プロ雀士インタビュー

プロ雀士インタビュー/第175回:プロ雀士インタビュー 野方 祐介  インタビュアー:赤司 美奈子

<人は何とも言わばいえ我の行く道我のみぞ知る>
これは坂本龍馬が残した言葉であるが、このような生き方をしてみたいという願いをこめて、私はこの言葉が好きだ。
しかし、野方祐介はこの言葉を地でいっている人だと思う。
私が彼に持っている印象は、見栄を張らない、嘘をつかない、飾らない、世間体を気にしない、 思っていることはストレートに言う、弱みを包み隠さず話してくる 、割と頑固なところもある、他にも、あまり多くを語らない、友達が多い、お酒が好き、などの 印象があるが、彼は周囲に流されずに己に正直に生きている人だと思う。
今回王位を戴冠した野方祐介の栄えあるインタビュアーに選んでいただいた23期生赤司美奈子です!よろしくお願いいたします!
11月26日 王位戦決勝日
<優勝は野方祐介!>
野方がとったかー!なんだかじーんとしたものがこみ上げる。身近な人間がタイトルを取るとこんなにも感動するものなんだ!
だが、びっくり!という感じではなかった。今まで彼の対局を映像で観戦していて、タイトル戦の決勝でも物怖じせずに堂々と自分の麻雀を打っている姿をみて、いつかタイトル取りそうだなあと思っていた。
野方から、「インタビュー引き受けてくれる?」と、連絡が来たのは次の日だ。
「え!?私?」突然何かのグランプリに選ばれたような華やいだ気分になったが、躊躇した。野方の周りにいる熱い麻雀仲間を差し置いて私がインタビューをしていいものだろうか…。
雀風も性格もとらえどころが難しい野方祐介を私がうまく表現できるのだろうか…。
悩んだが、せっかく選んでもらえた嬉しさと、新しい挑戦をさせていただくつもりで、謹んでお受けさせていただくことにした。
インタビュー当日
待ち合わせ場所に行くと、先に到着しているはずの野方の姿が見当たらない。
上野駅公園口で立ち尽くす…。
電話もつながらない。
闇夜に広がる上野公園の入り口が目に入る。
(まさか…)
(彼ならありえる…)
広大な上野公園から野方を見つけ出すのは困難だ。公園改札を待ち合わせ場所にした自分をうらんだ…不安な気持ちでいっぱいになった。何もせずにはおれず公園の見取り図を検索する。
しばらくして野方から着信があった。
赤司『どこいったのー?』
野方「どこだろうここ?マツキヨが見える」
公園の中じゃないようだ。ほっとした。(しかしなぜ移動したんだ!?)
電話をしながら横断歩道の向こうに野方を見つける。飛び跳ねながら笑顔で手を振っている(笑)なんだか可愛らしい。
赤司『そのままこっちのほうに歩いてきて~』
野方「まだ見つけてない」
えーーーーーーーーーーー!
あんなにテンション高く誰に対して手を振ってたんだ一体!?
彼は待ち合わせにも特徴を出してくる…
インタビュー開始
 

100

 
赤司・野方「かんぱーい!」
赤司『おめでとーーーー!』
お酒を飲んでいる時の野方はいつも機嫌良さそうにしているが、今日はいつもよりニコニコしている気がする。
赤司『んじゃ自己紹介からお願いします』
野方祐介 18期生 1980年8月6日生まれ AB型 京都府出身
赤司『趣味は何かあるのかな?』
野方「アニメかな~」
野方はわりとふわっとした話し方をする。
赤司『好きな動物は?』
野方「ん~特にないけど、強いて言うならゲッシルイかな」
赤司『ゲッシルイ!?』
(一瞬シダ植物が頭に浮かんだがそんなはずはない…)
検索してみた、
げっ歯類 物をかじるのに適した歯を持つビーバー、リスなど。
単なる私の知識不足だった。なぜだかほっとした。
赤司『好きな食べ物は?』
野方「赤い色のもの」
(食べ物の好みが色できたぞ!)
赤司『例えば?』
野方「トマトジュース」
(野方がトマトジュースを美味しそうに飲んでいる姿が容易に想像できるから不思議だ。食べ物ではないことはおいて置こう。)
赤司『他には?』
野方「唐辛子、タバスコ」
(そういえば居酒屋さんで彼が異常な量の七味をかけているのを見たことがある)
赤司『辛いものが好きなの?』
野方「ん~梅干も好き、エビも好き」
(ふ~む…本当に色以外に統一性がない、なんか変わった感覚だなぁ)
赤司『好きな色はやっぱ赤なの?』
野方「いや、赤ではない」
全否定するような強い口調だ。
(赤じゃないのか!)
野方「暖色系ではオレンジ、寒色系では水色かな」
(わざわざ寒色と暖色を分けて考えるのもなんか興味深いな)
そう思いながら、彼の服装をまじまじと見つめると、
赤いチェックのセーターに、裏地が豹柄のカーキ色のコートに、インテリっぽい眼鏡をかけ、迷彩柄のバッグを隣においている。
(こ、この組み合わせを難なく着こなすのは大変なことだ!)
決して変ではない。むしろなじんでいる。不思議だ。
少し彼の好みを聞いただけで、自分にはない独特の感覚を彼が持っていることをまざまざと感じさせられた。
ここで、野方の相棒とも言っても良いくらい仲の良い石立岳大が合流する。
 

