プロ雀士インタビュー

第10回女流モンド杯優勝特別インタビュー:魚谷 侑未

第6期女流桜花決勝、第10回女流モンド杯。どちらも初出場で初優勝。
わずか1年足らずの間に、魚谷侑未プロは二冠の勝者となった。

第6期女流桜花優勝インタビューは、藤井すみれプロが務め、
そして、第10回女流モンド杯優勝のインタビューは、私、高宮まりが務めさせて頂きます。

【インタビューの始まり】

魚谷「まりさん、インタビューどっか旅行とか行って写真とか撮ってやろうよ~。」

なんだかうきうきしているみたい。

高宮「いいけど…どこ行く??」
魚谷「うーん、お台場?バーベキューもいいなぁ。ほんとは旅行も行きたい!」

デートかい。普通の可愛い女子である。

魚谷「そういえば決勝戦のDVD観た??」
高宮「ごめん、まだ~」
魚谷「えー、じゃあ当日までに観ておいてね?」

わかった、と言いつつも、翌日からその前日まで連勤である。
時間がない訳ではないが、実はちょっと無理かも…と思っていました。桜花様すみません。
結局、当日に漫画喫茶で、決勝戦の鑑賞会兼インタビューをすることになった。
ですので、観戦記風のインタビューになりました。

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インタビュー風景
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二人で記念プリクラ

【決勝戦・1回戦開始前】

こうして、優勝者の解説付きで、第10回女流モンド杯決勝戦の鑑賞会が始まる。
1回戦が始まる前に聞いてみた。

高宮「初出場で決勝に残った訳だけど、対局前のモチベーションはどうだったの?」
魚谷「えー?モチベーション?モチベーションはいつでも高いよ。もちろんモンドTVに出ることはプロとしてやっていく上での夢だったし、
私なんかが出してもらえて…って感謝の気持ちだった。勝つとかっていうより、もちろん勝ちたい気持ちがないと言ったら嘘になるけど、
いい麻雀をしたいと思って。自分なりの麻雀をして、いい麻雀を打ち切れたらいいなぁと思って。」

{な…長い…}

ボイスレコーダーを忘れた私は、彼女の言葉をメモるのに必死である。
私たちは、普段、麻雀の話はほとんどしない。今回のインタビューで、色々と普段はしないような質問をした。
彼女の麻雀観や麻雀に対する姿勢、麻雀自体の考え方や内容についても、こんなに詳しく聞くのは初めてである。
しかし、どんな質問でも、何か質問するとすぐに、長い長い答えを、彼女らしい早口言葉と語り口調で返してくれるのである。
それだけ、いつも麻雀に対して沢山の、本当に沢山の事を真剣に考えているのであろう。

【決勝・1回戦】

東3局3本場、西家2巡目。

六万七万八万九万三筒四筒六筒七筒六索七索西西発 ドラ三万

高宮「これ、解説で西から鳴かないんだ?って言われていたね。」
魚谷「私だったら鳴くって思われるかもしれないけど、満貫が見える手はあんまり鳴かない。」
高宮「確かに、一緒に打っているとき(あんまりないけど)、けっこう面前で高い手仕上げて来るもんね。
ゆーみん(魚谷)の鳴きの判断ってどういうところなの?」
魚谷「私は、他家の進行速度とか、親と受けとか常に全部考えてやっているよ。
いい手は別だけど、さばき手のときは反撃された時の事、どこが反撃して来そうかとか考えながらやっているかな。
鳴くと思われるところで鳴かなかったりするけど、それはミスと思ってなくて、それは鳴かないと思ってやっているの。
あと、鳴くとある程度先が見えやすくて、打点もだいたい決まりやすいから、私は鳴いた方がオリやすいとも思っている。」

なるほど。なかなか奥が深い。特に面白かったのは、“鳴くと打点が決まってしまう”ということについて。
一般的には、ただ手組を狭めてしまうという意味合いに考えられることが多いが、こういった見方もあるようだ。新鮮である。
事実この局は5巡目に、

