プロ雀士インタビュー

第109回:山井 弘

WorldRiichiChampionship2014(WRC,2014)
なんとも日本人には見慣れない横文字のタイトル。
日本語に直せば「第1回リーチ麻雀世界選手権」だが、個人的にはWRCという響きの方が好きだ。
ちょっと大げさかもしれないが、私の印象では野球の(WBC)が一番ピンときた。
2006年に行われた第1回大会は、日本中に感動を与え、私自信も興奮したのを覚えている。

麻雀となると個人戦で、野球やサッカーのようにはいかないが、それでもリーチ麻雀の先進国は日本でなければならないというプレッシャーは誰もが感じていたと思う。

現地は30度を超える猛暑日が続き、冷房など全くない中での過酷な試合が4日間続いた。
そんな環境が更にそう思わせたのかもしれないが、予選で敗退したほとんどの選手が、残った日本人に勝って欲しい。そんな心境だったと思う。

そして、期待通りにベスト16には日本人が13人残り、決勝は4人全員が日本人という第1回大会にして快挙ともいえる活躍ぶりを見せた。

余韻に浸るかのように、私は当時を振り返りながら、車で四谷に向かっていた。
そう。世界チャンピオン山井弘にインタビューをするために。

今回は私、井出康平がインタビュアーをさせて頂きました。
山井プロとは、勉強会などで麻雀を打つ機会が多いのですが、個人的にはメンタルコントロールや読みに長けてるプレイヤーだと思っている。その長けてる部分が試合でどのように生かされたのか。その辺りを中心に聞いていきたいと思います。自分の今後の為にも(笑)

 

Q.大会の印象

井出「山井さん、今回は本当におめでとうございます!」

山井「ありがとう!」

井出「まず最初にお伺いしたいのが、パリに行く前の大会のイメージと、始まってからの大会のイメージってどうでしたか?」

山井「今回ね、日本のリーチ麻雀が大会ルールで採用されているわけだけど、麻雀自体は広まって歳月はたってるけど、リーチ麻雀自体はまだ広まって間もないんだよね。だから、どのくらいのレベルかっていうのはすごく気になってたよ。」

井出「実際どうでした?」

山井「実際はイメージしてたより高かったですね。今回参加された海外の選手の中で、日本のネット麻雀でプレイされている方がかなりいらしたんだよね。」

井出「僕もそれすごく驚きました!」

山井「正直思った以上にしっかりしてたね。今回の大会は手積みでやったんだけど、進行や打牌スピードをかなり心配してたんだ。そっちも全然違和感なくて驚きましたね。」

井出「僕は荒さんや沢崎さんと同卓したんですが、手積みのスピードが半端なく早かったのが一番ビックリしましたけどね(笑)」

山井「そうだね(笑)ベテランは手積みの時代からやってるからね(笑)」

 

Q、最初の試練

井出「トーナメントを勝ち抜いた山井プロですが、ベスト32がかなりきつかったのではないでしょうか?」

山井「基本的には全部きつかったよ。予選のほうは全体4位で通過して、かなり手応えもあったんですよ。そんな中、ベスト32で気持ちが逃げちゃったんだよね。」

井出「逃げたとは?」

山井「勝ちたい欲に負けて、軽い仕掛けをしてしまったんだよね。そこからバランス崩して、次局に鳴いてアガリ牌を流して、外人の選手が切ったその牌が協会の大崎プロの四暗刻単騎に放銃になってしまったんですよ。」

井出「役満ですか!?」

山井「もっと前に自分のアガリもあったし、鳴かなければアガれたし。やっぱり気持ちが逃げに入ったらダメだね・・・そういうのは何度も経験してるのに、ここまできたら勝ちたいって欲が出てきちゃうんだよね。今回、宿泊しているホテルの部屋が森山会長と同部屋だったんですよ。」

井出「そうでしたよね」

山井「ベスト32の前日の夜、眠りにつく前に会長から、『逃げるような軽い仕掛けはしないで、普段どうりやれば大丈夫だ』ってアドバイスをもらってたんですよ。だから余計やってしまったなーって。」

井出「でも逆に、そこで気が引き締まったんじゃないですか?」

山井「そうだね。その1回戦が3着だったんだけど、2着抜けだから1回戦に2着だったともたけさんを抜けば勝ち上がりだから、そんなに気負いみたいのはなかったんだけどね。でも、いきなりともさんに4,000オールをひかれて苦しかった。でも1回戦があってかえって気持ちを切り替えられたのがよかった。」

井出「なんと、四暗刻をアガった大崎プロを交わして、ともたけプロと2人で勝ち上がりになったんですよね。」

山井「奇跡的に勝てたけど、本当に逃げるのはダメだなと改めて感じた試合でしたね。」

 

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Q、世界一へ

井出「そしてトーナメントも勝ち上がり、決勝へと駒を進めるわけですが、とても印象的だったのが試合前の精神統一ともいえるような行動ですね。誰とも会話せずに、飯も食わずに1人でいましたよね?」

