プロ雀士インタビュー

第260回:プロ雀士インタビュー 貝原 香  インタビュアー:阿久津 翔太

次世代スターの発掘を目的に2021年に設立された若獅子戦、桜蕾戦。先日第5期となる両タイトル戦が行われ、若獅子戦は貝原香プロ、桜蕾戦は御子柴佑梨プロの優勝となりました。

ということで、今回は第1期若獅子戦で優勝した私、阿久津翔太が第5期若獅子戦を優勝した貝原香プロにインタビューしてきました!

 

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阿久津「じゃあまずは対局以外の話から!今はどこで働いているんですか?」

貝原「元々は大学生で4月からIT関連の仕事で今研修を受けています。」

阿久津「ってことは若獅子戦の時はギリギリ学生?」

貝原「卒業はしていたんですけどギリギリ学生でした」

ちょうど環境が変わるタイミングでのタイトル獲得というのは、これからまた気持ちを高めていくのに絶好のタイミングなのかもしれません。

阿久津「特待生オーディション受けていましたよね?あれは何年前ですか?」

貝原「2019年の第2回特待生オーデションですね。」

 

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2019年に行われた第2回特待生オーディション。合格してもすぐにプロというわけではないですが、プロテスト受験にかかる費用や研修受講料などが無料になります。

貝原「第2回で受かったのが早川さんと杉浦さんでした。」

第3回若獅子戦優勝の早川健太プロと桜蕾戦や最強戦などで活躍している杉浦まゆプロと、そして今回若獅子戦優勝した貝原香プロ。
まさに今若手の中で活躍しているメンバーがオーディションで選ばれていたとなると、この特待生オーディションの効果は絶大です。

阿久津「ちなみにそのオーディションを受けるにあたって、どうして麻雀プロになりたいって思いましたか?」

貝原「大学入って多く麻雀を打つようになって、3年生から4年生に上がる冬ぐらいに特待生オーディションのツイートを見かけて、その時卒業できない単位状況なの分かっていたので、自分の麻雀を客観的に評価されたことが無かったし1回受けてみようかなって感覚で受けました。」

阿久津「受けてみたら特待生に選ばれたからプロ試験を受けたと。」

さて、若獅子戦優勝の大きな恩恵として、C1リーグへのジャンプアップがありますが(貝原さんはD3から5段階アップ)、貝原香プロは第1節を+47.8Pと大きなプラスでスタートしています。そのへんの心境も聞いてみましょう!

貝原「D3とかにいた時はほとんど今まで打ってきた赤ありの延長戦上、みたいな打ち方だったのですけど、C1は殴り合いというよりも対応されるって感じで、役牌バックとかは仕掛けづらいなって感じはありましたね。自分の行動に対してレスポンスがあるなって感じがありました。」

リーグが大きく上がると周りの打ち方も大きく変わりますし、当然レベルも変わるということで自分の麻雀をどう打っていくか再考する必要がありますが、貝原プロはそのへんの適応力の高さはかなり高そうなのでそれが1節目の結果に結びついたのかもしれません。

それでは若獅子決勝戦の内容について聞いてみましょう。

阿久津「最終戦の東3局2本場でチョンボした時の心境はどうでしたか?」

貝原「あの時は逃げなきゃ逃げなきゃって思っていて、ポイント的には余裕があったんですけど、ちょっと危なくなってきて…そんな時に配牌開けたら東東中中ってあって嬉しくなっちゃって、何を鳴くか考えていたら西を切っちゃっていて…」

 

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貝原「それで10ポイント差ぐらいになって一瞬焦りはしたんですけど、まだ勝ってるしなって感じではありましたね。」

