プロ雀士インタビュー

第93回:前原 雄大

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第3期グランプリMAXを優勝した前原雄大

前原雄大。
前年度に勝った公式対局は、
第8回モンド王座・2012最強戦鉄人プロ予選・第1回インターネット麻雀日本選手権・第3回グランプリMAXと、この1年だけでもこれだけの勝ちを重ねている。
過去には、鳳凰位獲得・十段位を3連覇するなどの偉業を成し遂げている。
底知れない前原の強さはどこにあるのだろうか?

魚谷「前原さんグランプリ優勝おめでとうございますー!」
前原「ありがとう。今日は宜しくお願いします。」
魚谷「はい、こちらこそ宜しくお願いします!」

この日、前原プロのインタビューの場所として連れて行って頂いたのは、豆腐のコース料理が食べられるお店だった。

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前原「魚谷さんはダイエット中と聞いたので、あなたの好きそうな店を探してみたのだけどお気に召さなかったらごめんなさい。」

と、後輩である私にも細やかな気遣いを忘れない前原プロ。
前原プロの麻雀は、大胆で強引であると感じる人が多いかもしれないが、大胆かつ繊細であると私は思う。
それは、前原プロの人柄が麻雀に現れているのかもしれない。

 

【グランプリMAXについて】

前原「グランプリMAXはご覧になりました?率直な感想としてはどうでしたか?」
魚谷「はい、そうですね。タイトル戦の中でも早い展開や仕掛けが多かった印象ですね。ちょっと珍しい感じの決勝戦ですよね。」
前原「そうですね。決勝戦の前には、いつも展開のシミュレーションをするんだけど、今回の展開を考えると灘さんと古川さんは仕掛けが多く、勝又君は面前で大きく構えて来るよね。それを考えて自分の優勝出来る展開を考えた時に、灘さんと古川さんのペースに合わせた方が良いと思ったんだよ。だから、僕も2人のペースに合わせて役牌は全部一鳴きだったでしょ?鳳凰位戦には鳳凰位戦の作戦。グランプリMAXも決勝面子がきまった時に、たくさん頭でシミュレーションをしてた。僕はまず我在りきなんだけどね、今回はこの形で戦おうと思っていたんだ。優勝という結果はたまたまだけれどね。」
魚谷「凄いですね。私は面子に合わせての細かいスタイルチェンジは出来ないので…。
でも、今回の決勝戦は4着から始まり、2回戦もジリ貧の展開でしたが焦りはありませんでした?」
前原「焦りは全くなかったね。当然だけど自分がラスから始まる展開もシミュレーションしていたからね。もちろん1回戦にトップをとれたら2回戦以降の戦い方は決めていたよ。でも今回はラスを引いた事で、全体を冷静に見る事が出来たよ。今日は力技に頼っちゃ駄目な日なんだなって。」
魚谷「そうなんですね。その後も前原さんらしい、繊細な打ち回しをされているように見えました。」

 

【後輩達へ】

魚谷「前原さんは、これまで麻雀プロとして結果を残し続けて来ていますが、自分の強さはどこにあると思いますか?」
前原「まず第一に、僕は自分が強いと思った事はないし、過去の実績にも興味はないんだ。過去には意味はないし、人は皆過去に向かって生きているわけではないでしょ。僕らは今を生きているわけだし、明日に向かって生きているって事に近いかな。麻雀というゲームそのものに対する考え方が、自分の弱さと向き合うものだと思っている。僕はね、見ている人に”個性”を伝えていきたいんですよ。プロ連盟っていうのは、みんなそれぞれ個性を持っているでしょ?小島先生の麻雀、森山さんの麻雀、荒さんの麻雀。それぞれ素晴らしい個性があるでしょ?僕の麻雀はもしかしたら一般ファンの方に「あれで麻雀?」って言われてしまうかもしれない。それでも、自分の麻雀がガラクタである事にある種の快感と誇りは持っているよ。これが僕の麻雀だっていうのが1人でも多くの人に伝えられたらいいなぁって思ってるよ。」
前原「魚谷さんは、AKB48は詳しい?」
魚谷「詳しいってほどではないですが、人並みには知っていると思います。」
前原「去年の総選挙で篠田麻里子が言った言葉がね、凄く印象に残ってるんだよ。」

~「後輩に席を譲れ」と言う方もいるかもしれません。
でも、私は席を譲らないと上に上がれないメンバーは、AKBでは勝てないと思います。
私はこうやってみなさんと一緒に作りあげるAKB48というグループが大好きです。
だからこそ、後輩には育って欲しいと思ってます。 ~