100

 
石立は、祝勝会にかけつけ感動で涙していたという。
来てくれたのも、私や野方が頼んだわけではないのだが、インタビューが気になって仕方がないという風に自分から手伝いを名乗りでてくれた。
この日1日、石立は完全に野方の敏腕マネージャーであった。
乾杯をすませ、話を肝心の麻雀の話に移す。
赤司『麻雀との出会いはいつだったの?』
野方「ん~覚えてないなぁ、気づいたらやってた」
赤司『そ、そっか』 答えに対して一瞬ぽかんとした。
すかさず石立の鋭い指摘が入る
[ここは大切な部分だからもっと突っ込んで聞いていかないと!]
野方は、私の質問に対して的確でシンプルな答えをくれる。
質問に対して長々と説明するだけで要領を得ない答えしかくれない人も多いことを考えると、野方は頭がいいのかもしれない、だがインタビュアー泣かせだ(笑)
赤司『周りに麻雀やってる人は沢山いたのかな?』
すごく一生懸命思い出してくれようとしていた。
野方「う~ん…家族とやっていたような、小さいころ知らない人とかも交えて家でやってたのかな?」
赤司『じゃあ麻雀暦はかなり長いんだね?』
野方「そういうことになるのかな~?」
誰かに問うように答えている、誰にだ!?自分にであって欲しい。
赤司『それからプロになるまでの道のりは?』
野方「何冊か本を読んだ。高校を出てから雀荘で働き出した。そのときに段谷さんと知り合った。」
赤司『そんな前から段谷さんと知り合いだったんだね!』
準決勝で、別卓で打っていた段谷さんの最終局のアガリが野方の決勝への切符になったことを思い出すと不思議な縁を感じる。
赤司『麻雀プロという存在を何で知ったの?』
野方「近代麻雀を読んで知った。面白そうだなと思った。」
さらに石立から具体的にはどんな記事だったのかを聞くように指示されるが、野方は本当に思い出せないようであった。
野方は多分、過去にあまり興味がないのであろう。
前向きな人ほど過去に執着しないという話を聞いたことがあるが、 野方も前だけ向いているのかもしれない。
過去という重い荷物を背負わずにさっそうと生きている野方にすがすがしさを感じた。
野方「それから関西でプロテストを受けた。」
赤司『最初は関西本部所属だったんだね!知らなかった!』
(そういえば、野方とはかなりの回数一緒に飲んでいるが、京都出身なのを知ったのもつい最近の話だ)
野方「関西本部で3年活動していた。」
石立から熱い視線を感じる、まるで、ここ、ここは聞きどこだぞ! もっと深く切り込んで!と合図されているようである。
赤司『東京本部に移籍したのはどういう理由だったの?』
野方「そろそろいったるかと思った!」
めずらしく元気よく答える野方から、東京進出した時の意気込みが感じられる。
赤司『そろそろいったるかと思った理由は?』
野方「関西に住みながら、全てのタイトル戦に出場していたのだけれど、東京に住んだほうがもっといい状態で対局できると思ったからかな」
赤司『昔から麻雀に対して熱意があったんだね!』
野方は普段ゆる~っとした空気感で物事にあまりこだわりを見せない、たまに霞を食べて生きているんではないかと思うほどだが、麻雀に関しては情熱の全てを注ぎ込んでいるように時間も、手間も、移動もおしまない姿勢で臨んでいるのはよく知っていた。
赤司『それにしてもよく戦い抜いたね!今回の王位戦!』
目の前にのほほんとしている野方を見ると、あの苛烈な攻めっぷりで王位をものにした男が同一人物なのかと疑いたくなる。
赤司『今回で決勝は、旧チャンピオンズリーグ、十段戦に続いて3回目だね、何か思うところはあったのかな?』
野方「決勝では自分で攻めようって決めてた。準決勝でラッキーな勝ち上がりをしたから、もともとなかったもんだと思って挑もうと思った。」
赤司『太田プロとは歳も近くて旧知の中だよね?何か意識するところはあったのかな?』
野方「そーいう意識というのはよくわからないけども…1回戦目、太田プロが調子が良いと感じたから、マークしようと思ったのはあるかな。太田プロも段谷さんも昔から沢山一緒に麻雀を打った仲だから、セットをしているようで気が楽だったよ」
赤司『1回戦目から野方らしい鳴きをしているのを見て、序盤から積極性を感じたよ。野方の麻雀の特徴の1つにタンヤオトイトイのアガリ率が高いというのがあると思うんだけど、逃げ道がない形でのテンパイで怖いと感じることはないのかな?』
