プロ雀士インタビュー

第229回:プロ雀士インタビュー 渡辺史哉  インタビュアー:平野敬悟

「後ろで見させてもらってもいいですか?」

2年ほど前だったか、私がいつものように麻雀を打っていると、最近よく見かける若者の集団の1人が話しかけてきた。
断る理由も特にないので、承諾する。

「ありがとうございました。」

1時間ほど観た後、そう言ってまた集団の中に戻っていった。
しかし楽しそうに観戦していたので、とても嬉しく感じたのを覚えている。

それから数日経ったころだったか、その集団にプロ雀士を目指している人間がいるという情報を耳にする。
だいたい察しはついたが、やはり数日前に後ろ見をしていた青年だった。

名前は渡辺というらしい。
これが後にヒーローになる男との最初の出会いになるわけだが、先輩ぶってまずはプロの世界の厳しさから上から目線で語ってみた。

「覚悟してます。すぐにでもプロになりたいです。」

真っ先にこう返ってきたので、とりあえず熱意だけは本物なのは伝わった。
それから渡辺と深く関わることになっていくのだが、当初の彼の麻雀は私にはすごく荒く映った。
まだ覚えるべきことは多いとは思ったが、彼の麻雀には勝ちたいという欲に溢れており、すごく考えて打っていることは伝わるものだった。

成長が早いのはすぐに感じ取れたが、早すぎた。1年目からG1タイトルである王位戦で優勝した。凄すぎる。
リーグ戦でもEリーグを1回で昇級し、現在のD3リーグでも100ポイント以上持っている2着に位置している。
※最終成績+138.1P

そんなイケイケ状態の彼にインタビューの仕事が私に回ってきた。
さすがにこの役は私だろうと勝手に思っていたので、まあ想定内。

 

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平野「王位戦優勝おめでとう」

渡辺「ありがとうございます。」

平野「私は最終半荘でやらかしました。ごめんなさい。」

渡辺「2人で優勝しかありえないって言ってたじゃないですか。」

平野「・・・・ごめんなさい。」

王位戦の決勝の日、私は静岡のプロアマリーグの決勝を戦っていたのだが、トータル首位で迎えた最終戦にラスを引き、結局3位で終わってしまった。
ほぼ同時刻に渡辺の王位戴冠を耳にし、嬉しさ、悔しさ、嫉妬心などが入り混じったわけのわからない精神状態になったのを覚えている。

平野「決勝観たけど、もっとピヨピヨになるかと思っていたよ。」

渡辺「なんというか、逆にプレッシャーなどは感じなかった。緊張もほとんどしなかった。全員が自分より格上なのは見るからに明らかだし、実際準決勝で対戦した時にはやられている相手だった。勝って当たり前と思われているより、負けて当然と思われている方がのびのび出来るものだと実感しました。」

平野「なるほどね。決勝で意識したことは?」

渡辺「親落とし。対局者が全員親番で爆発してくるタイプだと思っていたので、それだけは避けて縦長になる勝負を嫌いました。その展開は相手の得意なフィールドだと思ったので。自分以外の親番は半荘5回で30回あるので、自分の親番よりもその30回で1回も爆発させないことを意識していました。」

確かに、言われてみればそんな風に打っていた気がしなくもない。

平野「準決勝から展開も味方したね。周りの出来事が、直接関与していない自分にも利することが多かったというか。」

渡辺「本当にそうなんですよね。それは感じていました。優勝できる時はこういう時なのかもしれないですが、もっと実力をつけて、今回が偶然でないことを証明したいです。」

平野「印象的な局としては、賛否両論あったから勝手に4回戦のオーラス1本場について取り上げることにするよ。」

 

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ここから二万をツモ切り蒼山プロに7,700を放銃。3巡前には暗刻の七索を打っている。

 

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平野「これはどう見ても打ちに行っているね。自分でアガリに向かっている人の打牌ですらない。」

渡辺「まあそうです。打ちに行きました。最初は一応七対子での自分のアガリもわずかに見ていましたが、親の森下プロがかなり押してきているので打った方が得になると考えました。森下プロはほとんどの場合でリーチにくると思っていたので、その前にこの半荘を終わらせたかった。自分がこの局を見に回ると森下プロが押し切ってアガり切る予感もしていましたし。最初にも言った通り、親での大連荘だけは避けたかったです。」

平野「で、損切りして迎えた最終戦で案の定森下プロからまたリーチが来ると。これ躱したのは点数的にも気持ち的にも相当大きかったのでは?」

渡辺「かなり大きいです。すでにどの牌でやめるかを考えていましたから。すぐに四索がいたのはラッキーでした。ただ、これが失敗に終わっても前の半荘を悔いることはないと思います。それはそれ、これはこれで常に自分の最善だと思うことをしたまでです。」

 

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その後は蒼山プロに多少迫られるが、そこまで危ない場面もなくオーラスは全員ノーテンで今期の王位戦はプロ1年目ニューヒーロー渡辺史哉の優勝で幕を閉じた。

平野「今後の目標は?」

渡辺「タイトルをもっと取りたい。しばらくはシードも多く貰えるのでチャンスだと思います。」

平野「おれも負けてらんないわ。」

 

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これはじゃん亭さんに飾ってある渡辺王位のサイン。
サインなど考えていなかった彼が急に依頼されて書いたものである。
私には天下無双なんて言葉、とてもじゃないが出てこないし記せない。
しかも字が絶妙に下手なので、なんとなくサインっぽい良い味がでている。
彼にとっては楷書らしい。
そんな天性の才能の持ち主かもしれない渡辺プロの今後の活躍に目が離せません!

 

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