プロ雀士インタビュー

第225回:プロ雀士インタビュー 魚谷侑未  インタビュアー:齋藤豪

魚谷侑未プロ、モンド王座4度目の戴冠――。

編集部より報告を受け、件のタイトル獲得のインタビュー依頼があった真夏の昼下がり。
しかも「今までにインタビューされてないような内容を聞いてきてください」と、なかなかの難題を要求してくる。
それもそのはず「魚谷侑未 インタビュー」で検索すれば、連盟公式サイトをはじめ、あらゆる媒体でとんでもない数の記事が出てくるのだ。

魚谷侑未インタビュー多すぎ問題。
ここから新しい話題を作るのは難しい、もはやインタビュアー泣かせである。
ただ、それは魚谷侑未が競技麻雀プロの中で卓越した存在であることの証明でもあるだろう。

魚谷プロと仲の良い、藤井すみれプロ(魚谷プロインタビュー出現頻度:高)に協力していただき、焼き肉屋で決勝戦のお話や近況を伺うことにした。

 

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ーーあらためてゆーみん、モンド王座優勝おめでとう!

魚谷「ありがとう!」

ーー早速だけど、対局全体を通して印象に残った局などあれば教えてください。

魚谷「カン五筒の即リーチを打たなかった局面があったんだけど」

ーーどれどれ…

 

★カン五筒の即リーチを打たなかった親番について

 

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この局の選択が生きたと語る魚谷。
状況は、1回戦は沢崎プロのトップで終えた2回戦目の親番。(全4回戦)
ドラは三万、タンヤオドラ1のカン五筒でテンパイしたところだ。

ーー親番で先制なら、待ちは悪いけれどリーチを打ってもおかしくない局面だね。

魚谷「昔はこういうの即リーチをしていたんだけど……まず場況としてカン五筒の良さが分からなかった。ピンズのイーペーコーを含むリャンメン変化や、雀頭の二索五索の筋に掛かっている状況を利用したシャンポン変化まで待つと決めた。二索を生かしたいと考えたんだよね」

ーーひょっこり五筒が出て3,900とか、ツモ2,000オールとかだと悲しい気持ちになっちゃう。

魚谷「うん分かる。セオリーや、期待値的には即リーチが得だとは感じている。でもプロは、1万回の対局で結果を出すために戦うのではなく、今回の対局で言えば、4半荘の限られた戦いで結果(優勝)を出す必要がある。自分の中でもっと深く読みの部分を突き進めていかないと普通の域から出れない。だから考えることを放棄しない。今までは期待値やセオリーによった戦い方に寄っていたと感じるけれど、Mリーグ2年目ぐらいから意識が変わってきていて…」

たしかに、もし麻雀AIが判定するならカン五筒で即リーチの判定で間違いないだろう。
しかし、それはあくまでも無限に半荘を試行できた場合のセオリーだ。
例えば、1万半荘打てるとして、この手をアガリ逃ししても、また次のチャンスに頑張ればいいかで済む。
しかし、タイトル戦は違う。少ない対局数で絶対に優勝しなければいけない戦いなのだ。
二度と次のチャンスは来ないかもしれない、競技麻雀人生が掛かっている。
となれば、この勝負手はアガリ逃しが許されるものではない。
その重みを知っている魚谷だからこその進化と選択と言える。

 

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次巡六筒を引き入れて狙い通りのシャンポンリーチ。
これを一発でツモりあげ、裏ドラをめくると暗刻が乗り、8,000オールの大きなアガリとなった。

 

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さらに次局は、1フーロのチンイツをツモりアガリ6,100オール。
魚谷が勝負所で時折見せる、力強くツモりあげるモーションがここでは見られた。
この半荘は特大トップを決め、大量得点のアドバンテージを生かして見事に4回目のモンド王座を戴冠した。

風が吹きつづける魚谷侑未。
不調な時とかはどうしているのだろうか? ふと思って聞いてみた。

 

★対局時のコンディション(体調)が悪い時について

ーー対局時のコンディションが悪い時ってある? そういう時ってどうしている?

魚谷「コンディションは整えるよう努力しているが、対局がたくさん続きすぎると、疲れでコンディションが悪くなるときはある。そういう時は卓上の情報がスムーズに入ってこない日がある。視界には入っているけれど処理ができないようなイメージ。いつもできる選択が出来なくなったりする」

ーーその時の対応方法は?

魚谷「もうこれはしょうがないので、コンディションは悪いまま打つしか無い。自分の状態は認めるしか無い。そのうえで、なるべく感覚に頼らずに見えている情報を中心にデジタルで処理するようにしてる。耐えるイメージで、負けにくい選択をするようにしているんだよね」

魚谷だって人間だもの、体調が悪い日だってやはりあるのだ。
そんな苦境でも最善をとれるように対処法を身につけているのは、本当プロだなあと感じたし、私も参考になった。

 

★決勝に行くための心構え

ーー多くのプロが決勝すら経験ができない世界だと思う。これから活躍する次世代のプロ達へ送るメッセージとして「決勝に行くための心構え」を聞かせて欲しいです。

魚谷「まずチャレンジ数を増やすこと。諦めないでたくさん出場することが大事。勝率が0.1%の大会でも出場しなければ可能性は無い。だから出れる大会は日程もあらかじめ確認しておいて、仕事とかぶってしまって出れなくなっちゃう、みたいなもったいない状況にはしないようにする。そういう所からの準備がとても大事。後は、そういったチャレンジは出るだけじゃなくて、必ず全て経験にすると思って挑むようにする」

魚谷プロの動向を思い返せば、最近でも、最強戦に出場するために東北へ遠征している事があった。

 

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もう十分すぎるほど活躍している彼女であっても、少ない可能性のチャンスを得られるよう貪欲に行動している。
まさに勝ちたい気持ちを体現していると言えるし、こういった執念がタイトル獲得を呼び寄せる要因になっているのは間違いない。
もちろん、資金事情や生活事情があるから、全てのプロが同じようにできるわけではない。
ただ、もし行動できそうだけど躊躇っている人がいるのであれば、一考する価値は大いにあるだろう。

魚谷「もちろん、いつ決勝に残っても良いように、事前に決勝戦そのものの準備をしておく事も大事だよね。決勝戦の経験なんて最初は無いのが当たり前だけど、準備してなかったから出来なかった、というのは実力不足と同じだから、対局の映像を見たり想定した練習をしたり、来たるべきチャンスに向けて準備を怠らないように」

これは話を聞いていて、何も決勝戦だけの話ではないなと感じた。
いつどんなチャンスが来るか分からないし、1つのチャンスを逃したら二度とチャンスは来ないかもしれない世界なのだから、あらゆる想定をして事前に準備しておくことは大事だ。

 

★ファンに向けて

ーーそれでは、最後にファンの方へ向けてメッセージをお願いします。

魚谷「結果を出すことが一番喜んで頂けると思うので、良い報告ができたのがとても嬉しいです。これからも結果で示せるプロでありたいと思っています。頑張りますので、応援よろしくおねがいします」

結果を出し続けている魚谷だからこそ、結果が出せなくなる事へのプレッシャーはきっと測り知れないものだろう。
だからこそ思考を止めずに日々進化を繰り返している。これからの魚谷侑未プロのさらなる成長と活躍に注目しよう。

 

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