質問の意図がわからないという感じで首をかしげながらこちらを見つめてくる野方、彼にはあまり恐怖を感じることはないのだろうか 。
赤司『例えば私だったら、字牌の暗刻があったらトイトイをすんなり目指しやすいやすいんだけど、中張牌だらけの手を短くするのは結構勇気がいる』
野方「俺はヤオチュウ牌が手の内にないほうが安心するよ」
全然私と真逆だ…全くその感覚がわからない。
逃げ道を意識して用意してないように見えて、更にガード力もしっかりしているから余計にすごいと思ってしまう。
常人には理解しえない優れた感覚があるのだろうか?
赤司『1回戦目の最終局もよく親の段谷さんのホンイツじかけに西白おしたねー!思い切りの良さを感じたよ』
野方「あの局はいこうと思った。」
ポツリとした答えが返ってくる。
赤司『なぜいこうと考えたの?』
野方「カン三索が鳴けた感触が良かったからかな。」
この局でもっと野方の麻雀の判断ポイントや、思いきりの良さの秘密を聞き出したいと私は粘った。
赤司『親の段谷さんが長考後に九万一万を手出ししたことで何か意識したことはあったのかな?』
野方「うーん、何かしらは感じてはいたけれども」
このように数々の質問をぶつけたが、彼の麻雀を理解しきれていない私からの質問に少し困った様子であった。
敏腕マネージャー石立に助け舟を求めても、
[野方の麻雀を言葉にするのは難しいかもしれないね]
と、私に同情した言葉をかけるのみであった。
(もしかしたら野方は閃きで麻雀を打っているのかもしれないな)
(麻雀に完全に没頭して思考が無意識化しているのかな)
私の推測はつのる…もちろん答えは出ない。自分の理解が及ばない、野方の麻雀のすごさを伝えられない自分に歯がゆさを覚えた。しかし、それと同時に野方の麻雀に関心が増している自分に気づいた。全く理解が及ばない打ち手が存在するという新たな発見をした気持ちからだ。目の前に座っている野方が未知の人物のように見えてくる。独特な感覚を持ち、独自の道をまっすぐ生きる野方だからこそ最終戦あれだけの強烈なインパクトを残した攻めの麻雀を見せることができたのだろう。
毎局解説席から驚嘆の声があがっていた。さらに攻めるんですか!!この局面でこんな牌切ったことないです。
今まで聞いたことのないコメントが続々と解説陣から発せられる。終盤その声は彼のリスクをものともしない覚悟に対する賞賛に変わっていた。
私も画面の前で圧倒されていた。
さぞかし必死な思いで戦っていたのだろうと思い彼にその時の心境を尋ねると、相変わらずゆるっとした口調で
野方「多少打っても大丈夫という余裕があったよ」
野方「(ポイントを)追い越されたら追い越されたで、まぁどーにかなるかなくらいは考えたかな~」
と言うから驚きだ。そんな余裕な気持ちで打っていたのか!
野方「太田プロや段谷さんは無茶して攻めるタイプじゃないから、局を消化するためにはやはり自分が前に出なくてはダメだと思ってたよ 。」
なるほど。彼の言う通りかもしれない。が、実際大切なタイトル戦の最終戦で実行しえる人間が何人いるだろうか?野方の精神力の強さは本当に計りしれない。
インタビューを終えると、彼は眠りについた。居酒屋で…
よく見る光景だ。
 

100

 
今回の野方のインタビューを通じて、人間という生き物は底知れぬ 未知の領域を持っているものなんだなと改めて思い知らされた。
自分の常識を超えた強さを持っている野方祐介、これからの彼の活躍を期待している私がいる。
例えば、野方の反対のタイプだと思われる、論理的思考に素晴らしく長けている勝又プロは野方と対戦する時にどういう戦法を考えられるのだろうか?とか、瀬戸熊プロが解説中に、同じタイプで1枚上手と評されていた古川プロと同卓したらどんな展開になるのだろうか?などと、野方という存在が麻雀界にどのような広がりを見せてくれるのか楽しみでしょうがない。
己の道を突き進む野方祐介、
どうかこのまま世間に染まらず独自の道を突き進んでいって欲しい !!!
追記
野方のことを大好きでインタビューに積極的に協力してくれた石立岳大プロ。
準優勝という立場で一番悔しい思いをしたであろうに、自らインタビューの相談に乗ってくれた太田優介プロ、アドバイスをくださった先輩方、忘年会で熱心な意見をくれた方々に心からの感謝をお伝えしたいと思います。
 

100
100