プロ雀士インタビュー

第191回:第19回モンド杯優勝特別インタビュー 柴田 吉和  インタビュアー:ケネス徳田

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~この20年随一の!?~

私が麻雀界に足を踏み入れて今年で18年。幸いなことに、デビュー当初から麻雀関係の仕事一本だけで生活していくことができた。とはいえ、この18年の最中いろいろな出来事がおきた。近年では映像メディアの発達が目覚ましい一方で紙媒体つまり出版業界の衰退も著しい。そのため増える仕事もあるが、無くなる仕事も多いのが現状であり、さらに扶養家族も増えてしまい我が暮らしは決して楽にならず。

手前味噌ながらデビュー当初から同じように続けている仕事といえば『むこうぶち』(竹書房『近代麻雀』刊)、新聞原稿『夕刊フジ・毎週火曜日発売分』、そして『モンド麻雀プロリーグ』。この3つだけである、ありがたや。

『モンド麻雀プロリーグ』、当時は『麻雀デラックス』というTV対局番組の枠名だったが2004年に『モンド21麻雀プロリーグ』に変更。そしてチャンネル名が『モンド21』から『MONDO TV』に変更を機に『モンド麻雀プロリーグ』になった。その中に『モンド杯』『女流モンド杯』『モンド名人戦』『モンド王座決定戦』という、現行システムが確立された。

私が携わったのは2002年。たしか『女流モンド21杯』であった。対局中のスコア管理。最終戦の条件計算。またテロップ作成や編集立ち会いなど。さらには近代麻雀での観戦記(現状は無し)。少なくとも最低3回は同じ対局~しかも多角的に~を20年近く見続けてきた。番組レギュラー陣の今と昔の麻雀の変化などにも人一倍感じる時もある。

過去のレギュレーションでは決勝は4回、6回などの番組もあったが、現行システムになってからは決勝2半荘制(『王座決定戦』は対局者4名による全4半荘)。

初戦トップで7割弱、2着で2割弱の優勝確率が私のイメージである。3着・4着ともなるとやはり相当厳しく、特に初戦ラスからの優勝は私の記憶では過去1~2回。なくはないが相当厳しいものとなっている。特にそこまで沈んでないラスならともかく、初戦ハコ割れラスではほぼ絶望的な点差とも言える。

しかし『第19回モンド杯』ではその絶望的な点差をひっくり返した男がいる。またしても「逆転の柴田」が伝説を作ったのである。

 

~過去に例のない逆転劇~

25,000点持ちの30,000返し、順位点10・20のシステムの場合、3万点ちょうどのトップで+40P。トップ者がこのくらいの点数ならばラスでも2万点近くあり、その場合は▲30P。70P差の場合、トップ・3着で2万点、4万点トップ2万点3着というイメージ。これならば逆転もそこまで難しくはない(とはいえ厳しいといえば厳しいが)。

 

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しかしこの『第19回モンド杯』。決勝1回戦の成績が

白鳥翔 +52.8P
山井弘 +12.6P
石橋伸洋▲17.7P
柴田吉和▲47.7P

柴田は1回戦オーラスの親番、4,000オールをツモって素点を回復するも2,300点持ちのラスで終了。
トップの白鳥とは98.5P差。トップ・ラスで4万点弱という相当厳しい条件を突きつけられる。しかし『第32期十段位戦』で…

 

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三倍満条件をクリアする国士無双をオーラスでツモアガリ。この奇跡に比べたら、これくらいの数字は全然…

柴田「いやいや、厳しいから」

ケネス「そうね。点差つけても相手がラス、せめて3着じゃないと相当だからね」

決勝2戦目東2局1本場。石橋、山井の先制リーチに対し

 

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この行くしかない状況でドラのペン七筒待ちイーペーコーで3件目の追っかけリーチ。これが功を奏し一発で石橋から満貫の出アガリ。

続く東3局の親番では4,000オール、2,600オールと立て続けに点棒を増やし、5万点を超える。目標の白鳥は17,700点持ちの…微差だが2着目。

柴田「結局まだまだ足りてないから攻め続けなくちゃいけなくて。そしたら東4局で…」

 

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白鳥が3巡目にリーチ。3メンチャンで追っかけたものの、次巡に5,800の放銃となってしまう。

ケネス「打ち取れば優勝が見えたのにね」

柴田「でもこのおかげで吹っ切れたかもしれなくて」

東4局1本場、石橋から東・ドラ3の満貫をアガリ。そして南1局、親番・石橋の先制リーチを受けながらドラポン、そして終盤で…

 

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前巡ドラの四索をポンしてカン五筒待ちテンパイ。そこにツモ六筒…残りツモあと2回。二筒五筒が4枚切れているのと安全度との兼ね合いで…

ケネス「流石に四筒切りになりそうだとは思ってたけど…」

柴田「まだ素点も足りてないし行くしかないからね」

柴田の選択は打三筒! 放銃覚悟でアガリの可能性を目一杯追った選択である。
ちなみに石橋の待ちは六筒九筒。そしてハイテイにいたのは…二筒だった!

