プロ雀士インタビュー

第115回:天空麻雀16女性大会優勝特別インタビュー 和久津 晶 インタビュアー:小車 祥

某日、私のもとへメールが届いた。
いろんな人のインタビューレポートを読んでいる人なら知っているだろうが、インタビューのオファーはほとんどの場合メールで来る。

「天空麻雀16の女性大会で和久津さんが優勝されました。
今回、そのインタビュアーを小車君にお願いしたいのですがいかがでしょうか?」

もちろん断る理由はないので快諾。
和久津さんに日程確認の連絡を取り、B2リーグの対局後に時間を取ろうということに決定。
ちょうど私と和久津プロは同じB2リーグで戦う選手であり、偶然にもその日は同卓だった。
自分にないものをたくさん持っている和久津プロに対して、私自身、強い興味を以前から持っていた。
インタビューの前に実際に牌を交え、その強さを目の当たりにし、和久津晶という選手に対する興味がさらに倍増したことはとても良かったように思う。

対局を終え、会場近くのお寿司屋さんへ。
落ち着く間もないまま、インタビューを始めることに。

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小車 「対局お疲れ様でした!そして天空麻雀、優勝おめでとうございます!」

和久津「ありがとう!小車君もおつかれさまー!」

小車 「いやあ、僕なんかがインタビュアーですみません」

和久津「そんなことないよ!インタビュアーってのは今注目の人がやるんだからね!よかったね!」

そういうことで選ばれたのではないとは思うが、こういう言葉の1つ1つに優しさが詰まっているのはさすがだなと思う。

小車 「早速ですが、天空麻雀決勝の話をしていきましょう!」

和久津「いいよー。なんでも聞いて」

小車 「決勝、全部見させてもらいました。まず思ったのが、スタイルを崩さないのがすごいなあと。東場で和久津さんが1人でアガり続けて70,300点持ち。2着の亜樹さんと5万点近く離れるんですけど、それでも安全牌を残したりせずに字牌と端牌から切り出して、自分のアガリを最優先に打つスタイル。“超攻撃アマゾネス”は伊達じゃないなと何度も思わされました」

和久津「うーん、でもやりすぎ感はあったけどね(笑)」

小車 「え、そうなんですか?(笑)」

和久津「東1局の五索暗カンなんかやりすぎだよね!だって形悪いんだもん!それだけ気負ってたのかな?」

東1局 

赤五万七万五索赤五索五索五索一筒二筒三筒三筒四筒六筒八筒  ツモ一筒  ドラ三筒

この手牌から五索を暗カン。
その後、和久津プロは以下の手牌になり、七対子ドラ4のテンパイだった和泉から出アガリ。

赤五万七万一筒一筒二筒三筒四筒五筒六筒七筒  暗カン牌の背赤五索 上向き五索 上向き牌の背  リーチ  ロン六万 

小車 「和久津さんでもやりすぎって思うこととかあるんですか?」

和久津「あたしがやることはいつも大体やりすぎなんだよ。例えば今日だってさ……」

インタビューした日のリーグ戦の対局内容の会話になる。
インタビューには関係ないので割愛するが、あのリーチやりすぎだよねとかそういう話。
和久津プロのやりすぎだという自分の闘牌には、掘り下げていくときちんと選択に見合う理由が用意されていて、確かに見方によってはやりすぎなのかもしれないけど、これだけ理由が揃っていればアリだよねというような結論に達するものばかりだった。

小車 「話を戻して……天空麻雀の決勝で、勝ちを確信したのはどこだったんですか?」

和久津「実はあたしの中でターニングポイントは東2局なんだよ」

小車 「随分早いですね」

和久津「ドラドラ七対子の1シャンテンをメンツ手に戻したんだけどさ、あれアガった時、今日はこのままいこうって思ったんだよね」

東2局 

赤五万六万一索一索二索二索八索八索四筒五筒五筒八筒八筒  ツモ一索  ドラ八索

ここから和久津プロは打八筒とし、以下の最終形でリーチ。

赤五万六万七万一索一索一索八索八索四筒五筒七筒八筒九筒  リーチ

三筒をツモ。2,000・4,000のアガリとなる。

小車 「1シャンテンを2シャンテンに戻したやつですね」

和久津「こういう手でメンツ手に移行した瞬間に、七対子ならすぐにテンパイだったツモをしちゃう時とかあるじゃない?」

小車 「あー、ありますあります」

和久津「そうなると、やってることがズレてるなーとか思っちゃうんだけど、この時は違ったの。自分の構想通りにツモが来て、あっという間にメンツ手でテンパイしてアガれちゃったからね」

