プロ雀士インタビュー

第131回:第28期チャンピオンズリーグ優勝特別インタビュー:西島 一彦 インタビュアー:西川 淳

第28期チャンピオンズリーグ優勝特別インタビュー:西島一彦 インタビュアー:西川淳

ひとつの詩がある。

「青春」

原作 サミエル・ウルマン
邦訳 岡田 義夫

青春とは人生の或る期間を言うのではなく、心の様相をいうのだ。
優れた創造力、逞しき意志、炎ゆる情熱、
怯懦(きょうだ)を却(しりぞ)ける勇猛心、安易を振り捨てる冒険心、
こういう様相を青春と言うのだ。
(後略)

経営の神様と言われ、多くの日本人が尊敬する松下幸之助が愛したというこの詩は、まだ続きがあるので、興味をもたれたかたは、ぜひ調べて読んでいただきたい。
今回のインタビューの最中、幾度もこの詩のフレーズが脳裏に浮かんできたのだ。

先日、第28期チャンピオンズリーグを見事に制した西島 一彦プロのインタビューを私、西川 淳が務めさせていただきます。
西島プロの人物像、魅力を少しでも伝えられたらな、と願っています。
どうぞよろしくお願いします。

西川「西島さーん、こんばんは!すみません!遅れまして。」

西島「おー西川さん!よく来てくれたね。ちょうど友達と話していたからよかったよ。」

とある平日の夜にインタビューのために西島プロ御用達の小洒落たお店に着くと、カウンターでわたしの知らない人たちとワイン片手ににこやかに談笑している西島さんがいた。
西島プロの周りはいつもそうだ。
西島プロと楽しそうにしている人々がいる。
年齢、性別、国籍、立場に関係なく、初めて会った人でもすぐに仲良くなり、輪の中に溶け込む。

西川「今回は帰国早々すみません、まだ時差ボケだと聞きましたが、よろしくお願いします。どうでしたか?クロアチアは。」

西島「いやー素晴らしかったよ。ほら、これが写真なんだけどね、アドリア海の青さ!これはこの写真じゃ伝わらないなー。ホントにすごいんだ!」

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アドリア海をバックに(2015年10月クロアチアのドゥブロヴニクにて

先日の優勝後、奥様と長期の海外旅行を楽しんできたそうだ。
本当にタフな人だ。そして良い意味で忙しい。
今年で69歳。長年勤めた商社をリタイアして現在は悠々自適の生活なのだが、いつも何か予定が入っている。チャンピオンズリーグ決勝の当日も、夜まで対局の激闘のあと、その足でふたつも祝勝会に呼ばれていた。しかも翌日の早朝に、奥様を、奥様の趣味の場である郊外の工房へ車で送り、そのまま、母校である早稲田大学のOB会の麻雀大会に参加。しっかりと準優勝していた。大会後には「都の西北」を熱唱する人々に囲まれ遅くまで懇親会…
それなのに、顔には一切の疲れがない。いつもの笑顔で朗らかに話す。

西川「まずはチャンピオンズリーグ優勝おめでとうございます!」

西島「いやーありがとう。本当にラッキーだったね。」

西川「山井 弘プロが教えてくれましたが、これで第1回リーチ麻雀世界選手権の決勝メンバーが全員チャンピオンズリーグを制したことになりますね。」

西島「すごいことだよね。あの時(世界選手権決勝)も西川さんと同卓だったものね、縁があるね。」

西川 「マスターズを獲った去年のインタビューでは、『最初で最後のタイトル』のような発言をされていましたが、それからわずか1年の間に世界選手権準優勝、そしてこのチャンピオンズリーグ戴冠、ですか!」

西島「いやいやいや、本当にびっくりしているよ。」

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第1回リーチ麻雀世界選手権表彰式(左から3位西川 淳 優勝山井 弘 準優勝西島 一彦)

私は西島プロとは千葉のプロアマ混合での勉強会で頻繁に対局させていただいているが、プロリーグやタイトル戦でも同卓することがとても多い。
いや、というよりは、西島プロの顔が広いのだろう。
今回の決勝メンバーのひとり、石立岳大プロもその勉強会でいつも一緒。
西島プロに「縁を感じる」人が多いのだ。そして誰もが西島プロの人柄と強さ、活躍をよく理解している。

西川「早速ですが、牌譜をみながら何点か…1回戦から、西島さん『らしさ』が凝縮されていますね!例えば、コレ。」

1回戦東4局

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西川「まずはここですが…このテンパイから平野良栄プロの切った発を大明カンをして嶺上開花でツモ!6400点のアガリをモノにしましたが…」

西島「あーこれね!これはねえ。平野さんが直前に戦った新人王決勝の観戦記で、大明カンをしていれば平野さんの違う形のアガリがあったかも、という話があってね。おーそうか、そういうことをやってみるのも面白いな、と思ったところだったんだよ。」

