プロ雀士インタビュー

プロ雀士インタビュー/第108回:灘 麻太郎

東京で行われた、ロン2リアル麻雀大会のおり、編集局長に呼ばれた。
「灘麻太郎プロのトライアスロン優勝インタビューを引き受けてもらえないかな?」
「わかりました」
わたしは即答した。
その会場にいらっしゃった灘麻太郎プロにその旨を告げに行った。
いつもの物静かなやわらかい表情で場所と時間を指定された。
「何を訊いても構わないから」
微笑みを絶やさずそう応えてくださった。
場所は昨年できたばかりの連盟スタジオを指定された。
わたしが今回インタビューを快諾したのにはいくつかの理由がある。
1つには、恒例の数年間に何度か訪れる麻雀の壁にぶつかっている。
インタビューと恰好つけて、そのあたりを学ばせて頂こうと考えたわけである。
前原「本日はどうぞよろしくお願いいたします」
灘 「こちらこそ」
前原「ご本人を前にして訊くのもどうかと思うのですが・・灘名誉会長でよろしいですか?」
灘 「灘でいいよ{笑}」
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灘さんがスタジオに現れたのが、約束の時間の20分ほど前、淡いモスグリーンのスーツにスタンドカラーの白いシャツ。灘さんが遅刻したり、身だしなみが崩れていたりすることを私は見た記憶がない。
灘 「俺が、気忙しいといか、せっかちというだけのことだよ。身だしなみは特に拘っているわけではないけれど、街を歩いていて誰に会うかわからないし、麻雀プロの品位を問われかねないしね。このことに限ったことではないのだけど、私達の世界は誰かに管理されているわけではないから、どこまで自分自身を律せるかという問題でもあると思うよ。若い頃は何を着ていても構わないという気持ちもあるのだけれど、歳を重ねたらやはり、それなりの身なりはしておいたほうが好いよね」
ぐうたらな私としては、多少耳が痛い言葉ではある。
前原「では、早速ですが、優勝されたトライアスロンについて伺いたいのですが。終わった後、他の対局者は冗談半分で、当分、麻雀牌は見たくないというほどお疲れのご様子でした。実際、朝の9時過ぎに集合で全対局が終わったのが午後11時ごろでしたから。そんな中で灘さんだけが、まだ打ち足りない気分だとおっしゃられていたのが印象的でした」
灘 「1日位の対局ならば体力とは言わないよ、気力の方が大事だから」
前原「そういえば、グランプリの準決が終わった時に、もう10年以上腕立て伏せを毎日50回は欠かさずやっているとか」
灘 「俺は飲まないからね。そういうのは苦にはならないよ」
前原「私もそれを聞いて翌日から腹筋を始めたのですが、最初は20回もできませんでした。若い頃は100回も200回も同じだろう位にできたのですが、歳を感じざるを得ませんでした」
灘 「苦笑」
前原「最近になって、50回を何セットかできるようになりましたが、いつまで続くことやら」
灘 「まあ、慣れだよね。現会長である森山君も何かやっているようなことを言ってたよ」
前原「何か色々やってるようですが、教えてくれないんですよ」
灘 「俺は今は趣味を兼ねて卓球も月に2回ほどやっているよ」
前原「それはすごいですね、良く足腰がついていきますね」
灘 「足腰は問題ないのだけれど目が衰えてきたことは事実だね」
 
 

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灘 「牌譜の方なんだけど、これは是非載せて欲しいな」
前原「あっ、実はこの譜は是非お聞きしたかった譜なんですよ」
半荘戦東1局2本場
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前原「前局、親で満貫をアガっての2本場、まず、お聞きしたいのはここでテンパイ即リーチを打つのもあったのでは?」
灘 「いや、即リーチを打つことは考えていなかったんだ。数巡は様子を見ようと」
そこに7巡目に対面の佐々木信也さんからリーチが入り、1発目のツモが五索
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灘 「感覚というか、形勢判断としては{東風戦大トップ、前局親満貫の出アガリ}リーチを打つべき所かもしれないね。ただ、佐々木さんの3巡目の打一索から、読みの部分、理の部分でこの五索が打てなかった。読みと心中したんだよね。今局はほとんどの打ち手が追いかけリーチを打つと思うんだけど__。1つにはせっかく出来た三色を壊すのもどうかなとは思う」
前原「2巡目に灘さんは四索を切っていますが_」
灘 「フリテンになってもヤミテンで押すつもりではいたんだよね」
前原「なるほど、実際、佐々木信也さんは二索五索待ちではなかったけれどカン二索待ちですからね」
灘 「ある意味、感覚と読み、これは麻雀における永遠のテーマではあるよね」
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灘 「読みと心中した以上、その五索が重なった以上、リーチを打って行くのも1つの麻雀の形だとは思う」
灘 「結果として、三万でもアガってはいるけどね{笑}」
前原「痛かったのは、完全手詰まりで放銃させられた森山茂和プロの方かもしれませんね」
前原「灘さんのこの親番は、結局、8本場まで行くのですが、今局が勝負のポイントだったように思えるんですよ」
灘 「確かに今局が勝負処であったことは間違いないね」
~今後について~
灘 「プレイヤーとしては気力の充実が今後の課題だね」
前原「具体的にはどのようなことですか?」
灘 「良く言われることなんだけど、歳を重ねるとヒキが弱くなると耳にすることがあるのだけど、俺はそうは思っていないんだよ。要は細かいミスが動態視力から訪れるのは仕方がない、ただ、そこで立て直すだけの精神力や、気力があればいくらでもカバーできるとは思っている。そのあたりのことが今後の課題になっては来るとは思っているよ。結局は、このことも自己管理の問題だとは思うんだけどね」
前原「若手プロに望むことはありますか?」
灘 「人気プロになろうと思ったら、まずは自分で考える、発想することが大事だと思う。ファンがプロに何を望んでいるのか常に意識して、識る必要性はあると思う。それと厳しい物言いになるかもしれないけど、プロの定義として生活を成り立たせられるのがプロの条件だとは思っているよ。今はスタジオもできたことだし、考え方、発想さえしっかりしていれば生活は成り立つと思うし、麻雀というコンテンツは奥が深いからね。俺の周りの極一般的なファンの人の声で聞くのは、リーチが入ったからと言って、いきなり、ベタオリに向かうのはどうかなとは思う。本物のプロは、ギリギリのところで勝負して欲しい、極端に言えば、ロン牌以外は全て切って欲しい、との思いはある。なかなか難しいことなんだけどね{笑}」
~インタビューを終えて~
灘麻太郎さんのインタビューは2時間を超えるものであり、私にとって濃密な時間ではあった。
改めて考えさせられることも数多くあった。
文中には記していないが、改めてボイスレコーダーを聞いていると「品性」「品格」「自己管理」という言葉が多かった。そして驚くほど饒舌でもあった。
このことはインタビュアーである私に対する優しさと受け止めている。
灘麻太郎さんの麻雀に対する情熱、想い、後輩達に対する厳しいまでの優しさ、何処までお伝えできたか考えると不安が残る。
わたしと灘さんの年齢差は丁度20歳ある。
それでも前に向かって行く考え方、姿勢、反省、学ぶことばかりであった。
わたしは善き先輩達に恵まれているな__そう思わせる時間でもあった。
今回のインタビューを無駄にしてはならない__そう考えさせる時間でもあった。
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