小車 「それで、今日はこのままいける!と思えたわけですね」

東3局 

和久津プロは5巡目テンパイ。

四万五万六万五索六索三筒四筒赤五筒六筒七筒八筒西西  リーチ  ドラ西

宮内プロがリーチに対して仕掛け返し無スジを連打。宮内プロの手牌は大三元1シャンテンまで伸びるも、そこで和久津プロが七索をツモり6,000オールが炸裂。

小車 「東3局はヤミテンという選択肢はありましたか?」

和久津「あれね、ヤミテンでもよかったよね」

小車 「リーチと踏み切った理由は?」

和久津「それまでの感触が良かったのと、今までの負けのせいかな」

小車 「今までの負け?」

和久津「近いのではマスターズの決勝だけど、他にもプロクイーンとか女流桜花とかさ、いつもいいところで勝ち切れないんだよね。みんなはあたしの後半の守備の甘さを指摘したりするんだけど、牌譜や動画を全部見返してみると、気付いたことがあるの」

小車 「ほほう、なんでしょう?」

和久津「あたしね、序盤の方が手が入ってる。序盤に攻め切れてないんじゃないかなって思うようになったの」

小車 「なるほど。取れるところで取り切ってないから、後半で苦労してるってことですか?」

和久津「そうそう。自分のいい時間っていつ来るかわからないでしょ。だから点数持ってるから無理する必要もないと思うようなところでも、攻めの姿勢を忘れないように意識を変えたんだよね。逆に今までは、そこで下手に守っちゃったから、負けてきたんじゃないかなって。もちろん守備の甘さもあるんだけど、短所を補うことよりも長所を伸ばした方がいいって思ってる。短所を補うことも大事だけど、長所がすごい勝ってれば色々カバーできちゃうじゃん。ほら、ぽっちゃりした子でも、すげーおっぱいがおっきかったらさ、なんとかなっちゃうじゃん!!」

小車 「ちょっ!なんとかなっちゃうって……(笑)」

和久津「まあ例えはアレだけど(笑)。結局さ、麻雀って突き詰めたら守備が一番難しいわけじゃん。守備を語れるほど、あたしはまだ麻雀を積んでないわけですよ。だったら、今は攻撃でまかなっちゃえばいいかなって。それでいけるところまでいってみて、どうにもならなくなった時に、歳とって『あー昔こういうの放銃したよな』とか、そういう引き出しが増えてればいいかなって思う」

小車 「なるほどー!ただ単純に“超攻撃”というスタイルを守ってるというわけではなく、色々な試行錯誤がある上でのスタイルだったわけですね」

和久津晶という人間は、とても繊細な人間だと私は思っている。
それを本人に伝えると「あたしはガサツで有名なんだけどね」なんて茶化して見せるのだが、それすら相手への気遣いと謙遜からの言葉だとわかる。

和久津プロと言えば“超攻撃”という言葉がすぐに浮かぶ。
これは和久津プロの麻雀を知っている者からすれば共通項であろう。
しかしその“超攻撃”を作り上げている土台は、とても繊細で少しの情報も見落とさない洞察力と、今まで辛酸を舐めさせられた経験の悔しさから成り立っている。

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小車 「今後の目標はありますか?」

和久津「天空麻雀の決勝でできたことを、タイトル戦の決勝でやってみたい」

小車 「近いところではプロクイーンと女流桜花ですかね。それから王位戦」

和久津「そうだね。一番チャンスが大きいのはプロクイーンかな。だけど全部のタイトル戦で決勝を目指すよ。そしてそこで新しい和久津の麻雀を思いっきりやりたい」

小車 「それを見たい人もたくさんいると思います。頑張ってください」

対局の内容も聞けたし、今後の目標も聞けた。
あとは聞いたことをまとめればなんとか形になりそうだ。
私がそんなことを考えていた頃、インタビューとは関係ないところで話した和久津プロの言葉が印象的だったので、それを最後に書かせてもらおうと思う。

和久津「人はね、傷ついた分だけ優しくなれるんだよ。優しくなれて強くなれる。毎回毎回必死で戦って、負けて悔しくて後悔して反省して、今度こそはってまた挑戦したのにまた負けて……。何度も傷ついて、そうやって強くなっていくんだよ。だからね、ちゃんと負けを噛み締めてる私達は強い」

これを聞いた時、和久津プロの強さの根源のようなものを垣間見た気がした。
そしてセリフの端々に見せる些細な優しさや、無作為に心の隙を突くような一見馴れ馴れしいけど悪い気がしない言葉も、痛みを知っている人間だからこそ生み出せる配慮のある言葉なのだった。

この文章を読んでくれた人。
決勝の舞台などで戦う和久津プロを見ることがあったら、少しだけでいいので思い出して欲しい。
その強さは、それ以上に大きな傷や痛みを抱えた証なのだということを。

“超攻撃アマゾネス”和久津晶。
前線で戦うことの痛みも恐怖も知る彼女は、とても強い。

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