六万七万八万二筒三筒四筒六筒七筒八筒六索七索西西

こうなりリーチ。そして五索で出アガリ。
魚谷プロのそういった状況判断は、鳴きに対してだけではない。
面前の手組でも、さらにリーチ判断でも、一本筋が通っている。

オーラス3着目、南家5巡目。

一万三万四万五万四筒五筒六筒一索三索八索八索北北 ツモ二索 ドラ四筒

カン二索を引いて八索北のシャンポンでリーチ。

魚谷「このアガリはけっこうお気に入り。」

{このアガリはお気に入りらしい}

魚谷「ソーズの下がいいと思っていたから、本当はカン二索でリーチしたかったけど、二索を引いてテンパイして。
北が待ちとしていいし、押し返されても悪くないからシャンポンでリーチした。
北なら瑠美さんから直撃したら、一発か裏で逆転も狙えるかもしれないし、涼崎さんか黒沢さんから出ても2着ならいいなぁって。」

魚谷プロの状況判断には一貫性を感じる。
このアガリで2着を確保して1回戦を終了。

【決勝・2回戦開始前】

高宮「1回戦は2着で終了したけど、2回戦への心構えはどうだった?気合いの入りかたとかゲーム展開の構想とか。」
魚谷「1回戦、本当はトップ取りたかったけど、2着でも良かったかなぁって。タイトル戦の決勝は1対1の状況になりやすいじゃん?
だから、1回戦が2着で1対1の状況に持ち込みやすいから、2回戦も状況に応じて打とうって。焦ったりとかはなかった。」

彼女の“焦らない”強さとは、単なる性格としての度胸や自信からではなく、知識と経験に裏付けされた強さなのかもしれないと思った。
彼女のメンタルの持ち方には、いつも理由がある。
メンタルに関しては、普段から長々と説明してくれたりする。

魚谷「あっ、あとねぇ」

まだ何か言いたい事があるようである

魚谷「私、準決勝で負けたって思ったの。」
高宮「ああそう!」

私は少し驚いた。
メンタルが強いという定評のある魚谷プロが、負けたと思うことなんてあるのか。

魚谷「負けたっていうか、負けも覚悟しなくちゃいけないって思った。」

準決勝のラスだけは引いてはいけない状況で、平たい局面。
そこでリーチに放銃して、一気に苦しい状況になったらしい。

魚谷「これは自分が招いた結果で、完全なミスではないかもしれないけど、自分がなんとかできる局面だった。
あきらめた訳じゃなくて、ダメでもしょうがないって思った。」

ここまで聞いて、珍しく弱気だと思うか??
私は思わなかった。やっぱり彼女の精神力は強靭だと思う。
彼女はいつでも、覚悟を持っている。

魚谷「その局を乗り越えて決勝に進めたから、追い風ポールポジションじゃないけど、一度負けたって思ったから、
よりチャレンジャーとして、良い心構えで臨むことができたかな。できました。」

けっこう気遣いさんなので、わざわざ語尾を言い換えたようだ。

【決勝・2回戦】

瑠美プロが序盤大きく沈み、魚谷プロにとって良い展開かと思いきや、瑠美プロが跳満をツモアガリ。
そこから南2局、東家。

二万三万四万五万六万七万八万三筒四筒五筒三索八索八索 ドラ二万

9巡目、二索を引いて八万を切ってリーチ。四索で4,000オールをツモアガる。

魚谷「この局ね…勝とうというより、いい麻雀をしたいって気持ちで対局に臨んだんだけど、
この4,000オールツモって優勝条件が見えてきて、勝ちたいって気持ちが強くなった。」