前原「僕もこれと同じ気持ちで、勝ちを譲るつもりはない。でも、素質のある後輩に這い上がって来て欲しいと思ってるんだよ。麻雀プロのレベルを上げていく事が、プロ連盟のためにも、麻雀業界が発展していく事にも繋がっていくと思うからね。だから、今の僕の立ち位置を誰かに譲るつもりは毛頭ない。でも、それを揺るがしてくれる後輩の存在には期待をしているし、僕が教えられる事を教えていって強くなって欲しいとも心から思ってるよ。」

 

【白い妖精】

魚谷「前原さんは【地獄の門番】や【歌舞伎町のモンスター】など、いかにも強そうなキャッチフレーズがたくさんありますが何故【白い妖精】というキャッチフレーズが出来たのですか?」
前原「その話が来ましたか。あのね、正直恥ずかしい気持ちもあるのよ。白い妖精って僕のイメージと全く合わないでしょ?」
魚谷「そ、そうですね・・・なので、逆に前原さんのファンの方は由来を知りたいと思います。」
前原「1976年、モントリオールオリンピックで、金メダルを獲ったナディア・コマネチという選手が白い妖精っていうキャッチフレーズだったんだ。僕は当時19歳でね。感動したよ。その当時は10点満点が出るという事は想定されていなくて、9.99までしか表示出来なかったんだよ。だから掲示板に表示された点数は1.00だったんだ。10.0っていう数字が用意されていなかったからね。ナディア・コマネチは誰もが想像しなかった最高のパフォーマンスを魅せて10点満点を獲ったんだ。」

白い妖精・ナディア・コマネチ。
1976年、モントリオールオリンピックにて、段違い平行棒と平均台の演技で、近代オリンピック史上初めての10点満点を出し、個人総合と併せて金メダル3個、団体で銀メダル、ゆかで銅メダルを獲得した。
この時、実際に満点が出ることを想定していなかったため(当時は9.99までしか採点掲示板に表示できなかった)、掲示板には1.00点と表示された。
彼女は、限界想定の上を行くパフォーマンスを披露し、観客全てを魅了したのだ。

前原「僕もね、そうなりたいんだ。麻雀プロっていうのはパフォーマーであり、言葉を変えるならば表現者だと思う。舞台でパフォーマンスをするために、稽古を積むことは当たり前のことでしょ。見て貰う事で輝く、生きる。見てくれる方の想定の上を行くパフォーマンスを魅せられるような、そんな麻雀プロで在りたいという願いを込めて、このキャッチフレーズをつけたんだよ。でも、見た目に全く合わないから笑いが取れれば良いかなっていう意味も込めて・・・さ。」
魚谷「素敵ですね。私もそこを目指したいなと思っています。」
前原「『白い妖精』っていうキャッチフレーズは、むしろ僕より魚谷さんの方が近いんじゃないかなぁ。でもさ、これだけのパフォーマンスの裏側には、どれだけの日々の積み重ねがあるんだろうね。10.0と表記される頂点を僕たちは目指さなきゃいけない。そこに辿り着くのは果てしない事かもしれないけど、勝ち続けたら凄いと思ってくれる人も居るかもしれないでしょ。」

 

【麻雀プロの世界】

魚谷「私はまだ、麻雀を初めてからそんなに長くない年月ではありますが、その間は麻雀以外の事はやらないで生きて来ました。それは、私がまだ麻雀の基礎を学んでいるような段階なので当然の事かもしれませんが、前原さんは「麻雀だけをやっていても麻雀は強くならない」という考え方をお持ちですよね?私も今後、麻雀が強くなる為には、他の分野に目を向ける事も必要なのでしょうか?」
前原「・・・もしかして、何か前情報を仕入れて来てる?」
魚谷「???」
前原「あのね、最近みんなを叱った事があるんだよ。その情報があったからこういう質問なのかなぁと思ったんだけど、違うみたいだね。みんな勉強会や対局帰りに飲む事が多いんだけど、瀬戸くん(瀬戸熊)はみんなが飲みに行くのを横目に、すぐに帰ってロン2を打ってるんだよ。今、プロ連盟で最強の瀬戸くんが、対局が終わって飲みにも行かず麻雀を打っている。それだけの事をやっているのに、あなた達は何をやってるんだ。って。みんな、瀬戸くんを追いかける立場なわけでしょ?これじゃいつまで経っても瀬戸くんには追いつけない。」
魚谷「そうですね、本当にそう思います。」
前原「麻雀プロは孤独でなくてはならない。群れちゃ駄目なんだよ。お互いに高め合う関係を作っていく事は大切だけど、つるんで群れているだけじゃ何も成長しないよ。もちろん後輩達が群れているとは思ってないけどね。魚谷さんと女流モンドの決勝戦の解説に行くのに駅でバッタリ会った事があったでしょ?その時に、あなたがキャリーバックを引いていたからその理由を聞いたら、『今日のために最寄りの駅のホテルに泊まりました。』って言ったよね。それだけの舞台に上がる準備をしていると魚谷さんには感じた。それがプロとしての姿勢である、と。そういう意味で僕らと同じ土俵に立っていると思ってるんだ。魚谷さんは本当に一生懸命で全力で麻雀に取り組んでいるでしょ?それが本来在るべき麻雀プロの姿勢であり姿だと思ってるんだよね。」
魚谷「ありがとうございます、恐れ多くはありますが光栄です。」
前原「それでね、何が言いたいかって言うと、麻雀プロは麻雀を打たなきゃ駄目。それが大前提。でも、麻雀業界っていうのはまだまだ未成熟な業界だよ。麻雀業界だけを見てその中で頂点を目指すだけじゃ駄目なんだよ。成熟している世界から学んで来ることが大切。それはスポーツの世界だったり、美術の世界だったり、囲碁将棋の世界だったり。もちろん専門的知識は僕も門外漢なんだけど、その世界の人たちの背景を、在り方を知る事は必要な事なんじゃないかな。他の分野の良いものを取り入れるために、僕は色んな物を見ているんだ。」
魚谷「なるほど!確かにその通りですね。」

