プロ雀士インタビュー

第145回:プロ雀士インタビュー 近藤 久春  インタビュアー:吾妻 さおり

日本プロ麻雀連盟A1リーグ。
連盟員が全員目指す場所である。
300人以上が参加するプロリーグの頂点。
今回のインタビューでは、そこに君臨する12名が1人、近藤久春プロに迫ってみる。

麻雀が楽しくて大好きになったのがきっかけ。仲間内で勝ち続け、麻雀店に勤務。プロ入りし、自分の無力さを思い知りながらも麻雀に向き合い、ひたすら階段を駆け上がって来た。
麻雀プロの典型とも言える軌跡。数百人の代表とも言える近藤の麻雀観をきいてみた。

 

プロフィール

100

近藤 久春(こんどう ひさはる)
日本プロ麻雀連盟 17期生
1964年5月9日生まれ (52歳)
A型 牡牛座

 

吾妻「麻雀を始めたきっかけをお聞かせくださいますか?」

近藤「中学までは野球をしていたのだけど、足の骨を折ってしまってね。中3の時に先輩の家に遊びに行ったらみんなが麻雀をしていてね。トランプのセブンブリッジに似ているよとメンツの並べ方だけ教わって、そのまま飛び入り参加(笑)その日は役もろくにわからず、トイトイと七対子だけ作っていて。それでも凄く楽しかったんだよね。途中で八万九万一万がメンツにならないのはわかったけど、ソウズの一索は最後まで来なかった。」

吾妻「鳥の図柄の一索は何の牌だと思ったんですか?(笑)」

近藤「え?字牌みたいなものかと(笑)でも一索を覚えてからは無双だった。負けた記憶はほとんどないよ。で、ELF(エルフ)という麻雀店で働き出した。」

吾妻「近藤プロは麻雀店を経営されているのですよね。」

近藤「僕は2代目オーナーなんだよ。26歳で入って、30歳で店長になって。4~5年前に先代から【もうそろそろいいよな。お前が仕切ってくれ】って(笑)」

吾妻「先代さんも信頼出来る後継者を見つけて安心でしょうね♪連盟に入ったのは35歳ですから、店長時代にプロテストを受けたのですね。」

近藤「先代から【うちの店にもプロが必要だ】っていうから、とりあえずテストを受けたんだ」

吾妻「お店のために受験を?」

近藤「うん、でも何も勉強しなかったから当然落ちた。で、どうしたら受かるのかって色々調べて、当時連盟の四ツ谷道場で開催していたサタデーオープンという大会に出たんだよ。そこで優勝出来て。」

吾妻「ワンデー大会で優勝しちゃうなんて、さすがですね!!」

近藤「実力はわかったから、試験勉強をしてからまた受験してくださいって言われたよ(笑)」

吾妻「その頃から今のような麻雀スタイルだったのですか?」

近藤「今は受けが主体だなぁ。」

吾妻「ということは、昔は違った?」

近藤「元々は攻撃型だったけど、年を重ねて行くと、雀力も上がれば怖さも出てくる」

吾妻「怖さ、とは?」

近藤「無駄に放銃するのをイヤがる部分が出て来たね。30代の頃が一番カンが冴えていた。本来、数字より感性を重視したいと思っているけどね。昔の自分の方が今より強いかも知れないね。」

吾妻「強かったご自身に戻りたいとか、今よりももっと感性を重視したいとは思わないのですか?」

近藤「それはないかな。剣は弱くなったとしても、それ以上に盾が強くなっていると思うから。剣を振り抜いて戦う麻雀は、強いけど敗けた時はとても疲れるよ。人生と麻雀は同じだと思うんだよね。若い時は成功してやろうという野心が強くて頑張るけど、今は失敗を恐れて安全安定を求める。本当は年をとっても野心があった方がいいのかも知れないけど。」

Cリーグは数十人の中で昇級枠にくい込むには、好調時にポイントを叩く必要がある。しかし残留枠も多いので、残留目的に切り替えるのは比較的容易だ。
Bリーグからは16名になり、1節の重みがぐんと上がり昇級と降級は紙一重になる。大叩きに失敗すればその日に降級枠に入ってしまう。
Aに上がると半年から1年のリーグになる。より長期的なスパンで対局を考えるようになるだろう。

近藤の麻雀の変化は、このシステムでは自然だと思う。

麻雀で【強い】と【上手い】は相容れないとして語られる事が多い。
【強い】は時に無謀さが必要であったり、脆さがつきものであったり、丁寧さとの両立が難しい。
【上手い】は時に強さの前に無抵抗になってしまったり、ポイントを叩くべき時に加点不足になる恐れがある。
無論、麻雀プロなら皆【強くて上手い】を目指し続けるのであるが、段階を踏まずに無理をすれば【弱くて下手】になりかねない。
まずは自分に合う片方を磨いて行き、クオリティを保ちながらもう一方を補う訓練をする。
試行錯誤の結果、近藤の場合は丁寧に積み上げる打ち方が性に合っていたのだろう。