山井「あれはね、そうゆう部分(精神統一)もあるんですが、3日間猛暑の中戦ってきて体力がかなり消耗してたんで、とにかく脳と体を休めたかったんですよ。とにかくハードでしたから。森山会長が日本からユンケルを4日分持ってきてたんですが、会長が予選敗退になっちゃったんで、残り2本のユンケルを僕にくれたんですよ。会長も汗だくになりながらも栄養補給してなんとかやってきたくらいキツイのに、僕が残ったんでかなり気を使って頂きました。」

井出「おにぎりたべるか?とか、気を使ってくれてましたよね。」

山井「そうですね。本当に感謝してます。」

井出「さあ、試合の方ですが、結果から言うとトップスタートと、世界一に向けて好発進した訳ですが」

山井「1回戦はね、色々あったんですよね~」

井出「色々?」

山井「スタートは西島さんがよかったんですよ。いきなり満貫スタートでね。」

井出「そうですね。やはりマスターズからの勢いってあるんだなーって思いましたもん。」

山井「そのよかった西島さんが仕掛けていったんですが、その鳴きで僕が跳満をアガるんですよ。そこから親でも連チャンできてかなり好感触だったんだよね。」

井出「先程のトーナメントの話しでも出ましたが、鳴きって局面をガラッと変えるもんなんですね。」

山井「やっぱり、状態が良い時の軽い仕掛けは、相手に付け入るチャンスを与えてしまう事が多いよね。そこをモノにできたので、感触はかなりよかったんですが…」

井出「ですが?」

山井「その親番での連チャン中に、取り出す前に上家の一番左端の牌がポロっとこぼれちゃったんですね。それでサイコロ振ったら対3が出たわけですよ。」

井出「カンドラって事ですね?」

山井「そうなんだよ。すごい重要な部分なんで、審判の方を呼んで裁定をお願いしたら、振り直しになっちゃってね。」

井出「流れ論者にとっては嫌な中断ですね(笑)」

山井「そのやり直しの局に、桐山さんに跳満を引かれまして…」

井出「うわっ!あるあるじゃないですか(笑)」

山井「そこで思ったのがね、この先この出来事を意識しちゃいけないって。たとえ着順が何着になっても、このことを引きずらないようにしようと考え、そう強く心に決めました。更に気持ちの切り替えで、この半荘はリセットで(体勢など)2着でも良しと。かなり警戒して、より謙虚な気持ちに切り替えました。」

井出「それを踏まえると、このトップは内心かなりホッとしたんじゃないですか?」

山井「そうですね。ホッとしましたね。絶対に引きずらないって心に強く決めたのがよかったかな。やっぱりメンタルですからね。」

井出「そして最終戦なんですが、道中苦しい戦いを強いられ、オーラス大接戦になりました。」

山井「決勝戦はそうなりがちだよね。だから頭の中ではシミュレーションがかなりできてたつもりでしたよ。西島さんとの競りで、桐山さんは倍満ツモ、西川さんは親なのでアガリ続けると。」

井出「そんな中、白を鳴いて終わらせに行くのですが、印象的だったのがこの形。」

七万七万九万一筒二筒二筒七筒九筒九筒北北  ポン白白白

井出「観戦していたプロのかなりが七万と答えていた中、山井プロが出した答えが九万切りなんですよね。」

山井「選択としては九万切るか七筒切るかでした。まずは一局勝負なのでポン材を多く残したい。更に、上家の桐山さんが倍満ツモ条件なので、手が入らなかったら親に連チャンしてもらいたい局面なんですね。そうなるとチーはよほどの事がないとできないと判断しました。ならばポン材をより多く持ちたいってね。」

井出「その思考だと、より端を固定して七筒を切りそうなんですが?」

山井「これも上家の桐山さんの条件や立場が加味されてて、七筒切りのロスである八筒はかなり痛いですよね?だけど九万切りのロスの八万は、フリテンに構えても桐山さんから九万を鳴かせてもらえる可能性が高いと。」

井出「あっ、!そうですね!」

山井「それらを踏まえて打九万としました。」

井出「あの大一番で、そんな冷静な判断をよくできましたね。やはり経験ですか?」

山井「普段からアガリ競争のような、一局勝負の練習は決勝用にやってますからね。」

井出「そうなんですか!?」

山井「女流研修なんかで、そういう練習を教えたりしてますからね。」

井出「なるほど!やはり普段から決勝をシミュレートした練習というのは大事ですね。いきなりですべてを把握するのは大変ですもんね。」

山井「まあ、それでも最初七筒に手がかかったのは、冷静ではなかったのかもしれないね(笑)」

井出「その局は、親の西川プロからリーチが入り、山井プロもテンパイ。この局で終わらそうと気合の全面勝負になりましたが、親に放銃すると次局の条件がかなりきつくなるのですが、その辺りはどうだったんですか?」

山井「あの状況は、自分がアガらないと優勝では終わることができない状況なんで、どこかでいかなければいけない。もう仕掛けた時から、この局で終わらせるつもりだったのでいききるつもりでした。最悪放銃になっても次がありますからね(西川の連チャンで)」

