プロ雀士インタビュー

第168回:プロ雀士インタビュー 齋藤 豪  インタビュアー:樋口 徹

2017年9月16日。
RMU主催のオープンタイトル戦、第11期RMUクラウン・決勝戦が行われた。

そこに1人の連盟員。
28期生の齋藤豪だ。
連盟の期待を背負って戦った齋藤は、見事その期待に応えた。

 

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今回インタビュアーを仰せつかったのは私、樋口徹。まだあまり知られざる齋藤豪の生態を、少しでも紐解いていけたらと思う。

樋口「豪くん、クラウン優勝おめでとう」

齋藤「てっしゃん、インタビュー引き受けてくれてありがとう。宜しくお願いします。」

樋口「まずは乾杯だ!」

 

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齋藤豪(さいとうごう)は1984年、3月27日生まれの33歳。函館出身で、麻雀歴は15年になると言う。

「高校を卒業してフリーに行ったらボコボコにされて悔しかった(笑)友達の間じゃほとんど負けなくなってたから、もっとやれると思ってた。でもフリーよりもネット麻雀で育った感じかな。牌譜とか見直してかなり勉強したよ。」

 

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よく麻雀でデジタルやオカルトといった話になったりするが、私のイメージとして齋藤は間違いなくデジタル派だった。牌効率や確率論に長けていて、仕掛けなども多用し局面をリードする麻雀だ。

決勝戦でもされていた質問を改めてしてみる。

樋口「自分の雀風は?」

齋藤「雀風というのは特にないけど、勝つためにやることは全てやっていきたい。よく過程が大事と言われたりするけど、結果にこだわった打ち方をしていれば、過程もついてくると思ってる。」

樋口「決勝戦通して観たけど、ほんとそつがないよね。押し引きのバランスが素晴らしかったよ。」

齋藤「ありがとう。自分的には大きなミスが2つはあるんだけど…」

齋藤自身、決勝戦を見直し反省点の確認作業を勝ったあとでも当然のように行っていた。

樋口「そういえば堂々と打ててたね(笑)」

齋藤「なんか吹っ切れてたんだろうね(笑)」

齋藤豪といえば、プルプル系雀士である。放送対局なんかでは特に手が震えて、麻雀牌をポロポロとこぼすんじゃなかろうかと、周りの人間は心配したものである(笑)
放送開始された最初の選手紹介で、「それはもう諦めました。プルプルしてたら解説で拾って下さい」と言っていたのが面白かった。

そして意気込みについて齋藤はこう言っていた。「今まで応援してくれた人に恩返しがしたい」と。

 

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RMUクラウンは、一発裏ドラありのルールで順位点が5-15。連盟WRCルールとほとんど一緒だ。そのルールで4回戦行い、最後に新決勝方式というものがある。
対局者は伊澤さん(RMU会員・前年覇者)、谷井プロ(RMU・A級ライセンス)、楢原プロ(RMU・B級ライセンス)。

1回戦、果敢に攻めた齋藤だったが、3着に終わる。
2回戦目、南3局親番でリーチ一発裏3、メンタンピンイーペーコーなど連続のアガリ。終わる頃には持ち点は65,000点となっていた。
大きなトップをとることが出来た齋藤はトータルポイントでもトップ目に立つ。

 

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少し話は逸れるが、3年ほど前か、齋藤があるものに似ていると話題になった。
成田空港にいる、ハニワ像だ。

 

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齋藤「似てねぇから!」

と言う本人の言葉はもう聞き飽きたくらい聞き飽きた。しかし、本人以外満場一致で似ていると言うのだからもう認めざるをえない。最近はハニワっぽい顔文字も使いだした(笑)

 

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さて3回戦の話だが、トータルトップ目に立ったということで、齋藤の意識は守備的になる。
麻雀ではよくアガリも放銃もしない、フーロすらしないようなものを「地蔵」と言ったりするが、齋藤のそれは、さながらハニワのようだった。

しかし齋藤は最後までハニワではいない。オーラスに1人ノーテンで3着に落ちた齋藤。続く1本場は意地のテンパイ。そして2本場、ラス目の楢原プロからリーチ!この時ダブ南の暗刻があるものの、テンパイの受け入れは狭そうな齋藤が仕掛けた。
解説の多井プロは言う「これは行ってるフリですね。これが大事なんですよ!これで谷井はオリれなくなりました。」

齋藤に聞いてみる。

齋藤「その意識はもちろんあったよ。自分があからさまにオリると、親の谷井さんもオリやすくなる。安全牌は沢山あるからもちろん放銃になりそうな牌を切るつもりはないんだけど、アガリには向かうつもりで仕掛けた。」

樋口「谷井さんとしては親かぶりでも捲られちゃうし、豪くんより上の着順で終わりたいからテンパイ取らなきゃだし、大変だよね。」

実際、齋藤のチーがなければ谷井プロもオリを選択したかもしれない。
結果はテンパイを取りにいった谷井プロが楢原プロに放銃。齋藤は2着で終えた。
これでトータルも少し楽になった。
そして4回戦。
東3局に南ドラ3の満貫をアガった齋藤は、ぎゅっと胸を押さえた。

