プロ雀士インタビュー

第124回:プロ雀士インタビュー 荒 正義 インタビュアー:吉野 敦志

2月11日、第27期チャンピオンズリーグ決勝を迎えた私は、勝てば初タイトル。
そして、その後に控えるグランプリMAXの出場権が与えられる。
勝てば初のグランプリ出場。負けたらそのグランプリのレポートが待っていた。

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結果は無残にも敗れ、勝って“選手”として出場したかったグランプリMAXが、レポーターとして登場することになってしまったのだ。

「グランプリMAX」

実力、実績、そして、その年度にもっとも活躍した選手だけが、出場することが許されるタイトル戦。
これは若手だけではなく、すべての連盟員が出場したいと願うタイトル戦なのだ!
そんな自分も、勝っていれば…と繰り返し思ったのだった。
弱いからそうなったのは百も承知だが、やっぱり自己嫌悪に陥る。
ただ、若い自分が言うのも説得力に欠けるが、それだけ出たいし、重みのあるタイトル戦である。

そんなグランプリMAXも、猛者達が次々と敗れてくなか、頂点に立ったのは「荒正義」。

リアルタイムで決勝戦を見終えた私の荒正義の感想は…
「素晴らしかった」の一言に尽きる。

自分も強くなって、荒さんと同じ土俵で戦いたい。この思いが来期の、ボクのモチベーションとなるだろう。

その翌日、編集部から一通のメールが。
麻雀のお誘いかな、と思い見てみると。

「グランプリの優勝インタビューを、荒さんが吉野君を指名←(皆さんここが大事です)したのでお願いします。」

はい。それはもう決勝戦ニコニコ生放送で見ていただけに、気分もニコニコですよ(笑)。
快諾です。自分の敗戦なんか、もう忘れましたね。

でも何故、吉野なんかが?…皆さんそう思われますよね?
正直なところ、ボクもビックリしていてわかりません(汗)。
しかし今思えば、滝沢さんと一緒に麻雀してもらったりしている内に、何度か荒さんに食事を誘って頂くようになり、そこからお話する機会が増えたように思います。

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荒さんに酒の肴の「くさや」を勧められ、食べた後いい顔している自分(笑)。

撮影:滝沢和典

それからは勉強会での直接指導。グランプリのレポートの推薦と、荒さんには何かとお世話になっている。
インタビューは連盟の総本山、夏目坂スタジオで行われた。

 

―――夏目坂スタジオにて――――

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吉野「荒さん、おはようございます!インタビューは初めてなのですが、よろしくお願いします。」

荒 「おはよう。じゃあ、こっちの控え室のほうでやろうか?ボイスレコーダーさえちゃんとしていれば大丈夫だから。」
(この後は、荒さんのおかげでテンポ良く進んでいく。)

吉野「早速なのですが、今回のグランプリ、荒さんは、2次予選、ベスト16、ベスト8と、全て1位通過だったのですが、何か好調の理由はありました?」

荒 「やっぱり一番は、調整で打ち込んだことかな。」

吉野「荒さんの調整は、麻雀を打ち込むということですね?」

荒 「そう。昔と違って麻雀の打チャン数が減ったからね。勝負の感性を磨くためにも調整は大事。今回はチームガラクタのメンバーと麻雀を打ったよ。」

吉野「前原さんやヒサトさん達とですね?それは相当手強いメンバーですね。」

荒 「調整セットは強い面子で打つことが大事、流れも、出てくる牌も違うからね。」

荒さんほどの打ち手でも、日々の鍛練を怠らずやっている。
当たり前のことではあるが、自分もそれ以上に努力しなければならないと思った。

吉野「では、対局についてなんですけど。」

「マークは、あくまでも“瀬戸熊直樹“」

吉野「と言うことなのですが、やはりあの“クマクマタイム”だけは避けたい。と言うことでしょうか?」

荒 「もちろん、藤崎が点棒を持つ展開も苦しいけど、瀬戸ちゃんの流れになると厄介だからね」

それを象徴するかのような局がこちら。

 

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吉野「走らせたくない瀬戸熊さんが親で、ここから白を切ったのですが」

荒 「あーこれはね、僕の手じゃ瀬戸ちゃんの親を落とせないと思ったから、仕掛けた藤崎に落としてもらおうと思って切ったんだよ。」

一見、荒の手なら、他家に放銃しないように進めていくだけかと思う。
(優勝するための努力は何でもする!)
と言わんばかりに、白を打ち出し、藤崎に援護射撃したのだ。これには解説の滝沢さんもヒサトさんも驚いていた。

結果、その局のテーマでもある親落としならぬ、熊落としに成功する。

 

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そして、荒さんご自身が、勝因の一局ではないかと挙げた局である。
瀬戸熊が初日を+35Pで首位につけ、迎えた2日目の5回戦。瀬戸熊の親番。

 

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吉野「またしても瀬戸熊さんから早いリーチがきて、七巡目の五筒を仕掛けたんですが、僕はとても怖くて仕掛けられない。ですがこの時、荒さんの心理状態は、どうだったんですか?」