近藤「他人も認めてくれる位には強かったけど、井の中の蛙だったね。プロ入りして、それを痛感することになった。C3をずっと抜けられなかった。」

負けを知らなかった近藤に立ちはだかる昇級の壁。強い打ち手ならすぐ駆け上がるはずのリーグ。勝てないのだから何か原因があるはずだと考え続けたと言う。

近藤「結果が伴わず疑心暗鬼になっていたと思う。5期目でやっと昇級出来た時は、本当に嬉しかったよ。」

吾妻「その後怒涛の連続昇級をしたそうですが、何か思い当たる理由はありますか?」

近藤「やっぱりC3で昇級出来たのがいい意味で自信になったよね。ずっと信じてやって来た事が、全部間違いではなかったんだって。そこからは自分の麻雀さえ打てれば、結果がついてきた。」

吾妻「特に印象に残っている対局を教えて頂けますか?」

近藤「なにリーグだったか最終節オーラスで頭が真っ白になっちゃって、パニックで何点アガればいいのかも計算出来なかった。その時は昇級出来なかったんだけどね。あと、A1になって2年目は最終節を最下位で迎えてさ。」

窮地に追い詰められた苦しい対局を振り返っているのに、近藤は嬉しそうに語る。

近藤「逃げられない、勝つしかないって状況で迷う必要がなかったのが良い方向に出たんだろうね。幸い2連勝出来て、残り2回戦で4人のポイントがほぼ並びになって。その時の麻雀が人生で一番面白かったなぁ。」

なんとなくわかる気がする。
私の心に深く刻まれた対局を思い返してみる。
プロクイーンで勝ち上がり目前から揺れてしまった3,900放銃、女流桜花を獲ったリャンペーコー、桜花を連覇した時のツモのみ、グランプリMAXの決勝卓で荒プロの大三元を呼び込んでしまった中切り、そして、史上初の三連覇を賭けた桜花での敗北。

吾妻「何より大切なものをかけている対局はいつまでも心に残りますよね。」

近藤「うん。あの対局で精神力がかなり鍛えられたな。リーグの差って技術や牌理よりも、精神力だと思う。追い込まれた時に普段通り打てなかったり、ミスをしてしまったり。A1リーグはそういうミスが少ないと思う。A1は1回の放銃が致命傷になりかねない。点棒を失った後は取り戻すチャンスを易々とはくれないよね。」

吾妻「対局前の調整とかはしますか?」

近藤「普通に仕事してます。変わった事はしないで普段通り。」

吾妻「Aルール(一発裏なしの競技ルール)対策もしないのですか?」

近藤「うん、ルールの打ち分けには対応出来ていると思っているからね。Aルールは、よりアガリが大切だと思うから、あれでも精一杯攻めているんだよ。」

吾妻「麻雀に勝つコツとか、ご自分なりの経験則とかはありますか?」

近藤「ツキに対しての自分の考えはあるけど…。」

吾妻「是非お聞かせくださいませ♪」

近藤「ツキをなくすのは、読み筋に入っている牌を欲にかられて打ってしまった時とか」

吾妻「自分を信じられなかった、後悔が残る放銃ですね。」

近藤「ツキを呼び込むのは、タイプにもよるけど、前原プロ、瀬戸熊プロみたいにアガりを重ねてツキを膨らませる人とか、藤崎プロ、前田プロみたいにそこそこの手が入っているのにビタ止めするとか。例えアタリ牌じゃなくても、しっかり止められる人は、それを繰り返して上手くアガりを拾っていくよね。」

吾妻「A1の公開対局は、そういうファインプレーの応酬ですものね。肝心の、近藤プロのツキパターンは?」

近藤「細い糸を通すような、唯一のアガリ手順を踏めた時。それが自分の目から確認出来た時かな。」

吾妻「難しい手順を丁寧に仕上げたアガリは、高打点でなくてもしっかり打てていると実感出来て精神的に前向きになれますよね!今期のリーグ戦は好調ですね。特に気をつけている事はありますか?」