 

【麻雀プロとしての在り方】

前原「麻雀を打つっていう事は、その対局の日に備えて仕込み稽古をしなきゃいけないでしょ?これは昔、あるインタビューで言った事なんだけど・・・
『嫌いな事は?』『麻雀を打つ事です』
『一番好きな事は?』『麻雀です』と、答えた事があるんだ。」

魚谷「えっ、そうなんですか?でも、対局の前に、前原さんほど仕込み稽古を出来るプロってそう多くないと思います。嫌いな事として麻雀を挙げるというのは、その時間はきっと苦しく辛い時間なんでしょうね。」
前原「ありがとう。それに対局が続くと、寝むれなくなっちゃうんだよね。何でだろうね、考え過ぎちゃうのかな。勝っても反省して、その対局の事をずっと考えちゃうんだよ。だからグランプリMAXのあった3月は、1ヶ月のうちの半分以上が対局で、寝むれない日々が続いたんだよ。本当に辛かったね。対局で勝っても、打ち上げの席で対局の反省をしちゃうんだよね。小島先生や森山さんに『お前のための席なんだから、祝う側の気持ちを考えなさい』と叱られたりする。そうしなくてはいけない事は分かっているんだけど、なかなか気持ちの整理が出来ないんだ。不器用なんだよね。それでも長い戦いを終えて、2012年度最後のタイトル戦を勝ちで締めくくれた事は、素直に喜んではいるんだけどね。ただ、結果よりも内容だったり、プロセスの方が大切だと考えてもいるんだよね。そういう点では、今回の内容もいかがなものかと思う部分は多々ある。」
魚谷「前原さんは麻雀に対して、本当に真摯ですよね。そうやって麻雀と向き合い、努力し続ける前原さんは、麻雀プロの鏡であるように思います。」
前原「僕は努力という言葉自体好きじゃないし、言うべきものでも誇示するものでもないと思っている。麻雀プロとしてやるべき事をやるかやらないかだけだと思うし、実際は辛かったりきつかったりするのかもしれないけど、プロとして大切な事はいかに大らかに見せるかということだと思っている。苦しいとか口に出してしまうのはちょっと違うかな、と。」

 

前原は、タイトル戦の前には誰よりも多くの時間を稽古に費やし、対戦相手の研究を重ねて対局に挑む。
その準備の時間や決勝戦での戦いは辛く苦しいように私には映る。
しかし、稽古という辛く苦しい時間に対しても、麻雀プロとして誇りを持って真摯に取り組み続ける。
苦しみながらの稽古に、最大の時間を割ける麻雀プロがどれだけ居るだろうか。
一切の努力を惜しまず、麻雀に精魂を注ぎ続けられる麻雀プロがどれだけ居るだろうか。

連盟のトップを走り続ける前原は強く、気高い。
私が歩みを止めないでいられるのは、前原を始めとする素晴らしい先輩方が手本となり、背中を見せ続けてくれるからだ。

前原の背中は凄く大きく、誇らしい。そして、いつでも私たちに道を見せてくれている。
私もいつか、後輩に背中を見せられるような素晴らしい麻雀プロになれるように。
今はまだ凄く大きく見える前原の背中を追いかけて、走り続けよう。
並んで歩ける日が来るかどうかは分からない。
それでも、その日をいつか迎えられるように一歩一歩進み続け、更なる精進を重ねたいと強く思った。
そして、1視聴者としてこれからも前原の力強い麻雀を見続けたいと強く願っている。

改めまして前原プロ、グランプリMAX優勝おめでとうございます。
これからの一層のご活躍をお祈り申し上げます。