荒 「瀬戸熊さんの視線、打牌の音色から勝負手の匂いがした。この局をアガられたら負ける、そう感じた。だから勝負です。リーチの一発目(連盟Aルールに一発という役は無いが)に初物のダブ東を切って勝負したのがそれ」

吉野「あっ、ほんとですね。ボクにはマネができない・・・。(汗)」

 

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吉野「うわー。この仕掛けで、瀬戸熊さんのアタリ牌である四索を食い流したんですね。」

荒 「持ってきた瞬間、食い下げた予感がした。まさかタンキ待ちとは思わなかったけど、両面マチの四索七索くらいで。でもこの手になったら、この後七索が来ても勝負のつもりだった。」

吉野「そして7,700直撃と。これはお見事ですね。このアガリ中々できる人いないと思います。」

荒 「これは出来すぎだけど戦う姿勢があったこと間違いなく、それが勝因の1つと言えるだろうね。」

そして、最後にどうしても触れておかなければならない局があります。

 

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吉野「例の大三元です。」

荒 「白発中全部トイツから、1枚目の白をスルーしてアガッた局ね。これは昔からある大三元狙いの定石のようなもの。1つ目から鳴くと、相手の絞りがきついから2つ目は鳴けなくなる。だからスルーして、その間に三元牌の1つを暗刻にする。そしてそれから仕掛けた方が、役満の可能性がより高くなるというものです。」

吉野「それを平然とできるのも凄いです。後、少し気になったことがあったのですが、大三元テンパイした瞬間は荒さんって、緊張とかしないのですか?」

荒 「それがね、普段は緊張とかしないけどこの瞬間、30年ぶりに胸が高鳴った。珍しいなと思いながら相手の顔を見ながら打っていた。音が聞こえていないか心配で…でも大丈夫そうだった!」

吉野「(笑)!!!!!」

この半荘、見事大三元をアガリ、トータルポイントでも首位にたった荒は、一時は瀬戸熊に迫られるも、このまま逃げ切り、見事旧グランプリから通算3回目。グランプリMAXでは初の優勝となった。
そして、少し談笑していると、インタビューの控え室に、当日A1リーグで対局する忍者藤崎が!!!

 

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吉野「あっ藤崎さんすいません。もうすぐグランプリのインタビューが終わるので。」

忍者「えっ、グランプリ?俺が振り込んだ大三元のインタビューか?(笑)」

吉野「そうではありません(笑)」

藤崎さん!急に何というギャグ(手裏剣)を投げてくるんだ!こっちはずっと下の後輩で、さらに大先輩の荒さんを前にして初めてのインタビューで緊張しているのだから、そのギャグもちゃんと拾えませんよ(泣)
無事に?忍者の手裏剣が心の隙間に刺さった所で、荒さんの、可愛らしい子供達を紹介していただきましょう!

 

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白い犬は、ピレネーの雌のエマで8才。茶猫は雄のリュウで4才。

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雄のバターです。11才。

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リーチです。雄・9か月。

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雌のタイラは最年長の18歳。

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(一匹だけいる、どうしようもない狂犬。)

 

吉野「最後に、これを読んだ連盟の若手が参考になるような意見をきかせてください」

荒 「これからの麻雀は、映像の発達から結果を出す(勝つ)だけでなく、魅せる麻雀が求められる。魅せるとは、視聴者に感動を与えることです。感動は、磨かれた「技」と戦いの「姿勢」から生まれるもの。だとしたなら、日々の鍛練の照準はここに合わせるべきでしょう。魅せる麻雀が打てたら、結果(勝ち)は後からついてくるものです。」

現在、荒さんなどを筆頭に、30代、40代、50代、60代と、連盟にいる先輩方は“強い”。それなら果たして、今の20代はどうなのか?
今は他団体との対局でも活躍する先輩達がいるが、僕ら20代が10年後、20年後に他団体との対局で負けるのではないかと、正直不安の声でいっぱいだ。

そして、そんな若手を育成するため、先輩方自らが企画し、2、3年前に初めて若手勉強会が開かれた。
当時は森山会長も来て下さり、僕ら若手に叱咤激励をした後、若手達に質問をするよう投げかけた・・・。
当然、会長のお言葉の後に、ほとんどが手を挙げて質問する人はいなかったが、3人ほど手を挙げていた。
その内の1人が自分だった…。

「他団体には負けません、ぼくたちがんばります!(棒読み)」

何よりも悔しさから言ったのであるが、今思うと、恥ずかしいが良き思い出だ。
ただ、口先だけで言うのは誰でもできる。ボクら若者は、森山会長や荒さん達“レジェンド”を圧倒するぐらいの麻雀の「強さ」と「技」を身につけねばならない。

近年、麻雀の映像が増えてきた今が勝負である。我々の世代も視聴者に感動を与え、表現できることがいっぱいあるだろう。
自分が偉そうなことは言えないが、我々若手が意識改革することでプロ連盟、いや麻雀界の発展に大きく寄与できるはずである。
荒さん、何度目の優勝か数えきれないと思いますが、本当におめでとうございました。

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