近藤「プロリーグは基本、第1節の入りはまっすぐ前向きに。A1の降級ラインは▲100前後だから、そこに行くまでは上を目指す。1節目にプラスなら2節目も上を狙う。」

吾妻「具体的にはどんな事を思いながら打っていますか?」

近藤「僕は手数が多い方ではないから、アガリ逃しはしないように気をつけているよ。オリの失敗より攻めの失敗の方が痛いと思っている。」

今期4節目の▲22.2は、1回戦の自分の感覚を貫けなかったアガり逃しが原因だそうだ。

近藤「まだトータル+96.6Pあるから、そういう意味では5節目もポイントを伸ばしに行こうと思っているよ。」

吾妻「期待しております!ところで編集部からのリクエストで、【難しい事は考えない】という近藤プロのモットーについて是非聞いて欲しいと申しつかったのですが、どのような意味なのでしょうか?」

近藤「僕、そんな事言ったかな?」

思い出せないようで、少し考え込んでいる。

近藤「自分がわかっている範囲でベストは尽くすけど、相手を勝手に想像して思い込まないって意味だと思う。」

この人の仕掛けは安くて遠いと思い込んでラフに対応し過ぎて痛い放銃をしたり、この人はいつも高いからやめとこうと自分の手を曲げると酷いアガリ逃しをしてしまったり。
対局全体をまっすぐ見つめられていないときは良くない麻雀をしてしまいがちだ。

麻雀の話が盛り上がり過ぎて、すでに4時間も経ってしまっている。

 

100

 

吾妻「では、少しプライベートについてお聞きしたいのですが、近藤プロは秋田出身だそうですね。どのあたりなのでしょうか?」

近藤「大館という所ですよ。」

吾妻「私、今行きたい所ナンバーワンが秋田県なんです!オススメとか観光名所とか教えてください♪」

近藤「きりたんぽは美味しいけど、他に何かあるかな?(笑)行くなら冬以外がいいと思うよ。」

吾妻「えー!?一面雪景色とか憧れなんです!」

近藤「僕は雪国育ちだから、雪が良いものとは思わないけど、まぁ人それぞれなのかな?」

吾妻「あ、あと苦手な食べ物と好きな食べ物を教えてください。今回インタビュアーの依頼を受けてそういう情報がなくて困ったので今後のためにも♪」

近藤「苦手なのは茄子。アスパラとカリフラワー。あ、椎茸もリストに入れよう。好きなのは海老とケーキ!リーグ戦の帰りに新宿で、自分用にショートケーキ買って帰ることもあるよ。こんな強面だけど(笑)」

吾妻「可愛いですね?女性はギャップが好きらしいので、書いておきましょう!あ、連盟で好みの女流プロを1人だけ挙げてください♪」

近藤「えー!!?」

ここまで全く途切れずテンポ良く会話していたのに、急に沈黙してしまった。でも誰かの顔は浮かんでいるようである。

近藤「い、言えないです。オフレコでお願いします(小声)」

吾妻「オフレコないって言ったのに?(笑)」

近藤「ご、ごめんね。」

吾妻「じゃあ、好みのタイプで勘弁しましょう。」

なんだか楽しくなってきた(笑)

近藤「綺麗な人より癒し系。優しそうな人がいいな。今日のインタビューも、実ははかなり緊張していたんだよ。吾妻さんは元教師だっていうから、僕と会話続くのかなって。今日うちの店に勤めている連盟員も同席してもらおうかと誘ったんだけど、【お役に立てないと思います】ってビビっちゃって。」

吾妻「えー、ショックです!元教師ってイメージ良くないんでしょうか(泣)癒し系へのキャラ変も考慮します?」

近藤「でも、そんな心配要らなかったね。楽しくてあっという間だったよ。」

18:00にお会いしたのに、気付けばもう終電間近だ。

吾妻「ありがとうございます。こちらこそ、色々なお話が聞けて勉強になりました。きっといい記事が書けると思います。では、麻雀ファンの皆様に一言お願いします。」

近藤「ありのままを観て頂きたいです。カッコつけようとも自分を隠そうとも思いません。よろしくお願いします。」

吾妻「あと、何か格好よいコメントをお願いします!」

近藤「じゃあ、麻雀上達法を。麻雀が上手くなるには対局を観たり、研究するのが大切です。その原動力はいかに麻雀が好きか、興味があるかだと思います。」

好きこそ物の上手なれ、ですね♪

近藤「リーグ戦は一番純粋に麻雀と向き合える時間。麻雀の事だけを考えて自分らしくいられる瞬間だよ。勝ったら勿論嬉しいけど、負けても楽しい。勝ち負けだけでは語れない楽しみなんだ。それが諦めさえしなければ、ずっと終わらず続くんだよ。」

この世にたった12席しかない椅子を勝ち獲り、守り、座り続けること。
最高峰のプロ達と卓を囲んで真剣勝負が出来る事が喜びであり、生きがいなのだ。

仕事は麻雀店の経営。
休日は連盟チャンネルで麻雀観戦。
生きがいはリーグ戦。
これが近藤久春のライフスタイル。
まさに麻雀清一色生活である。

 

100