプロと認められながら、なかなかタイトルとは縁のない麻雀人生となっていました。勝ち切れなかった理由は何かあると思いますか?」
※柴田さんは私のことを「ポロリさん」、私は柴田さんのことを「柴田さん」と呼びます

柴田「僕の実力不足だったと思います」

リーグ戦でこれだけの数値を残していての「実力不足」には恐れ入りました。
しかし、実際に柴田さんは負ける度に自分の力不足を感じながらひたすら己の麻雀を磨き続けます。

そんな中で世の中はコロナ禍に。
多くの人がそうであったように柴田さんの生活も大きく変化しました。
持っていた雀荘のゲストや教室がなくなり、前と同じようには麻雀を打てなくなりました。
麻雀を打つ機会が減ったことで感覚を崩してしまったのか、柴田さんは37期鳳凰戦で降級の危機に見舞われます。

 

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(最終戦で降級を凌いだ37期鳳凰戦A1リーグ)

仲田「第37期鳳凰戦では降級の危機がありました。苦戦の理由は思い当たりますか?」

柴田「不調は実感していましたが、苦戦したつもりはないんですよ。確かに、自分は万全ではなかったけれど、降級の危機になったのは麻雀の揺らぎの範囲だったと思います。これでもポロリさんの麻雀を心配するくらいの心の余裕があったんですよ」

私はここ数年の柴田さんしか知りませんが、それでも大きく変わったなと思う点が2つあります。
まず1つは、麻雀以外で強い興味を持つことが増えたということです。

その最たる例が料理で、柴田さんはコロナ禍が始まった頃に気紛れで作った謎の物体Xの写真をTwitterに載せていました。

 

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(柴田さん初の手料理は謎の物体Xでした。「もう2度とやらん」と言いながらこの後料理にハマります)

…が、その後めきめきと料理の腕を上げて、現在ではリクエストすれば洋食でも和食でも大概の料理を作ってくれます。

 

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(最近柴田さんが作った2品。圧倒的凝り性で、料理の腕がめきめき上がりました)

また、YouTubeなどでファンと率先してコミュニケーションを取る姿も多く見られたのも変化の1つです。
冒頭で書いたように私と柴田さんでさえ「意外なことになかなかその距離は近づかなかった」というくらいに柴田さんはコミュ障でした。
しかし、コロナで人と人の実際の距離が離れるのとは対照的に、柴田さんは色々なことに興味を持って社交的になっていったのです。

降級の大苦戦となった翌年の第38期鳳凰戦A1リーグは惜しくも4位で決定戦進出を逃した柴田さん。
しかし、年明けになってビッグタイトルを獲得していたことが発覚します。
人気女流雀士蒼井ゆりかプロとの結婚が発表されたのです。

 

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(2022年1月11日入籍。第39期鳳凰位決定戦初日が、奇しくも1月11日の結婚記念日でした)

いつの間にか、蒼井プロのNo1を獲得していたなんて…。
コロナで世の中が閉鎖的になる中で、柴田さんは逆に社交的に魅力的になって結婚に至ったように感じたので、その辺りを蒼井プロにも聞いてみました。

(蒼井プロから見た柴田さんの魅力はどこでしょうか?)
蒼井「嘘をつけない正直な人で、心が優しいところです」

(ここ数年で柴田さんが変わったなと感じるところはありますか?)
蒼井「社交的になったなと思います。夏頃に鳳凰位を争った寿人さん夫妻と山登りに行ったのですけど、昔の柴田さんだったら行ってくれなさそうだと思いました(笑)」

勝負師にとって結婚は1つの分岐点になります。
今まで自分のために勝負していたものが、誰かの人生を背負っての勝負になる…今までできていたことができなくなってしまったり、逆に今まで以上に強くなることもあります。
柴田さんは後者だったのか、第39期鳳凰戦A1リーグを+132.9ポイントの2位で突破して決定戦へ。
そして、決定戦は3日目終了時点で2位に113.2Pの大差をつけて首位に立ちます。
しかし、状況とは裏腹に柴田さんの心は追い込まれていました。

 

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柴田「23年間で十数回決勝に残って全部負けたから、負け方だけはイメージできちゃうんですよね。勝ったことがないから、勝つときのイメージは出てこなくて負けるイメージだけが湧いてきちゃう。最後の1週間は蒼井との会話もギクシャクしちゃって…」

2人ともタイトル獲得経験のない夫婦だからこそ、どんな風に過ごせばいいのか、相手にどんな言葉を掛けたらいいのか分からなくてギクシャクしてしまう…しかし、ギクシャクしていても2人でいたことは柴田さんの精神的にプラスであった気がします。
そして、こうなったら逆転されるかもと柴田さんが想像した通り、最終日のスタート時点で113.2ポイントあったリードは15回戦東4局には6.6ポイントまで詰められていました。

 

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仲田「最終日手が入らず寿人プロにかなり差を詰められました。寿人さんに追い上げられている時はどんな心境でしたか?」

柴田「プレッシャーは感じていたけど一度まくられても最終戦勝負になるからと開き直りはありました」

しかし、ここからが今までの決勝とは一味違いました。
浮いてリードを広げると、加点して突き放し、最終戦前に再び大きなアドバンテージを作ることに成功。
最終戦は危なげなく進行して、第39期鳳凰位戴冠となりました。

 

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今回、23年間チャレンジし続けて勝てなかった決勝で勝てたのは、柴田さんの実力による必然なのか、それとも柴田さんの中で何か変わった部分があったのか、結婚による心の支えが影響したのか、それは誰にも分かりません。
ただ1つだけ分かることは、初タイトル第39期鳳凰位の獲得は柴田さんの麻雀人生においてのゴールではなく、始まりだということです。

仲田「前に『初タイトルは連盟のG1で』とこだわっている話を聞きました。いま、鳳凰位を手にして目標を達成しましたが、これからの麻雀人生でなしとげたいことを教えて下さい」

柴田「何といっても、来年の決定戦で勝って鳳凰位を連覇すること。そして、他団体のものも含めて他のタイトルを獲得すること。最後に、出来れば生涯現役でいて、一線を退いてもみんなから『強かったな!』と言われる伝説の雀士になることですね」

今年、第39期鳳凰位のHIRO柴田には数々のタイトル戦で鳳凰位シードが用意されています。
ベスト16シードとなる鸞和戦、WRCが2回、WRC-Rが2回、マスターズベスト52シードに、本命の第40期鳳凰位決定戦…今まで決勝で勝てなかった柴田さんは、勝てば勝つほどにその勝利の方程式を体に刻み付けながら、どんどん強くなっていくことでしょう。
鳳凰位を獲ったことで幕を開けるこの飛躍の年に、勝ちの味を知ったHIRO柴田がいくつのタイトルを手にするのか、是非ご注目下さい。