 

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齋藤「放銃した時、和了った時、自分で危ないと思ったら、心を落ち着かせる為にやるようにしてる。」

樋口「それやると落ち着くの?」

齋藤「いただいた御守りが入ってるんだ…」

齋藤の「応援してくれている人への感謝」と「使命感」を見た気がした。

4回戦もオーラスになり、齋藤は2着目。トップはトータル2位の谷井プロ。現状のトータルポイントは齋藤が0.1ポイント差で1位だった。このまま終われば、新決勝でのアガリ勝負となる。そこに楢原プロの高そうな仕掛けが入る。
齋藤が西をつかむ。「あー。これは跳満打っちゃいますねー」と多井プロ。
ここで谷井プロを捲ってトップが取れれば非常に楽になる。親の齋藤の手はタンヤオドラ2の完全1シャンテン。西を打ってもおかしくはないが…

しかし齋藤はオリた。
新決勝のアガリ勝負に賭けたのだ。

だが結果は無情なものだった。
楢原プロがもう一方のアガリ牌、五筒を力強く引き寄せた。意地を見せた楢原プロ。そして跳満の親かぶりで3着落ちしてしまった齋藤。
0.1ポイント上だった谷井プロとの差は、12.9ポイント下になり、4回戦は終了した。

 

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ついに最後の新決勝方式。
簡単に説明すると、新決勝方式とは、RMUのタイトル戦決勝で行われるもので、4回戦までのトータルポイントを持ち点に換算。トップの者がアガるか、捲りトップになるアガリが出れば終了。というもので、1局で終わることもあれば、何十局と続くこともある。ちなみに常に東1局扱いで、積み棒もなし。アガった人が次局親になる。

樋口「新決勝方式についてはどう?」

齋藤「新決勝方式は良いところいっぱいあるよね。敗退濃厚な人でも、諦めずにアガリに向かえるから。嫌いじゃない。事前に(新決勝も含めた)決勝想定セットをやってもらえたから、イメージも持ち易かった。」

樋口「ちなみにそのセットの結果は?」

齋藤「優勝できた(笑)」

新決勝が始まった時の谷井プロとの差は12.9P。
谷井プロが親でスタートとなるが、現状満貫ツモでも届かない。
谷井プロが自らの手で終わらせるべく、白をポン。これは上家の齋藤をやりづらくさせる効果もあった。
巡目は進んで齋藤はこの牌姿。

 

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樋口「ここから一筒を切ったんだよね。」

齋藤「狙えるのは純チャン三色、純チャンイーペーコー、ピンフ一通だよね。でも谷井さんにアガられたら終わりだから、一番鳴かれなそうな一筒を選んだ。二筒が2枚切れだったってのもあるね。」

そこにポイントの離れた楢原プロからリーチが入る。
このリーチ棒が出たおかげで満貫ツモで捲りトップだ。

そこに呼び込まれる四万
追い掛けリーチの齋藤豪。
そして…

 

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齋藤が1局で優勝を決めた。
実は新決勝方式での逆転優勝は初めてのことらしい。

最後のインタビューでは今にも泣き出しそうな齋藤の姿。
声を震わせながらこう言った。

齋藤「ようやく…ひとつだけ…返せました。」

 

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このシーンに心打たれたものは私だけではないはず。

齋藤「もういいでしょ、もう消そう」

画面を消したがる齋藤。顔は赤い。
実は最終戦から先は齋藤の家に来て一緒に観ていた。

樋口「いやダメだ。しっかりこの顔を見届けないと。」

隣でギャーギャー齋藤豪。

なんとなく意地悪な質問をしてみる。

樋口「もし大好きな恋人が、麻雀やめて!って言ってきたら何て言う?」

齋藤「それって俺にご飯食うなってこと?」

ははは。齋藤にとって麻雀とは生きる為に必要なもので、おいしいものを食べるためなら苦労も厭わないものなのだ。
齋藤は色々なタイトル戦の地方予選なんかにもよく参加している。
静岡、名古屋、北関東、至るところに出没する。

望月雅継プロはこう言ったそうだ。

「齋藤君が優勝すると思っていたよ。だってあんなに色々参加して頑張ってるんだもん。報われるに決まってるよ。」

実に望月さんらしいコメント。

麻雀とは常勝が難しいものだが、いつか報われるべく、我々麻雀プロは日々戦っているんだな、と思う。
放送でも「やっとスタートラインに立てた気がします」と齋藤は言ったし、「友好団体のタイトルを獲って自団体で活躍する人が多い」と多井プロは言った。
きっとこれから齋藤は活躍するだろう。自分も負けてられないな、と気を引き締め直すことができた。
そんなことを熱く語りながら、2人の夜は更けていった…。

おめでとう、齋藤豪。
ありがとう、齋藤豪。

 

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