西川「え?だとしたらその記事がなければ大明カンはやってなかった?」

西島「やらなかっただろうねえ。」

西川「こういう大明カンを今までやったことは?」

西島「1回も無いねえ(笑)。」

その記事の当事者だった平野プロから発が出て大明カンでアガる、というから数奇なものだ。普段あまり見かけないシーン。小場から初めて大きく動いた局面に対局者も面食らったことだろう。

西川「いや、しかしこの大一番で思い切ったことをしましたね。1回もやったことがないことをカメラが入っている状況でするって、不安とかなかったのですか?」

西島「そんなことはないよ。ちょっとやってやろう!ってね。」

西川「それにしても観戦記を読んだことが、こういうことに繋がるとは面白いですね。事前に対戦相手の研究をするとは勉強熱心ですね」

西島「そんな大げさなものではなくてね。平野さんとは対戦したことがなかったから、どういう人なのかなーって気になって読んでみたんだ。」

西川「じゃあ、勉強という感じではなく?」

西島「そう。相手のことを知ったほうが楽しいじゃない!」

西川「じゃあ、観戦記を読むのも労力、ではない?」

西島「全く!全く苦じゃないね。楽しいことなんだよ。」

対戦した平野プロから直接いただいたコメント。
「誰よりものびのびと麻雀を楽しんでいたな、というのが素直な感想です。」
(中略)
「終盤に近づくほど、疲れを見せない西島さんと、私との差は(ポイントだけでなく)広がっていたような気がします。」

なるほど…
西島プロと対戦すると、わたしも同じように感じる。エネルギーがハンパないのだ。

西島プロは、今回の対局前に、対戦相手のことを「(緊張で)硬くなっている」と感じたそうだ。
そこで「今日は(敬老の)シルバーウィークなのだから、いたわってよ?」と笑いをとって和ませたそうだ。

「だって、みんなリラックスして力を出し切ったほうが良い決勝戦ができるじゃない?」と屈託なく続ける。
この大明カンは事前の研究だけでなく、楽しむ気持ちと柔らかく構えた心があったからこそ実現できたことではないか。
それは、決勝の舞台で、なかなかできることではないはずなのだ。

西川「それにしても西島プロの麻雀は『若い』ですよね。みんなが口を揃えていますよ。」

西島「そうかなあ?普通だと思うけどなあ。」

西川「ほとんど役牌は1枚目から鳴いていたし、後づけも辞さず、リーチも躊躇せず、とか。なんといえばいいのかな、常に機先を制し、瞬発力、躍動感を感じました。」

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西川「発を躊躇なくポンした後、この局面でも対面から出た二万をポン、結果カン三索をアガってこの回のトップに近づきました。偏見かもしれないけど、年代から想像する麻雀スタイルに見えないんですよね…ポジティブ、リスクを恐れない…若い麻雀!」

西島「そうだね、この日は役牌が重なって、すぐに出るというリズムの良さもあったね。」

西川「石立プロは、よく鳴いて場を動かしていくタイプの打ち手なのですが、西島さんが先に鳴くからその後何も出てこなくなって、鳴けなかったんだよ、と嘆いていましたよ(笑)。」

西島「普段はもうちょっと違う面もあるんだけどね。短期決戦だから『積極的に』という部分もあったかな。」

西島プロと石立プロは親子のように歳が離れているが、とても仲が良い。
以前、プロリーグでなかなか昇級できていない石立プロが「自分は成長していないんじゃないか?」と悩みを打ち明けたときに「そんなことはないよ。周りもどんどん成長しているんだから、強くなっていなかったら降級しているよ。降級しないだけでも強くなっている証なんだ。」と話したそうだ。
石立プロが「西島さんは強くなっているんですか?」と水を向けると、西島プロは「もちろんだよ、石立さん!プロ連盟に入って、いっぱい勉強する機会があって、強い人と打っているのだから、どんどん強くなっていると思うよ。そしてそれはこれからもだよ!」と笑顔で即答したそうだ。
石立プロは、自分の倍くらいも年齢が上の西島プロが、その歳にしてなお、自分の可能性を信じ、向上心と好奇心をもち、成長していると溌剌と語る様子に感じ入り「用意したような答えじゃなかったから、実感なんだろうな…」としみじみとその様子を私に伝えてくれた。

冒頭の詩の続きである。

年は七十であろうと十六であろうと、その胸中に抱き得るものは何か。
いわく
「驚異への愛慕心」、「空にきらめく星辰(せいしん)」、「その輝きにも似たる事物や思想に対する欽仰(きんぎょう)」、「事に処する剛毅な挑戦」、「小児の如く求めてやまぬ探求心、人生への歓喜と興味」。