井出「結果は、西川プロの4,000オールツモとなりましたが、内心ちょっとホッとしたんじゃないんですか?(笑)」

山井「してないしてない(笑)ここで終わらせたかったのが本音だよ。」

井出「西川プロが粘りに粘り、西川プロももうポイント的には満貫ツモ圏内くらいにはきてて、動きのなかった桐山プロも、倍満ツモから跳満ツモまで条件が緩和されるという大接戦になっていくのですが、配牌を見た瞬間、ほとんどの人が西島さんの優勝を確信したくらい、西島プロと山井プロの配牌には開きがありました。」

山井「最後もね、鳴きに助けられた感覚がありましたね。」

井出「西川プロの仕掛けですね。」

山井「あの仕掛けで急所の八万を引き入れて、手牌がグッと引き締まって動ける形になったので、もしかしたらという思いはありました。」

井出「1フーロして間もなく、すぐにアガリ牌が打たれたわけですが、どういう心境でしたか?」

山井「頼むから頭ハネだけはしないでくれって(笑)それだけ願っていたら、周りの大歓声が聞こえてきて、あぁ、終わったんだなって。」

井出「ものすごい歓声でしたもんね!」

山井「あの瞬間にね、本当に優勝してよかったなって思いました。今回、初めて海外での大会ということもあり、色々不安もあったんですが、この旅を通じて参加した連盟の選手が一つになっていってる感じがして、優勝したのは僕だけど、なんかみんなで掴んだ勝利みたいな感覚はありましたね。」

井出「プレイヤーに専念できてた僕らとは違って、山井プロは素材の写真を撮ったり、全体の連絡係りなどと色々な面で貢献してましたからね。そうゆう所も含めて、みんなの声援に繋がった感じはありました。」

山井「泣いて喜んでくれた方たちもいて、本当に嬉しかった。そうゆう姿を見た時に、今回の大会の不安は消し去り、参加して本当によかったって思いましたね。」

井出「森山会長は、プレッシャーを感じてか、怖くて見れないと外で1人待機してたんです。優勝が決まったって、みんなで報告に行ったんですが、山井さんが勝ちました!って言った瞬間、見たことのないようなガッツポーズをして大はしゃぎでしたからね(笑)あれを見た瞬間、僕もグッとくるものがありましたね。」

山井「同じ部屋っていうのもあったしね。会長が喜んでくださったのも本当に嬉しかったですね。」

井出「はしゃぎすぎて、膝を強打し悶絶してたのは内緒にしておきましょう(笑)」

 

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Q,世界チャンピオンとして

井出「晴れて世界チャンピオンになったわけなんですが、これから世界チャンピオンとしての抱負などをお聞かせください。」

山井「初代の世界チャンピオンという事なので、プロのプレイヤーとしてはこのチャンスを生かしたいですね。それと同時に責任も出てきますから、世界チャンピオンの名に恥じないように、今まで以上に精進していかないととは思ってます。」

井出「確かに山井プロの発言などは、今後かなりの影響力があるでしょうからね。」

山井「もっともっと深い部分で麻雀を追求していかないとね。それに自分の麻雀というものをより多く伝えていけたらと思ってます。」

井出「なかなか普通の人には味わえないプレッシャーが付きまとうとは思いますが?」

山井「それもプロとして幸せな事だと思うよ。そのプレッシャーと良い意味で付き合って、向き合っていけたらと思ってます。」

井出「今日は本当にお忙しい中、ありがとうございました!」

山井「こちらこそありがとうございました。井出君も次のラスベガス頑張って(笑)」

今回のインタビューを終えて、トッププレイヤーの自覚とも言える雰囲気がより強くなったという印象を受けた。山井プロの解説などを聞いていて、正直なかなか理解できない方もいると思っている。それは、なぜか?目に見えない部分だからである。

基礎を終え、勝てる仕組みを理解した後、この目に見えない部分の追求に傾かせるのがプロの必須条件だと思っている。今巷で言われている「デジタル」という言葉の逆とも言える山井プロだが、基礎があったうえで、目に見えない部分を追っているのは誤解がないように記しておきたい。

最近個人的に思うことだが、「この対局で負けたら全てを失います。」という対局があったら皆さんはどうするだろうか?「数字的にはこっちが得だから」という理由で決断できるだろうか。

生き物には決断するという優れた才能が備わってるのに、コンピューターのような数字的根拠だけに身を委ねられるのか?出来るという方もいるかもしれないが、プロとしてそれでは味気ないと自分は思う。

きっと山井プロは、苦しみながら歩んできた道を信じて、自分の直感で悔いなく麻雀プロとして散れるだろう。そう思えるような選択、決断の稽古を日々積んでいるのだと思う。
後輩である僕らに厳しく指導してくださる背景には、そんな思いがあると思えてならない。

山井プロがチャンピオンになって心からよかったと思う。
プレイヤーとして悔しい気持ちもあるが、素直に思うそう思えるのは、
山井プロが伝えていってくれるのはきっと「麻雀」だと信じているからだ。

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