ケネス「このアガリで4万点差。だけど現状白鳥が2着目だからまだまだか」

柴田「けどこの後山井さんが4,000オールアガってくれて、翔ちゃんが3着に落ちたから」

南2局1本場に2,000・4,000ツモで条件クリア。オーラスも見事自力でアガリ切って第19回モンド杯優勝となった。

ケネス「見ててこの南1局のアガリが一番インパクトあったけどね」

柴田「でも自分では決勝よりも予選最終戦のほうがちょっとあって…」

『第19回モンド杯』は出場者12名。予選各自6回行い上位2名は準決勝をスルーして即決勝となる。

予選最終戦前。柴田はトータル+9.3Pの6位。大きいラスで脱落(下位2名予選敗退)の危機もあったし、そうでなくても半荘1回だけの準決勝では挽回が非常に難しくなる。

ところが別卓が先に終わり、残るは柴田の卓のみ。トータル順位こそ7位に落ちたものの+86.3Pだった2位のボーダーが+53.0Pまで低下。普通のトップでなんと2位、つまり決勝へジャンプアップできるのだ。

柴田「幸いオーラスダントツトップ目で気は楽だったんで、親に放銃しなければ多少無理してでも終わらせにいこうかと」

 

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東をポンして片アガリチャンタの六索九索待ち。そこに予選トータル1位・白鳥のリーチが。

柴田「白は出たらポンして単騎待ちにしようかと思ってた。親の村上さんはテンパイすればリーチ、つまりリーチじゃなければテンパイじゃないと読んでだから」

ケネス「じゃあこの白をポン?」

柴田「いや、なぜか声がでなくて。どの道翔ちゃんに放銃してもトップは堅いから現状オリる気なくて行くつもりはあったんだけど」

柴田のポンする、しないの瞬間の判断がまさに天国か地獄かの選択だった。2巡後、ツモ切った四索が白鳥に放銃するが…。

四索四索六索六索六索四筒四筒四筒五筒五筒北北北  ロン四索

柴田「もし白ポンしてたら四索が向こうに行って四暗刻ツモらてたんだよね。ほんと助かったと思って」

虫の知らせか、第六感か…「戦場では一瞬の躊躇が命取り」と言われているが、逆に躊躇が功を奏した形となった。

 

~現代のシンデレラボーイ!?~

ざっとここで柴田の経歴を挙げてみよう。

2012年 プロ連盟入会(28期生)
2014年 第28期新人王戦優勝
2015年 第32期十段位戦優勝
2016年 第1回モンドチャレンジマッチ勝ち上がり、第17回モンド杯出場
2019年 第19回モンド杯優勝

ケネス「すごいね。ここ最近だとここまでトントン拍子に勝ってきてる人はいないよ」

柴田「そうでもないよ。この間に他決勝戦4回出てるけど逃してるし」

柴田の言う逃した決勝戦とは「麻雀最強戦2015(十段位シード)」「第33期十段位戦(防衛戦)」「第6期グランプリMAX」「第7期グランプリMAX」の4回。勝った時のインパクトの反面、負けた時の印象が薄く失礼ながら記憶にも残っていなかった…。もっとも本人としてどうせ勝つならもっと余裕を持って勝ちたいだろうが。

柴田「十段位になってから色々出させてもらったけど、そこから全く結果出せてなくて」

ケネス「モンドチャレンジマッチだけか、勝ったのは」

柴田「そうね。でもそれ勝ってモンド杯出場はあくまでスタートだからね。出場が目的じゃなく、やっぱり優勝が大事だから」

 

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本人的には、十段位以降タイトルに恵まれず、人知れず苦悩した時期もあるとのこと。

柴田「タイトル獲った人が不甲斐ないと、そのタイトルの価値を落とすことにもなるからね。僕個人のことを悪く言われるのはそこまで気にならないけど、過去や今後十段位獲った人まで悪く言われるのは耐えられなくて」

さすがO型らしい発想。私みたいな「それがどうした」の一言で済ますB型とは視点が全く違う。

柴田「でもモンド杯優勝できて、ほんと嬉しいというより安心したって感じかなとりあえず。だけど今度は今度で「モンド杯優勝」の肩書を背負わなければならないからね」

柴田の苦悩は今後も続くようだ。とりあえずは6月放送予定の「第15回モンド王座決定戦」モンド杯優勝者として出場する。柴田の活躍に、そしてその後の延々苦悩する姿も乞うご期待!