嗚呼、西島さんのことだ(笑)

インタビューも半ば、そのころには、仕事を終えた仲間たちが、平日の夜にも関わらず、続々と西島プロのお祝いにと駆けつけていた。

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決勝戦の当日も、勉強会の後に仲間と一緒に日本プロ麻雀連盟チャンネルで決勝戦を生放送で視聴。

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パブリックビューイングの様子

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3回戦のオーラスのこと。
2着目の平野プロから先行リーチが入る。
そこでトップ目の西島プロの手。
観戦者みんなが「行け~!」と声にする。
(まあ、先行する平野プロの待ちがわかっていて放銃はないから言えることかもしれないが)
ドラの八筒を横にして追っかけリーチを敢行する西島プロ。
振り込んだらまずトップから落ちる打牌。安全牌も十分あり、オリて浮きを確定させる打ち手も多いだろう。

西川「怖くないのですか?」

西島「うん、でもあそこは勝負どころ。行くのが自分のスタイルだからね!」

西川「(若い!)なかなかできることじゃない。でも…その通りかもしれない…。」

怯懦を却ける勇猛心、安易を振り捨てる冒険心か…

ビッグゲームを制する局面が、勇気と覚悟から生み出されることを幾度も見てきた。
結果は、平野プロの一気通貫に放銃して2着に落ちるのだが、しっかりと場を確認して点数の授受を行う様子が「納得感」に満ちていて、この瞬間「ああ、この人が優勝するような気がする」と感じたものだ。

下の写真はそのときの「考える西島さん」の図
マスターズを制した時も、世界選手権でも何回も目にした。

西川「あの表情、西島さんのポーズ(笑)。観戦していたみんなで真似して盛り上がっていたんですよ!将棋の棋士みたいでカッコイイですね。」

西島「ああ、顔に手をあてるやつね。深く集中したときや、考えを整理したり気持ちを切り替えるときにああなるみたいだね。」

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3回戦オーラスの攻防。真剣な表情で河を見つめる西島プロ

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最終戦を前に集中する西島ポーズ

この後、Aリーガーの柴田弘幸プロが追い上げ、最後まで油断のできない苦しい対局が続いたが、深い洞察力と卓越した集中力と共に、息があがることなく見事にトップでゴールを切る。普段から自彊術(健康体操の一種)で鍛えている体力も、物を言った。

時計の針は実に20:00を指していた。その瞬間は、観戦していたみんなから大きな拍手が自然とわきおこった。

祝勝会は、盛り上がって話は尽きない。

共に戦った石立プロは西島プロと馴れ馴れしく肩なんかを組んで、失礼なんじゃないかと見ていてヒヤヒヤする(笑)。歳がこんなにも離れていても、かくも親しみをもって接される人は世の中にそうはいないだろう。心を許しあう旧友のように本当に楽しそうだ。

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西島プロは、プロとかアマとか年齢とか性別に関係なく誰に対しても、相手の名前を丁寧に呼び、誠実に向き合う。それでいて、いつも底抜けに明るく笑顔が絶えない。

西川「そういえば、西島プロが対戦中、イライラしたり怒ったりしているのを見たことがないですね。」

西島「そうだね。麻雀はね、怒ると負けなんだよ。笑っているといいことがおこるんだよ。」

西川「わかってはいるんですけどね。簡単にできることじゃないですよね。」

西島「勤め時代に、サンフランシスコに長く住んでいたことも関係しているかな。向こうの人たちはね、何といっても明るいんだよ。とにかく明るい!空が青いからなのかもしれないね(笑)。」

西川「なるほど(空の青さか)。サンフランシスコといえば、次の世界大会はアメリカで開催の予定(2年後)とのことですね。西島さんは行きますか?」

西島「(即答)もちろん、行きます!(断言)」

西川「じゃあ、今後の目標は?」

西島「明日まで生きること、かな。元気に生きること。」

西川「……。」

「なんか、この方にはどうやっても敵わないな。」とこの刹那、感じてしまった。
わたしも結構良い歳になったとはいえ、まだまだ頑張らないといけないはずだが、西島プロのほうが『いま』を全力で生きて、瑞々しく光り輝いてみえる。

人生への歓喜と興味。

すでに世界で70ヵ国以上の地を踏み、100ヵ国の訪問を目指す西島プロ。
数多の試練や栄華と向き合ってきて、多くの文化や価値観と触れてきた西島プロが、「間違いなく世界で最も面白いゲーム」と賞賛する麻雀。
このような青空のごとき明るさで照らされる麻雀はさらに素晴らしい。

これからも続く西島プロの更なる活躍を、皆さんにもぜひ観ていただきたい。
1人の西島プロのファンとして敬愛の念と共に思う。
西島一彦プロ、青春まっただ中である。