そしてオーラス1本場、魚谷プロはアガれば優勝。その魚谷プロが、

三万三万六万五筒六筒七筒二索四索五索六索 ポン八筒八筒八筒 ツモ五万

10巡目、五万ツモ打二索のテンパイ。
そして七万をツモアガリ、第10回女流モンド杯を制す。
画面の中のみんなが拍手している。

【優勝して】

見終わった瞬間、私は「おめでとう」と言って右手を差し出した。
魚谷プロは笑いながら、「ありがとう」と握手に答えた。

高宮「優勝した感想は?」
魚谷「終わってすぐに、瑠美さんがおめでとうって拍手してくれて、黒沢さんも涼崎さんも拍手してくれて、ああ、優勝したんだって。嬉しかった。
でも、実感っていうのはまだなくて。女流桜花も実感するまでにすごい時間がかかった。1日とかじゃなくて、3、4ヶ月。
だから、この女流モンド杯の優勝も、皆さんに観て頂ける頃に実感するのかもしれない。」

優勝というのは、そのときの勝ったという事実だけではなく、いろんな人との関わりの中で意味を持って来るのだろう。

魚谷「私の麻雀、地味だったでしょ?」

そう言って彼女は笑った。

高宮「うーん、意外とくちゃくちゃに鳴きまくったりしなかったね。」
魚谷「私ねぇ、自分の麻雀が地味だと思うんだよね。自分の中では、良くも悪くも奇抜な手順は打たないようにしている。
当たり前の事を当たり前に打つことが強さだと思っているから。
ミスのない麻雀を打つのは難しいことだけど、そこを目指しているから、当たり前のことを、毎回やろうと思っている。
他の人から見たら奇抜かもしれないけど、私の中では当たり前のことをいつも出来るようにしたい。」

彼女は真面目である。真面目であるということは簡単なようで、難しく大切なことなのだ。
しかし、真面目でいられる人は少ない。だから差がつくように思う。
彼女を見ていると、私はつくづく自分に甘いなぁと思う。

【これから】

高宮「女流桜花を勝って、女流モンド杯も勝って。そんなゆーみんの今後の目標は??」
魚谷「私が鳴きを志したときに、楽な道じゃないし、人から認められにくいし、嫌われる可能性もあるなぁって分かっていたけど、その道を選んだ。
自分にあったスタイルだから、他の人とは違う道を進んで行くって決めたから、だからこの道を進むからには結果を出し続けなきゃいけないって、
強く、重く思っている。プレイヤーとしてやっていきたいから、内容だけじゃなくて、結果を出し続けられるプロでありたい。」

麻雀を通り越して、魚谷侑未の人間性が見えるような気がする。
自信もプライドも、自分で持とうと思って持てるものではないと私は思っている。
しかし、魚谷プロには、誇りという言葉を使ってもいいのではないか。

魚谷「あと、それとは別に、いろいろ出演させて貰えるようになって、少しは注目して貰えるようになって、
プロ意識とか振る舞いとか、人として何か伝えていけたらいいなって思うようになりました。」

わずかな間に、ともに初出場の舞台で二冠を達成。麻雀格闘倶楽部などメディアへ出演する機会も急激に増えた。
魚谷侑未をシンデレラガールと呼ぶ人もいるかもしれない。しかし彼女は、突然の幸運を手にした訳ではない。
今までの麻雀へのひたむきな努力が、彼女の快進撃に繋がったのだろう。
そしてこれからも、彼女はその道を歩んでいくのだろう。
それが、平らでもいばらでもどんな道でも、魚谷侑未にしか歩めない道なのではないかと私は思う。

私はこういう人を“プロフェッショナル”と呼ぶのではないかと思う。
そして、そんな彼女のこれからの歩む姿と歩む道を見ていたいと、そう思う人は多いに違いない。

長いインタビューになってしまいましたが、魚谷侑未プロのファンの方々が呼んでも、
魚谷プロについて、まだあまりよく知らないという方が読んでも、彼女の魅力が伝わるように書いたつもりです。

皆様に楽しんで読んで頂けたら幸いです。
長文ご精読頂きありがとうございました。

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(このインタビューは2012年10月時のものです)