阿久津「じゃあ意外とそんなに引きずる感じでは無かったと。」

貝原「10ポイント差に対しては引きずって無かったんですけど、自分に対しての『何やってんの!』って感情が強かったです。」

大幅リードから少しずつ迫られていく恐怖。焦り。このまま逆転されてしまうのではないかという未来が脳裏を掠める感覚は、時に冷静な思考力を大きく奪っていきます。
ただ、そんな状況でチョンボをしてしまったら自分なら頭が真っ白になりそうですが、そこで引きずらない切り替えの早さは間違いなくこの後の結果に影響したことでしょう。

阿久津「その後の七対子の中単騎をリーチしてツモった局あったじゃないですか。あれは解説の勝又さんも褒めていたけど、あの局リーチした理由を聞いてもいいですか?」

 

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貝原「最初二万単騎でテンパイして、良い待ちになったらすぐリーチしようと思っていて、中をトイツか暗刻で持っている人以外は止まらなそうだし、ツモって裏裏なら勝負を決められると思ったのでリーチしました。」

阿久津「局消化の価値よりも圧倒的に有利を広げにいった。これ結構独学の良さの部分が出ていて、だんだんこういうのリーチできなくなる人多いイメージだけど、決勝で勝ち切れる人って、しっかりとここでリーチ打っている人な感じがしますね。」

どうしてもリードを持つとそのリードを上手く使って立ち回ろうという思考になりがちですが、そこでリードを広げにいくというのは相手からすると一番逆転しづらい感じがします。

阿久津「他に印象に残っている局はありますか?」

貝原「聞きたい局があって、2回戦のオーラスなんですけど…」

 

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貝原「自分の目的としては、山本さんにアシストしたいんですよね。自分以外の3人が1回戦と真逆の順位になるので。」

ここで貝原プロは中張牌を連打していき、その意図を察した山本プロも六万を出来メンツからチーしていきます。

 

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さらにその次巡も山本プロの急所である三万をチーさせてテンパイを入れさせる完璧なアシスト。

 

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しかし、ここで親の高橋プロからリーチが入ります。

 

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そのリーチ一発目に五索を持ってきて長考。

貝原「(山本プロの)初めのチー出しが七索で、その周りがどうなっているか分からなくて、親に対しては八索が通っていて三索が4枚見えていてほとんど五索で当たる感じが無くて、山本さんに打ってほしくも無いのでここで五索を一発で打つのもあると思っていて、でもそれで万が一親に放銃するのもなと。」

貝原「結局ここ一発だけ現物打っちゃって。」

阿久津「うーん一発だけはなぁ。二発目でいいやってしちゃいそうだけど…山本さんは無筋引いたら結構オリちゃいそうな状況だし、実際これ五索が山本プロの当たり牌で打てたらめちゃくちゃファインプレーですもんね。」

こういう1巡で親の連荘が生まれて逆転…というのは少なくないですが、万が一放銃してしまったら…と考えてしまうものです。今回は五索はどちらの当たり牌でもありませんでしたが、ここで親に通っていない牌を切るかどうかを丁寧に吟味する力というのは非常に大きいものだと思います。

この局は狙い通り山本プロのアガリとなり、貝原プロとしては自身の手がバラバラだったにも関わらず、山本プロに2つの仕掛けを入れさせて、高橋プロの勝負手を躱しつつ理想の並びで2回戦を終えることに成功しました。

ベスト16での対局前インタビューでは「周りを使って周りにも使われてWin-Winな関係を築けるような麻雀を打ちたい」と語った貝原プロ。
そのインタビューを聞いたときは(難しいことを言うなぁ…)と思いましたが、この決勝戦で見事に自身の麻雀の強みを最大限発揮して、途中のアクシデントにも負けずに優勝を果たしました。

前期優勝した笠原プロの麻雀を「剛」とするなら貝原プロは間違いなく「柔」でしょう。
私も第一期から若獅子戦に参加していますが本当に毎年様々な打ち手がでてきて、それぞれ個性があってこれからの麻雀が楽しみだなとワクワクします。

これからの貝原プロの活躍と、たくさんの獅子たちと、これから現れるであろうまだ見ぬ強き若手の登場を楽しみに見守ってください!

 

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